#3 修と麻耶と様々な感情を持った視線
修と麻耶が所属することになった1年B組の教室にはクラスの約半数が集っていた。
彼らがそこに入ると、クラスメイトの視線は一気に彼らに向けられる。
彼らは修を見ると、女子生徒からは羨望の眼差しで、なぜか黄色い声を上げており、一方の男子生徒はそんなクラスの女子生徒達と彼らを交互に見ながら嫉妬心と敵対心を抱いたような視線がぶつかった。
「おおっ! 吉川くんは初日からクラスの注目の的だねー」
「そ、そんなわけ…………」
「入学式早々、熱い視線を浴びるのは凄いことだよ! 吉川くんは本当に凄い!」
修は「そ、そんなわけないだろう」と言おうとしたが、麻耶によって速やかに遮られてしまった。
「いや、何かの間違いじゃ…………(なんだよ、朝っぱらから……)」
彼はぷいっとクラスメイトから視線を逸らすが、見知らぬ女子生徒から「間違いじゃないわよ?」と言われ、「そうですか」と返す。
そそくさと適当に空いている席に鞄を置き、椅子に腰かけようとろうとした時だった。
「あなたはなかなかの顔立ちをしているわね?」
「僕は全く自覚してないけど?」
「ところで、エスカレーター組と外部生? どちらかしら?」
「僕はごく普通の公立中学を卒業した外部生だが……。それが何か?」
修が素っ気なく彼女に返事を返した。
彼は見ず知らずの少女に馴れ馴れしく話しかけられたので、少し苛立ちを覚えたのだろう。
「いぇ……なんでもありませんわ」
「一応、僕からは1つだけ訊いておく。君はエスカレーター組なのか?」
「えぇ。一応、初等部から通わせていただいていますわ」
「そうなのか。それはすまなかった」
その様子をすぐ近くでニヤニヤしながら見ていた麻耶が修と向かい合うように立ち、彼の両肩に手を乗せ、前後に揺する。
その時、周囲からは様々な感情を持った視線を向けられ、修はかなり動揺しているようだ。
「ちょっと、吉川くん! いくらなんでも恋に落ちるのは早すぎるよ!」
「違う! そんなのは違うから! 気持ち悪くなるから、前後に揺するのは止めろ!」
彼は先ほどの表情のまま、彼女の勢いに任せるかのように揺さぶられる。
「そして、あたしは吉川くんのポーカーフェースを破ることに成功した!」
「ちょっと、菅沼さーん……。朝から興奮しすぎだよ……。クラスのみんなが見てるんだからさ……」
修が麻耶にそう言うと、彼女は「ごめんね」と彼の肩から両手を離し、ゆっくりと彼を椅子に座らせるのであった。
2016/10/06 本投稿