#1 エスカレーター組と外部生
4月。
桜が満開となり、その花びらはひらひらと地面に向かって舞い落ちる……。
私立白川大学付属高等学校。
その高校は私立大学付属ということで建てられている場所は異なるが、幼稚園から大学まで存在している大型学園都市。
そこには真新しい制服に身をまとった新入生と保護者が緊張した表情をしながら門をくぐる。
校門に立てかけられている「入学式」の看板を背景に家族や同じ中学校から入学した者同士で写真を撮ったり、クラス表を見て何人かで喜びあっている。
そんな中、1人の少年が校門の前に立っていた。
「今日から僕も高校生なんだなぁ……」
彼は「はぁ……」と溜め息をつく。
「朝から溜め息だなんて早いよ?」
彼の後ろを歩いていた1人の少女が彼の顔を覗き込むかのように問いかけてきた。
彼は怪訝そうな表情をして「あのー……あなたはどなたですか?」と少しうんざりした声で返す。
「あたし?」
「あなたしかいませんよ?」
彼女が素っ頓狂な声を出し、周囲を見回す。
案の定、そこで立ち止まっていたのは彼らしかおらず、他の新入生の親子は彼女らを素通りしていた。
「あたしか! あたしは菅沼 麻耶。中学からのエスカレーター組。きみは?」
「僕は吉川 修。高校からの外部生」
私立白川大学付属高等学校は麻耶みたいに中等部や初等部、幼稚園から通っている者は「エスカレーター組」、修みたいに高校から入学した者は「外部生」と呼ばれている。
よって、彼らの会話はこうなったというわけだ。
「エスカレーター組かぁ……。それなら、なんか知ってるんじゃないのか?」
「そ、そうだけど……」
「あちこちから噂話とかは聞いてないのか?」
「噂話ねぇ……中等部の話?」
「僕は中等部の噂話を求めてない。高等部の噂話を求めている」
「吉川くん、ごめんね……。高等部の話はあたしからできないの」
麻耶が申し訳なさそうに修に頭を下げる。
「なぜ?」
「それはね……」
彼女が彼に伝えたこと。
それはあくまで噂ではあるが、「嘘をついた者は生徒会役員によって殺される、生き残りゲームが行われている」という話が出ているらしい。
「マジかよ!? 僕はすぐに殺されるだろうな……」
「まぁ、1年生は半年間くらい猶予期間があるっぽいしね」
「そうなんだ」
「ところで、「きっかわ」ってどう書くの?」
麻耶に問われたため、修は鞄から筆記用具を取り出し、『吉川 修』と自分のフルネームとルビを書き記す。
手元が不安定のため、彼は読みやすい字を心がけたが、文字がガタガタだ。
「読み辛かったらごめん」
「ありがと。「よしかわ」って書いて、「きっかわ」とも読むんだねー」
「そんなに珍しいのか? 僕の名字」
「あたしははじめて聞いたよ。ところで、吉川くんの両親は今日はくるの? クラス表は見た?」
「一応、入学式に間に合うようにするとか言ってたけど……クラス表は……菅沼さん、ここは校門! 僕達はずっとここにいたから見に行ってないよ!」
麻耶がボケると修は彼女と同じようにボケようとしたが、彼はすかさず突っ込みを入れた。
「ごめんなさい……! 吉川くん、同じクラスになれるといいね!」
「あぁ、そうだな」
彼らの高校生活が今から始まろうとしている――。
2016/08/25 本投稿