『超能力バトルを砕く!』2
「諦めたというか、なんというか。うん、まあ、そうだな。穏便に済ませることを諦めた感じだな」
刃哉は両手を握り締めて胸の前に構え、応戦の意を示す。
それを見た遥は嬉しそうに笑い、そして開戦の一言を叫ぶ。
「なら戦うしかないな!手加減はしないぞ!」
遥はさっきと同じように右手で宙を切る。大きさは同じくらい、だが数は先ほどの2倍以上あった。
風の刃は廊下の時よりも速いスピードで刃哉を切り裂こうと飛んでくる。やはり、威力を抑えていたようだ。
「元気がいいなぁ」
今度は避けない。
場所は広い。
攻撃は見えている。
覚悟はした。
ならば避ける必要はない。
刃哉は握りしめた両拳で風の刃を突き、殴り上げ、時には体を捻って裏拳を叩き込む。
殴られた風は、無力にもすべて霧散し、虚空へと溶ける。
「くそっ!まだまだ!」
「来い!」
遥は風で短剣を形作り、刃哉に突っ込む。
行動は宙に浮いたまま行われている。
浮くことによって走るように加速をすることなく、初めからトップスピードで移動を可能としていた。
また、それは同時に遥の技術力の高さを表していた。
バランスを崩すことなく宙を浮いたまま、攻撃する。
至難の技である。
「はぁぁぁ」
遥は間合いを詰めて風の剣を振るい、刃哉はその攻撃に拳を合わせる。
剣は消え、逆の手で新たな剣を作り出し、再び振るう。
浮いた体を横にスライドさせ攻撃の場所を変えたり、剣の長さを変えてリーチを変える。
そういった様々な攻撃に対応して刃哉もまた、的確に拳を振るう。
作っては壊され、
壊されては作る。
振るっては振られ、
振られては振るう。
そんな攻防を数十回繰り返した末、遥が後方へ飛び、再び向き合う形になる。
「なぜそんなにも的確に当てられる。肉体強化にしても私の攻撃を受けてもかすり傷さえないのはおかしい」
「物質、形状、現象を問答無用で砕く。俺の能力はそういうもんなんだよ。なぜ当てられたのかっていう質問に関しては、ちょいと武術をやってるもんだでね。ただし対攻撃ようにアレンジしてあるがね」
習得に中学3年間の大半を支払わされたけどな、と付け加えておく。
対攻撃式無器無刀流。
刀を振り下ろされたならば、避けずに正面から刀を殴る。
相手が蹴ろうとしてきたならば、払わずに相手の足を蹴る。
攻撃に攻撃を加えるための武術。
刃哉のための武術。
刃哉が生み出した武術。
武術ならざる武術。
「それにしてもあれだけの攻撃を正確に凌ぐとは。相当な胆力の持ち主だな」
「ははは。買いかぶりすぎだよ」
怯えているからこそ、慎重になる。
怯えているからこそ、油断はしない。
別に胆が据わっているわけでも、自分の技術に自信があるわけでもない。
「十分に見させて......いや、魅せられてしまったよ。だが、私もこれだけの攻撃をすべて凌がれて、すごすごと帰るわけにもいかないのでな。こちらも見せるとしよう」
遥は両手を胸の前で合わせ、攻撃の準備を始める。刃哉は両手を再び強く握り締めた。
遥を中心として風が周りを走る。
それはどんどんと強く速くなっていく。
「見せてやろう。魅せさせてやろう」
遥の姿を隠した風の壁の向こうからそんな声が聞こえた。
(魅せるか……そ)
もう十分に魅せられている。彼女は風で形作り、物を模し作る。
それに比べて自分の技は殴り、砕き、壊すだけ。
何も生まない。何も作らない。
そんな自分に比べれば、彼女は十分に魅せている。
そんな自分は、彼女に十分魅せられている。
「ならばこっちもその期待に応えなくちゃなぁ!」
腰を下げ、足に力を入れて、重心を身体の中心に集中させる。
風の壁は周りの木や石、葉や桜を巻き込んで、色付きながら凶暴さを増していく。
「大嵐風竜」
その言葉と共に風の勢いはピークに達し、竜巻と化す。
周りの物を巻き込みながら回る竜巻の風に体が浮きそうになりながらも、しっかりと足で大地を掴み、体勢を整える。
怖くないと言えば嘘になる。
でも、こんなことで怖気づいてはいられない。
「はぁぁぁぁぁ」
刃哉は思いっきり竜巻をぶん殴る。
瞬間、竜巻は巻き込んでいたものだけを残して消え失せる。
だが、なぜか刃哉は重力を失った。
「あ?」
足元には空が広がり、頭上には校舎や桜が見える。つまりは上下逆さに、さらに空高く打ち上げられていた。
正確には吹き飛ばされた。
確かに、刃哉の拳は遥の技を、竜巻を消し去った。
その瞬間は。
だが、遥の技は新たな風を生み出す。
それに刃哉は対応出来ず、そのまま空へと吹き飛ばされたという次第である。
「負けだな……これは」
初めての敗北。感じたことのない感情が刃哉の胸を動かす。
悔しい。これが負けるということ。
悔しい。これが敗北の味。
でも、それ以上に強く激しく刃哉の心は震え立つ。
「くそ……楽しいじゃねぇか!超能力バトルは!!」
刃哉は空へ、いや、空で叫ぶ。
これからまだよまだ自分の力を試すことが出来る。
そう思うだけで刃哉は胸の高鳴りを抑えることは出来なかった。
1つ問題があるとするならば、まだ宙に舞っているということだろうか。
どうしよう......これ。