#50 帰宅時と狂詩曲
修は「鞄が重い……」と言いながら、昇降口で上履きから革靴に履き替え、学生寮に戻ろうとしたやさき――。
その時、音楽室から様々な楽器の音色が彼の聴覚を刺激する。
「吹奏楽部かな? この曲はどこかで聞き覚えがある」
修は曲のタイトルはなんだっけ? と思いながら、昇降口で立ち尽くしていた。
ようやく思い出したその曲のタイトルは『パガニーニの主題による狂詩曲』という曲でよくオーケストラや吹奏楽で演奏されている楽曲である。
「あの曲か……そういえば、もうそろそろ吹奏楽部はコンクール前だもんな……今年からは行けそうにないだろうな」
吹奏楽やクラシック好きの修はよくコンサートや定期演奏会などが開催されるという情報を得ると、すぐに行きたくなるタイプである。
しかし、生徒会役員となった現在は呑気に演奏会などに行っている余裕がない。
「仕方ない。あとで時間がある時にCDでも聴こう。某動画サイトに投稿されたものでもいいし」
彼は溜め息をつきながら、ようやく昇降口から出、学校から約15分くらいの距離にある学生寮へ歩を進めた。
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私立白川大学付属高等学校には学生寮が存在する。
自宅から学校まで通う者もいるが、自宅から学校までの距離が遠い者は入学時に入寮届を提出すれば入寮することができることになっているのだ。
修もその1人である。
学生寮は家具や家電は揃っており、通常は2人で1部屋を使用している。
彼のような「生徒会役員」は1人で1部屋使うことができる。
なぜならば、この高校の生徒会役員はいろいろと忙しいということに関して寮管理者も理解しているため、彼らにゆっくりしてもらえるよう、1部屋を提供しているからだ。
また、生徒会役員の部屋は本人の学生証を翳すと部屋の鍵が開くようになっているので、セキュリティー面もよい。
そのため、一般生徒が羨むことが多いのだ。
†
階段を使って自室の前まで戻った修は学生証を翳し、部屋の中に入る。
彼は「マニュアル」という名の分厚いクリアファイルが入った通学鞄を学習机の上に置き、椅子に腰かけ、CDラックの中から『クラシック音楽大全集』というCDをミニコンボに入れた。
「オーケストラ版と吹奏楽版は違うなぁ……」
修はゆったりと音楽を聴きながら、通学鞄の中からクリアファイルを取り出し、一番最初のページから少しずつ読み進めるのであった。
2017/11/09 本投稿