#56 正解と不正解 その2
「今は恋とか変とか云々ではないなぁ……」
修の脳内ではそれどころではないと判断し、記憶から消し去ろうとしていた。
麻耶は彼が何について考えているかはっきりと分からないので、首を傾げながら、自席に着く。
「ごめんねー。遅くなっちゃった!」
勢いよく教室の扉を開け閉めし、慌ただしく入ってくる佐藤。
彼女の手には人数分のプリントを持っていた。
「先生、そのプリントはなんですか?」
「ああ、これ? これはね理系か文系かの調査用紙。これは仮でもいいから気楽に答えてね」
麻耶は号令をかけるどころか佐藤が持っているプリントに視線が入り、彼女に問いかけた。
自分が例の件で正解か不正解か悩ましい中で、理系か文系か選択しなければならないという現実。
修はなんで今現在、生徒会の方で神経をすり減らしているのに、また次の選択肢を出しやがって……と溜め息をついた。
「今は理系か文系かなんて訊かれても分からないよ」
「そうだよね」
「将来のことはまだ決まってないし……」
生徒達がざわついている中、佐藤は「静かに!」と注意する。
「みんなのこれからの進路に関する話につながるからね。今回は仮でもいいけど、10月くらいにも2回目の調査があるから、その時に正式に決めないと駄目だからね。じゃあ、用紙を分けるよー」
「「……ハーイ……」」
彼女は生徒達にその用紙を分けると、彼らはしぶしぶと受け取った。
「先生、この紙はいつまでに提出すればいいのですか?」
「締め切りは来週いっぱいだから、出し忘れのないようにね」
「分かりました」
「あっ、今日は2限目の現代文と5限目の化学基礎が入れ替えだから間違えないで! 今日の連絡はそれだけだよ」
一般生徒は今後の進路に関わる理系か文系かを選択しつつ、残り少ない猶予期間をいかに過ごしていくか。
一方の生徒会役員である修は前者は同じ条件だが、例の件の答えはもちろんのこと、生徒会役員の業務を覚えなければならない。
人を裁かなければならない者がいれば、裁かれる者もいる。
生徒会役員と一般生徒の歯車が狂い始めるのは時間との勝負なのではないかと彼らは互いに察し始めていたのだ。
彼は昨日からずっと温めていたその答えは昼休みではなく、先輩達とゆっくり話すことができる放課後にすることに決めたのは言うまででもない。
2017/12/21 本投稿