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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
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第91話「灼熱の中に潜む恐怖」

 所は変わり、現なるはエリシオン王国領地。

 火山や荒地の広がるこの国で、波美とシェリル、モコの3人は火のプリウスの魔石を納める地、嶺王火山へと足を踏み入れる。


「ようやく着いたわね」

「はい。この地へ訪れるのは、あの日以来ですね……」


 嶺王火山へ2度目の訪地となるふたりは、以前の辛い経験を思い出し、神妙な面持ちで頂より煙熱を焚かせている常怒の活火山を眺める。


「……暑い」


 斯様な中、モコはその場の環境に対する思いを素直に口にする。

 彼女のことであるから無論、表情こそ作られてはいないものの、微かに眉を下げ、額から垂れる汗を拭うモコの様子を見るなり、波美とシェリルもすぐさま気持ちを切り替える。


「ホント暑いわよねぇ。お肌に絶対良くないよ、ここ」

「えぇ。体力的な心配もありますし、早急に終わらせましょう」


 麓からマグマの煮えたぎるエリアへと入り、その先にある洞窟の入り口を発見する。ここはかつて、火の魔石を守る守護獣、フレイバルディアと交戦した場所だ。


「このプリウスの魔石って、どこに戻せばいいのかな。やっぱりあの洞窟の中だったり?」


 赤い輝きを放つ石を右手で遊ばせるように転がしながら、前方の入り口を見て苦い顔を作る波美。


「あそこからフレイバルディアが現れたことを考えますと、そう推測するのが正しいと思われますが、洞窟内へは生身で入るのは不可能です」

「溶岩の熱で焼け死んじゃうわ。ここにいるだけでもう限界なのに……」

「やはりここは、火の属性防御術を使って中に入るしか方法はなさそうですね」


 面々が手をこまねく中、シェリルはそう言いながら法術を唱える準備をしようと動く。するとそこへ、突如とどこからか物音が聞こえ出した。


「ん? 今なんか聞こえたわよね?」

「え、えぇ。確かにわたくしにも聞こえました」


 一同にして耳をすませ、周囲の音の識別に集中していると、再びそれが聞こえてきた。


(……ワンワン)


「えっ、今のって……?」

「犬の鳴き声」


 モコの発言のように、それはまるで犬の鳴き声と思われるものであった。加えてはそれが成犬ではなく、どちらかと言えば仔犬寄りの高いトーンの鳴き声である。


「……あちらの方から聞こえました!」


 シェリルが右手方向を指差し、それに倣って一斉に駆け出す。

 入り組んだ岩石場を潜り、鳴き声の聞こえてきた場所へと辿り着く。そこは、学校のグラウンド程度の広さはある比較的平坦な荒地で、所々に灼熱の真っ赤な池が点在していた。

 3人は、うっかり足を踏み外してマグマの池に落ちないよう、注意しながら辺りを見渡していると、なにやら蠢くものがいくつも群がっているような箇所に目が留まった。


「ねぇ、あれってサラマンダーじゃなかったっけ?」


 いの一番に波美が蠢くものの存在に気がつく。


「確かにあれは、サラマンダーですね」


 強く驚きを示しながらも、シェリルは相手に気づかれない程度に声を発す。

 サラマンダーとは、以前陸徒たちがこの地へ訪れた際に出くわしたモンスターだ。暖色の鱗に覆われ、背びれが炎のようにゆらめいているオオトカゲの種で、目視で数える限りでは10匹程度は確認できた。


「こっちに気づく様子もなく、固まるように群がってなにしてんのかな?」


 そう言いながら、接近して状況を確認しようと波美が動き出す。

 シェリルが警告するも、彼女は構わず歩みを進め、数メートル手前の位置まで近づく。しかし火トカゲたちは一向に波美の存在に反応を見せない。

 その理由を波美が発見する。ゆっくりと上半身を伸ばすように上から視線を下すと、そこには火トカゲではなく別のものが存在していた。


 ワン、ワン! グルルルルル!


 鳴き声はそこから聞こえていた。同時にそれが何物であるかも判明する。大きさは人間の3歳児程度の、一般的に中型と言われるサイズの犬だった。しかし姿形は犬なれど、太陽のような毛の色で、背と尾の部位が炎の如くゆらめいている。言うに及ばず普通の犬ではない。


「ちょっと、あなたたちなにしてんのよ!」


 火トカゲがその犬らしきものを標的にしていたのは明らか。状況から反射的に出てしまった波美の声で、群がってきたサラマンダーたちが彼女らの存在に気づく。


「波美さん、大丈夫ですか?」


 後方からシェリルとモコが合流すると、早速とサラマンダーたちは3人に対する敵意を露わにする。


「このトカゲたち、犬を虐めていたみたいなのよ」

「!!」


 波美の言葉にモコが強く反応を見せ、徐にその犬の姿を確認した途端——。


「ワンちゃんっ!!」


 そう大きく叫ぶと、すかさず腰に装着していた愛用の武器、飛翔刃チャクラムベリーサを両手に取り、火トカゲの群れに単身突っ込んでいく。


「モコ? 急にどうしたのですっ!?」

「犬が危ない目に遭っているのを見るなり、いきなり戦い始めちゃった……」


 シェリルと波美は、突拍子もない桃色の騎士の行動に呆気にとられながら、その様子を傍観していた。なぜふたりが加勢に行かなかったのかというと、時既に戦局が決しようとしていたからである。


「はぁぁぁぁっ!!」


 稀に見る気迫で繰り出すモコ。問答無用と言わんばかりに、掻き立てる火トカゲたちを情け容赦など微塵も見せぬ勢いで斬り伏せる。更にはお得意の超能力を一切使用せず、近接攻撃のみでその場にいたサラマンダー計12匹を瞬く間に殲滅させてしまった。


 戦闘が終了すると、即座にモコは武器をしまい、足早に犬と思われるものの元へ駆け寄った。


「大丈夫?」


 いつもの無感情ではなく、慈愛のある声と表情で優しくそれに近付く。明らかに普段のモコに似つかわしくない程に態度が異なっていた。


 グルルルルル!


 犬と思われるものはまだ怯えが止まないのか、近寄るモコに対して歯を見せながら毛を逆立てて威嚇をしている。だがモコは恐れることなく手をそっと差し伸べる。

 ガブリと案の定それはモコの手に噛みついてきた。しかし彼女は顔ひとつ歪ませず穏やかなまま。


「大丈夫よ。怖くないわ……」


 噛まれた手をそのままの状態でいると、犬と思われるものは次第に気を落ち着かせたのか、逆立てていた毛を倒すと同時に、顎の力を緩ませて口を開けると、今度はモコの手をゆっくりと舐め始めたのだ。

 モコを案じながらも、不用意に近付いたり手を出してはならぬと判断したシェリルと波美が、固唾を飲んで見守っていると、モコが振り向きざまに安全である意味を示して軽く頷いた。


「……モコ、大丈夫ですか?」

「はい。この子も大分落ち着いたようです」

「良かったぁ。それにしてもこの犬みたいな生物はなんなのかしら? どうしてこんなところに……」


 波美は首をかしげ、腕を組みながらしばし考え込んでいると、シェリルが思い出したように発言する。


「もしかしたら、フレイバルディア……ではないでしょうか?」

「フレイバルディア!? この子が? だってあたしたちが戦ったのって、こーんなに大きかったわよ」


 波美は大きな円を描くように、両手を広く仰いでそのサイズを表現する。

 火の魔石を守る守護獣フレイバルディア。かつて対峙し、戦闘を繰り広げた際は、彼女の言葉とジェスチャーのようにこの犬とは比べものにならぬ程の巨体を有していた。しかしそれはあくまで大きさの問題のみであり、その他の特徴とされる炎のような体毛、真紅の瞳などが、火の守護獣のそれと酷似していた。


「この子は恐らく、新しく生まれ変わった幼体のフレイバルディアではないでしょうか」

「あー、確か大地の精霊ゲオスノームがそんなこと言っていたわね。守護獣は、死後間もなくして生まれ変わり、再びその地にいずる……みたいな」

「えぇ。なので、以上の点を考察すれば、この子がフレイバルディアであると見て間違いないでしょう」

「フレイバルディア……」


 モコが優しくその犬の名を呼ぶと、仔もそれに答えるように高い鳴き声を出して彼女の体に寄り添い、可愛げに懐いてきた。

 ここで、モコの体に異常事態が起きる。


「ちょっ、モコ! 鎧に火が付いてるよ!」


 そう言って、波美が慌てて発火したモコの膝部分を叩いて消火させる。だが当の本人はとりわけ動じずに、消火後に立つ煙を手で払う程度であった。


「すみません」

「んもう、いくら可愛いからって不用意に接触したら危険よ。この子の体、燃えてるんだから」

「モコは本当に犬が好きなのね」


 柄にもなくモコは頬を赤く染めて顔を引っ込ませる。シエンタの丘での花の冠の時といい、意外に可愛いものが好きなのだろうか。

 斯様にも笑の生じる和やかな雰囲気が漂っていたところへ、次なるアクシデントが訪れる。

 周囲に点在している露出した溶岩だまりが、温められたトマトスープのようにグツグツと煮えたぎって蠢き始めた。岩流が強まったうねりとは明らかに異なる。

 その中になにかがいる……そう感じさせるものであった。


 ガルルルルルル!


 それにいち早く気がついたのは、フレイバルディアと思しき仔犬。蠢く溶岩を凝視しながら、炎の体毛を逆立ちして威嚇している。


「どうか、したのでしょうか?」

「わからない。けど、なんか嫌な気配を感じるわね」

「はい。多分、あの溶岩の中になにかがいます」


 3人が警戒しながら注意を配り、武器を手に取って身構えていると、突如と溶岩の中から這い出るそれを目撃する。


「「「!!」」」


 その正体を確認した。とりわけシェリルとモコが大きく反応を見せていた。

 モコはかつて、2度に渡りそのモノと対峙している。シェリルは間近で視認していることと、記憶に新しい出来事からである。無論、波美もその存在を知らないわけではなかった。

 溶岩より現れたモノは、体型や大きさ、体のパーツの要所がアークデーモンと酷似していた。しかし従来のそれとは大きく異なる点があった。今回のモノは体表の大部分が溶岩で覆われている。


「高熱の溶岩に適応した、アークデーモン」

「さしずめ、ラーヴァデーモンと言ったところでしょうか」

「うん、確かにそれっぽい名前かもね。でも、結構いっぱいいるわ……」


 溶岩より次々と這い出てきたモノは、目視する限りでは20体は下らない。溶解した灼熱の岩で全身を燃え上がらせながら、通称ラーヴァデーモンの群れは、シェリルたちに対し敵意を剥きだしにしている。


「これは、戦うしかなさそうですね」


 シェリルの言葉に全員が武器を構えて戦闘態勢に入る。


「いずれにしても、ここを切り抜けないとプリウスの魔石を元に戻せないわ」

「ワンちゃんを守るためにも、ここは全力で殲滅します!」


(ワンちゃん……)


 先ほどもモコはそう発言していたが、彼女の従来の性格や態度から目して似つかわしくないその言葉に対し、シェリルと波美は思わず心の中でツッコミをしてしまう。

 山頂の火口から轟く大音が戦闘開始の合図となり、ラヴァデーモン勢も一斉に殺気立ててきた。

 今回のこのパーティーの戦術は、アタッカーの波美が単身で敵陣へ突撃。素早い動きで相手を攪乱させながら攻撃を繰り出す。シェリルは波美を視界から外さぬよう注意を配りつつ、臨機的な法術と弓の切り換えで彼女の支援に努める。そしてモコは安全なポジションにて子供のフレイバルディアを自分の近くへ寄り添わせ、チャクラムベリーサと超能力で波美を援護する。


「はぁぁぁぁぁっ!」


 先駆けて攻撃を仕掛けたのは波美。両手に装備された剛拳ラウムブリットで力強く握り拳を作り、正面に突き出して豪快なパンチを繰り出す。

 さながらカポエラのように見える素早い足捌きのステップで敵の注意乱しながら、目前にいたラーヴァデーモン1体にパンチを見事命中させた。だがその直後、彼女はある物による被害を受けることになる。


「熱っ!」


 慌てて波美がパンチを当てた右腕を手前に引き戻す。

 波美の攻撃を受けたラーヴァデーモンは、ダメージこそ被ってはいるものの、それに怯むことなく体表を覆った溶岩を燃え上がらせ、彼女の腕ごと焼き尽くそうとしてきたのだ。


「危険です! 波美さん、一旦下がってください」


 大声で波美へ注意喚起をすると、シェリルはすぐさま杖を構えて法術を唱えだす。


―其は炎熱を介さぬ朱橙の衣―

炎絶膜(ファイアシルド)!」


 最早超絶技巧と言わざるを得ないほどに早く、流暢なシェリルの呪文の詠唱により、波美が敵との間合いをとった後即座に術が発動されると、彼女の体を橙色の光が包み込んだ。


「ありがとうシェリル!」


 波美は背を向いたまま片手を上げて礼を言い、早速と今一度ラーヴァデーモンへとリベンジを返す。

 先ほどと同様、右手ストレートのパンチを放つと、ラーヴァデーモン側も再び溶岩の熱でカウンターをしてくるが……。


「ふふーん、熱くない熱くない♪」


 ラヴァデーモンの体表から巻き起こる炎熱が襲い掛かるも、波美は一切デーモンを負うことはない。さすがは火の防御術、今回の相手には最も最適且つ効率的な防御法と言えるだろう。

 と、誰もがそう思っていた……。


 突然、溶岩の悪魔たちが四つん這いになった状態で体を小刻みに震わせると、今度は体を覆う真っ赤にとろけたチーズのようなマグマの塊を無数に飛ばしてきた。

 咄嗟にそれを回避しようとするも、波美の体に数個付着してしまう。


「な、なによこれ、気持ち悪い……。でも、今のあたしには火の攻撃なんて通用しないんだから!」


 始めは顔を歪ませながらも、波美は特に慌てることなく、火の属性防御術によって守られた状態に余裕の態度。ドヤ顔で勝ち誇っている。

 しかしそれも束の間。付着した例のあれが突如と強く発光すると、刹那の如く激しい爆発を引き起こした。


「きゃあぁぁぁぁっ!!」


 悲鳴をあげて後方へ吹き飛ぶ波美。防御術は貫通され、更には術そのものも打ち消された。そして彼女は爆発と高熱によって全身に致命的な大火傷を負ってしまった。

 シェリルが急いで波美の元へ駆け寄ると、すぐさま治療術を施す。その迅速な対応のおかげにより、火傷も直ちに治り、波美は一命を取り留めることができた。だが先ほどのダメージを負ったための衝撃で気を失い戦闘不能と陥ってしまった。

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