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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
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第85話「死闘の果てにあるもの」

 アクシオ、波美と、かつての仲間が陸徒たちの元へ駆けつけ、生存が絶望的とまでされていた喬介もが生還し、彼らの圧倒的な力をもって魔族の軍隊を駆逐することに成功した。

 そして仕舞いには、スカイラインでの戦いにて、魔族ディアブロと刺し違えて命を落としたと聞いていたザルディス王子までもが、アルファードへ突如現れ、シェリルのピンチを救い魔族側の戦力を完全に滅することができた。恐らくこれで、敵の侵攻は消え去ったと見て良いだろう。

 残るは陸徒とステラが向かう先にいる人物だたひとり。弟の空也である。


「あそこだ。もうすぐ辿り着くぞ!」

「ハァハァ……ちょっと陸徒! アンタ足早いんだってば!」


 陸徒よりも後方の、やや離れた位置からついて来るのはステラ。元々インテリで体力にはさほど自信のない彼女にとって、全力で走りっぱなしという運動は酷であった。激しく息を切らし、随分と疲れた表情をしている。


「あーもう無理! 走るの止めっ!」


―其は、天空を舞いし自由の翼―

浮遊天駆フライセウシル!」


 なにを言ったのかと思えば咄嗟に空中浮遊の術を唱えると、例の如く杖に跨った。そして風を切りながら超高速で、魔女っ娘法術士が陸徒の後方から勢い良く迫り来る。


「陸徒、アタシの杖に掴まりなさい!」


 陸徒は振り向きざまに怪訝な顔を見せるも、半ば言われるまま抜き去り際に、タイミング良くステラの跨る杖の端部を掴んだ途端、更に急加速して前進する。


「んごあぁぁぁぁぁぁっ!!」


 間の抜けた叫び声を出しながら、陸徒は片手だけで掴まったまま、体を浮かせて引っ張られた状態となる。腕が千切れそうなほどの速度で低空を滑走し、ふたりは瞬く間と目的地へと到着した。


「……っく、ステラてめぇ俺を殺す気かっ!!」

「なによ、アタシに構わず突っ走ってさ。この方が早く着いたじゃない!」

「ったくよぉ。まぁいい、それより——」


 さながら夫婦漫才のようなお決まりのやり取りも束の間。陸徒はすぐさま言葉を止め、前方数メートル先にいる人物に目を配る。

 そこにいたのは無論空也。ふたりのダイナミックな登場に始めは微かな驚きを見せるも、即座に無表情に近い冷徹さを帯びた顔へ変えると、開口一番に陸徒たちへ薄情な言葉を吐き捨てる。


「遊びの邪魔しないでよ」

「遊びですって!? 大量の魔族を引き連れて、沢山の人を殺しておいて……それが遊びだって言うの? アンタ、人の命をなんだと思っているの。大体ね、アンタは陸徒が——」

「ステラ、もういい。ちょっと黙っててくれ」


 不届き至極とも言える空也の台詞にステラは強い怒りを覚え、片っ端から言葉を並べて言いかかるが、陸徒がそれを制止させ、空也の前へ一歩踏み寄る。

 当然ながらそれでは収まりきらないステラは、不満気な顔で陸徒へ文句を言おうとするが、彼の表情を見るなり神妙な面持ちへと変えて口を塞ぐ。

 それは陸徒がいつにも増して冷静かつ精悍な顔つきをしていたからであろう。本来であれば、兄として人の命を弄んだ弟を激しく叱咤するものと思っていたはずが、意外にも至極落ち着いた態度でいたため、ステラ側もその気持ちを察したようである。

 兄弟はお互いに黙ったまま睨み合い、しばしの静寂の時が流れる。そしてやがて、陸徒からゆっくりと剣を構えると、それに合わせるようにして空也も魔術書を開いた。


「ア、アンタたち……。そう、そういうことね。わかったわ、存分に兄弟喧嘩しなさい」


 場の空気を読んだステラは、喧嘩たたかいの邪魔にならない程度に距離を取って、ふたりの様子…取り分けては陸徒の動きに注視する。


(なにがあっても、陸徒はアタシが守る)


 ステラは心の中でひとつの決意を噛みしめると、聖杖パステリアウィッシュを構えて臨戦で法術を唱えられる体勢を取る。

 先攻してきたのは空也の方であった。開いた魔術書を宙に浮かせ、右手を前に翳すと、突然そこから強力な水鉄砲を放ってきた。

 陸徒は咄嗟に右サイドへ跳躍してそれを避ける。と同時に今の術が水属性の初級術であることを確認した。魔族と同様、空也は無詠唱の魔術を使用してきたのだ。

 やはりあいつは魔族なのか……と、今までは頭の中では理解しつつも、それをどこかで否定していた陸徒にとって、この事象は混乱せざるを得なかったであろう。しかし今は斯様なことを逐一考えている暇はない。確たる方法があるわけではないが、この喧嘩たたかいで空也を救ってみせる。そう強く思いを込め、陸徒は反撃へと動き出す。

 先ほどの回避行動から連動して、弧を描くように駆け出して空也の元へ突進する。到着後、すぐさま剣を大きく振りかぶって斬撃のフォームをする。だが実際に斬り付けたりなどしない。これは陸徒の作戦。ギリギリのところでわざと外し、代わりに蹴りをお見舞いするつもりだ。

 作戦通り、空也も初手の斬撃を回避しようと身構えていたが、フェイントが発生すると一瞬の隙を見せる。タイミングを見計らい陸徒は空也の左腹部に蹴りを浴びせる……はずだった。寸でのところで空也は右手で蹴りを防いだのだ。そのまま反対の左手から黒いなにかを生み出しながら、それを横に薙いでくる。


「なにっ!?」


 陸徒は自慢の反応速度で素早く体勢を戻し、剣を前に出して黒いなにかを受け弾く。キーンと金属音のような高い音を立て、その反動で陸徒はやや後方へと押し出された。


「な、なんだったんだ今の……」


 そう言いながら改めて空也の左手にあるモノを確認する。

 影のように全てが漆黒に包まれた。長さ2メートルに近い得物。それは剣の形状を模しており、良く見るとラディアセイバーと同様の大型の両手剣。むしろ形状はラディアセイバーそのものであった。

 これはかつて魔信教団本部にて、魔族へと変貌を遂げてしまった空也が、教団のリーダーデオルの体を貫かせた時に生み出した黒い杭。恐らくそれと同様のものであると伺える。


「空也、お前俺と剣で勝負しようってのか?」


 陸徒の問いに対し、空也は特に返答を寄越すことなく、その場で剣を構えたまま。そして軽く不敵な笑みを見せた瞬間、漆黒の剣を両手で握り突進してきた。


「!?」


 咄嗟に陸徒は剣を前に突き出して攻撃を受け止める。だが防ぐことはできたものの、あまりの一瞬の出来事に声を出す余裕もなかった。予想を遥かに上回る空也の動きの素早さに、陸徒はただ防御行動しか判断できなかった。


「ふふっ」


 空也は幼い子供のような、じゃれ合いを楽しんでいる時に似た笑い声を漏らすと、再び陸徒へ向かい突進してくる。


「くっ……!」


 間髪入れぬ連続攻撃に、陸徒は歯を食い縛って顔を歪ませながら、一手一手をなんとか受け弾いている。加えて空也の動きに驚きを隠せずにいた。

 それは、彼の剣の扱いが達人レベルであったからだ。元々は魔術士、ましてや運動などまともにできた試しがない弟が、なぜこうも軽々と剣を扱うのだ? 陸徒の頭は疑問で埋め尽くされ、半ば混乱しかけていたが、すぐさまある事象に気づく。


「なるほど、そういうことか。確かお前はレクサスの生まれ変わり。2000年前、このラディアセイバーを使いこなしていたあいつの力。それだけの剣技が備わっていてもおかしくないか」

「…………」


 陸徒は頭の中に過ぎった内容を口に出して微笑するが、対する空也は特に表情を変えずなにも言葉を返すことはなかった。


「こいつは、本気でいかねぇとヤバいな」


 これほどまでの剣の手練れと戦うのは、喬介と打ち合ったあの時以来だろう。気を抜けばこちらがやられる。そんな死と隣り合わせの状況にも拘らず、先ほどとは打って変わって陸徒はなぜか妙に落ち着いていた。


 その後もしばしお互いに剣を交える状態が続く。剣の技量はほぼ互角といったところであるが、これまでに実戦を多く積んできた陸徒の方が僅かばかりであるが上回っていた。

 しかし空也側は剣の他に魔術も持ち合わせている。加えては魔族の力によって無詠唱で術を使うことが可能だ。至近距離で放たれてしまっては直撃を受ける可能性が非常に高い。陸徒はそれを警戒しながらであるからか、思うように実力を発揮できずにいた。


「全く……説得をする余裕なんてなさそうじゃない。それに、陸徒はなにかを気にしながら戦っているようだけど……。恐らく空也がいつ無詠唱魔術を使ってくるか警戒しているのね」

 

 ステラ側も陸徒と同じ考えを読み取っていたようだ。だがそこへ、まさにふたりが危惧していた事態が起こってしまう。

 陸徒が剣を縦に振り下ろしてきたところをタイミング良く横薙ぎで弾かれ、反動で陸徒は上半身を仰け反らせて体勢を崩してしまう。その隙をついて、空也は掌から炎を生み出して即座に放ってきた。


「し、しまっ——」


 この間合いでは回避不可能。少しでもダメージを軽減させようと防御することさえ間に合わない。だが次の瞬間、突如と陸徒と空也の間に薄らと光り輝く四方2メートル程の板が出現し、咄嗟に炎を掻き消したのだ。この板は確か、封壁バリアプレートである。


「ステラ!?」

「言ったでしょ。アンタが戦い易いようにしっかりサポートするって」


 無論、封壁バリアプレートを使用できて、兄弟以外にこの場にいるのはステラに他ならない。彼女はいつものドヤ顔を見せながら杖を構え、法術の支援態勢をアピールしている。


「でもさ、これじゃ兄弟喧嘩どころかただの殺し合いよ。一体どうするつもりなの?」

「心配すんな。なんとかする」


 案ずるステラに対し、陸徒は曖昧な返事を投げるが、彼には確たる策があった。

 それは、以前陸徒が見た夢の中で、レクサスから託された魔術書アリストのレプリカ。現在は陸徒が腰に装着しているソードホルダーのベルト部分に括り付けて持っている状態だ。

 夢の中でレクサスは、この本がいつか役に立つ時が来ると言っていた。陸徒はその好機が正に今であると踏んでいた。本人としてはただの直感のようではあるが……。

 陸徒は呼吸を整えて剣を構え直すと、口を僅かな隙間だけ開けて小さく息を吐く。直後、地を蹴って空也目掛けて特攻を仕掛けた。

 スピードタイプのシルビアやティアナには遠く及ばずとも、本気を出した陸徒の突進は、重量級の大剣を持っているとは思わせぬほどの速さを見せる。

 意表を突かれたのかどうかはわからぬが、空也側も驚きの反応をし、半ば焦るように黒い剣で防御の構えをする。刹那、物凄い金属音を立てて両社がぶつかり合った。

 強烈な衝撃によって、空也は体をよろつかせる。その隙を狙い、ここぞとばかりに陸徒は連続攻撃を繰り出した。とは言っても、空也自身を攻撃するのではなく、彼の所持する黒い大剣を集中的に叩いた。

 あまりの激しい力技の猛攻によって、空也は両手で持っていた剣を片手に持ち替える。そして空いた手を陸徒へ向け、魔術を使おうとしてきた。


「させるかっ!!」


 この機を狙っていた陸徒は、タイミング良く空也の肩の上で宙を浮いていた魔術書にハイキックを決めた。

 予想外の出来事に空也は目を丸くして驚愕する。蹴り飛ばされた魔術書は主の元を離れ、綺麗に弧を描きながら数メートル先へ飛んで行った。

 空也は慌てて魔術書を取りに向かおうとするが、突然彼の行く手を阻むようにして光の壁が上空から降り注ぐ。ステラの封壁バリアプレートだ。

 始めに陸徒を守った1枚と同時に複数枚作り出していたのだ。その後の陸徒との剣の打ち合いに気を向けていた空也は、他の封壁バリアプレートが上空を漂っている状況に気づかず、行動を封じられたということだ。封壁バリアプレート計5枚が四方と天井を作る立方体となって空也を閉じ込めた。

 その間陸徒はゆっくりと歩き、地面に置かれた魔術書アリストを拾い上げる。


「良く見るとホントに2冊とも寸分違わぬほど同じ。このレプリカも良くできているなぁ」


 半ば感心しながら、陸徒は魔術書アリストとそのレプリカを交互に眺めてから、箱に閉じ込められた空也へ視線を移す。


「その魔術書を返せっ!!」


 すると空也は鬼のような形相で顔を歪ませ、陸徒を殺気の籠った目で睨んだ。怒号を吐く空也からは異様な気迫が感じられる。


「それは僕の大切な宝だ。だから返せっ!」

「空也。大切な宝って、お前——」

「いいから返せぇぇぇぇっ!!」


 陸徒の言葉を抑えて空也は大声で叫び散らすと、途端に彼を囲んでいた封壁バリアプレートがピキピキとガラスのような不快な音を立てて亀裂を走らせては、瞬間それを激しく粉砕させてしまう。


「えっ、ウソ……封壁バリアプレートが壊されたですって!?」


 封壁バリアプレートは熟練された法術士のみが使用できる上級術であり、それを応用させたオリジナルの技法を持つステラにとっては十八番である。術の完成度と質は本人が良く知っており、自信もあった。そのためか、壊されたという信じ難い状況に驚愕と戦慄を隠せない。

 ステラの自信作を破壊した空也は、禍々しい黒いオーラを纏って剣を構え直した後、想像を絶する速度で陸徒へ突進してきた。


「は、速ぇっ!!」


 慌てながらも、間一髪のところで陸徒は攻撃を受け止める。そのまま鍔迫り合いをしながら、空也は凶気と殺気に満ちた目で陸徒を睨みつける。

 陸徒は右手に魔術書を持っているためか、片手で押さえつけている状態。このままでは押し込まれてしまう。だがタイミングを見て半ば強引に片足を動かして空也の腹を蹴り、間合いを取り直す。


「なんだよ、魔術書を取られたくらいでそんなに怒って。大事なもんならしっかり持ってろ!」


 そう言いながら陸徒は、すぐさま手に持っている魔術書アリストを空也へ投げて返す。それを受け取った空也は一抹の安堵の顔を見せるが、再び殺気立たせてくると、陸徒に鋭い眼光を突き付けながら口を開けてきた。


「これは僕の大切な、大切な——」

「大切な、なんだ? クレスタの爺さんから貰ったものだろ?」

「!!」


 即座に返してきた陸徒の言葉に空也は大きく反応を見せ、幾ばかりか殺気を減少させてくる。やはりと陸徒はなにかに気づき、構わず説得を試みた。


「いい加減目を覚ませよ! クレスタの爺さんはお前に立派な魔術士になってほしいために、その魔術書を渡してきたんだろ?」

「…………」

「だったら、んなことしてねぇでさっさと自分を取り戻してこっちへ帰ってこい!!」

「ぐっ……あ、ぐあっ……」


 陸徒の説得の言葉が効いているのか、空也は苦しそうに手で頭を押さえてもがき始める。


「空也っ! そうだ頑張れ! 魔族のお前を振り払うんだ!」

「……るさい。うるさい、うるさい、うるさい。うるさぁぁぁぁいっ!!」


 空也は自分自身との戦いに苦しんでいるのか、たまらずそれを振り払うかのように頭を激しく左右に動かしながら叫び声を上げると、彼の体から身の毛もよだつほどの赤黒い血の塊にも似た破片をちらつかせてきた。

 光景こそ異なるものの、この心臓を握られるような恐怖と不快感は、陸徒の中である記憶を呼び覚ませるものであった。それは、空也が魔族化の道を歩み始めた最初の時。


「はぁぁぁっ!!」


 すると突然、空也が咆哮を放つと同時に、赤黒い破片を吹き飛ばしてきた。それは驚異的な速さで陸徒に接近し、彼の体を次々と直撃させていく。


「うわぁぁぁっ!」


 陸徒は剣を盾代わりに防御しているが、破片は剣に当たることなく、物理的な障害を無視して陸徒の体に当たっている。まるで破片が彼の体のみへダメージを与えるのを組み込まれたシステムのように。


―其は傷を癒すそよ風の調べ―

治癒(リカバリィ)!」


 すぐさまステラが法術で陸徒の受けたダメージを回復させていくが、破片は止めどなく放出され、その都度にステラが回復させるというジリ貧の状態がしばらく続いた。

 しかし傷は回復させられても、陸徒がダメージを受けた際の痛みによる精神的ショックは蓄積されていき、彼の意識が徐々に薄れてくる。その頃合を見計らってか、空也が再び黒い剣を生み出し、両手に持って前へ突き出すように突進してきたのだ。

 陸徒は迎撃しようとするも、意識が薄れていたことに加え、魔族との戦いから始まって縦続いた連戦により、彼は体力の限界。最早回避すらできぬほどに力を失っていた。

 このまま空也の攻撃を受けるしかない。万事休すと思った。だがその時——。


「!!」


 諦めかけていた時、陸徒の前に突如影が現れた。と同時になにかが突き刺さる鈍い嫌な音が辺りに響く。

 陸徒は一瞬状況を認識できず言葉を出せなんだが、その影の正体に気づくなり、とてつもない恐怖と戦慄のような感情が体中を駆け巡った。


「そ、そんな……ウソだ……ろ?」


 影の正体は、ステラであった。

 彼女は陸徒に迫り来る空也の黒い剣を生身で受け止め、庇ったのだ。


「ステラッ!!」

「……りく、と」


 ステラは足の力が抜けて後退りし、体から剣を引き抜かれると同時に、陸徒の腕にもたれかかるように倒れた。彼女は腹部から血を流し、純白のローブが忽ちに真っ赤に染まっていく。


「バカ……でしょ。そんな状態になって、まで、空也を……」

「ステラ、どうして……」

「……まぁ、アンタが無事、で……良かっ、たよ……」


 ステラは虚ろな瞳で口をガタガタと震わせながら、細い声で軽く微笑む。


「バカ、笑ってねぇでさっさと自分の法術で回復しろよ!」

「そうしたい、のは……山々なんだ、けど……もう、法力が、残って、ないんだ」


 ステラも同様、度重なる戦闘と、先ほどの陸徒の傷を癒し続けるために法術を使い過ぎたせいか、既に術を唱えられるほどの法力が残っていなかった。

 故に陸徒を守る術を使用できず、自らの身を挺して攻撃を受け止めたのだ。


「ダメだ! ステラ、こんなとこで死ぬなっ!」

「だ、れ……が、死ぬ……ですって? ア、タシは……天才、法術……士、なの、よ」


 意識を呼び止めようと陸徒は必死で叫び、ステラへ声を掛けるが、彼女はほとんど力の抜けた表情で、最後に再び微かな笑みを見せる。そして——。


「りく、と。なにが、あっても……自分、を……信じ、な……さい。きっと、大丈夫……だか、ら……」


 そう言い残すと、大地に吹く優しい風が導く静寂と共に、ゆっくりと目を閉じて……ステラは息を引き取った。

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