#49 不甲斐ない先輩とチート(?)な後輩
その時、鈴菜は「勘の鋭さ」と彼女が勝手に命名した「心理学チート」を併せ持つ修に感心したが、それらがない鈴菜は不甲斐なさを感じていた。
「はぁ……私は不甲斐なさすぎですね……」
彼女は溜め息をつき、分厚いクリアファイルのマニュアルにボフッと突っ伏せる。
「鈴菜先輩は全然、不甲斐なくないですよ!」
「そうですかねぇ……」
「ハイ」
鈴菜のそのようなところを見た修は彼女の肩を優しく叩きながら、「なので、頭を上げてください」と声をかけた。
鈴菜は「むぅ……」と言い、少し照れながら少しずつ顔を上げる。
「僕はただ勘が鋭い方なのかもしれません。今回はたまたま答えが当たっただけで、今後は外れる可能性があるかもしれません」
「外れる可能性?」
「ええ。僕の答えはいつでも正解ではない。外れることだってあるのですから」
しれっと冷静に言う彼は彼女に一瞬ではあるが、背筋が凍りつくような視線を向けた。
鈴菜の額から一筋の冷や汗が流れている。
「ご、ごめんなさい。私、少し勘違いしてました」
「いいですよ」
「ほ、本当ですか?」
「ハイ。僕はあまり気にしていないので」
「…………」
彼女は冷静になろうとするが、なかなか冷や汗が引かず、落ち着かない。
一方の修は冷や汗をかいている鈴菜にスラックスのポケットからハンカチを手渡した。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます。吉川くんって、笑うと可愛いですね。普段はツンとしてるのに」
「鈴菜先輩も人のこと言えないかもしれませんよ? 僕は感情を表に出すことはあまりないので」
「もうっ!」
2人はお互いの笑みを見たことがなく、思わず苦笑する。
笑い疲れた彼らは冷静さを取り戻したようだ。
「先ほども言いましたが、鈴菜先輩は不甲斐なくないですから」
「私も切り替えないと。いろいろと気にしないようにしないとですね」
「そうですね。このマニュアルを少しの間、借りててもいいですか?」
彼は『心理学』の項目で開かれたままの「マニュアル」という名の分厚いクリアファイルを指さす。
「ええ、ご自由にどうぞ」
「ありがとうございます」
修は彼女に許可を得て借りたマニュアルを手に持った途端、鈴菜は彼にこう言った。
「今日はテストが終わったばかりなので、ここまでにしますか」
「ハイ」
彼女は実験室らしきところの戸締まりをし、生徒会室に戻る。
彼らが生徒会室に着いた頃には聡がいるだけで、他の役員はすでに帰路についていた。
鈴菜は彼に実験室らしきところの鍵を渡し、修は例の分厚いマニュアルを通学鞄にしまい、3人は生徒会室をあとにした。
2017/11/02 本投稿
2017/11/08 最後の方を少し改稿