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静かなひとへや  作者:
6/9

6.見おぼえのある

テレビが、煌々と騒がしく光る。電波がうまく届かないのか、時折画面が不規則にゆれる。

大きな生き物は、あいも変わらず小さな生き物に縋り続けた。それを甘やかし、撫でている手もかわらない。

私の持つ意識だけが、覚めていく。

気持ちが悪いな、と、驚くほどにあっさりと思った。先程までの感慨は、何処へさってしまったのか。

私は冷めた気持ちで光景を眺めていた。そしてこれ以上、気持ちが悪くなりたくなくて眼をそらした。一瞬であっても、この光景が好きだと感じたのは事実のはずだ。その時の私を、汚してはいけまい。

眼をそらした先には何も無かった。テレビがあるのは、生き物二人がいる近くで。私の部屋には、その生き物とテレビしかない。

薄く黄ばんだ、白い壁だけが私の視覚を支配する。

ところどころ、家具が置いてあったところだけが真っ白のままで、少し眩しい。

目線をそらし続けたままで、私は嗚咽がおわるのを待った。慰めが終わることを待った。声が届かないのだから、音が聞こえないのだから、終ったかどうかも、すぐには知る事もできないだろうが。

立ったままでいるので、脚に痺れがくる。最近はろくに歩いてすらいないので、少しばかりきつく感じた。

このままでいるのも、辛すぎる。私は痺れる脚を無理にたたみ、よりかかる物のない場所に一人座り込んだ。じわじわと、脚の痺れが痛みにかわる。いたい、と、他人事のように思った。

生き物たちに背を向け、一人淋しく部屋の隅に座っている。この状況に、少しばかりの苛立ちを感じた。

ああ、ここは私の部屋だというのにな。

唇を甘く噛んだ。先程までの感慨は、本当に何処へ消えたのだろう。気が付いてみればみっともなしに、貧乏ゆすりなどもしていた。指が落ち着きなく、リズムをとって上下に動く。

もう生き物達は復活しているのだろうか。いつも通り、訳のわからない行動をとっているのだろうか。

たかだか数日で、いつも通りも何もあったものではないというような気もするが。背後を、ちらりとでもうかがってみようか。けれど、まだやっているようであれば、ちらりとでも見ていたくはない。やはり、やめておこう。あと少しだけ、あと少しだけたってからにしておこう。

何一つとして、やる事も見る物も存在しない。数日ぶりに、ヘッドフォンから流れる音に耳を澄ました。

相変わらずの、秩序のない乱れた音だ。だけれど、それが心地よかった。

そうだ、私も鳴咽してやろうか、と。そんな事を唐突に思う。

うめき声を出してみようと、あてずっぽうに咽を震わす。だけれど、それが鳴咽となっているのかどうか、私が確認する事は出来なかった。考えてみれば、当たり前の事だ。けれど、私はそれを悔しいと感じた。

鼻水などが出るはずもないし、涙などは尚更だ。私には、もう鳴咽できる方法が無かった。

悔しい。

悔しいと、口の内で呟いた。私にはもちろん聞こえないが、これならば、この大きさならば、生き物達にだって聞こえはしない。

それだけの事で、勝ち誇れる。

だけれど、その事がまた、酷く悔しかった。

私はもう、何もしなかった。耳へと流れる雑音さえも、意識の中にはいれなかった。

ぼんやりと、壁を視界に入れて、けれど眼には写さずに、座ったままでそこにいた。

次第に、うっすらと眠気が襲ってくるようになる。

ああ、もういいや。抵抗するのも、面倒くさい。

私は、眠気にそのまま身を任せた。


気が付けば、部屋の中は真っ暗だった。覚めきらない意識を引きずり、手探りで電気の紐を手繰り寄せる。

小玉の明かりだけを付け、目を擦る。眩しいとは思わないが、夜目がきかず、視界は不十分なままだった。

横を見れば、生き物達がいた。呆れた事に、私が最後に見た格好のままだ。泣き疲れて、眠ったのだろうか。まるで子供だ、と一人嘲う。部屋の隅にある我が寝床は、包装紙などを被り荒れていた。それのすぐ側のテレビが憎らしく、壊れない程度に画面を蹴飛ばす。

テレビは少しばかり傾いて、けれど倒れず地に足をつけた。それが何やら面白くなく、もう一度だけ軽く蹴飛ばした。

指先がちょうどスイッチを押したようで、カチリと音がし、その空間が明るくなる。突然の光に、おもわずしばし目をつむった。

写っているのは、ニュース番組であるようだった。不細工なおばさんが、マイクを向けられ泣いている。表示されている字幕を見れば、相当に酷な事を聞かれているのだとわかる。そうっとしておいてやれ、と思うのは、この手の番組においては常だ。

消して寝ようと身をかがめれば、番組の画面がきりかわる。映し出されたのは、話題の中心にいる者達の写真。

ボタンへと伸びていた片腕が、思わずとまる。

そこに映し出された顔が、どちらかというと、やや、少々、それなりに。見知ったもので、あったからだ。

私の部屋の中で眠る、あの生き物達に眼を向けた。見間違いではないだろう。ここに写っているこれらは、この部屋で眠るあれらなのだ。

やっと話しが進められそうで安心してます。

春休み中にもう一話ぐらいは…と思ってますので、期待しないで待っていてくださると幸いです(

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