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学園都市の災難起点  作者: イノカゲ
8/14

『一難去ってまた一難』1

 時計の針は1時を指し示し、午後の授業の開始を伝える予鈴が学園内に鳴り響く。

 そんな中、刃哉は桜の舞い散る外のベンチに腰掛けていた。


「どうするかなぁ……」


 今回は迷ったわけではない。この状況になったのは、この学校の授業方針のせいだった。

 この時間帯の授業は、各個人の能力に合わせた選択性の授業となっている。風を操ったり、氷を生み出せたり、炎を纏ったり出来たりしても、使い方がわからなければ宝の持ち腐れとなってしまう。

 もちろん、技術や特訓はそれぞれが自主的に行わなければならないものだが、基礎知識がなければ何をやればいいのかさえ分からないだろうからそれくらいは授業で教えてあげよう、ということらしい。

 その選択授業には当然刃哉の能力に合うものがあるわけもなく、萩坂先生に尋ねたところ、


「別に好きにしてて構わない。なんか適当に授業に出てもいいし、出なくてもいいぞ」


と言われ、昼食のお弁当(雪奈作)を響と共に教室で食べた後、他の先生に使うからと教室を追い出され、今に至る。


「明日からは響とか雪奈と一緒に授業受けさせてもらうか」


 この時間に寮に戻っても特にすることもない。せっかくなのでまだ行ったことのない図書館などを巡ってみよう。


「だれでしょ〜」


 そう思い立った時、視界が暗闇に染まる。後ろから聞き覚えのある特徴的な声と口調と共に手で目隠しをされていた。


「その声は不知火先輩だな」

「せいか〜い」


 手が離れてから後ろを振り向くと、昨日道を教えてくれた不知火 魅夜が立っていた。制服の上着は相変わらず両肩ともずり落ちている。

 魅夜は、回り込んで刃哉の隣に腰掛けた。


「何してるの〜?」

「何もしてない、というか何もすることがないって感じだ」

「授業は〜?」

「色々あって、俺は授業がないらしい」

「それもそっか〜、『測定不可能』だもんねぇ」


 魅夜はクスクスと笑う。伸ばす声は感情を読み取りにくいので、表情に出してもらえるのはありがたい。それが本音じゃない場合もあると思うが。


「なぜそれを?」

「今1番旬な話題だよ〜。みんな君がどんなやつなのかって気になってるみたい〜」


 発信源は深山 鈴なのは確定だが、他学年に伝わるにはかなり早い。手回しがいいというかなんというか、嬉しいことではないが賞賛せざるを得ないだろうか。


「それはあまり良い知らせじゃないなぁ」

「そうかなぁ〜?逆に〜これをチャンスにすれば〜?」

「というと?」

「ここでみんなに良いイメージを持って貰えば〜いいんじゃないのかな〜」


 魅夜は可愛らしく小首を傾げて言う。

 だが、その提案はうまくいけば、かなりのイメージアップに繋がるだろう。今みんなにあるイメージは、能力者なのに髪が黒、萩坂先生の攻撃を凌いだ、レベルが測定不可能、と悪いものばかりだ。

 失敗すればさらなるイメージダウンは避けられないが、これ以上下がりようがない気もする。


「なるほどな。確かにそれはいい考えだな」

「でしょ〜?」


 納得して頷く刃哉に魅夜は得意げな表情を浮かべる。


「あとは機会があれば……まあ、その時が来たら頑張ればいいか」

「だね〜。そういえば〜話し方変わった〜?」

「敬語は苦手で。気になるなら敬語にしますけど」

「別にいいよ〜」

「ならこのままで」


 それから少し他愛もない世間話をしたあと、魅夜はぴょんっとベンチから跳び、それから刃哉の前に立つ。


「私はもう行くね〜」

「もし、計画が上手くいった時は何か奢らせて貰いますよ」

「楽しみにしとく〜」


 魅夜は振り返って手を大きく振って歩き始める。すらっと長く出るとこも出ている体型と違って行動は色々と子供っぽいところがある。

 歩いていく姿を見送っていると、何かを思い出したかのように、またこちらを向いて引き返してきた。


「どうしたんだ?」

「そういえば〜」

「ん?」


 ポケットから取り出した四つ折りの紙を開いて刃哉の前に突き出す。

 紙には1人の少女の写真と「指名手配」という文字が大きく書かれていた。


「この人〜お知り合い〜?」


 指を差した先にある写真に写る少女に刃哉は見覚えがあった。それに確信を持たせるように下に書かれている名前はやはり知っているものだった。

 そこに写る長い黒髪に緋色の瞳を持つ少女──すめらぎ 芹亞せりあは刃哉の実の姉だった。


「まったく、うちの姉は何をやってくれやがるんですかねぇ」

「お姉さん?」

「一応。久しぶりに見たと思えば指名手配とは、まあ姉貴らしいといえば姉貴らしい」


 刃哉は呆れたように言いながらも姉の行動に対して口元を緩めて笑う。

 だが、魅夜は自分の姉が指名手配されている事に対して驚きもせず、逆にヘラヘラと笑う刃哉に驚きを隠せずにいた。


「ど、どうして笑ってるの〜?」

「いや、それが今年は年賀状が来なかったからどうしたのかと思ってたんだけどま、まさか指名手配されていたと思うと笑いがな」


 笑いながらも刃哉はある事に気付き、1つの可能性を思いつく。


(指名手配されたってことは何かをしてるのを見つかったのか?姉貴に限ってそんな失敗をするわけがない)


 なら考えられる理由は1つだけ。


「……俺に会いに来たのか」

「どうしたの〜?」

「いや、なんでもない」


 捕まった兄とは違って、しっかりと計画を立てて行動する姉は、写真を撮られた上に指名手配されるなんてドジを踏むことはない。

 ならば、わざと写真を撮らせた可能性が高い。

 おそらくこれは俺に対して、一報いれたつもりなのだろう。


「私はもう行くね〜」


 魅夜は何か面白いことでも見つけたように笑い、考えごとをしていた刃哉に声をかける。

 刃哉はそれを聞いて立ち上がる。年下として年上を見送るのに座ったままは失礼だと今気づいたからだ。

 

「わざわざ教えに戻ってきてくれて助かりました」

「最初からこれを教えにきたから〜これはあげる。じゃあね〜」


 刃哉に紙を手渡してから魅夜は足早に立ち去る。鼻歌を歌いながらスキップをしていたので足早というには少し違うかもしれない。

 立ち上がって魅夜の姿が道を曲がって見えなくなるまで見送った刃哉は再びベンチに腰掛ける。


「3年ぶりに会いに来ると思えば、伝えるために指名手配されるとは……」


 頭を抱えて、はぁと1つため息を吐く。刃哉の心には怒りや驚きはない。

 今回の姉の指名手配や、兄の逮捕に対してあまり過度な反応をしない理由は特殊な家庭環境にあった。

 兄は言うまでもなく凶悪な犯罪者である。

 他には例えば父親。ロシアのマフィアのボスをやっていて、刃哉の生活費や諸々の金銭的援助は全て父親から送られてくる。

 そして、母親は日本の裏を取り仕切る組織の元締めで、困った時にはよく根回しをしてくれる。

 あと、1歳下の妹もいるが三年前に姉と共に家を出てからどこにいるかは分からないが、3人とも年賀状が届いているので、生存は確認出来ている。


「まあ、生きてるならいいんだけどさ」


 その結果、どこでなにをしているかよりも生きてるかどうかだけを気にするようになった。


「考えても姉貴が考えてることなんてわからないし、夕飯を作るのにレシピでも調べに行こうかな……」


 この学園にはデパートやスーパーがあり、もちろん本屋も存在する。図書館に行くという本日の時間潰しは本屋とスーパーで夕飯のレシピ本と食材調達に変更された。

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