#12 入学式と対面式 その8
その頃、「新入生代表挨拶」を聞いていた修は壇上にいる麻耶の後ろ姿を見ていた。
おそらく、彼女は普段はマイペースで学習面では真面目にそれを読むくらいの実力があるのだろうと勝手に思っている模様。
「…………(あっ、気づいたら菅沼さんの挨拶が終わってる! 一番重要(?)な生徒会長挨拶も終わってる!)」
彼はクラスメイトである麻耶の話を真剣に聞いていたが、肝心の生徒会長である雄大の話は完全に聞き逃してしまっていたのだ。
「…………(ヤバいなぁ……生徒会長の話を完全にスルーしちゃったよ……)」
「ありがとうございました。壇上から自席へお戻りください」
鈴菜のアナウンスに従い、彼は麻耶に何かを告げ、軽く握手をし、彼らは壇上から自席へ戻っていった。
「これを持ちまして、平成28年度対面式を終わりにします。新入生のみなさん、これからの3年間の高校生活を有意義に過ごしていきましょう!」
こうして、多少バタついたところが少し見受けられたが、なんとか入学式と対面式が終わった。
†
それらが終わり、在校生も新入生もぞろぞろと各教室に戻っていく。
「ねぇねぇ、吉川くん! あたしの「新入生代表挨拶」、聞いてくれた?」
麻耶がその時の欠片が一切なく、通常であるマイペースな性格に戻っていた。
「んー。聞いてたけど、あまりにもギャップがありすぎて、生徒会長の話を聞きはぐった」
「ありがと。でも最後のは余計だったかなぁー」
「でも、僕は本当のことを言っただけだし……まさか菅沼さんがエスカレーター組の主席だということ自体が意外だった」
彼が切実なことを話した時には彼女は少し頬を赤くし、照れている様子。
しかし、麻耶は一体全体なんのことか分からない状態でもある。
「それって、褒めてる?」
「どうかな」
「吉川くんは難しいね」
「それはなぜ?」
彼がからかうような口調で「それは自分で考えてみるんだなぁ!」というと、彼女からは「ひどーい!」と反応が返ってきた。
彼らは他の新入生の熱い眼差しを気にせず、足早に教室へ向かっていく。
そして、新たな環境で何が起こるか分からない高校生活が本格的に始まろうとしている――。
2016/11/27 本投稿