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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
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第89話「焔なる海の男との再会」

 集合会議が行われた2日後、プリウスの魔石を各々元の場所へと戻すための作戦が決行される運びとなる。

 前日にエルグランドから着任したティーダとココアを合わせ、計12名の精鋭が集結した優れた部隊ができあがった。

 それぞれの目的地へは、3人パーティーを4班に分けて向かわせる。現地ではなにが起こるのか想像に難い。モンスターとの戦闘は無論、魔族の残党と遭遇する可能性も当然無視できない事項だ。そのため、竜の力を持つ4人を各班に1人ずつ配属させる作戦が定石となる。

 以上を考慮した結果にて、次のような班へと編成が決まった。


 水のプリウスの魔石を納める場所、アルファードの東の海岸に位置する流水の洞窟へは、シルビアをリーダーとしたシルフィとプリメーラの3人。

 シルビアの竜心賦によって引き出される双竜剣のパワーを主体に、シルフィの高度な魔術による援護、プリメーラの熟練された法術の支援と攻防のバランスのとれた班となっている。


 火のプリウスの魔石を納める場所、エリシオンにある嶺王火山へは、波美をリーダーとしたシェリル、モコの3人が向かう。

 地懺孔も相まった高い攻撃力を誇る波美の格闘だが、基本的にはショートレンジによるインファイトが主体。従ってモコの遠距離攻撃による援護が大いに力を発揮する。また、シェリルも弓での援護と法術の補助がある。波美の能力を十分に引き出し、攻撃に集中させることを可能とする強力な後方支援を固めた班だ。


 地のプリウスの魔石を納める場所、エルグランドの南端に位置する礫岩の洞窟へは、アクシオをリーダーとしたティアナとティーダの3人。

 アクシオの天翔脚と相性抜群である槍の高い攻撃力に、ティアナの俊敏な剣捌きによるスピードに加え、アストラルウェポンのパワー。そして更には、竜の力を持たずしても単体で魔族を葬るほどに高威力なティーダの彩術を入れ込んだ、攻撃に特化した班だ。

 礫岩の洞窟は大地の精霊ゲオスノームの棲み処であり、外部から直接進入することは不可能。よって戦闘があるとするならば大地の神殿周辺となるはずだ。従ってアクシオも天翔脚を存分に発揮してくれることであろう。


 最後に風のプリウスの魔石を納める場所、エルグランドのほぼ中心に位置する風の谷へは、喬介をリーダーとした陸徒とココアの3人。

 男性陣の中ではトップクラスを誇る喬介の知性、そして闘気を具現化させる竜の力。要所要所にて最適な戦術を考案し、それを基とした陸徒とのダブル剣技、及びココアの華術による補助で戦う攻撃型の班だ。

 ただし、以前陸徒が経験したこともあるように、華術の補助は絶大な力を得られる反面、致命的とも言える副作用が存在する。それをどう扱うべきかは喬介に委ねられる。彼ならば華術の使いどころを上手く見極めてくれるだろう。



 ファーストグループ。シルビア班が向かうは水の力に守られし流水の洞窟。前述したが、アルファード王国領にあるラフェスタの町という大きな港町から、東の海岸沿いの場所にある。

 以前は町の人々の脅威とされていた、伝説の海獣ログノスキュラを退治する目的で訪れたが、運良くもそこが水の魔石のある場所であった。

 海に面した岸壁の洞窟であるため、当然ながら前回と同様に船で向かう必要があるのだが、今回はザルディスとシェリルが船を手配しており、早速とシルビア達は港へと向かう。主に漁船が多く見受けられる中、これ見よがしに一際異様に目立つ物々しい船が一隻。


「お、このでかい船がそうだな? やけに目立つ船だ」

「おまけにご立派な大砲まで装備してありますわ。こんな船、城で所有していたかしら……」

「あらぁ、誰か乗っているみたいよぉ」


 船を確認するなり思い思いの印象を口にする面々。城に仕えているプリメーラが少々怪訝な表情をする中、早速とシルフィが甲板に人がいるところを発見する。恐らくこの船を操舵する人間であると思われる。

 3人が渡り梯子に近付き様子を伺っていると、その人物が手摺に身を乗り出すようにして顔を覗かせてきた。


「よう。貴様らが流水の洞窟に行くっていう、アルファードから来た連中か?」

「なんですの? 初対面なのに横柄な態度ですわね」

「そうよぉ、私たちレディをお出迎えする時は、もっと紳士的にお願いねぇ」


 初頭から彼女たちにマイナスの印象を与えてきたこの人物、歳は30代後半といったところの男で、暖色の髪をライオンの鬣の如く無造作に生やし、多少整えてはいるが顎からも同色の草原を茂らせている。白いシャツの上に紺色のロングコートを羽織り、腰には剣も装備しているのが確認できる。

 仮にこの男が紳士的な態度で迎えていたとしても、その成りから伺える不信感漂う怪しさで、結局は第一印象に関しては順当な評価を得られなかったであろう。


「んなことはどうでもいいさね。アタイたちをちゃんと流水の洞窟に連れてってくれるならね」


 とりわけシルビアにとってはライオン男への印象など些末的であり、今回の任務における重要性は流水の洞窟へ赴き、プリウスの魔石を元に戻すことであった。

 だが暖色のジャングル頭の男は、シルビアの姿を見るなり反応を示してくる。


「貴様、あの双竜剣使いの女か。ふっ、よりによってこの町でな……。こいつぁ数奇な出会いって奴だ」


 皮肉を交えるようにして男は薄く笑みを零す。口振りからしてシルビアとなにか関係があるように思えるが。


「は? アタイはお前のことなんか知らないけど、どこかで会っていたかい?」

「おいこら、この俺様を忘れちまったのか?」


 悪ふざけではなく素のリアクション。男を見ながら疑問符を頭に浮かべて怪訝な表情をするシルビアに、幾ばかりかの苛立ちを覚えたのか、男は眉間を吊り上げて煽るように声のトーンを強めてきた。

 そして左手を仰いでコートを翻すと、徐に腰の辺りから1冊の分厚い本を取り出した。その本は橙色の表紙で飾られた良く見る形状のものであった。


「それは魔術書っ! 貴方、魔術士ですわね!?」

「あらあらぁ、穏やかじゃないわねぇ」


 プリメーラの言葉の通り、本の正体は魔術書。それを確認するなりシルフィと共に警戒心を強め、相手を敵視するかのように身構える。

 斯様な状況の中、シルビアは変わらず冷めた態度を維持し、表情は寧ろ呆れた様子である。


「はぁ……。船乗りがこんな町中でドンパチ始めようってか? ったくなにを考えてんだい、海賊じゃあるまいし……」

「おっと、元海賊の俺様にそれを言っちまうかい」

「はぁ?」

「っぶぁっはっはっはっは! 貴様、面白い女だな!」


 終始自分のことに気づいてもらえないシルビアに対し、初頭は怒りを露わにしていた男だが、唾を飛び散らせるほどに豪快な大笑いで声を上げながら、ニヤリと口角を吊り上げてきた。


「仕方ねぇ教えてやる。俺様の名はセドリック、さっきも言ったように元海賊だが、今は違う」

「セドリック……? あぁ、以前この町を襲いに来たあのヘタレ海賊か。あまりにも雑魚だったからアタイの記憶から消されていたよ」

「くっ……貴様相変わらず口の減らねぇ女だな」


 ようやくシルビアが思い出したことなので説明するとしよう。

 かつて陸徒たちがこのラフェスタの町を訪れていた時、港に船を着け襲って来た海賊……それが、この男セドリック率いる海賊団だ。しかし登場間もなくして、突如現れたシルビアの手によってあっさりと撃退されてしまった、残念この上ない男である。


「セドリック海賊団……。聞いたことはありますわね」

「海賊のくせに炎の術を使う魔術士だったね。でもアタイの敵じゃなかったよ」

「シルビアちゃんは強いものねぇ」

「流石、竜の力を持つ者にして双竜剣の使い手ですわ」

「無敵のシルビアちゃん、いえーい♪」

「よせやい。照れるじゃないか」


 女性陣3名はガールズトークで盛り上がる。


「…………」


 残念な元海賊男は完全に蚊帳の外にされていた。だが比較的気性の荒い質であるこの男が、その様子をいつまでの黙って見ているわけでもなく……。


「おい貴様ら。本来の目的を忘れんじゃねーぞ! んな話はもう終わりだ!」

「……女性同士の会話に横槍を入れるなんて、一体なんなのですの」

「全くだ。せっかくアタイの武勇伝で盛り上がっていたのにさ」

「空気が読めない無神経男は嫌われるわよぉ」


 と、斯様にも即座に反撃を受けてしまう。最早この状況下のヒエラルキーにて自分の地位を上げようなど愚の骨頂である。本人もそれを痛感したようで、半ば諦め気味で付き従うことにした。


 これより、元海賊であるセドリックの船で流水の洞窟へと向かう。以前ラフェスタの町を襲い、シルビアに潰された後に自警団によって身柄を拘束され、牢獄生活を強いられていたかと思いきや、如何様な成り行きかシルビアたちの手助けをしようと言う。

 その背景には、シェリルの計らいが影響されていた。彼らを釈放する代わりに、来るべき時には陸徒たちの手助けをし、また世のため人のために尽力することを約束させたのだ。


「ふ~ん、そうだったのかい。シェリルも中々粋なことをしてくれるねぇ」

「正直始めは不本意だったがな。でも子分たちに苦しい思いをさせるわけにはいかねぇし、海賊稼業もあまり軌道に乗っていなかったしな。どうせなら、心機一転新しい人生を歩んでみるのも悪かねぇなって思ったわけさ」

「本当に心を改めたんですの? 後で裏切ったりしないか心配ですわ」

「見た目もなんだか胡散臭いものねぇ」


 洞窟目指し海を航行中、波に揺られる船の上で事情を語るセドリックに対し、プリメーラとシルフィは、目を細めて怪訝な顔をしながら疑いの念を露わにしている。


「んだとっ! なんで俺様はこうも信用してもらえねぇんだよ、クソッ!」

「まぁそこは仕方ないだろ。でもアタイは信じてやるよ。さっき話していた時のお前の目、あれは嘘をついているようなもんじゃなかった」


 首を垂れて落胆させるセドリックだが、シルビアの言葉を受け2人も即座に疑念を消し去った。

 そして彼女に心打たれたセドリックは、瞳を一瞬潤ませると——。


「シルビア……。っく、おい野郎ども! 流水の洞窟へ行き、無事に戻ってくるまで気ぃ引き締めていくぞーっ!!」


 そしてすぐさま涙を振り払い、船内の子分たちに喝を入れる。

 セドリック団の所有する船は、黒塗りに真紅の帆という以前のような悪々しさはなくなり、白と黄金色に塗装され、彼のライオンヘアーと同色の帆を掲げている。

 これが正統派で洒落たカラーリングであるのかはまた別の話だが、十数名の子分を率いて、向かうは流水の洞窟。


 しばらく海上を航行していると、前方の海に面した岸壁に、洞窟の入口が見えてきた。ここまでは特に問題なく順調に進んでいる。

 しかし非常事態というのはこのような状況に限って起こり得るもの。案の定、シルビアたちの乗る船へと目掛けて、未確認のなにかが接近しようとしていた。


「うわぁぁぁぁぁっ!!」


 突然船尾の方向から、団の子分の叫び声が聞こえてくる。


「なんだ、どうしたっ!?」


 セドリックを先頭にシルビアたちもその方向へと走り出す。

 すると到着した瞬間、子分のひとりが何者かに甲板から海へ引きずり降ろされていく場面を目撃する。


「海に、なにかいる……」

「なんですって!?」


 早速と全員で海を確認すると、その視線の先には海面を漂う黒いなにかが複数存在していた。


「くそっ、全員戦闘配置につけ! 砲撃の準備だ!」


 船長の命令により、子分たちはいそいそと騒ぎ出し、船内が突如と慌しくなる。


「う、うわぁぁぁぁぁぁっ!」


 そこへ更に船尾の方向から再び叫び声が聞こえる。

 シルビアとプリメーラ、シルフィの3人がその場へ駆け付け、辿り着きざま光景を見るなり戦慄する。


「なんですの、これは……」


 なんと、セドリックの子分2人が体を無残に斬り裂かれて絶命していたのだ。


「や、やめろ! やめて、ぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!!」


 先ほど叫び声を上げた子分が残っていたが、断末魔と共に腹からあるものが突き出され、鮮血が飛び散る。

 死亡した子分が倒れると、その先には両腕を血で赤く染めた奇怪な生物が立っていた。


「こ、こいつ……」

「あれに、似ているわねぇ」


 シルフィの言うあれとは、魔信教団本部及び先のアルファード城防衛戦にて対峙した、アークデーモンを指していた。だが今回はあの時見たそれとは様々な点が相違している。

 基本的な体型、頭部や顔はほぼ同じなれど、長く伸びた両手部分には尺分はある太く鋭い爪が生えており、肘の辺りから脇までヒレのようなものが付いていた。また、足や背中にも同様のものが見受けられる。


「今までのとちょっと違うけど、アークデーモンの類だろうね。こんな海洋生物は見たことない」

「アルファード城に攻め込んできたあの時の……。でも今回のものは見たところ、水中適応型のようですわね。海洋生物のようにヒレが付いていますわ」

「名前は、マリンデーモンでいいかしらぁ」

「名前なんかどうでもいい! さっさとこいつらを片付けるよ!!」


 シルビアは、敵を呼称付けしたシルフィへ声を強くして冷たく流す。その裏にある彼女の想いは、脳天気じみたシルフィへ怒りをぶつけたものではなく、セドリックの子分を惨殺した敵に対する殺意であった。

 冒頭ではセドリックをあしらっていたが、今のシルビアには仲間を殺された時のような感情が込みあがっていた。

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