#9 入学式と対面式 その5
保護者はほとんど講堂から教室に移動しているため、大きな空洞ができ始めている。
一方の在校生と新入生はそこに残り、対面式が始まるのを待っていた。
「対面式ってどんなことをやるんだろう?」
「変なドッキリかなぁ?」
「そんなわけがないでしょう」
「まぁ、そうだろうと思うけど……」
「ワクワクするね!」
それが始まるまでの時間は新入生にとっては交流の時間と化しており、エスカレーター組と外部生問わず、少しずつではあるが話し始めているようだ。
「……あれ……?(菅沼さん、どうしたんだろう……)」
修はふと後ろを振り向くと、中、麻耶はいつもの無邪気さはなく、どこか緊張しているような表情をしながら待っていた。
彼女の手には「新入生代表挨拶」と書かれた白い封筒らしきもの――。
「(「新入生代表挨拶」、菅沼さんがやるんだ……。それとも、新入生呼名の時に1人だけ先に座っちゃったから、そのことを引きずっているのだろうか……?)」
彼がぼんやりとそう思っている時に、「まもなく、平成28年度対面式を行います」と女性の声のアナウンスが流れた。
それを聞いた麻耶はビクッと身震いを起こす。
「緊張する……」
彼女は近くにいるクラスメイトにそう言った。
おそらく、麻耶は別にアドバイスがほしいというわけではないが、誰かと話して緊張を解したいという意味だろう。
「みんな、ジャガイモだと思いながら話せば大丈夫」
「そうそう。ジャガイモやカボチャに話しかけるようにすればいけると思うよ」
「本当?」
「さぁ。それはやってみないと分からないかなぁ」
「ありがとう。頑張ってみるね」
彼女は隣に座っているクラスメイトに礼を告げると、制服の内ポケットにそれをしまった。
しかし、その話は修の耳にも微かではあるが、耳に入っていた。
「(やっぱり、これだけ人がいるんだから緊張するのも仕方ないだろうなぁ……)」
そんなことを思っていたやさき、「ただいまより、平成28年度対面式を実施いたします」と先ほどと同じ声のアナウンスが講堂内に響き渡る――。
「生徒会役員紹介。生徒会役員のみなさまは壇上にお上がりください」
そう告げたあと、生徒会役員であろう5人の男女が壇上に登り始めていた。
その時に並ぶ位置が決まっているらしく、少しバタつきながら横一列に並んでいる。
女子生徒は壇上に準備してあるマイクを外した。
どうやらそれを使って紹介するのだろうと、修は察しながら壇上に視線を向けるのであった。
2016/11/03 本投稿
2016/11/09 修正