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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
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第84話「アルファード城防衛戦 後編」

「えっ、りっくんそれってどういうこと?」


 陸徒が放った名前を聞き、波美がすぐさま反応してくる。


「どうして空也くんがここで一緒に戦っていないのかなって、疑問に思っていたけど、あの子になにがあったの?」


 当然であるが、これまでの陸徒たちの経緯を知らない波美は、率直な疑問を持ちかけてきた。アクシオも同様で、喬介の方は当該がバサラではないとわかっていながらも、それが空也であるとは予想だにしていなかったようだ。目を強く見開いて驚きの表情を隠せていない。


「ちと話すと長くなるから、悪いが後で説明させてくれ。とりあえずここで言えることは……今のあいつは俺たちの敵だ」

「なんだって!?」

「敵って、ウソでしょ?」

「…………」

「けどよ、あいつは俺が必ず連れ戻してやる!!」


 今この場で3人へ事情を説明することを保留とし、まずはこの状況をどう処理するか考える方が先決と陸徒は判断した。

 するとそこへ、空中にて戦況の監視をしていたシェリルとプリメーラが、陸徒たちの集まる元へと降りてきた。その他にも続いてステラ、モコ、シルフィとスタメン勢が順じて合流する。どうやら負傷したリーフとルークスの治療は無事完了したようだ。


「陸徒、一体これはどういった状況なの?」

「色々と説明しなきゃなんねぇのはわかっているが、とりあえず今向こうにいる奴をなんとかしねぇと」

「あそこにいるのって……空也ね?」


 アクシオたちの件も含め、現状をステラやシェリル側へ説明する動きも今は後回しだ。

 斯様な陸徒の心境や、その場の雰囲気から察知したのか、ステラは陸徒の示す方向にいる者が空也であることを言い当てる。


「あぁ、恐らくな。まだ遠くにいる状態のようだが、いつなにかを仕掛けてきてもおかしくない」


 全員が迎撃の姿勢を見せる中、陸徒が言葉を発した矢先、早速と相手側に変化が見え始める。

 魔族の群れを駆逐したことで穏やかな空へと戻ったのも束の間。次第に上空が黒々とした曇天へと変化していく。突然の事態に皆が驚きと戸惑いを見せるも、それを冷静に分析する者たちがいた。


「あの雲、あそこにいる空也であろう人物が作り出したものだとしたら、中からなにかを出すつもりね」

「魔族が全滅した今、その代わりとなるものを呼び出そうとしているようだな」


 始めに口を開いたのはステラであった。続けてそれを補足するように喬介が述べると、彼女はなにか脅威を感じ取った時に似た表情を作り、喬介の顔をジッと見つめる。


(なにこの男……。アタシと同じ考察、分析をしているの? しかも原因から導き出せる推測を明確にしている……)


 早速とライバル心を抱いたステラは、喬介の知性の高さをいち早く見抜いたようだ。ふたりは性格こそ異なるものの、頭脳派という括りでは同じ系統の人種だ。であるからこその、彼女の反応なのだろう。

 そして、後にふたりの推測は正しいものとなる……。上空に立ち込める暗闇の雲から、次々となにかが飛び出してきたのだ。


「え、ちょっとあれ! 黒い雲からなにか出てきたわよっ!」

「まさかまた魔族が……!?」

「いや、あれは魔族とはちょっと違う気がする……」


 波美やシェリルを始め、当初は誰もが魔族であると思ったようだが、陸徒の発言の通り、出現したのは魔族に似て否なるものであった。

 更には、陸徒と共通するあるメンバーのみが、その正体を推測させる流れに至る。


「どこかで見たような姿かと思えば、あれってアークデーモンよね」

「確かに、それだっ!」

「ただ、今回のは羽が生えて飛んでいる」


 ステラの発言に陸徒が思い出したように言葉を発する。それに付け加えるようにしてモコが口を開けた。

 共通するメンバーとは、魔信教団本部へ乗り込んだ面々。そこで、バサラが生み出した魔族の姿に似た奇怪なモンスター、アークデーモンと戦闘を繰り広げた。姿形こそ酷似しているが、今回と異なる点は翼の有無。


「魔族と同様、飛行能力がある……!? まさかあれをアルファード城へ侵攻させる気じゃ……」

「そ、そんなっ!!」

「くそっ、せっかくアタイたちが頑張って魔族を全滅させたっていうのに」

「こうなったら俺が直接あいつを黙らせに行くっ!」


 そう言うなり、陸徒は剣を背中に担いで前方へと走り出す。


「ちょっとりっくん! もしかして空也くんのところへ行く気?」

「あぁ。ここは俺に任せろ。お前たちはあの空飛ぶ奴らを頼む!」


 陸徒は走りながら言い残すと、単身空也のいる場所へと向かう。しかしそこへもうひとり、彼の後を付いて来る人物がいた。


「……ステラ? お前なに付いて来てんだよ!」


 その人物とはステラであった。陸徒は状況に戸惑いつつも、特に足を止めることなく、走りながら会話を続ける。


「アンタ、空也のところへ行ってどうするつもりなの?」

「どうって……なんとかするんだよ!」

「まぁ、どうせ説得して、ダメだったら戦って目を覚まさせる。そんな方法なんでしょ?」

「なんだよ悪いか?」

「別に。この場合はそれくらいしか考えつかないでしょうね。って言うか、戦ってダメージを負ったら回復はどうするの?」

「……う~ん」

「はぁ……まぁいいわ。この天才法術士ステラ様が付いて行ってあげるんだから、安心して思い切り戦いなさい」

「ステラ、ありがとう。でもなにが起こるかわからない。気をつけろよ」

「アンタもね!」


 かくして、急遽ステラが陸徒の戦いのサポート役として加わることとなった。半ば勢いで単身乗り出したが、本心としては少し安堵しているところであろう。無論陸徒としても考えなしに空也と1対1で挑もうとしたわけでもない。

 だが今の空也は恐ろしい力を持っている。場合によっては陸徒が空也に殺されてしまう可能性もゼロではない。現に、魔信教団のリーダーであったデオルを躊躇なく殺害しているのだから。そこへステラが補助役となってくれることは非常に安心できる状況であろう。

 彼女の性格もあり、これまで頻繁に陸徒と衝突してきたが、今となっては彼にとっても心から信頼に置ける仲間だ。本当に天才であると認めており、人間としても、言い方を変えれば可愛い妹のような存在であるに違いない。

 ステラ自身の陸徒に対する感情は、恋心という種に該当するのであろうが、当然鈍感男の陸徒には気づかれていない。


 一方残ったメンバーは、アルファード城目掛けて大空より迫り来る群れの迎撃準備をしていた。

 敵は、かつてのアークデーモンと思しきものであるが、大きな翼を羽ばたかせ、空を舞い飛んでいる状況が、それとは異なる個体であると示している。そして更に、既知のアークデーモンの性質と一致しない点がもうひとつあった。それを証明させたのは、次のシルフィの行動によるものであった。


「いっぱいいても、空を飛んでいても同じよぉ。私がまたさようならをしてあげるわぁ」


 言い捨てながら、シルフィは魔術書を開いて呪文の詠唱を始める。初戦の魔族軍と相当数であるならば、魔術による広範囲攻撃が最も効果的と言えるだろう。

 思い返せば以前も、シルフィの強力な魔術の前にひれ伏し、一瞬にして蒸発してしまった。大空を舞っていようとも、これならば片をつけることは容易い。


―全てを透通す粛清の光よ

 汝聖なる審判の果てに浄化せよ―

輝光閃シャイニングレイ!」


 魔術を発動させた。予想通り魔信教団で使用したあの術である。光属性が弱点であるアークデーモンにとっては効果抜群だ。当時の絶大な威力を目の当たりにした面々も、そこから推測できる勝利への確信をしていた。

 シルフィの唱えた術によって、無数の輝く球体が出現すると、眩い閃光を放って次々と敵目掛けて光線が発射される。その光に体を貫かれ、標的が見る見る内に消滅していく……はずだった。

 そこでは、皆が想像していたものとは全く異なる光景が繰り広げられていた。まるでバリアでも張られているかのように、対象に光線が衝突した瞬間、それが放射状に拡散して消えてしまったのだ。


「あららぁ、術が効かなかったわよぉ」


 周囲の面々は勿論、術を唱えたシルフィ本人も、口調はさて置き相当に驚きを見せている。


「ならば、私の超能力で奴らを地上へ引き摺り下ろすっ!」


 今度は傷を癒し戦いへと再参したリーフが、例の力を使って重力操作による地上への墜落を目論む。

 お決まりで視覚的な変化は確認できないが、今回は状況が変わっていた。リーフが両手を伸ばしながら汗を垂らして顔を強張らせているものの、敵側にはなんら効果が伺えない。


「バ、バカな……。私の超能力が効かないだとっ!?」

「俺の闘気はどうだろうか」


 リーフの超能力が効かず、続いて喬介が動き出し、先ほど魔族を捕縛した技の、蛇と象ったオーラを出現させて空を舞うものの動きを封じようとするが……。

 蛇はすぐさま敵の手前に到達した途端、蒸発するように掻き消えてしまった。


「これは……。恐らく魔術や超能力のような、物理的でない間接の攻撃が一切効かないようですわね」


 傍観して状況を分析していたプリメーラが、相手の特性を推察してきた。

 反則的とも思える敵の力に指を咥えそうになるも、ここでもインテリのメンバーが相手の弱点を導き出そうと頭を回転させる。


「けど、外観からでもわかるように、根本的な性質は魔族と相似しているはずですわ」

「ということであるならば、光か雷の属性攻撃が最も効果的だわ。でも魔術が効かないとなると……」

「その類ではない方法、つまりは武器を使用した物理的な力で、光か雷の属性攻撃をする必要があるな」


 インテリのメンバーとは、法術学校の校長であるプリメーラと、騎士にして科学者でもあるティアナ。そしてマッドサイエンティスト喬介であった。さすがとも言うべき3人の分析力は、これまでの流れと既存の知識を材料に、早くも敵の弱点と有効となる戦法を言い当てる。

 ここまでは良かったのだが……。


「とは言っても魔術以外の属性攻撃ったって、アタイの双竜剣は炎と氷だよ」

「あたしも、地の属性攻撃ならできるけどダメね。最も、空を飛ぶ相手には通用しないんだけど……」

「私の聖隼剣セイラウィンダムも、属性攻撃は可能だけれど……残念ながら風」

「俺のヴァイパーブレイドは闇……か」


 現状属性攻撃を可能とする者がそれぞれに発言をするが、奇しくも全てが相手の弱点に該当しない属性であった。しかし魔術を除き、今この状況で光や雷の属性による広範囲の物理攻撃をする方法などあるのだろうか……。

 一同が模索している中、空を舞うアークデーモン擬きの動きに変化が見られた。翼の羽ばたきを強め、更に速度を上げて進行し始めたのだ。


「あいつら急にスピードを上げてきたよ!」

「攻撃手段もまだ見つけられていないのに、このままじゃすぐにアルファード城へ侵攻されちまうぞ!」

「……あれは、シェリル王女?」


 皆が慌てふためく中、ティアナが上空を指して言葉を発する。

 なんとそこには、いつの間にかシェリルが再び空中へと戻り、城を背にして迫り来る敵の群れに対し弓を構えていた。


「シェリル様無茶ですっ! あの大群相手にどうやって……」

「アルファードへは1体たりとも侵入させませんっ!! わたくしが食い止めてみせます!!」


 そう言ってシェリルは弓を引き絞り、標的へ向けて何本も矢を放った。瞬時に複数本放たれた光の矢は、敵の前衛数体に直撃するも、決してその進攻が衰える事はなかった。

 慌ててアクシオとプリメーラがシェリルを助けようと飛び立つが、敵の進攻速度が異様に速い。シェリルは歯を食いしばり額から汗を垂らしながらも、目前まで迫り来る敵の群れに臆することなく再度弓を構えるが、その表情には死を覚悟するものが伺えた。


「くそっ間に合わねぇっ!」

「シェリル様っ!」


 アクシオとプリメーラの救援も虚しく、全員が諦めかけたその時——。


「シェリル、下がるんだっ!」


 突然シェリルの背後から声が聞こえてきた。彼女は咄嗟の状況に戸惑いの意を見せながらも、一先ずそれに従うようにして下降する。そして——。


「ジャッジメントブリッツ!!」


 刹那なにかの技の名と共に、城壁の位置から無数の巨大な雷が、空を舞うものの群れ目掛けて放出される。その雷は瞬く間に敵全てを飲み込んだ。

 あまりの凄まじい轟音と強烈な光に、一同にして目を細めて耳を塞ぐ。


「な、なんだあれ……?」

「物凄い雷がアルファード城から放たれているの?」


 空也の元へ向かっている陸徒とステラも、駆けながら後方を振り向いてその光景に驚きを見せている。

 

 暫時続いた激しい雷も徐々に収まり、辺りに一時の静寂が訪れる。しかしそれは、敵が全て消え去ったことを意味していた。

 地上にてその光景を見ていた一同は、周囲をそっと見回しながら残存の敵がいないかどうか確認をする。そして上空にひとり佇むシェリルの方へ再び視線を移した。


「シェリルーッ!! 大丈夫!?」


 口元に手を当てて大きな声でシェリルの安否を確かめる波美。彼女の声量からして、恐らくシェリルの耳には届いているのだろうが、本人は特に返事を寄越さず、ただある場所をジッと見つめていた。


「!? そこにおられるのは……もしかして……?」


 ある場所とはシェリルの背後。つまり城の外壁だ。そこにいる人物の存在に気がついたシェリルは、突然目を丸くして驚愕しながらも、歓喜の感情が溢れ出して大粒の涙を流し始める。

 その人物は、銀色の甲冑を身に纏い、ブロンドの長髪を靡かせながら電気を帯びた剣を鞘に納めると、口元で優しく微笑みながらシェリルへ声を掛けてきた。


「シェリル、無事だったか?」

「ザルディスお兄様っ!!」


 彼の名を呼び、シェリルは大急ぎでその場所に飛び寄った。

 ザルディスは、アルファード王宮騎士団長にして次期王位継承者。シェリルの実兄である彼は、かつてのスカイラインでの事件で、バサラと魔族ディアブロ相手にたったひとりで立ち向かい、王を含む陸徒たちを全滅の危機から救った。

 その後、バサラより得た情報によれば、ディアブロと刺し違えたとあったが、それを覆し無事に生き残った。そして帰還し、今度はシェリルとアルファードのピンチを救ったというのだ。


「良くぞ最後までアルファードを守り抜こうとした」

「いえ、わたくし自身にできたことなんて……」


 謙遜し、ザルディスの手を取りながらただ涙を零すばかりのシェリル。

 ともあれ、これにてアルファード城の防衛を賭けた大規模な戦いに幕が下りようとしていた。

 

 残る戦いはあと……。

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