#45 鈴菜と悩みごと その2
その時、鈴菜はふと聡の表情を見て凍りついた。
なぜならば、普段の彼は穏やかな表情をしているが、今の聡の瞳はまるで他人を見下す、冷酷な視線を送っているように感じられた模様。
そして、彼女らに数秒間の沈黙が流れた――――。
「……木沢先輩……」
先に沈黙を破ったのは鈴菜。
一方の彼は「ん?」と先ほどの表情を変えずに彼女を見つめていた。
「私はこれから吉川くんに上手く教えることができるのでしょうか?」
「…………最初は誰も自信がないということは事実だよ? ボクは去年、教育係として携わってなかったからなんとも言えないけど」
「えっ!?」
「覚えてないかな? 去年の教育係は確か高橋くんと達也くんだったはずだけど……?」
鈴菜は聡にこう言われ、約1年前のことを思い出していた。
昨年の今頃は彼女と政則は1年生であり、雄大達は2年生。
政則には達也が鈴菜には雄大が手取り足取り調教されてきたのだ。
「思い出してみればそうでした」
「そうだったでしょう? 達也くん達も悩んでたなぁ……今の鈴菜ちゃんみたいに」
「会長達も!?」
「うん。鈴菜ちゃんや木崎くんには見えないところで彼らは悩んでいたんだよ」
「私と木崎くんが見えないところで……」
「そう。まずは失敗してもいいから、鈴菜ちゃんらしく吉川くんに様々なことをしっかり教えてあげてね」
彼はいつもの穏やかな表情に戻り、彼女にこう告げる。
鈴菜は聡が言った「失敗してもいい」という言葉に救われた。
「ハイ! 木沢先輩に話してよかったです」
「また困ったらいつでも相談してね」
「分かりました。ありがとうございます!」
「じゃあ、生徒会室に戻らなきゃね」
「そうですね」
「会長!」
「吉川くんまで!」
彼が部屋の戸締まりを終え、2人は生徒会室に戻ろうとした時、雄大と修の姿があった。
「鈴菜クンと聡クン、君達の話はここで修クンと聞かせてもらった。すまなかった」
「勝手に聞いてしまってすみませんでした」
彼らは彼女らに頭を下げる。
2人は「頭を上げて!」と同時に言うと、雄大達は頭を上げた。
「ところで、鈴菜クンはいいのかい?」
「ええ」
「修クンも?」
「ハイ。鈴菜先輩が自分から教育係を引き受けると言ってたみたいですが、たとえ彼女が失敗したとしても僕はついて行きますよ」
「……吉川くん……」
「うむ。鈴菜クンと修クン、これから頑張ってくれ!」
「「ハイ!」」
こうして、鈴菜の悩みが晴れ、彼女に笑みがこぼれた。
これからが調教の始まりである――――。
2017/09/26 本投稿
※ Next 2017/09/27 0時頃更新予定