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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
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第94話「そびえ立つ巨躯 君臨せし神の嵐」

 早速とアクシオが、自身の持つ竜の力である天翔脚を使い、岩山の天辺まで一気に辿り着く。

 ティアナも軽い身のこなしで点在する岩山を飛び移りながら、アクシオよりも低い位置ではあるが、スカイデーモンが大きく視認できる場所までやってきた。

 ティーダは彩術を使うための道具であるパレットと筆を用意し、持ち前の彩術を唱える。


「飛翔のホワイトフェザー


 彼が始めになにかを口にしていたことと、アクシオに遮られてしまった言葉の意味は、どうやらこの術にあったようだ。なぜならば、彩術の使用に必要な道具を、岩山が出現する前から取り出していたからだ。

 パレットの上で筆を躍らせると、ティーダは術の名を発すると同時に、自分の足元を筆で軽くひと振り。すると次の瞬間、彼の両足から長さおよそ30センチほどの純白に輝く翼が作り出された。


「お、おいティーダ、なんだよそれ?」

「まさか貴方、それで空を飛ぶ気なの?」

「大丈夫。蝋でできた翼じゃないから、陽の光で溶けたりはしないヨ」


((聞いているのはそこじゃない……))


 ギリシャ神話に登場するダイダロスとその息子イカロスの話など、このミドラディアスに存在するか否かは定かではないにしろ、ティーダはさもそれに該当すると思われる発言をする。

 そしてアクシオとティアナは、緊張感の薄いティーダへ心の中へツッコミを返す。


 足から翼を生やした画家は、腰をやや低めに落として力強く踏ん張ると、目の前にある高さ20メートルは有する岩山目掛けて跳躍する。

 次の瞬間、小さな白き翼が動きだし軽やかに羽ばたきながら、ティーダの体を宙に浮かせて岩山の頂へ着地する。


「お、ティーダの奴、意外にいいジャンプ力してるじゃねぇか」

「いやいや、俺ちゃんはあまり運動は得意じゃないヨ。この翼のおかげさネ。これは、法術みたいに自由を空に飛び回ることはできないけど、跳躍力と滞空時間を高めてくれるのさ」

「へぇ~。不思議な絵描きの術を使うとは聞いていたが、なかなか面白い能力だな」

「さぁ貴方たち、そうのんびりとお話しをしている時間もなさそうよ」


 初動的にアクシオと同じ反応を見せていたティアナだが、それが彩術であると即座に気がついた。従ってティーダの空中浮遊に幾ばかりかの驚きを見せつつも、すぐさま周辺の状況を冷静に分析し、ふたりの視線を敵側へ促す。その先には、隊列をなして空を漂うスカイデーモンの群れ。


 ゲオスノームの手によって作り出された岩山を伝い、アクシオたちは地上から100メートル以上離れていたスカイデーモンのすぐ傍へ接近している。

 これにより物理攻撃を仕掛けられる範囲まで到達することができたが、足場が狭くいささか不安定であるという関係から、戦闘条件が大きく好転したわけでもない。当然ながら、空中で自由に飛び回れるスカイデーモン側の優位性はさほど変わらない。

 果たして、如何様な戦術をもってして、この戦闘をクリアさせるのであろうか……。


 手始めにアクシオが先陣を切って攻撃を仕掛ける。空中戦に慣れた彼の素早い動きによって、手前にいる一体をすかさず翻弄させる。

 その攻撃は、強く岩山を蹴って跳躍した後、敵とすれ違いざまに槍で斬りつける。そして上空から落下してそのまま槍で一刺し、ではなく柄の部で相手の首元を強打させるというものだった。

 大空からの急落下による突き攻撃は非常に強力なものであるが、回避された際に隙が生じてしまう。相手がどのような反撃をしてくるか等、出方がわからない段階では、威力は低くとも牽制型の攻撃法が得策と言えよう。

 案の定、アクシオの攻撃が予想外であったのか、スカイデーモンは不意を突かれたかのようなたじろぎを見せていた。


「流石、戦闘の熟練者ね。その場に合わせた最も有効な攻撃手段を瞬時に見極めて行動しているわ」

「ん~。まぁ彼の場合は頭で考えてというよりは、体が覚えているような感じだけどネェ。ただ、これだけの数相手に1体ずつ攻撃していては、俺ちゃんたちが勝てる見込みがなくなる……ほら」

「アクシオッ!!」


 ティーダが自慢の洞察力でアクシオの行動を分析していると、その後の展開を読み取るように言葉を促す。直後、戦況の変化を示すティアナの叫ぶ声が響き渡る。

 空中で身動きが取れないアクシオに対し、スカイデーモンたちが飛び掛かるようにして、大勢で攻撃を仕掛けてきた。しかしアクシオ自身も、空中であるにも関わらず身体を大きく翻したり、槍で攻撃を受け流すなどして、被るダメージを最小限にと軽減させる。


「くそっ。やっぱり多勢に無勢ってやつか……。こんな戦い方じゃ勝機は見出せねぇ」


 アクシオは苦汁を飲んだような表情で言葉を漏らし、スカイデーモンたちの攻撃をかいくぐりながら、一旦元の岩山へと避難して着地する。


「ティアナッ!」

「は、はいっ!」


 戻り際にアクシオがティアナへ声を掛けると、突然名を呼ばれたことに驚いたのか、彼女は半ば焦るかのように戸惑いを見せて、らしからぬ反応をする。

 だが当のアクシオは斯様なティアナの心情に感づかず、淡々とある質問を投げてきた。


「お前のその剣、確か風の力が出せるんだったよな?」

「え、ええ。そうよ」


 ティアナの持つ翠色に輝く細剣は、アストラルウェポンという特殊な魔法属性を帯びたエルグランドの技術の結晶とも言える剣だ。名はセイラウインダム。アクシオの言葉の通り、風の力を宿し、同属性の魔術と相似なる攻撃を可能とする。

 アクシオはその力に目をつけ、なにやらとある策を思いついた様子ではあるが……。


「んじゃちょいと失礼するぜ」


 そう言いながら、アクシオはティアナのいる岩場へと飛び移るなり、唐突に彼女の体を自分の隣に引き寄せようとする。


「えっ、ちょっと……ま、まだ心の準備が……」


 咄嗟の出来事にティアナは慌てながら顔を真っ赤に発熱させる。


「そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ。敵さんは待っちゃくれねぇ。俺に考えがあるんだ、だから力を貸してくれ」

「て、敵……? 力を、貸す……? あっ、そ、そうよね! そうだったわ。いいわよ!」


 一流の騎士と聡明な科学者を担う才女が、この土壇場で一体なにを勘違いしていたのであろうか。第三者の視点からならば想像するに容易いことだ。


「よし! いいか、俺が合図をしたら、ありったけの力で強力な風の攻撃を敵さん目掛けて放ってくれ」

「わかったわ」


 ティナアが同意を示した頃合いでアクシオが槍を天に翳すと、徐に周囲の風の動きに変化が見え始める。

 アクシオの言葉とその変化により、なにが起きようとしているのか、自分はなにをすべきなのか瞬時に察知したティアナは、続いて気を集中し始める。するとふたりの体が聖緑に輝く風を纏いだした。

 このまま強力な一撃が繰り出させるかと思いきや、その異変に早速と感づいたスカイデーモンの群れが、危険を排除すべく猛スピードでアクシオとティアナの元へ進攻する。この状況ではふたりの攻撃が間に合わず妨害されてしまう。


「ふたりとも危ないっ!!」


 後方地上より、カレンの注意する大声が聞こえてくる。

 それに反応したふたりは、攻撃準備を即座に中断させるが、既にスカイデーモンたちが彼らの間近まで接近していた。そして直ぐさま左腕を振り下ろして鋭い爪で襲い掛かってきた。


「うわぁぁぁっ!」

「きゃぁぁぁっ!」


 咄嗟に武器で身を守り、大きなダメージを受けずに済んだようだが、その衝撃によって足場の悪い岩場から踏み外してしまった。

 先に下へ落ちたのはティアナだった。しかし彼女の手をアクシオが間一髪でつかまえる。とはいえ、アクシオ自身も片方の手で岩縁につかまり、ふたり共ぶら下がった状態だ。


「アクシオ、私の手を離して! でないとこのままでは貴方まで一緒に落ちてしまうわ」

「おいおいバカ言ってんじゃねーよ。レディを見捨てて俺だけ助かるわけにはいかないっての!」


 だが斯様な言葉を放ち強がっていても、アクシオの腕力と握力は著しく低下していく。そして間もなくして限界が訪れ、咄嗟的に気が緩んだ刹那に手が離れてしまい、ふたりもろとも地へ向かい落ちていく。


「ね、姉様……あれ」

「え、ええ。私も初めて見たわ」


 アクシオとティアナの絶体絶命のピンチに悲鳴をあげるかと思いきや、巫女姉妹は予想だにしない不可解な出来事に驚愕している様子。

 ふたりのその視線の先には、辺りの景観を覆い尽くすほどの巨大な物体が。


「わお! 大地の精霊がアクシオとティアナを助けてくれたヨ。いやしかし……」

「ゲオスノームがあんなに大きくなっている……」


 何とその巨大な物体とは、大地の精霊ゲオスノームだったのだ。更にはアクシオとティアナを手で受け止めている。その姿は当初出会った時のものとは比べものにならず、全長はゆうに100メートルは超えていた。まさに巨大化していたのだ。

 それはまるで、ひとつの山が突如とその場に出現したかのようであった。


「……っく、ティアナ、大丈夫か?」

「えぇ。私たち、助かった……の?」

「そうみたいだな。っていうか見てみろよ」


 アクシオに促され、ティアナは周囲を見渡すと途端に驚愕の表情を見せ、大きな声を漏らすまいと口に手を当てて塞ぐ。

 真下の数十メートル彼方に臨む地上。そして背後には巨大な岩の塊が悠然と立ち、無音の威圧感を発していた。


「ゲオスノームが、巨大化したと……いうの? ということは、私たちが今立っている場所は、手の平?」

「まさに、その姿山の如しって感じか」

「あら、随分と粋なこと言うのね」

「へへっまぁな。さてと、助かったからと言って余裕こいてもいられねーな。敵さんはまだうじゃうじゃいる」

「えぇ、そうね。けれど私たちが再び先ほどの攻撃をしようにも、意識を集中している間に妨害されては意味がないわ」


 ふたりが起こそうとしている攻撃は、圧倒的な数を見せるスカイデーモンたちを一掃できるほどの勝算があり、且つこの戦闘状況を考慮すれば唯一無二と言える切り札だ。故に攻撃前に生じる大きな隙を加味してでも、行使しなければならない。

 打開策を導き出せぬまま手をこまねいていると、そこへ上方から聞きなれた胡散臭い声がしてきた。


「おーい、おふたりさんやーイ!」


 声の主はティーダだった。彼は巨大化したゲオスノームの肩の上に腰掛け、手を振りながらふたりのいる場所を見下ろしていた。


「お前いつの間にそんなところに……」

「遊んでいる場合じゃないのよ」

「遊んでなんかいるもんカ。これから俺ちゃんが素晴らしいパフォーマンスでアシストしてあげるから、君たちはさっきの攻撃の準備を再開しておくれヨ!」

「パフォーマンス? ……まぁなんだか知らねぇが、わかった。お前を信じるぜ!」

「お任せなさーイ!」


 見た目や言動こそ胡散臭い彩術使いのティーダだが、彼自身の実力と、未知数である彩術の強さは誰もが認めているもの。この男がどうやら秘策を持っているようだが、一体なにをする気なのであろう。

 と、のんびりと様子を伺っている暇もなく、スカイデーモン側も次なる攻撃に転じようとしていた。だがここはティーダに任せ、アクシオとティアナの両名は、先ほどの攻撃準備に再び取り掛かる。

 ティーダはゲオスノームの肩の上で、そのままパレットと筆をカバンから取り出して用意する。そしてすぐさま目にも止まらぬ筆さばきで絵具を調合し、色を展開させる。


「危険予知のコーションズイエロー


 早速とティーダは彩術を発動させた。パレットの上で遊ばせた筆を虚空に翳して無造作に動かすと、突如周囲に無数の黄色い球体が出現した。それらはスカイデーモンの群れの中へ次々と飛び込んでいく。

 ところが球体はスカイデーモンたちの周りを縦横無尽に飛び回っているのみで、特に攻撃をしている様子は見られない。しかし術の効果は既に敵へ及んでいた。

 スカイデーモンたちは一斉に動きを止め、首だけを動かしながら黄色い球体を目で追い続けている。


「注意を促す黄色の球。そいつを視界に入れると、忽ちに気を取られて攻撃を忘れてしまうのサ」


 聞かれてもいないのに自慢げに己の術の説明を講じているティーダ。だがこの彩術によって、スカイデーモンの意識がアクシオとティアナから完全に逸らされる状況となった。


「不思議な力ね。あの男の使う術は……」

「色の力を具現化させる彩術……って言っていたわよね」

「うん。あたちたちは術にあまり詳しくはないけれど、なんか凄いっていうのは見ていてわかるわ」

「それにしても、ティーダさんの作る色は、とても鮮やかで綺麗ね」


 ティーダの術に対する感想を述べていたのは、地上より大地の神殿の前で戦いの様子を括目しているセリカとカレンだ。

 彩術という奇怪な力の珍しさも去ることながら、その描かれる極彩の色使いは、多少なりとも芸術への心得、興味関心を持つ者であれば感銘を打たれるほどのものなのだろう。


 アクシオとティアナにおいては、既に攻撃の準備へと一点集中している為、周囲の状況に気がついていない。それは、自分たちへの危機回避はティーダに一任している証拠でもあった。


「さぁ、このステージのフィナーレは君たちに任せたヨ!」


 そして時は熟した。ティーダの掛け声を合図とし、アクシオとティアナは溜め込んだ集中力を一気に解き放つ。


「いくぞティアナ!」

「ええ!」


 ふたりは同時に開眼すると、それぞれ装備する武器を大きく後ろへ振りかぶり、突き出すようにして前方標的へ押し出す。


「「ミストラルブラスターッ!!」」


 声を合わせ、技を放ったその先は、大空にて飛び群れるスカイデーモン。

 刹那、群集の中心に急激な気圧の変化が訪れると、忽ちに嵐の如く暴風が巻き起こる。スカイデーモンたちは、翼では一切コントロールを効かせられぬほどの風の力で、抗うことすらままならず、全身を捻じらせて次々と胴体や手足、首が千切れ落ちる。

 瞬く間にスカイデーモンたちの戦力が削がれていき、ものの数十秒が経過した時には1匹も残らず駆逐されていた。それが完了すると次第に嵐もおさまっていった。

 その風の力は敵の一掃だけに留まらず、ゲオスノームが作り出した岩山をも全て吹き飛ばしていた。従って、辺りは元の平坦な大地へと姿を戻している。


「な、なんて威力なの……」

「すげぇ。ティアナのアストラルウェポンの力が加わると、こんなにも強力な技に変化するのか……」


 己も先の攻撃に加担しておきながら、ティアナはその信じ難い出来事にただ阿鼻叫喚して呆然と立ち尽くす。

 アクシオも同様に、予想以上の技の威力に感嘆の意を隠せずにいるようだ。当人の思いつきの作戦とは言え、ティアナの持つアストラルウェポンの力の相乗効果は想定の範囲外だったのだろう。

 加えてアクシオの持つ槍。これまでの経緯から察するに、当該も風属性の力が備わっているようだが、同様にこの武器もまた、詳細は未知のままだ。


 巨大化したゲオスノームは、アクシオとティアナを乗せた手をおろして地上へ帰すと、途端に蒸気のような白い湯気を全身から放出させ、元のサイズの姿へと戻っていった。

 それと同時に、ティーダとセリカ、カレンも合流したところで、戦闘終了の意を示していた。


「いやぁとても素晴らしいフィナーレだったヨ。これも俺ちゃんの効果的且つ、華麗なアシストでお膳立てができたからだネ!」

「まったくすぐ調子に乗って……。でも、正直貴方の援護なしではあの技は出せなかったわ。ありがとう」

「あぁ。ティーダのおかげだ。助かったぜ」

「あ、いや、そこまで感謝されると……ちょっト」


 柄にもなく、目を泳がせて慌てて照れ隠しをするティーダ。お調子者な態度を見せてきたかと思いきや、今度はそれを恥ずかしがるなど、色々な意味で不可解な男である。


「皆さん、お疲れ様でした」

「あの気味の悪い奴らを全滅させたみたいね。色の力を使った術や、強力な風の技とか、凄いものを見せてもらったわ」

「そうね。特にアクシオの持つ槍、私のセイラウインダムでは到底敵うことのないほどに、強い風の力が備わっているようね」


 セリカ、カレンが戦闘メンバーへの労い言葉や、戦いの感想について発言されると、早速とティアナが科学者なりの分析と、騎士としての経験から察する見解で、アクシオの持つ槍の力について指摘してきた。


「当然よ。だってその槍は——」

「カレン、せっかくだから彼の口から聞きましょう」


 科学者兼騎士の言葉に添加するように、カレンがなにかを打ち明かそうと口を出してきたが、あえてとセリカが制止してきた。巫女姉妹はあの槍に関して既知であることは、先の会話にて判明している。


 果たして、アクシオの持つ槍の正体とは……。彼の口から、陸徒と離れてからの出来事と、槍を手に入れた経緯が明かされることであろう。

 ひとまず、一行は大地の精霊ゲオスノームと共に、礫岩の洞窟へと赴き、目的であるプリウスの魔石の返還へと行する。

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