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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
88/111

第88話「ひとつの救世の兆し」

「レクサス、どうしてここに!?」


 陸徒は咄嗟に在り来たりな疑問を投げかけるも、先ほどから勘付いていた自身としては、大体の予想はついていた。

 所持者の念が込められているとされる魔術書アリスト。謂わばレクサスの精神の欠片ともされるそれは、なんらかの条件によって本人の念が姿を現しても可笑しい話ではないということだ。

 クレスタのように魂霊石ソリオを介して、魂を呼び戻したといった類の現象ではないだろうが、もとより人の夢に侵入してくるような存在だ、彼にはそれを可能とする特殊な力があるのだろう。なによりもこのミドラディアスを守った救世主なのだから。


「ぶっ、言葉と表情が一致していないよ、陸徒」


 前述の内容を考察していた陸徒は、それが顔に出てしまっていたためか、彼の様子を見るなりレクサスは口の中の空気を漏らして大きく笑う。


「うるせぇよ。ってか、魔術書アリストにあったお前の精神の欠片がその姿を作り出した。それで当たっているだろ?」

「ご名答。さすがだね」


 陸徒のやや冷めたツッコミから、レクサス出現のカラクリを言い当てたことに、当人は終始笑顔を決めながら肯定の意を示す。ただその笑顔も、変人彩術使いのティーダのように裏のある気味が悪い作り笑いではなく、見る者を不快にさせない子供のような無邪気な笑顔であった。


「でもよ、レクサスの精神の欠片が魔術書アリストに込められていたなら、空也がこれを持っている間ずっと何事も起きなかったのはなぜなんだ?」


 陸徒の率直な疑問に対し、レクサスはこう回答する。

 原因は空也の内に秘めていた魔族の性質。これによって、レクサスの力が押さえつけられてしまっていた。そのため、これまでの間なにもすることができなかった。そこで、空也が覚醒して魔族化し、その力が表に解放されたことでレクサスも身動きが取れるようになる。

 だが魔術書が空也の手にある状態がまだ枷となっていたため、レプリカを陸徒に渡して、本物との交換に成功したということだ。

 つまりは、空也が魔族化しなければ、レクサス側から陸徒たちとコンタクトを取ることはできない状況であり、言い換えれば、レクサスが陸徒たちへ真実を告げるには、空也を魔族化させる手段を取らざるを得なかったということになる。


「改めて思うけど、ホントに空也くんとそっくりよねぇ」

「マジだな。まさに瓜二つって感じだ」


 発言した波美やアクシオを始め、空也を知る者が興味関心を見せる中、陸徒はもうひとりの弟の顔を見るなり昨日の悲劇を思い出してしまい、眉間にシワを寄せる。しかしすぐさま気を取り直して早速と話の本題へと振る。


「で、レクサスよ。俺たちがこれからどうすれば良いのか話してくれるんだろ?」

「うん、教えてあげるよ。えっと……単刀直入に言うとね、これからみんなに頼みたいことがあるんだ」


 表情を変えぬまま、レクサスはこの場にいる面々の顔を流し目で見渡してから、再びゆっくりと口を開いた。


「……プリウスの魔石」


 そして聞き慣れた固有名詞を言い零してきた。

 プリウスの魔石は、当初陸徒たちが元の世界へ帰るための手段として、ミドラディアス各地を旅して探し求めていた物だ。

 最終的に知ったその正体は、魔族を復活させるための道具であった。なぜ今更にそのことを口にするのだと、一連の事件を知る者は皆、困惑と疑問の想いを露わにしている。

 ところが若干1名、プリウスの魔石という言葉にとりわけ大きく反応を示す人物がいた。


「!!」

「お兄様……? どうかなさいましたか?」


 その人物とはザルディスであった。彼の隣にいたシェリルがいち早くと様子に気づく。

 陸徒はレクサスがなにか理由を知っているのではないかと本人へ視線を移すが、相変わらずの笑みを保たせたまま、ザルディスの方を見て無言で佇んでいる。どうやら彼自身から話す機会を待っている様子だ。

 それに応えるようにしばし間を置いてから、ザルディスが神妙な面持ちで口を開いてきた。


「……私がスカイラインから生きて帰って来られた理由……それは、プリウスの魔石のおかげだ」


 言葉を耳にした直後、主にあの事件を目の当たりにしていた面々が驚愕する。

 それは、スカイライン最上階で行われた魔族復活の儀式。強行するバサラの猛威を阻止できず、陸徒たちは全滅の危機に陥った。そこへ、ザルディスがひとりその場に残り、彼らを逃して自ら犠牲となった事件。

 ザルディスは、その後起きた出来事と、自身がなぜ生還できたのか理由を話してきた。


 陸徒たちがスカイラインを降りた後、バサラは傍観に徹したまま、ザルディスと魔族ディアブロとの1対1の戦いが始まる。

 他の魔族とは一線を凌駕するとされているディアブロであったが、最強の騎士であるザルディスも決死の覚悟で挑み、結果相打ちに終わった。

 ディアブロを消滅させ、己の消えゆく命の灯を揺らせながらも、ザルディスは微かに息が残っていた。しかし自分でスカイラインを降りる力までは残っておらず、じきに息絶えるのは必至であった。

 それが目に見えていたバサラは、ディアブロを失った憎しみはあったものの、王子に止めを刺さずに無言でその場を去っていったそうだ。

 そのまま自身が力尽きていくとわかっていたサルディスは、ただ息絶えるまでの時が流れるのを待つだけであった。するとしばらくして、ある異変が彼の前で起こる。

 なんと、復活したゲートクリスタルに取り込まれたプリウスの魔石が、再びクリスタルの中から生み出されるようにして姿を現したのだ。

 ザルディスは、もう半分も開くことさえできぬ瞼を必死で起こし、その様子を眺めていると、突如と魔石が彼の周囲を漂い始め、次第にその体を光で包み込んだ。

 数秒後、まるで法術でもかけられたかのように、ザルディスの傷と体力をみるみるうちに回復させていったという。


「完全な回復と帰還にかなりの日数を要したが、無事にスカイラインを降りることができた私は、その足でアルファード城へ戻ったという流れだ」

「そのようなことがあったのですか」

「やはりな」

「喬介さん、なにを納得したんだ?」

「俺がスカイラインへ戻った時、この蛇剣ヴァイパーブレイドがなぜか入口の扉の前に突き立ててあった。最初に脱出した陸徒たちがそうしたのではないと波美やアクシオから聞いていたから、恐らくこの男がなんらかの理由で生き残っていたのではないかと推察していた」

「なるほどな。ってか、波美とアクシオは喬介さんと再会した時、あの剣を持っていたことに疑問を感じなかったのか?」

「ん~特に」


 喬介の話を聞きすぐさま納得するも、陸徒は早速とふたりへツッコミを寄越すが、この反応である。戦闘におけるセンスや洞察力は抜きんでていても、知能がクラゲに匹敵するふたりでは難しい願いであろう。


「それじゃ、続きは僕が説明するよ」


 頃合いを見て、レクサスへと代わられ話の続きが始まる。

 彼曰く、プリウスの魔石は単なる魔族復活のための道具ではない。魔石の存在する真の意味、それは……。


「つまり、世界のパワーバランスを維持するためのものなんだ。このミドラディアスはもちろん、陸徒たちの世界も含めてね」


 元々、プリウスの魔石は光と闇の二極性を持っていた。それを知っていたレクサスは、2000年前の戦争後、闇の性質……つまり魔族復活の要因の部分を防ぐ為、各魔石の属性と共鳴する地に安置し、それぞれの守り手となる守護獣を配置した。その直後レクサスは、先の戦争にてラディアセイバーの力を解放させた代償として、肉体を消滅させてこの世界から姿を消してしまった。

 そして2000年が経過された今、魔族復活の期を境に、プリウスの魔石へ邪悪な気が流れ込み始める。それがなんらかの原因で予測を上回る量の邪悪な気が押し寄せ、守護獣たちはそれらに支配されてしまった。


「その、なんらかの原因というのは?」

「これは僕も予想だにしていなかったことだけど、単純な魔族復活という話だけでは済まされない、もっとこう、とてつもなく恐ろしい存在……今言えるのは、多分それが原因なのかなと」

「たぶん、バサラが原因だと言えるな」

「あぁ。あいつしか考えられねぇ」


 一堂に不穏な空気が漂う。バサラを直接知らない人間も、人伝で聞いた情報やこれまでの話しの流れから、それがどれほどに恐れ慄く存在であるか肌で感じ取っており、揃えて表情を曇らせる。

 一方で、バサラの名を耳にした途端、僅かながらではあるが、レクサスの表情に一瞬の翳りが見受けられた。しかしこの場にいる全員が、それに気づくことはなかった。


「そもそも、あの男は何者なのかしら。普通の魔族とは違うんでしょ? 見た目もどちらかと言えば人間に近いし……」

「確かあいつ自身も、自分のことを魔族とも言えるが半分はそうではないと意味不明な答えをほざいていたな」


 唐突に波美がバサラに関する率直な疑問を投げかけてきた。これまでに2度に渡り、陸徒たちはあの男と対峙してきたが、その正体は未だ謎のままである。

 返答した陸徒も当人から聞いた内容を思い返しながら、波美と同様の考えを持つ。


「そういえば、空也もあのバサラって男と似たような外見だったよね」

「銀髪に蒼白色の肌、血のように赤い瞳……」


 今度はシルビアとモコが発言する。ステラを除き、ふたりはこの場にいる者の中で唯一変貌した空也の姿を知っているからだ。


「バサラも空也と同じ魔族の性質を持った、元々人間だったって言いたいのか? じゃあ一体誰だっていうんだよ」


 彼女らの言葉から導き出される考えを口にする陸徒だが、やや否定の籠ったような疑いの色を顔に出している。というのも、推測の域を出ない仮説の中の仮説であるからだろう。


「解決できない議論はそこまでだ。今すべき肝心なことを忘れるな。……で、そこの男が持っているプリウスの魔石をどうにかしなければならないのだろう?」


 暫時、沈黙が流れるも、喬介が低い声で度を強めながら話を切り出し、本題へと戻す。そして唐突にザルディスへ鋭い眼光を流すように移す。


「ちょっとお兄ちゃん、さっきから”そこの男”って……。あの人はザルディス王子なんだから失礼な態度取っちゃダメよ」


 やや焦り気味の表情で喬介を注意する波美。ところが本人はおろか、そのことを気に留める者は他におらず、既にザルディスは周囲に注目されている状態であった。


「お、驚いた。良く私がプリウスの魔石を持っているとわかったな」


 当の本人は特に戸惑う様子は見せてはいないものの、喬介からズバリと言い当てられたことには強い驚きを示している。

 差し置き陸徒については、喬介の分析力の高さや洞察力の鋭さは昔から知っている身であるからか、思いのほか驚く様子は見せていない。妹の波美に至っては他の事に着目し、喬介へツッコミをしていた程だ。兄を最も良く知る立場であるからこそだ。


「ザルディス王子、あんたがプリウスの魔石を持っているってのは本当か?」

「あぁ。あの時、私の命を救ったこの石に不思議な力を感じ、スカイラインから持ち帰って来たのだ」


 陸徒からの問いにザルディスは返答しながら、懐から4つの石を手に取りだした。

 それぞれが赤、青、緑、黄色に輝きを放ち、見る者を魅了させるその石は、知る者にとっては紛れもなく見覚えのあるプリウスの魔石であった。


「ホントにプリウスの魔石だぁ。何かちょっと懐かしいわね」

「まぁどちらかと言うと嫌な思い出の方が多いけどな……」


 ザルディスの持つプリウスの魔石を目にし、波美がやや懐かしむ様子で声を出すと、アクシオがそこはかとなく淡々とした表情で言葉を返す。それを耳にした面々が、かつての苦しい体験を思い出し、俯き加減で一時顔を沈ませる。


「あ、いや……そういう意味で言ったんじゃないんだ。悪かったよ」


 すぐさまアクシオは半ば慌てるように弁解する。その後、波美が場の雰囲気を取り直しつつ、レクサスへ話を振り改めて本題へ戻すと、彼はプリウスの魔石の処理について言及してきた。


「それぞれを元の場所に戻してほしいんだ。ただ順番にではなく、4つを同じタイミングで戻さなくてはならない。でないと石の力の均衡が崩れる可能性があるからね」

「なるほどな。それが始めに言っていた、俺たちに頼みたいことってやつだな? となると、メンバーを4つの班に分ける必要があるな」


 聞いた内容を踏まえ、陸徒が話の道筋を繋ぎ合わせて今後の行動指針を示すと、突然伝心石から呼び鈴が鳴りだした。発声元はシェリルの所有しているものであった。


「あら、伝心石が……。はい、こちらアルファード城シェリルでございます」

「シェリル王女、私よ、エルグランドのアーシェラ」


 何と通話元はアーシェラ女王であった。魔族襲撃後の状況確認と、ある連絡のために寄越してきたようだ。

 

 受話者であるシェリルがそのままこれまでの経緯と結果を報告する。


「そうか。とにかく、アルファードと皆が無事で良かった。実は予測していた通りエルグランドにも魔族が攻め込んできたが、思いのほか少ない戦力だったこともあり、我が魔法騎士隊と魔術士隊、それとティーダの彩術とココアの華術のおかげで被害を軽微に抑え、撃退することに成功した」

「そうだったのですか。やはり戦力の大半はアルファードへ向けられていたようですね」

「アーシェラ、要件はそれで終わりか? 俺たちはこれからやらねばならないことがあるんだ」

「その声は、まさか喬介!? 無事だったのか!?」

「ふんっ。だったらなんだと言うのだ」


 シェリルとアーシェラ女王の通話中、伝心石へ声が届くようにトーンを少し強めて発言する喬介。当然、同時に彼の生還を確認することができた女王は、その声から安堵の様子が伺えた。

 常々は毅然とした態度のアーシェラ女王も、行動を共にしてきた件もあり、ずっと喬介を案じていたようだ。それに対し喬介は相も変わらずの淡泊さである。


 女王は話を本題へ戻すと、プリウスの魔石を元の場所へ戻す作戦について言及してきた。

 アルファード城防衛戦に参戦していたシルフィとティアナは、引き続きこちら側へ助力させるとのこと。更には彩術使いの画家ティーダと、華術使いのメイド服娘ココアも、エルグランドから陸徒たちの元へ合流させるそうだ。


「へぇ、あのふたりが」

「明朝にはそちらに到着するはずだ」

「前もって向かわせていたと、言うことですか?」

「ミドラディアスの危機を救う最終決戦は近い。私はそう判断したから、可能な限りの精鋭を集めた方が良いであろうと思ってね」


 さすがと言うべきか、アーシェラ女王の物事の先を見る力と判断力は非常に卓越している。



 かくして、陸徒たちが次にすべき課題が決まった。

 自分の役目を終えたクレスタは、シェリルと伝心石の向こう側にいるアーシェラ女王へ最後の別れを告げ、陸徒たちに未来の希望を託し、彼のいる地へと帰っていった。

 レクサスは気がつけばいつの間にか一同の前から姿を消していた。魔術書アリストは床に置かれたまま残っていたが、声を掛けて再度呼び出そうと試みるも、特になにも反応が起きることはなかった。

 だがクレスタの場合と異なり、魂霊石ソリオの力で姿を現しているわけではない。従ってまたいつか現れるのではないか……。確信はないにしろ、この時の陸徒はそう思いながら、魔術書アリストを拾い上げ、自身のソードホルダーへと再びしまい込んだ。

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