第98話「対魔族最終決戦 戦士たちの猛攻」
「さて、この様子ではあまり悠長に作戦を練っている暇もなさそうだ」
「の、ようだな。陸徒、お前あの空也をどうにかするつもりなんだろ?」
「ああ。空也の相手は俺だけでなんとかする。だからアクシオたちは——」
「陸徒さん、ワタシもお供します。空也を救うため、お力になりたいんです」
この状況でどうすべきか陸徒とアクシオが会話をしている最中、リアラが入り込んできた。
彼女は今の空也の状態に驚きを隠せないでいるも、自分がなにをすべきか理解し、覚悟を決めているようだ。
「リアラ、俺は今一度あいつを説得するつもりだが、この状況じゃ戦闘は避けられないだろう。だから、危なくなったらすぐに離脱するんだ。いいな?」
「はいっ!」
そして、陸徒が先ほどアクシオたちへ支持を出そうとしていたこと。それは空也が生み出した魔族の僕。その頂点に立つとされている、名をキングデーモン。アクシオたちはこれの討伐に当たる。
「さてと、俺たちの相手はこのバケモノさんってわけだな」
「敵は7体だ。ここは確実かつ迅速に仕留めるために、ツーマンセルで戦うぞ」
喬介が下してきた作戦は、キングデーモン1体に対し2人1組で戦うというものだ。
これまでに戦闘を繰り広げてきたアークデーモンとは異なり、キングの名の付く通り、その戦闘力は計り知れない。従って、各個にふたりずつで迎え撃つことで、一気に叩くという、戦闘メンバーが十分に揃っているこの状況において最適な作戦と言えよう。
斯くして、人類と魔族との最終決戦が再び繰り広げられようとしていた。先ほどの喬介の作戦通り、陸徒とリアラを除く14名から、ツーマンセルによる対キングデーモンのペアが瞬時に適正編成される。
第1班、シェリルと波美の格闘弓術ペア。第2班、喬介とアクシオの大型武器強襲ペア。第3班、シルビアとレグナムの二連双剣ペア。第4班、モコとラグレイトの多重投擲ペア。第5班、プリメーラとソニカの特攻法術ペア。第6班、シルフィとティアナの複合魔術剣ペア。第7班、ティーダとココアの彩華絢爛ペア。
戦士と術士をバランス良く構成させるわけでもなく、むしろペアによっては防御を無視した純攻撃型、または攻撃力に欠けると思われるペアもいる。だがこの編成が意味するものは、後の戦闘でわかることだろう。
第1陣。格闘術に長け竜の力である地懺孔を持つ波美と、アルファード随一の弓の使い手であり、類稀な法術の力を備える王女シェリルのペア。攻守共に非常にバランスの取れた組み合わせだ。
波美は早速と地懺孔の力を最大解放させる。かつて精霊ゲオスノームとの闘いでも見せた琥珀色のオーラを拳に纏わせ、雄大なる大地の力を己のものとする。
一呼吸置いてから地に拳を突き立てると、無数の岩が前方へ波の如く流れ出す。狙う先は1体のキングデーモン。ところがこの攻撃は敵を狙ったもの、ではなく直前で大量の岩が積み上げられ石柱を模る。それは幾重にも形成され、キングデーモンの視界を遮る地形が作られた。
そこへ今度は、作られたいくつもの石柱の隙間を掻い潜るように、数本もの光り輝く矢が飛ぶ。視界不良により回避動作が遅れ、キングデーモンは矢の直撃を許してしまう。
「波美さん、今ですっ!」
「オッケーッ!!」
矢が命中したタイミングを見計らい、シェリルが合図を送ると波美が次の攻撃に移る。
波美は物凄いスピードで前進し、拳を当てて目の前の石柱を次々に粉砕していく。そしてキングデーモンの前へたどり着いた途端、波美の両手になにかが施された。
その直後、目にも留まらぬ速度で連続パンチを繰り出し、キングデーモンをタコ殴りにしていく。
彼女の手には薄らと輝くものまとわりついていた。先ほど両手に施されたなにかは、法術による小さなバリアであった。
シェリルは、従来の大きなドーム状のものではなく、ピンポイントで且つ極小型のバリアを作り出すという技巧をやってのけたのだ。これは弓と法術を即座に切り換えて戦うことが可能なシェリルにしか成せぬ技だ。
様々な攻撃を防ぐことができる鉄壁のバリアが、全てを打ち砕く甲となりて、見事キングデーモンを完膚なきまでにねじ伏せた。
「やったねシェリル! バリアを武器にしちゃうなんてすごいわ!」
「いえ、波美さんの竜の力があってこそです」
「相変わらず謙遜するわね。でも、あのキングデーモンってのも、相当強かったはずよ」
「ですが力を合わせてどうにか倒すことができました。それってつまり——」
「うん。たぶんそういうことだと思う」
勝利の余韻に浸りながらも、シェリルと波美のふたりは、あることに気がついているようだ。
場面は変わり、続いて第2陣。大刀身の剣と長槍が構えられ、喬介とアクシオがにらむ先は1体の悪魔。
覇装属という、闘気を具現化させ敵を捕縛して動きを封じたり、麻痺などの状態異常を与えることが可能な力を持ち、超重量の片刃の大剣を自在に操る喬介。そして、超人的な脚力で天を跳びまわる力、天翔脚を持ち、超重長尺の槍を軽々と操るアクシオ。
お互いに大型の得物を扱うふたりだが、とても珍妙な組み合わせであるのは既に気づかれていることと思う。
「…………」
「…………」
さすがのアクシオも、この男とふたりきりでの共闘となるとは予想していなかったようで、どう言葉を交わそうかとやきもきしている様子。とはいえ今は戦闘中。個人的な感情は捨て置かなければならない。
当のアクシオは戦いの熟練者だ。いかなる状況下でも己の戦い方は見失わない。対する喬介も、常に沈着冷静で物事を客観的に考える。即ち、性格的な噛み合わせ云々といった話は、両者にとっては些末な問題であるということだ。
「うおぉぉぉぉぉっ!!」
早速とアクシオは上半身を捻じって槍を構え、敵目掛けて突進する。そしてすぐさま長リーチによる横薙ぎを仕掛けた。しかしキングデーモンは、寸でのところで後方にステップをして攻撃を回避してしまった。
「ま、そりゃ避けるわな。だってわざと当てないようにしたからよ」
したりとドヤ顔を見せるアクシオ。彼の言葉の通り、避けられたのは当然のことであるからだ。
「スネークバインド!」
突如アクシオの後方より喬介の声が聞こえた。その直後キングデーモンが先ほどの回避行動から着地したタイミングを見計らったかのように、足元から蛇を模った実体の闘気が数体現れる。それらはキングデーモンの足元を絡めとった。そして更に——。
「ヴァイパーソウル!」
続けて喬介は剣先より異なった蛇の闘気を放ってキングデーモンへ食らわす。これはかつてアクシオ自身も受けた経験のある、蛇の毒で身体を麻痺させる技だ。
これが前述の闘気を具現化させて様々な効力を発揮する覇装属。喬介の竜の力の真骨頂である。こうなってしまっては最早キングデーモンに成せるすべはなかった。
「身動きの取れなくなった敵をなぶるってのはちっと面白くねぇかもしれんが、これが戦いってもんだ!」
そう言ってアクシオは、地を強く踏ん張ってから全身に力を込めて空高くジャンプした。一瞬にして地上からは米粒サイズにしか見えぬほどになったアクシオ。そして間もなくして槍を真下に構えながら急落下すると、キングデーモン目掛けて直撃させた。
土の破片と砂塵を巻き起こし、爆発音にも似た巨大な音を立てる。まるで隕石が落下でもしたかのようにめり込んだ地表の中心には、脳天から身体まで串刺しにされたキングデーモンが絶命していた。
「相変わらず色々なことができる便利な技だな、覇装属ってのは。あの麻痺の技も実際に味わったからその恐ろしさは良くわかるぜ」
「そっちの天翔脚も凄まじい破壊力だ。槍の特性を最も有効的に活かし、更に頭上という死角を利用した、戦術として理にかなった攻撃法も相まっている」
「そう説明的に言われると、ちと恥ずかしいな」
「ふっ……。まぁそこはお互い様ということにしておこう」
互いの評価をし合い、最後には喬介が柄にもなく、口元のみではあるが笑みを見せた。このふたり、事戦闘においては相性の悪くない仲なのかもしれない。
次に第3陣。スカーレットとコバルトブルーが異形のものをジッと見つめる。
前者は紅と蒼の短剣を持ち、後者は薄緑色のものを。互いに両手の得物を構えて立つは、シルビアとレグナムのペア。
いずれも双剣使いという組み合わせだ。かつては教団の本部にて対峙した間柄であり、一時は敵同士であったが、現在はこうして共闘するという状況になっている。
「解っ!!」
早速とシルビアが双竜剣の力を解放し、両刃が眩い光を纏う。開幕から一気に畳みかけるつもりのようだ。
「フフッ、さすが双竜剣使い。物凄い気迫だ。でも僕だって負けてはいられないね!」
シルビアの動作に負けじと対抗し、レグナムも気合を全身に込めて力を高める。
ふたりから放たれる尋常ならぬ気迫を感じ取り、キングデーモン側も動きを見せてきた。地を蹴って空高くジャンプし、シルビアとレグナムの頭上へと移動。死角から攻撃を仕掛けるつもりのようだ。
「化け物にしては戦いにおける知能は併せ持っているようだけど、残念ながらそこは僕の死角にはならないんだな」
そう言ってレグナムは、自身が瞬天剣と呼ぶ薄緑色の双剣を両方逆手に持ち換え、頭上へ高く突き出すようにして構える。
「瞬天剣絶技、乱流波動衝!」
そして技の名を叫ぶと同時に剣を勢いよく地に振り下ろすと、刹那竜巻の如く激しい旋風が巻き起こり、上空にいるキングデーモンの体をとらえた。
忽ちに体の自由を奪われて身動きの取れなくなった相手は、最早成すすべはなく宙に浮いた単なる物体だ。
「さーて、締めはアタイだね」
続いてシルビアが抜き身の双竜剣を手にしたまま、体を低く落として構えると、両足全体に力を入れて勢い良く跳躍した。その直上には空中に漂うキングデーモン。
「安心しな、痛みなんて感じる暇もないよ! 双竜剣八の撃、炎氷天空返しっ!!」
技名と同時に繰り出したのは、シルビアお得意の素早い連続斬り。相手よりも高い位置に到達した直後、急降下して攻撃する。左手に持つ蒼剣ブルーアイシスを踊らせるようにして、過ぎ去り際に何度も斬りつけた。すぐさまキングデーモンは瞬く間にして肉体を凍結させていく。
シルビアは先に着地して上空を見上げると、そこには氷漬けとなって自重が増加し、急落下するキングデーモンの姿が。今一度跳び上がったシルビアは、腰を捻らせて体をコマのように回転。右手の紅剣クリムゾンゼストで多段斬りをお見舞いした。
「す、凄い……。これで見るのは2度目だけど、さすが双竜剣と竜の力。正直僕には身に余る代物かもしれないね……」
シルビアの華麗且つ豪快な攻撃と、双竜剣の放つ竜の氷と炎の力を目の当たりにし、レグナムは口を半開きにしている。そして、紅と蒼の双剣を自らのコレクションリストから外す意を込めた、感嘆の息を漏らした。
キングデーモンは肉体の急激な温度の変化に耐え切れず、業火と共に朽ち果ていった。
「いっちょあがりだね」
「双竜剣の力、恐れ入るよ……」
「……まだ、この剣が欲しいとか言うつもりかい?」
「いや、さっきの攻撃を見て確信したよ。僕には分不相応だってね」
諦めと謙遜の想いを示しながらも、相変わらずのナルシズムは健在で、シルビアに対して色目使いをしているわけではなさそうだが、話の随所で必要以上に顔を動かして自分が最も格好よく見える角度を維持している。
そのあからさまな仕草にはシルビアも気づいているようで、要所で眉をひそめながら受け答える。
「ま、アンタも双剣のコレクションなんて下らないことはやめて、その剣をとことん極めてみたらどうだい? 剣捌きとスピード、そして風を操る力は中々のもんだよ」
「それはそれは、竜の力を受け継ぎし双竜剣使いからのお褒めの言葉、ありがたいね」
最後にシルビアにとって気色の悪い笑みがレグナムから届けられ、この戦いの締めが括られた。




