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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
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第93話「地を司りし大地の精霊再起す」

 次なるは3つ目の班。アクシオ、ティアナ、ティーダの3人が向かうは、エルグランド王国の南に位置される大地の神殿。

 かつて、当該の場を訪れた際、神殿内には大地の精霊を守るふたりの若き巫女がいた。彼女たちは双子の姉妹で、付近にあるラパン村に母親であるカルディナが住んでいる。

 清楚で落ち着きのある姉がセリカ。逆にお転婆で歯に衣着せぬ物言いをしてくる妹がカレンという名だ。

 

 目的地へ到達するなり、初めてこの場へ足を踏み入れたティアナとティーダは、その荘厳たる景観に感嘆の息を漏らす。


「ここが大地の神殿……。存在こそ認識はしていたものの、これほどまでに美しいものとは知らなかったわ」

「ん~なんとも優雅だネェ。俺ちゃんスケッチしたくなってきたヨ」


 早速とティーダが絵描きの意欲を沸々とさせているが、アクシオが真面目にもシリアスにつっこんでくる。


「残念だが、絵を描いている時間はないぜティーダ。早いとこプリウスの魔石を戻さねーと」

「そうね。他の班に遅れを取るわけにはいかないわ」

「大丈夫、目にしっかりと焼きつけたから。あとでじっくりと思い出して描かせてもらうヨ」


 3人は早々と神殿内部へ足を踏み入れる。乳白色の大理石で施された内観に目を運んでいると、奥にある祭壇の両端に立つふたりの存在に気づく。事静かに麗々と、双子の巫女が彼らを迎え入れるように待っていた。


「ようこそ、大地の神殿へ。貴方たちが来るのを待っておりましたわ」

「久しぶりね。って言っても、知っているのはアクシオだけで、他のふたりは初めて見る顔だわ」


 名前こそ個々のものであるが、相も変わらずに容姿や声共に見分けがつかぬほどの、見事なまでの一卵性姉妹である。


「よう! 元気だったか。確かに今回ここに来たメンツでお前らを知っているのは俺だけだな。紹介するよ、ふたりはエルグランド城に仕えている魔法騎士のティアナと、彩術士ティーダだ」

「よろしくちゃ~ン」

「よろしくね。ところで、先ほど私たちを待っていたと言っていたけれど、どういう意味かしら?」

「そういやそうだな。まるで俺たちがここに来るのを知っていたような口ぶりじゃないか」

「そうよ。あなたたちが来ることと、その目的も知っているわ。まぁ、全てゲオスノームが教えてくれたんだけどね」

「大地の精霊さんがか?」

「ええ。昨夜、ゲオスノームが私たちに告げてきたのです。プリウスの魔石を再び礫岩の洞窟に納めるため、かつての戦士たちの仲間がここへ訪れるだろう……と」


 大地の精霊ゲオスノーム。この神殿の奥にある礫岩の洞窟に棲む、その名の通り大地の力を司る精霊だ。

 精霊とは言うものの、小さな体に羽の生えた、いわゆる森の妖精のような可愛い気なイメージは皆無で、全長5メートル以上はゆうに超える巨体を持った人型を模しており、身体を鋼鉄の如く強固な岩で覆われている。

 セリカとカレン。この双子の大地の巫女は、精霊と意志の疎通……つまり会話のような行為、いわゆるテレパシーを行うことができる。無論、その他の人間では話を聞き取ることなど叶わぬが、巫女を介すれば擬似的な対話は可能だ。


「な~るほどね。大地のエネルギーである地脈をコントロールしているくらいだしな。この世界で起こっていることは掌握していると言えるか」

「非常に興味深いわ。ねえ、その大地の精霊ゲオスノームに会うことはできるの?」

「うん。神殿の奥から通じる礫岩の洞窟にいるわ。そもそも、プリウスの魔石を元に戻すのだから中に入らなければならないし」

「大地の精霊。これもいい絵の題材になりそうだネェ。俺ちゃんワクワクしてきちゃったヨ」

「おいおい、写生会に来たんじゃねーんだぞ」

「まったく……。貴方って人は本当に絵のことしか頭にないのね」

「いやいやそれはちょっと違うかナ。半分は当たっているけど、もう半分は我が愛しの妹ココアのことを考えているヨ」


 最後にティーダが放ったその一言で、巫女の妹側であるカレンが途端に青ざめた顔色で、まるでゲテモノを見た時のような苦い表情を作りティーダへ視線を刺している。これは明らかに軽蔑の眼差しである。

 この画家が重度のシスコンであるのは、仲間内では既知のものだが、初対面の巫女姉妹にとっては大きな印象を受ける事柄だ。それをあからさまに表に出しているカレンだが、姉のセリカも少なからず何かマイナスのイメージを受け取っているはずであろう。頑張って作り笑いを被ろうとしている姿からそれが十分に伝わってくる。


「妹想いなのは良いけれど、それを過剰に公でアピールし過ぎると変に思われるから気をつけなさいよ」


 ここでは時既に遅しといった点が否めないが、異様な雰囲気となった場を収めようとするティアナの言葉で、話を本題へ引き戻すことができた。


「よし、んじゃ早速この石を戻しに礫岩の洞窟へ行くとするかい?」

「そ、そうですね! 入り口の封印は私たち巫女が解きますので、ついて来てください」


 我に返ったかのように表情を作り直し、セリカは礫岩の洞窟へと繋がる神殿奥へ移動を促す。他のメンバーも彼女の後ろをついて行こうと歩みを進みだしたその時、突如となにか周囲の異変をいち早く察知した者が言葉を発す。


「おやおや? なにやらお客さんが来ているみたいだヨ」

「ティーダ……? お客さんってのは、どういうことだ?」


 それは、変人画家であるティーダだった。彼に問うた野生の勘を持つアクシオはなにも気がついていないようだが、ティーダのずば抜けた洞察力は他に類を見ないほどのものであることは周知の通り。

 緩い表情はそのままだが、神殿の外へ視線を向けた状態。悪ふざけで言ったわけではなさそうだ。

 アクシオ、ティアナが少なからず警戒を払っていると、続いて巫女姉妹大きく反応を見せる。


「こ、これは! ……ゲオスノームです!」

「アタシたちに告げもせずに、自ら礫岩の洞窟から出てきたというの!?」


 ふたりの口ぶりから読み取るに、洞窟に棲む大地の精霊ゲオスノームが外界へ姿を現したようだ。

 現状では姿かたちこそ視認されてないが、精霊と唯一意志の疎通を計ることが可能な巫女が言うのであれば、事実に違いないだろう。


「ん~、大地の精霊? 俺ちゃんが感じたのは、そんな雰囲気のものじゃなかったんだけどナァ」


 斯様な最中、ティーダは右手であごをさすり、目を細めて腑に落ちない表情をしながら首をかしげていた。そして独り言を呟いていると、その言葉に付け加えるかのようにセリカが疑問を吐露する。


「確かになにかおかしいです。通常ゲオスノームが勝手に洞窟の外へ出てくることなど有り得ません」

「もし、こんな事態が起こるとしたら……神殿や巫女のアタシたちに危険が迫っている時よ」


 そしてカレンが発した最後の言葉に一同が驚愕する。

 するとティーダは、自分の予感が的中していると捉え、それを確かめようと足早に神殿の外へと駆け出した。他の面々も彼を追うように順次外へ出て行く。


「おや、これはこれは……」


 外へ身を出すなり、真っ先に視界へ飛び込んできた異様なものに、ティーダは目を丸くして感嘆した。


「こ、これは……!?」

「!!」

「ゲオスノームッ!!」


 そう、皆が目にしたのは、神殿の外で立つ大地の精霊ゲオスノームであった。

 前述にもあった通りだが、全長5メートル以上はある人型の巨体をゆうし、体表のほぼ全体を褐色の岩で覆っている。物音ひとつ立てず悠然と佇むその姿に、一抹の恐怖感すら覚えるが、アクシオたちに敵意を示してはいない。その視線の先と思われる方向は遥か上空の彼方。


「どうやら大地の精霊は、俺ちゃんと同じくお客さんに気づいているみたいだネェ」


 ティーダの言葉の通り、ゲオスノームはなにかを待ち構えるかのように立っている。ここで、彼が感じていた別の気配の正体が明らかになる。

 一面に咲くラベンダー畑のような鮮明な薄紫色の空に、ポツポツと徐々に黒い点が無数に浮かび上がる。それは見るうちに次第に拡大され、何者であるか視認できるほどになった頃合いには、その場にいる全員の顔が戦慄に染められる。


「お、おいあれってまさか……」

「アルファードで見た、あのアークデーモンに似ているわ!」


 ティアナの言うように、上空より迫り来るそれは、かつてに繰り広げられたアルファード城防衛戦にて、城を死守しようとするシェリル達を絶体絶命のピンチに陥れてきた、空中を舞うアークデーモンと相似していた。

 ところが今回のものは従来のそれと似て否なる点が見られた。背面より生える翼が4枚に増えており、体表の肌の色が黒苔のような深緑色に染まっていた。このことから、先のアークデーモンとは異なるタイプのものであると伺える。


「あの時のものより飛行能力に特化したものなのかしら……?」

「さしずめ、スカイデーモンってとこかネェ」

「ふっ。なにを言うのかと思ったら、随分と余裕じゃん。それにしても、あいつらの気配にいち早く気がつくとは、見た目の割りに鋭いな」

「彼はこんな成りや性格をしているけれど、相手の心が読めているのではと思わせるほどに洞察力に優れているわ」


 ティーダの洞察力の高さを示す場面は以前にもあった。それは、フォレスターレイクにて陸徒が彼を詮索していた時だ。いずれにせよ、この男だけに限った話ではないが、人は見かけによらずとは良く言ったものである。


「さて、そろそろお客さんが会場に到着しそうだヨ」


 話題の人物が合図を送り、それに従って各人が武器を構えて迎撃態勢を取る。

 セリカとカレンは当然ながら戦闘へは参加しない。とはいえ、彼女らは大地の巫女。神殿と精霊を守る役目には従事する。そのため、地脈の力を使って神殿にバリアを張り、ゲオスノームから目を離さぬよう戦いの運びを見守る。

 ふたりの巫女は胸元で手を合わせて祈り始める。すると法術のバリアに似た、琥珀色に輝く薄い膜が地面より生え始め、神殿をドーム状に包み込んだ。


「神殿は地脈の力で私たちが守ります!」

「だからアナタたちは思い切り戦いに集中していいわよ!」

「あいよっ! さっさと片付けてくるぜ!」


 彼女たちの言葉に、アクシオは右手で持つ槍を自分の肩にトントンと軽く叩いて返事をする。そして左手の親指を立てて勝利宣言の如くサインを決めた。

 斯様な余裕の態度を表すアクシオに対し、彼を見る巫女の顔は神妙なものであった。


「姉さん、アクシオの持っているあの槍……」

「えぇ。どのようにして手に入れたのかはわからないけど、彼の地に祀られていた槍に間違いないわ」


 その槍は、碧色に輝きを放つ2メートル以上は有する長槍だ。

 アクシオはスカイラインでの戦いで、愛用の槍をバサラに破壊されてしまい、その後は陸徒たちと離れ、自身を鍛えるためと、魔族に打ち勝つ武器を探す旅に出ていた。そして行く末にて手に入れたそれが、彼の新たなる力であると思われる。


「ただ、アクシオさんは悪事を働くような方ではないから、盗み出したりしたわけではなさそう」

「そうだね。いずれにしても、あの槍が人に託されるほどに、この世界は重大な危機に瀕しているということ……」

「あの空を飛び回る禍々しい怪物を見れば、一目瞭然ね」


 大地の巫女の会話のように、アクシオの持つ槍にはなにやら秘密が隠されているようだが、彼女らなりの解釈をし、しばし戦いを見守る。


「さてと、あの敵さんとどう戦おうかね」

「スカイデーモンは見ての通り空中戦を得意とする飛行型。わざわざ地上へ降りてきて戦うことはないでしょうね」


 戦闘開始直前、アクシオ、ティアナ、ティーダの3人は、大空を飛び回る悪魔の大群とどう戦うべきか作戦を練っていた。

 ここで考えられる案としては、竜の力である天翔脚を持つアクシオのジャンプ。彼の力で制空権を取れば、敵と対等にやりあえるであろう。

 だが問題となるのが敵の数だ。目視するだけでも数十体は確認できる。対するアクシオのジャンプ攻撃は基本的に単体技。それが竜の力であっても戦況の運び次第では多勢に無勢となり得る。

 ティアナは敵へ接近することは叶わずとも、アストラルウェポンの力による遠距離攻撃が可能だ。しかしここで懸念されるのは、彼女の攻撃が風属性であること。

 もし先のアルファード城での戦いに現れたアークデーモンと同じく、光と雷属性以外が通用しなければ無力に終わる。


「ん~、ひとついい術があるんだけどナァ……」


 有効な手段を導き出せないまま、アクシオとティアナが頭を悩ませていると、ティーダが独り言のようになにかを呟く。だがその時、付近にいる大地の精霊ゲオスノームが、突如動きを見せる。

 褐色の巨体をゆっくりと動かしながら、まるで巨大ショベルカーの如く両腕を高く振り上げると、それを勢いよく地面へ叩きつけたのだ。

 直後、大地が激しく震動する。これはゲオスノームの先制攻撃かと思いきや、状況が少し異なっていた。それがなんのために起こされた行動なのか、3人の会話から詳細に聞き取ることができた。


「こ、こいつは……?」

「うわぁこりゃすごいネェ。岩山が沢山突き出ているじゃないノ」

「最早この辺りの地形そのものを変えたようなものよ。これが大地の精霊の力だというの……?」

「しっかし、こんだけの岩山があれば俺もジャンプ移動がしやすい。ティアナやティーダだって、こいつを飛び移っていけば奴らに攻撃できる範囲まで近づけるんじゃないのか?」

「そうね。見たところ足場の広い岩山もあるようだし、ティーダもそこからなら彩術も届くのではないかしら?」

「目測で平均100メートル以上はあるネ、この岩山。お客さんたちが飛んでいるのは200メートル上空。うん、十分届くと思うヨ。それに——」

「俺たちに戦いやすい場を提供してくれたってのか。サンキュー大地の精霊さん!!」


 ティーダが発言を続けようとしていたところへ、アクシオがやや興奮気味で声を上げてきた。その感謝の言葉に特に反応を示さなかったゲオスノームだが、巨体から放たれるやや温かみのある空気を感じると、それに応えてくれたのだとアクシオは軽く頷いた。

 大地の精霊ゲオスノームの神秘の力によって、戦闘フィールドが作り出され、ここで戦いの火蓋が切られることとなった。

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