#36 死後と解析
聡と鈴菜が2年C組に着く頃には銃声などは響いておらず、野次馬はまだその教室付近に張りついていた。
「やっと着いた……」
「今もですが、野次馬が凄かったですからね……」
「あれ、事件現場の教室内が静かだね。すでに終わっちゃったのかな?」
彼らは教室の扉を開ける。
その空間に静寂に包まれている中、雄大達は鈴菜達がきたことに気がついた。
「やあ。聡クンに鈴菜クン」
「おはよう」
「おはようございます」
「今頃か。鈴菜はここから近いのに気がつかなかったのか?」
「すみません……」
「野次馬が多くてあまり身動きが取れなかったから仕方なかったの!」
彼らは彼女らがくるのが遅かったということで苛立ちを覚えているようだったため、聡がこれまでの状況を説明する。
その時、彼は死体が1体転がっており、血液の臭いを察した。
「これはこれは……2人ともかなり派手にやったようだね?」
「そこまでではないと思うが……」
「聡クン、君は鋭いね?」
「そりゃそうだよ。ボク達は2年間、生徒会役員として一緒にいるんだから、分かるのは当然だよ?」
「確かにそうだな」
「ところで、今から死後解析はできるか?」
達也にこう言われ、聡は鞄から白衣と手袋を取り出し、身にまとう。
彼の首には聴診器、手にはペンライトが握られ、恵の瞳の動きを確認。
「瞳孔は動いてないね……ふむふむ」
聡はメモ帳に『目の動き ×』と書き込み、医療用ハサミを出した。
彼は「あっ」と呟き、鈴菜に視線を送る。
「鈴菜ちゃん、ちょっと死体から視線を逸らしてくれないかな? どこかに隠れててもいいから」
「い、いつものことでしょう……」
「そうだね」
彼女は恥ずかしそうな表情を浮かべながら教壇の下に隠れた。
「鈴菜ちゃんは大丈夫そうだから、解析を急ぐとしよう……」
聡は鈴菜が隠れたことを確認すると、速やかに死後解析を再開させる。
達也のナイフによって切り裂かれていた制服を医療用ハサミでさらにはだけさせ、聴診器を近づける。
「横隔膜と心臓は動いてないし、脈も打ってないね……よって、呼吸もしてないから×だね。あれ……お腹と脚にちょっと抉られてるところがある」
雄大が「もしかして、俺の銃弾か?」と彼に問いかけると、「判断しがたいけど、そうかもしれない」と答えた。
先ほどのメモ帳の続きに『脈 ×、呼吸 ×』と書き、空いているスペースに『その他 腹部と脚に銃弾による抉られているところが何ヶ所かあり』と書き記す。
「……よって……」
「「……よって……?」」
「解析の結果は死んでるね」
聡が「死んでるね」と言ったと同時にボールペンのノックがカチッと音を立てた。
先ほどまで静かだった教室にどよめきが起こる。
「あれ、修クン?」
「吉川くん、何でここに?」
「銃声が下まで響いていましたので……」
その原因は修が2年C組に入ってきたから。
彼はおそらく時間を追ってじっくりと説明を受けそうだと思い、先ほどまで見てきたものを見なかったふりをしようとした。
「もしかして、吉川くんは私のことを心配してくれたんですか!?」
鈴菜がぴょこんと教壇から顔を出し、修に飛びつく。
「いや、違いますって……」
「いい後輩を持ちましたー。吉川くんはいい後輩です!」
「鈴菜先輩!」
彼女は彼の胸の中でわんわん泣き始めており、一方の修は呆れながら、彼女が落ち着くまで抱き締めていた。
2017/05/07 本投稿
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