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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
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第92話「炎熱を沈めし三重奏」

「シェリル様、この子をお願いします」


 波美のピンチに、モコが即座に状況を判断し、シェリルの隣にフレイバルディアを預け、武器を構えて単身で溶岩の悪魔の群れへ突っ込んでいく。


「モコ! あのモンスターは火の属性防御術も貫通させるほどの攻撃法を持っています。不用意に近づいては危険ですっ!!」


 シェリルからの強い警告を受けるも、モコはそれを無視して構わず足を止めることなく疾走する。だが彼女自身もそれは十分に理解していた。

 先ほど展開された波美の戦いを見て、相手に不用意に近づくのは得策ではないと判断した桃色の騎士は、自分の優位範囲ギリギリであるミドルレンジ以上の間合いを保ちながら、飛翔刃チャクラムベリーサを巧みに操って牽制しつつ攻撃を仕掛ける。

 波美とフレイバルディアを守りながら、シェリルは固唾を飲んでモコを見守っている。桃色も前半は上手く立ち回っていたのだが、ラーヴァデーモンを殲滅させるほどのダメージを与えられてはいないようだ。

 物理攻撃が効き難い状況ではないようだが、モコは自分の攻撃範囲と、敵の攻撃範囲双方を見極めて維持することに集中。かつ波美とフレイバルディアを守るシェリルの位置に敵を近づけさせぬよう、注意を怠らず戦っているため、攻撃力に分配させるほどの余裕が無かったのであろう。

 よって、いたずらにスタミナだけが消耗していき、次第にモコの動きが鈍くなっていく。その隙を狙いつくかのように、ラヴァデーモンたちが一斉に口を大きく開けて、炎の球を連続で吐き出してきた。


「しまった!!」


 行動を先読みされてしまったモコは、最早回避不可能とも言える広範囲の攻撃を前に成すすべはなかった。

 直撃は必至。万事休すと歯を食い縛って身構える。そこへ——。


魔防壁エスタシルド!」


 数多の炎がモコを焼き尽くそうとした直前、刹那のタイミングで突如とモコの周囲をドーム状のバリアが展開され、攻撃を全て掻き消したのだ。

 言うまでもなく法術による守りの術。だが不可解なことに、これはシェリルが唱えたものではなかった。なぜなら彼女は波美とフレイバルディアを守るため、既にバリアを使用している状態だったからだ。

 つまり別の誰かが法術を唱えたと解釈できるが、モコもその状況には気づいていたようで、術者を発見すべく周囲を見渡している。


「キャハハハハ! 随分と苦戦しているようね」


 すると、どこからともなく耳を突くような大笑いから始まる声が聞こえてきた。幼い少女のような声だが、聞き合わせてみれば先ほどの法術を唱えた声の主と同じようである。

 しかしこの胃からこみあげるほどの不快感を与える笑い方、以前どこかで聞いた覚えはないだろうか。

 声のした方角。そこは戦闘エリアの東側に見える、冷え固められた岩石が積み上げられ、数メートルほどの高台となっている場所。モコ達が視線を移すと、確かにそこには人影が1つ……もとい、2つ、3つ。


「はぁ。こんな暑いところにいると、汗をかいて僕の美しさが半減してしまうじゃないか」

「バカを言うんじゃねぇレグナム。こんな場所だからこそ、闘志の血が煮えたぎって熱くなるってもんよ!」

「相変わらずむさ苦しい男だねぇ、ラグレイト」


 術者の他に現れたふたつの影はどちらも男だ。更にはモコが、男のひとりであるラグレイトという名に強く反応を示す。


「あなたたち、もしかして……?」

「よぉ超能力使いの小娘。この俺様を倒すほどのモンがなんてザマだ」


 ラグレイトの挑発じみた言葉を受け、モコは驚きの表情を元に戻し、すぐさま眉間にシワを寄せる。


「まぁまぁ、お互いに睨みつける相手を間違っているんじゃないかな? ほら、ソニカもさっさと攻撃の準備だよ」

「キャハハハハ! うっさいわね。なにアンタがリーダーぶってんのよ!」

「全くだ。勘違いもほどほどにしろや!」


 斯様にも登場するなり勝手に内輪揉めを勃発させる3人だが、それも即座に終え、早速と標的の視線をラーヴァデーモンの群れへと移し、各々武器を構えて戦闘態勢へと入る。


「モコ、あの方たちは?」

「……魔信教団の幹部です」

「なんですって!? 魔信教団は壊滅したはずではなかったのですか?」

「いえ、教団そのものはもうありません。あそこにいる3人も、かつて私たちが倒した相手です」


 シェリルとモコの会話にあるように、魔信教団は以前、陸徒たちがプレサージュの街にある本部へ潜入したその日、束の間の如く壊滅に陥っている。最も、そうなった直接的な原因は、魔族化した空也がリーダーのデオルを殺害したことにあるが……。

 幹部の3人は、シルビア、モコ、ステラがそれぞれ撃退し、その後の消息は不明だったが、なんのことか突如としてこの場に現れた。

 とはいえ、3人がここにいる真の理由までとはいかずとも、彼らが今なにをしようとしているかは、とりわけモコにはそこはかとなく理解されていたものであろう。

 その理由として、モコの表情には幾ばかりかの安堵の色が伺えたからだ。モコとシェリルは、未だ気絶したままの波美と、怯えるフレイバルディアを守るように固まり、幹部らの様子を眺める。

 

 ラーヴァデーモンたちは既に3人へターゲットを移し、戦闘開始まで秒読み状態だ。


―其は炎熱を介さぬ朱橙の衣―

炎絶膜(ファイアシルド)!」


 開戦の合図とも取れる咄嗟的なソニカの呪文の詠唱だ。

 禁術に手を染めた身ではあるものの、彼女も自称天才法術士。ステラには実力的な差をもって、性格や行動を見破られて敗北したが、法術士としては天才と自負するのもあながち自意識過剰とは思えぬほどの実力の持ち主である。

 シェリルと引けを取らぬ素早い詠唱により、火の属性防御術をレグナムとラグレイトに掛ける。それを確認するなり、レグナムが真っ先に敵陣へ特攻する。


「速い。シルビアと同等レベルのスピード」


 モコが斯様に発言した時には既に、レグナムは群れの中心部、つまり攻撃の間合いに到達していた。

 ここでシルビアを比較対象に挙げたのは、レグナムも同じく双剣使いだったからであろう。薄緑色に輝きを放つ2本の両刃の曲刀を装備し、目にも止まらぬ速度でラーヴァデーモンを攪乱する。

 瞬天剣という神速の剣術がレグナムの売りだが、シルビアとの戦いの敗因は、竜の力を持つ双竜剣使いの彼女と総合的な実力差があったことと、彼本人がナルシストである点が理由の自身への自惚れである。ところが今回は名誉挽回の如く力を見せつけてきた。

 レグナムの俊敏な立ち回りで隊列を乱されたラーヴァデーモンは、半ば混乱状態となっている。その隙を狙い、再び群れの中心部へ移動したレグナムが技を繰り出す。


「瞬天剣絶技、旋風烈斬!!」


 剣を持った状態で両手を広げ、その場で高速回転すると、彼を軸に大きなつむじ風が巻き起こる。その旋風に巻き込まれ、ラヴァデーモンたちは一斉に上空へと吹き飛ばされた。


「次は俺様の番だぜ!」


 どうやらこれは連携攻撃へと繋げる布石のようだ。タイミングを見計らって、今度はラグレイトが行動を起こす。

 むさ苦しいヒゲ面でニヤリとひと笑すると、勢いよくジャンプして巨漢が敵陣付近まで接近する。まるで地震でも起こったかのような地響きと共に着地した瞬間、両腕の筋肉を盛り上げて、装備している鎖に繋がれた手斧を対象目掛けて投げつけた。そこから更に腕に絡めている鎖を力で振動させると、それに反応して斧が不規則な動きを見せてきた。

 先ほどレグナムの技で吹き飛ばされたラヴァデーモンは、ちょうど地面へ落下する前の滞空状態。そこへ、ラグレイトが放った斧が空間を踊りだすと、次々と溶岩の悪魔たちを叩きつけるようにして急降下させる。


「キャハハハハ! 来たわね。それじゃ、串刺しショーの始まりよ!」


 仕上げともなる最後はソニカが担う。今しがた発せられた彼女の言葉の意味を示すものは、ラヴァデーモン達の落下位置にあった。

 地面に無数に立てられたガラスの刃のようなもの。それはまるで剣山の如く一面に広がっていた。その正体は、ソニカの持つワンドから禁術によって作り出されたものであった。

 当然飛行能力などなく、むしろ体表を覆う溶岩によって自重が増加されているラーヴァデーモンは、空中では身動きすらとれず、そのまま刃の餌食となるのは必至。串刺しにされると、体中から血液と溶岩を共に吹き出して、後に黒い煙となって消滅していった。


「強い……。モコ、良くあの方たちに勝てましたね」

「私たちが相手にしたのはそれぞれひとりずつです。おそらく3人が力を合わせてこそ、真に実力が発揮できたのではないでしょうか」


 戦闘が終了するとほぼ同時に、倒れていた波美も気が付いたようで、虚ろな脳を覚ますように頭を左右に振る。


「ねぇ、この人たち……誰?」


 そして開口一番ある方向に指を差し、怪訝な表情をしながら言ってきた。そこには例の3人が彼女たちの元へ歩み寄って来るところであった。


「はい、任務完了だよ」

「主に俺様のおかげだけどな!」

「キャハハハハ。冗談も顔だけにしてくれる?」

「んだとこらぁっ!」

「はいはい、君らの言い争いはもう飽き飽きだよ。その辺にしな」

「キャハハハハ! だからさぁ、アンタはなにリーダーぶって仕切ろうとしてんのよ!」


 またもや内輪揉めを勃発させようとしているトリオを、シェリルたちは半ば冷ややかな苦笑いで眺めていた。

 先の戦闘は見事に息の合った連携で強敵ラヴァデーモンを乾布なきなまでにしたが、斯様にも仲の悪い様子を見せられては、モコの言う彼らの真の実力というのも疑わしくなってくる。シェリルとモコはそう思っていたに違いない。


「で、あなたたちは一体何者なの?」


 無論にも、その連携攻撃を目にしていなかった波美はとりわけ冷静で、先ほど口にした質問を再度言葉にする。そしてすぐさまそれに答えるように、我先にと前へ出てきて自己紹介を始めたのは——。


「え、アタシたちのこと聞いてないの? ったく仕方ないわねぇ、特別に教えてあげるわ。アタシの名はソニカ。元魔信教団幹部の天才法術士よ、良く覚えておきなさいよね! キャハハハハ!」

「そして僕が——」

「で、残りのふたりがその他の仲間って感じよ」


 順序としてレグナムが次に乗り出そうとしたところを遮るようにして、ソニカが話を締める。いやらしそうな表情をしている彼女の様子から察するに、わざとふたりをないがしろにしたようであるが、当然ながら彼らは真向に反論してくるわけで……。


「こらこら、僕たちの紹介なしに終わらせないでくれよ!」

「そうだぞソニカ! てめぇばかり目立って調子に乗りやがるな!」

「なによ、文句あんの? 先の戦いだってアタシが止めを刺したんだから、アタシが一番偉いの!」


 唯我独尊とも言える発言にして無茶苦茶な自論を押しつけてくるソニカ。過去に似た者同士の戦いが繰り広げられたが、既知の如く非常に誰かとキャラクターが一致している。それを口にしたのはシェリルだった。


「な、なんだかステラにとても良く似ている気がしますね」

「そうですね。確か、教団本部での戦いでも、あの子と対峙したはずです」


 斯様な会話をしているところへ、ふと気がついたソニカは、早速とシェリルたちに話を振る。


「そういえば、あの生意気な白い法術士の子はどうしているのかしら?」

「…………」

「…………」


 無論事情を知らぬソニカは、ステラについて問いかけるが、ふたりは自ずと言葉を詰まらせる。

 その様子にソニカも怪訝な顔を浮かべるが、モコは憂いの意のこもった表情で、ソニカたちにステラの身に起きた出来事を話した。

 ソニカはステラの死を耳にした途端、目を大きく見開いたまま、黙ってモコの話を最後まで聞いていた。終えた後もしばらくなにも応答せずに俯いていたが……。


「……バカみたい」


 口を開いたかと思えば、ステラを蔑んだと取れる発言をしてきた。


「なに勝手に死んでんのよ。ホント、バカみたい!」

「ちょっとあなた。何よその言い方——」


 波美はソニカの態度が癇に障ったのか、黒い法術士に言いかかろうとする。

 尚更モコも同じく怒りを露わにするものかと思いきや、逆に波美を制止させるかのように手を差し出してきた。


「……モコ?」


 彼女の行動に瞬刻驚きを示すも、視線の先にいるソニカの様子を改めて見た時、波美もその理由に気がついたようだ。


「……ふざけないでよ、アタシとの再戦もせずに。これじゃアンタの勝ち逃げじゃない」


 ソニカは体を微動させながら、瞳から零れ落ちる涙を必死に隠そうと、首を垂れたまま小さな声で囁いた。斯様な彼女にモコはゆっくりと近づき、そっと肩に手を当てる。


「ソニカ……。かつては敵同士で、しかも1度しか相対していないのに、そんなにステラのことを想ってくれて……ありがとう」

「な、なによ。別にそんなんじゃ……か、勘違いしないでよね!」


 以前、自暴自棄に陥っていた陸徒を諭した時のような、優しく穏やかな声でソニカに礼を示すモコ。対しソニカは、性格から容易に想像できるツンデレ全開の反応を見せてきた。この部分もステラに良く似ている。

 そこへ、ソニカを良く知るレグナムとラグレイトが言葉を寄越してきた。


「ソニカは相変わらず素直じゃないねぇ」

「全くだ。泣きたい時は豪快に泣け。俺様のように!」


 逆にこの男の泣く姿は見たくないと、そこにいる全員が思ったに違いない。


「うっさいわね! それより……」


 むさ苦しい筋肉ダルマが異様な空気で締めくくると、それを期にソニカが話を切り替える。そして自分たちがこの嶺王火山へやってきた理由をシェリルたちへ話した後、一同は火のプリウスの魔石を納めるため、フレイバルディアを引きつれて火山内部へと歩みを進める。

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