#39 死後と連絡 その3
同じ頃、2年C組では他の生徒会役員は聡が戻ってくるのを待っていた。
「聡クン、遅いなぁ……」
雄大が彼のことを心配している。
あと少し遅れてしまうとショートホームルームが始まってしまうという中、彼らも焦りを覚えていた。
「行き違いとか考えられるかもしれないな」
「行き違い?」
「理科の先生なら生物とか物理とか様々な分野に分かれるだろ? 普段は生物準備室にいるけど、物理室で授業の準備をしてたとかあるだろうし」
「確かに……」
普段は飄々としている達也が珍しく冷静に自分が思ったことを口にする。
修は「行き違い」という言葉に反応し、「もしかしたら……」と言ったあと、数秒間の沈黙が流れた。
「……もしかしたら、まずは職員室に行ってみてから生物準備室でしたっけ? そっちに行ったことも考えられますよ?」
「それが1番あり得るかもしれないな」
「そうですね……」
彼の考えに対して、他の役員は納得したように頷いたりしている、慌ただしく廊下を走っている音が耳に飛び込んできた。
鈴菜が「誰だろう?」と言いながら教室からひょっこり顔を出す。
「き、木沢先輩!?」
「鈴菜先輩、聡先輩がどうしたんですか?」
「ほ、本人には失礼ですけど……お、女の子みたい……」
「本当か!?」
彼女が一旦、廊下から顔を引っ込め、こう話すと、全員でその姿を見ようと一斉にそこから顔を出す。
「本当だ……」
「可愛らしい……まるで、美少女みたいだ……」
「女装させても違和感がなさそうだな……」
「それは言えてる」
達也と雄大が走っている聡を見て、鈴菜の「女の子みたい……」という台詞に納得している模様。
「あれ?」
「どうした?」
「聡先輩の手に何か持ってますが……何だろう?」
修も納得しているようだが、ふと視線を上げてみると、彼の手には白い紙のような何かを持っていることに気がついた。
「あれは……「連絡カード」ではないか?」
「私も見落としていましたか、そうかもしれませんね」
彼らが話している間に徐々に足音が近づいている。
「はぁはぁ……ようやく、教室に着いた……」
聡が息を落ち着かせながら教室に入ってきた。
「「お帰りなさい」」
「「お帰りー」」
「斉藤先生から「連絡カード」を受け取ってきたんだよ! 職員室と生物準備室を梯子してね」
「やっぱりな」
「修クンの勘は凄いな」
「えっ、ボクの行動ルートをみんなで予想してたの!?」
彼が教室に戻ってきた途端、彼らは聡を迎える。
彼はまさか自分の行動ルートを他の役員で予想しているとは思っていなかったせいか、驚きが隠せないようだった。
「もちろんだよ。あとで吉川にジュースでも奢ってやれ」
「もう……達也くんったら……」
「これってコピーかい?」
「いや、原本だよ。コピーは生徒会室にあるはずだって言われたよ? 使い終わったら返してねって言ってた」
「ん、了解」
「コピーは時間がある時に探さなければですね」
「そうだね」
「じゃあ、俺は今から生徒会室に戻って親御さんに連絡してくる。あとは亡骸を霊安室へ誘導と片付け程度かな?」
「それが終わったら、授業等に戻るように」
雄大と達也が2年C組から姿を消す。
残った役員は教室の掃除や少女の亡骸の片付けを始めた。
†
「そういえば、政則クンを見かけていないが……」
「もしかして、高橋はメールを見てなかったのか?」
「ああ」
「彼は学校自体を休んでいるらしいな」
達也は政則からのメールを雄大に見せる。
彼はそれを見て納得したようだ。
「だから姿が見当たらなかったのか……」
「親御さんに連絡するんだろう?」
「せっかく聡クンに「連絡カード」を持ってきてくれたんだし、忘れないうちに連絡を入れておこう」
雄大は固定電話に少女の家の電話番号を打ち込み受話器を上げた。
「もしもし、私立白川大学付属高等学校生徒会役員の高橋 雄大と申します。おはようございます――――」
彼は彼女の保護者とたわいない会話を始める。
数分くらい経過したあと、「恵さんですが……」と雄大は少し声のトーンを落とした。
少女の保護者は『娘はどうなったのですか? 嘘をついたのですか?』と彼に問いかける。
「…………ええ。恵さんは先ほどお亡くなりになりました」
『……そんな……うちの娘がこんなことになるとは……思って……いませんでした……』
「そうですね……」
受話器越しから両親のすすり泣きが聞こえてきた。
雄大は申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。
これが私立白川大学付属高等学校に通う一般生徒に課せられた「生き残りゲーム」。
嘘を1度ついただけで一般生徒の生死の明暗を分けられてしまう宿命であるのだ。
2017/09/16 本投稿
※ Next 2017/09/16 書き終わり次第更新予定。