3.大きないきもの
頭がぼんやりとしていた。気分も、決して良くなどはない。なかなかに、嫌な目覚めだ。
薄く、眼を開いた。
ぼやけて、部屋の情景がうつる。動いている、ふたつの影。一つは小さく、もう一つはやけに大きい。
大きい方の影が、小さい方の影を包み込んでいた。話をしてでもいるのだろうか。
視界がはっきりとしていく。小さい影は小さな生き物へ、大きい影は大きな生き物へと成りかわる。
小さな生き物が、赤らんだ顔で楽しそうにしゃべっている。大きな生き物は、それにただただ頷いていた。
大きな生き物は、くたびれているふうだった。けれどそれは、小さな生き物のせいではない。むしろ癒されているようである事が、一目でわかる。
そのままに見ていると、やがて、大きないきものがふらりと立ち上がった。何処に行くという事もなく、小さな歩幅のものをひっつけ、怪しくただ歩きまわる。
嬉しそうな顔をしていた。小さな方も、大きな方も。
それは何やら気持ちが悪くて、そのくせ、妙に私の気を引いていた。
楽しそうに楽しそうに、私の部屋をくるくると歩き廻る、大きいものと小さいもの。その光景を、私は見ていた。
意識はもう、はっきりとはしていたのだけれど。起き上がらずに、ただ見ていた。
ここは私の部屋だというのに。他の処ならばともかく、ここは私の部屋だというのに。どことなく、そうではないかのように思えた。起きたくなかった。大きないきものか小さな生き物か、どちらかがいなくなるまでは寝ていたかった。
だけれど、私はそれを見ていた。何か考えるでもなく、行動を起こすでもなく、眠っているふりをしながら。生き物達は、廻っていた。くるくるとくるくると、部屋の中を徘徊した。
二匹は、笑っていた。しあわせそうに、歩いていた。ここは、私の部屋だというのに。私が、生活している場所だというのに。私の所だというのに。布団の中に、顔が埋まるまでに潜り込んだ。生き物達にばれないようにと、静かに、こそこそとして布団をひいた。その事が、堪らなく悔しかった。
やがて、歩き回る、その気配がなくなった。しばらくの間待ってみても、それは戻らない。
こそりと布団から顔を出して、部屋の中をみまわしてみた。小さな生き物は、玄関にいた。けれど、大きな生き物の姿が見当たらない。そういえば、私が眠る前までもいなかった。何処へ行ったというのだろう。
私はのそりと起き上がり、玄関へと歩いた。驚いた顔をして、小さいのが私を見る。ちらりと見返すと、また目を逸らす。相変わらずだ。
玄関のドアが開いている。私が鍵を開けたはずはないのに。ドアから顔を出した。大きな生き物がそこにいて、瞬間的に目が合った。
大きな生き物は、驚いていた。小さな生き物よりも、少しばかり多く。
しばらく、私も大きい生き物も、そのまま固まっていた。
大きな生き物が、軽く頭を垂れた。お辞儀か何かのつもりだろうか。そのまま歩き始める生き物は、時々こちらを振り返っていた。
乱雑にドアをしめる。
釈然としないまま顔をそらせば、其処で小さな生き物が、真直ぐにして此方を見ていた。