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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
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第96話「空中戦再び 旋風を凌駕す地の波動」

 陸徒達3人は茫然としていた。ロックデーモン数体が瞬く間に倒されたということに対しては当然であるが、なによりもその現象が魔術によるものである状況に驚きと困惑を隠せずにいた。


「ちょ、ちょっと……今のって魔術じゃん! 一体誰が使ったの!?」

「俺も、なにがどうなってんだかさっぱり……」


 周辺を懸命に見回す陸徒とココアをよそに、喬介は冷静に先ほど魔術を唱えた声の発生源を見抜き、該当する方向へ視線を送っていた。


「ふっ、なるほどな」


 いち早く声の正体を知った喬介は、何かに納得したかのように薄らと笑みを浮かべる。その様子に促され、陸徒とココアも喬介と同じ視線の先へ目を配ると、数メートル先にある大きな岩塊の前にひとりの人影を発見した。それはゆっくりと影を明瞭化させながら姿を現し、陸徒たちへやわらかな微笑みを見せてきた。


「お久しぶりです。陸徒さん」


 声の主は陸徒の名を知っていた。それもそのはずで、喬介も同様に知る人物であるからだ。

 年齢にして僅か12程度の少女。セミロングに整えられた桃色の髪を右寄りに1本で束ね、青と水色を基調としたケープとワンピースを装っている。可愛らしい黄色の小さなポーチ、そしてなによりも体型に反比例してひと際大きく見える、若草色の表紙で施された厚みのある本が、魔術士であることを象徴する材料となっていた。


「お前、リアラじゃないか!」


 陸徒が懐かしむ表情で声を大きく発する。それが少女の名であった。


「元気だったか? なんか数年ぶりに会った気分だ」

「まだ2ヶ月ほどしか経っていませんよ。でも、ご無事でなによりです」

「あぁ、さっきは助かったぜ。ありがとな」


 陸徒と再会の喜びを分かち合い。しばし会話を楽しむも、時折流し目で喬介の顔を伺っているリアラ。それは、以前の風の谷での件があったからであろう。

 だが現在は和解して、共に闘う仲間であると、陸徒からの説明を受けると、曇った表情を晴れさせる。喬介側も、当時の出来事を自ら詫びてくることはなかったにしても、過ちであった事実に関しては十分に理解していた。


「きゃっはー! なんてかわいい子なのっ、アナタがリアラちゃんなのね。はじめまして、アタシはココアよ。よろしくね!」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 陸徒との雑談時に聞いていたこともあり記憶に新しいが、それよりもリアラの容姿を見るなり目を輝かせながら、厭らしそうな顔をニヤつかせ自己紹介をしてくるココア。その言動と表情、紫のメイド服という奇抜な装いも相まって、初対面であるリアラの気持ちは想像に容易いが、さすがに年齢不相応の大人びた性格であるからか、相手に好感を持たせるほどの礼儀にてある態度で挨拶を返す。

 

斯くして、リアラとの再会を果たした陸徒は、この時点では空也のことには触れず、さしあたって現在の自分たちが抱えている任務と問題について説明をする。

 エルグランドでは、アーシェラ女王の巧みな政策により、国民がパニックを起こさない程度に、今は魔族復活に伴う厳重警戒令が国内にて敷かれている。

 リアラの住むラクティスの町はエルグランド王国領。従って彼女自身も魔族に対するある程度の知識と対応策は既に備えられており、陸徒の話への理解は容易であった。


「私は定期的に谷の見回りをしているのですが、現存のモンスターたちは穏やかなままです。ですが、ここ数日前からか、彼らがなにかに怯えるようにして姿を見せなくなったのです」

「その理由ってのは、やっぱり……?」

「はい、先ほどの奇妙なモンスターでしょう」


 谷のことに関しては誰よりも詳しいリアラだからこそ、状況の変化に敏感に反応し、陸徒たちのピンチにもタイミングよく駆け付けることができたと言えよう。

 襲ってきたロックデーモンは全滅させたが、完全に駆逐したとは言い難い。加えてプリウスの魔石も所定の場所に戻していない。一行はリアラをパーティーに迎え、谷の最頂部へと探索を再開する。

 天候は晴れだが一定して強風。大小様々な雲の影が、岩肌を一瞬暗く染めてはすぐさま通り過ぎ去る様子を繰り返す。強風による体力の消耗は、リアラが煎じた例の薬の効果で軽減させている。


「それにしても、リアラちゃんの薬ってすごいね。アタシも華術使いだから、花以外の植物にも詳しいんだよね。だから薬草とかも良く知っているけど、これだけの薬を作るには相当な知識が必要よ」

「それは、薬師だった母親直伝だからだよな」

「は、はい!」


 ココアが目を丸くしながら感心しているところへ、陸徒がその理由を簡単に回答。すると、リアラは身体測定の時のように背筋を真っすぐに伸ばして表情を輝かせる。

 悲しくも早くして母親を亡くしてしまったリアラ。時折垣間見える表情の裏側に隠された寂しさを持ちながらも、いつも気丈にふるまっている。そしてなによりその母親を心から愛し、敬い、誇りに思っているのだ。

斯様な健気に生きる姿は、歳を近くする陸徒たちにとって勇気を与えてくる存在であろう。


 ほどなくして一行は、目的地付近へと足を踏み入れる。時として襲い掛かる突風は、地に強く踏ん張っていなければ体のバランスを崩して倒れ込んでしまうほどだ。言うなれば谷の暴風域である。

 人が移動可能な範囲の足場は狭く、所々が削ぎ落とされたような崖となり、巨大なトゲにも似た岩の剣山が至るところに突き出ている。ここはかつて、プリウスの魔石の守護獣にして伝説の怪鳥ガルティオルフと戦闘を繰り広げた場所だ。

 これまでに海獣ログノスキュラ、炎狼フレイバルディアが復活していることは確認済だ。従って怪鳥ガルティオルフも同様に、この地に再び生誕しているに違いない。

おそらくプリウスの魔石を戻す際、陸徒たちの前に姿を現すはずだと思われるが、皆の予想に反してこの機に招かれざる客が訪れるというのも、お約束と言えよう。


「ねぇ、なんか物凄い奇妙な音、聞こえない?」


 その存在について早速と言及してきたのはココアだ。続いて他の面々も気がつくと、視認できる位置に出現するまで時間を必要とはしなかった。


「なに……あれ。まさかあれがガルティオルフって鳥? どう見ても鳥には——」

「いや、あいつはガルティオルフじゃない。少なくとも俺とリアラは本物を見ている」


 陸徒たちの視界に映るものは怪鳥ガルティオルフ……ではなく、空を舞う別の異形なるものであった。

 それはガルティオルフよりも更に大きく、まるで旅客機が目の前を飛行する様を見せている。不自然に背の曲がった体躯と、豚が牙を生やしたような奇怪な顔。そしてコウモリの如き巨大な羽は、最早誰もが知るアレであった。


「姿形のみで解釈するならば、巨大化したアークデーモンのようだな」


 目を見開いて驚愕している陸徒とココアをよそ目に、沈着冷静でいるのはリーダーの喬介。先の戦闘ではココアの天真爛漫ぶりに搔き乱されはいたものの、今は平生を取り戻している。

 併せて喬介が発言した内容通り、巨大化したアークデーモンが陸徒たちの前に立ちはだかる。数こそ1体なれど、規格外の巨躯とそれが飛行タイプである状態から、戦闘における陸徒たちの優位性が限りなく低いものとなっている。


「あの巨体じゃ生半可な攻撃でもダメージは与えられない。それを補うべく華術があっても、俺と喬介さんじゃ空中の敵には攻撃できない。おまけに魔術も——」

「えぇ。極端に距離があると魔術も届きません……」

「だよな……。ここにはアクシオもいねぇし、参ったな……」


 前述の問題の詳細は陸徒がコメントしたように、このパーティーではまさにお手上げ状態。頼みのジャンプ攻撃が可能なアクシオは別の班。またしても班の編成ミスか……と思われた矢先。


「お、おい! あそこに見えるのって……?」

「えっ? 今度は一体なんなのよ…………って、ええええーっ!?」


 陸徒が叫喚しながらある方向を指差して驚いていると、それにつられてココアもまた、鳩が豆鉄砲でもくらったような顔をした。

 それは、先ほど現れたアークデーモンではなく、後方よりそれを追うようにして、なにかが出現したのだ。そしてその姿をはっきりと確認した陸徒は、期待と不安の織り交ざったような複雑な心境に駆られることとなる。


「怪鳥、ガルティオルフ……」


 陸徒の代わりに喬介が名を呼んだ。前述された通り、かつて陸徒たちに倒された守護獣ガルティオルフが、新たに生を得てこの地に再誕したのだ。


「ガルティオルフ……。風のプリウスの魔石を取り戻しに来たんだろうが、今は俺たちの敵なのか、味方なのか……?」


 魔石に流れ込む邪悪な気の影響は今はもうない。とはいえ、ガルティオルフが陸徒たちの味方であるかどうかは、この時点では確認出来ていない。しかし——。


「そうであるか否か、いちいち確認している暇もなさそうだな。陸徒、ここは少し賭けをしてみるか。俺にあの巨大アークデーモンと戦うすべを得られるかもしれない考えがある」


 その中、喬介はひとり冷静にこの状況を見据えて分析していた。

 ガルティオルフがこの場に現れた理由として考えられる点。ひとつは風のプリウスの魔石を取り戻しにきたこと。そしてもうひとつは、あの巨大アークデーモンを排除すべく追ってきたこと。

前者であれば、真っ先に陸徒たちの方へと向かって飛んでくるものだろうが、こちらに近付くにつれて、ガルティオルフが徐々に下降しているように喬介には見えたのだ。そして後者の理由に付け加えるものとして、彼の言う賭けというのが次の行動であった。


「ちょっと待って! それマジで言ってんの? いやいや無理だから。無理無理!」

「喬介さん、その作戦、失敗したら俺たち全員死ぬぜ」

「異論は後で聞く。もう時間がない、行くぞ!」


 両手をバタバタと振り回しながら慌てて騒ぐ陸徒とココアを無視し、喬介は淡々とした口調で強行する。その強行というものは、崖から谷底へ向かって飛び降りるということ。

 恐怖に慄きながらも、喬介の後を追って陸徒たちも飛び降りた。視線の先に見えるのは、どこまで切り開かれているかもわからぬ深淵。

 ところが突然右手方向より巨大ななにかが視界を埋め尽くした。そして次の瞬間、柔らかなマットに乗ったような感覚を覚える。


「痛っ……んもうなんなのよマジで。……え、これは?」


 顔を歪ませて文句を言いながら、ココアは尻もちをついた時の手のひらになにか不思議な感覚が伝わり驚きふためいている。

 そこには、極彩色に輝く羽毛が幾重にも重ねられ、まるで草原のように茂っていた。


「こいつは、まさか!」


 陸徒が周囲を見渡すと、半径数メートルに渡る羽毛畑より先の全方位に、崖と空の景色が目に映った。


「俺たち、ガルティオルフの背に乗っているのか?」


 陸徒の言葉の通り、4人は怪鳥ガルティオルフの背上に乗り、空中を飛行していたのだ。

 喬介に次ぐ冷静さを持ち合わせているリアラも、この状況には驚きを隠せずにいる。


「以前倒した怪鳥ガルティオルフを再び発見したかと思いきや、まさかその上に乗って空を飛ぶなんて……。私、夢でも見ているのでしょうか」

「驚くのは構わんが、これは紛れもなく現実だ。その証拠に見てみろ、早速とこちらに敵意をむき出して追ってきている」


 喬介が示した方向、彼らのいる後方より迫りくるは巨大化したアークデーモン。翼を大きく羽ばたかせて今にも襲い掛かってきそうである。

 そこへ、ガルティオルフがピーっと鳶に似た大きな笛の音の如き声を出して、陸徒たちになにかを伝えてきた。


「ガルティオルフ……、お前、俺たちと一緒に戦おうってのか?」


 無論、鳴き声を言葉に訳したのではないだろうが、この時の陸徒たちには、ガルティオルフの思いが取るようにわかった。

 それに応えるようにして、陸徒たちは一斉に武器を構えると、怪鳥も可能な限り背を平らにして滑空の状態を作り、陸徒達に戦い易い環境を整える。

 生き物の上に乗ったままの空中戦という奇想天外かつ難度の高い状況ではあるが、これならば敵に攻撃が届かないという問題も解消される。


「今回も時間がない。だから作戦は手短に伝える。陸徒と俺はガルティオルフの移動を見極めながら、敵へ最も接近した際に攻撃を仕掛ける。リアラは魔術で牽制と主砲を上手く使い分けろ。そしてココア、お前は……なにもせず待機だ」

「はぁ? ちょっとそれどういうこと?」

「この戦いでお前の華術に頼るのは危険すぎるからだ」

「マジなんなのよそれ……。そもそもアタシの華術はね——」


 喬介の作戦指示に納得がいかないココアは、声の怒を強めて異議申し立てをするも、言葉を途中で遮られ、ガルティオルフが急に旋回をし始めた。敵の攻撃予告だ。これが概ねの先頭開始の合図となった。

 搭乗者はガルティオルフの動きに体を振り落とされぬよう、下半身に力を入れて踏ん張りながら、敵の動向に注意しながら攻撃のタイミングを見計らう。


―久遠の刻を調べる強き風よ、全てを切り裂く刃となれ―

風流旋ウィンドスラッシュ!」


 早速とリアラが魔術を唱えて敵へ牽制攻撃を仕掛ける。ここは風の谷。常に風の地形属性が働いていることは既知。地形属性を相乗させて術の攻撃力を倍増させる。

 固い岩をも切り裂く鋭い旋風がアークデーモンを襲う。しかし風の刃を直撃してもなお、怯むことはなかった。ほとんどダメージを受けていないようだ。

 どうやらこの巨大アークデーモンは風属性に強い耐性を持ち合わせているのだろう。


―清らかなる精霊の涙よ、凍てつく刃となれ―

氷冷雨フリーズレイン!」


 屈することなくリアラは次なる術を唱える。今度は風の地形属性に影響されにくい氷属性の術だ。ところが風属性ほどではないにしろ、差してダメージは与えられていない。

 リアラは歯を食いしばりながらも、効力の強い順で様々な属性の術を唱えるが、一貫して微弱なダメージのみ。これでは魔術による攻撃は期待できない。

 最後にダメ元でリアラはある術を唱える。それは地の属性術。風と相反する地の属性は、ここ風の谷において最も効力の薄い術に該当する。


―悠々と蠢く地の流れよ、砂の豪波と化せ―

砂塵衝サンドブラスト!」


 当然これまでの属性術以上にダメージは与えられない。と思いきや、この地の属性術にのみ、アークデーモンは咄嗟に翼を大きく羽ばたかせて、術を回避する行動に移ったのだ。


「!! 今の奴の動きは……もしかしたら!?」

「あぁ。どうやら敵の弱点は地属性のようだな」


 瞬時に巨大アークデーモンの弱点を見抜いた陸徒と喬介。だが前述の如く、ここで地の属性術を使用することは、弱点と言えど致命傷を与えるほどの期待値は見込めない。


「ですが、風の谷で地の属性術は……。アーシェラ女王のような絶大な魔力を持つ方でしたらまだしも、私には到底……」


 効力の薄い属性術であっても、それを補うほどの魔力があればまだ見込みは持てるかもしれない。リアラがそう補足すると、今度は戦力外通告をされていたココアが乗り出してくる。


「人間的な力不足には華術の出番じゃない? ほらほらやっぱりアタシの力が必要じゃんよ」

「今回使うのは魔術だ。華術で強化出来るのは——」

「誰が華術は物理攻撃限定の強化術だって言ったっけ?」

「まさか、魔術にも……?」

「うん。正しくは、魔術そのものをじゃなくて、術者って感じかな。華術は人間の身体的能力を強化させるものだからね。で、魔術の強弱に影響する魔力。それを担う人間の力でいうと、精神力ね」


 ココアは魔力に関する説明を更に掘り下げてきた。

 人間の精神力と言っても抽象的であり、こと魔力について具体的に分類させると、ひとつは気を研ぎ澄ませる穏やかな心。これはどんな窮地においても落ち着いて呪文を詠唱し、力を借りる精霊や魔獣と心を通わすことに重要だ。そしてもうひとつは、借りた力を具現化させ、攻撃対象へ放つために必要な闘志、燃ゆる気迫。

 この相反する心を絶妙なバランスで両立させる。これが魔力の大小に起因するというわけだ。


「魔力については以上。ただ、アタシ的にひとつ懸念してるのが、華術で強化された魔術を使っても、今回においては致命的なダメージまでは与えられないかもってとこかな」

「つまり、奴を倒すには魔術だけでは不足ということか……。陸徒、最後はお前の力が必要だな」

「俺の……力、ラディアセイバーの? あぁ、わかったぜ喬介さん!」


 やはりこの班において喬介を司令塔に采配したのは正解だったようだ。即座に作戦を構成させ、人員に対して指示を完了させた。その作戦内容は……。


—ラーズ・フラム・シェル・ディ・アッシュ—

「リリーオブザバレー」

—ファーモ・ユス・ノーリエル・アッソ―

「カトレアシャリーフォール」


 早速とココアが華術を使用する。唱えたものは2種。スズランの香りとカトレアの香りの術だ。

 前者はスズランが放つさわやかな甘い香りによって緊張した神経を解してリラックスさせる。これが穏やかな心に影響。後者はカトレアが放つエキゾチックな刺激のある香りで、高揚感を促進させて気持ちを高める。つまり、気迫へと影響させるわけである。

 この両術をリアラへ掛けると、彼女は体の中に強い衝動が伝わるのを感じた。そしてすぐさま呪文の詠唱へと入る。


—地脈を司りし大地を守護する精霊よ

 巨石を抱き天地の歪みを呼び起こせ

 我放つは地を揺らす絶豪の波動—

天地崩壊アースシェイキング!」


 華術の効果による本領は魔術発動後であろうが、呪文の詠唱時からその片鱗は見受けられた。元々齢12でありながらも、卓越した魔術の能力を持つリアラであるが、体から放たれるオーラにただならぬ迫力が感じられた。それはさながら、魔術の絶対的強者アーシェラ女王のようであった。

 発動された術はすぐさまアークデーモンへ襲い掛かる。無数の巨大な岩が出現すると、それが対象へ集結。そして覆い囲むようにして岩が結合した刹那、まるでその場にのみ起こった大地震のように強力な震動を生み出し、岩が粉々に砕け散った。

 攻撃をまともに受けたアークデーモンは、口から大量の血反吐を流し、翼を大きく羽ばたかせてよろめく体を必死で姿勢制御する。

 最も効果が薄い地の属性だが、華術によるドーピングと、地系最大級の術により、アークデーモンへ相当な大ダメージを与えられたようだ。しかしこれではまだ致命傷にまでは至っていない。


「陸徒、今だっ!」

「あいよっ! ガルティオルフ、頼む!」


 タイミングを見計らって喬介が合図を送ると、陸徒はガルティオルフへ声を掛ける。ピーッと鳴き声を返した怪鳥は、陸徒の言葉の意図を理解していた。

 アークデーモンからの反撃を受けず、かつ魔術が届く範囲の距離を保って飛んでいたガルティオルフは、片翼を低く下げて横方向へ移動。アークデーモンの傍らへと急接近させる。

 足場の傾きに姿勢を制御させながら、神剣ラディアセイバーを構えて目標を見定める。そして、ここぞというタイミングで跳躍し、アークデーモンに飛び移る。

 強風での空中ジャンプを成功させるため、陸徒へも筋力強化の華術が掛けられた状態だ。ゆえにこの攻撃は一度きりのチャンス。失敗すれば、リアラ、陸徒共に戦闘不能に陥る。だが陸徒はそのプレッシャーをものともせず、アークデーモンへ攻撃を仕掛ける。


「宿れっ!」


 陸徒の声に反応し、ラディアセイバーの刀身が強烈な光を発した。先ほどの術によりこの周囲のみ地の地形属性の余韻がまだ残っている状態だ。

 陸徒はアークデーモンの背に着地すると、そのまま剣を大きく振りかざして柄を逆手に持ち返し、相手の延髄部へ刃を突き刺した。

 その瞬間、アークデーモンの体が激しく振動しながら周囲に砂塵が巻き起こる。それはにわかに陸徒とアークデーモンの姿が見えなくなるほどのものであったが、忽ちに消えた途端、アークデーモンが力を失い谷底目がけて落下し始めた。


「うおっやべっ!」


 アークデーモンが絶命し傾いたことで足場が不安定になり、陸徒はガルティオルフへ飛び移るタイミングを逃してしまう。そのまま落ちていくところへ、怪鳥が陸徒よりも更に低空位置へ急降下。そして羽毛のクッションで受け止めた。


「あっぶねぇ助かった……」

「危なかったのはこっちよ! この鳥が急に降下するもんだからアタシたちまで落ちそうになったじゃんよ!」

「でも、見事アークデーモンを倒しましたね!」

「そうだな」


 陸徒たちは、暗い谷底へ落ち行くアークデーモンを眺めながら、勝利の喜びと安堵の意をかみしめる。

 そして、プリウスの魔石を持つ彼らを乗せ、怪鳥ガルティオルフは、天より差し込む日の光を受け、極彩色の翼を大きく羽ばたかせながら、谷の最頂部へと飛翔する。

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