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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
82/111

第82話「アルファード城防衛戦 前編」

 戦地はアルファード城南門前。

 陸徒たちの視界に映るは夥しい数の魔族の軍隊であった。


「な、なんだいあの数は……」

「マジかよ……」

「あれが、魔族」


 前衛に立つ3人が、今まさに見せつけられている敵の数を前に戦慄と驚愕の意を見せている。

 薄紫色のミドラディアスの空を、黒く埋め尽くしてしまいそうなほどの群れが押し寄せてきた。戦力差は歴然だ。魔族とは一体どれほどの戦力を有しているのだろうか。

 味方の人間は、魔族を初めて見る者がほとんど。そのためか、相手から放たれる強烈な気迫によって、戦う前から絶望して膝を着く者もいた。


「怯んではなりませんっ! 例え相手が魔族であっても、この国を、世界を守るべくわたくしたちは勝たなければなりません。いえ、必ず勝ちます! ですから皆さん、今こそ恐れを蹴散らし、共に戦いましょう!!」


 咄嗟にシェリルが、臆する者たちに精一杯の檄を飛ばす。毅然とした彼女は、さながらこの国を統べる者の姿であった。

 その様子に心動かされ、徐々に皆立ち上がると、次第には雄叫びを上げて士気を高め始めたのだ。


「シェリル、あの言葉だけでみんなを絶望から立ち上がらせた……」

「こりゃ~アタイたちも遅れを取るわけにはいかないね」

「シェリル王女、噂通りの御方。ならば私もそれに応えなければならないわね」


 陸徒たちは改めて気を引き締め、目前に迫る魔族の群れを睨んで武器を構えなおす。


「リーフ隊長、今です!」

「了解です!」


 シェリルの合図にリーフが反応し、早速と両手を広げて上空へ翳す。

 その手からなにかが出ている等、視覚的な確認はできずとも、それを向けられている魔族側を見れば、なにが起きているのか一目瞭然であった。

 空中を飛行する魔族の群れが、突然その体を不安定にさせる。まるでエンジントラブルを起こしたヘリのように、先ほどまで翼を羽ばたかせていた体をよろつかせて、徐々に陸に引き寄せられるように降り立った。


「す、凄え……。ホントに魔族が飛べなくなっている」


 異様な光景ではあるが、目の前にいる黒い物体が次々と地上へ落下していく様は非常に滑稽である。

 ほぼ全ての魔族が墜落し、地上部隊が届く距離まで来たところを見計らい、陸徒は剣の柄を両手で強く握りしめた。


「行くぞおぉぉぉぉっ!!」


 そして大きな掛け声で突撃の合図を出すと、順次に周りの騎士や兵士たちも呼応して動き出す。

 前衛陣がそれぞれに魔族と対峙。そこへ早速とひとりの騎士が魔族1体に攻撃を仕掛ける。素早い剣捌きで相手の胴体を斬り裂いた……と思いきや、その個体は刹那に霧となって突如とその場から姿を消す。直後、騎士へ目掛け真横から強烈な一撃が放たれた。

 だが騎士は咄嗟に盾で防御したことで、数メートル先へ突き飛ばされるのみ。大きなダメージを受けずに済んだ。この攻撃は、騎士が斬り伏せたはずの魔族の実体からの攻撃によるもの。あの時、シエンタの丘にて陸徒が体験したものと同様。


「あれは……幻術っ!」


 陸徒はその実体験を思い出しながら、騎士と魔族の攻防を観して声に出す。


「ルークスッ!!」


 同じくその状況を外壁から眺めていたモコが、前衛の後方に立つルークスの名を強く呼んだ。


「あぁ、わかってる!」


 彼女の声に反応し、ルークスは胸元にて両手を不規則に動かし、印のようなものを結ぶ。そして目を閉じて集中し始めると、直後魔族側に異変が起きる。

 魔族は一抹の頭痛のようなものを覚えた仕草を見せると、その隙を突いて、先ほど攻撃を受けた騎士が立ち上がり、仕返しと言わんばかりに同じ個体に今一度剣を振り下ろす。

 対する魔族は、一瞬なにかに驚きを見せるが、構わず騎士は渾身の一撃を繰り出した。それは勢い良く魔族の体へ直撃すると同時に大きな傷を負わせる。

 さすがに物理攻撃が効き難いだけあって、騎士の攻撃では致命傷を与えるまでには至らなんだが、これならば魔族へダメージを負わせられる。


「よっしゃ! ルークスのおかげで魔族の幻術が封じられたようだ。あいつ、幻術が通じなくて驚いてやがったぞ!」

「この機を逃すんじゃないよ! 相手の戦力を一気に潰す!」

「もちろんだ。他のみんなも続けーっ!!」


 陸徒やシルビアの掛け声に再度味方勢が意気揚々と雄叫びを上げて士気を頂点へ高める。そして前衛が突撃を開始させると同時に、後衛の魔術士たちも続々と魔術を唱え、一斉攻撃が始まった。


「うおりゃあぁぁぁぁっ!!」


 気合の籠った叫びで敵陣へと突っ込み、蒼氷色の大刃をありったけのリーチで振り回す。神剣ラディアセイバーの強力な大回転斬りによって、その範囲内にいた魔族を片っ端から斬り伏せる。


「解っ!!」


 シルビアも早速と竜の力、竜心賦を使い、双竜剣を解放してパワー全開で挑む。紅と蒼の剣がそれぞれに光を纏い、攻撃の準備は万端だ。


「双竜剣六の撃、紅覇蒼襲旋!!」


 陸徒と同じく範囲攻撃による強襲を計る。この技は、魔信教団本部にてアークデーモン相手に使用した、炎と氷のエネルギーを同時に巻き起こす大旋風斬りだ。

 その攻撃に巻き込まれた魔族は、灼熱の業火によって燃え尽き、又は極寒の冷気を浴びて凍結して絶命する。視認する限りでは30体程度は倒したであろう。お目に掛かるのは2度目とはいえ、なんという凄まじい破壊力だ。


「はぁぁぁぁっ!!」


 続いて今度はティアナの攻撃だ。アストラルウェポンである翠色の細剣を構え、魔族目掛けて地面を蹴った刹那、彼女の姿が視界から消える。そして一番手前にいた魔族の体に突如と無数の風穴が開けられ、黒い煙を吹き出しながら消滅する。

 とてつもない速度での攻撃だ。あの一瞬だけで数十回に渡る連続突きを繰り出した。だが今のはほんの準備運動。彼女の攻撃はまだ続く。

 その場で足に力を入れて踏ん張り、姿勢制御を取る。そして前方に見える魔族の群れへ的を定めると、肘を張るようにして武器の持ち手を引き絞る。すると刀身から緑色に輝く風が生み出された。


「くらいなさい、ピアシングシューターッ!!」


 技の発生と共に細剣を標的目掛けて突き出した瞬間、刀身に纏っていた緑の風が槍のような鋭い形状を模り、敵へ襲い掛かる。その射線上にいた魔族は次々と吹き飛ばされると同時に木っ端微塵となって絶命する。


「す、すげぇ……」

「あいつ、めちゃくちゃ強いじゃないか!」


 その光景を目の当たりにした陸徒とシルビアが、目と口を大きく開いて驚愕する。

 魔法攻撃を兼ね備えたアストラルウェポンの力もさることながら、それを自在に使いこなし、強力な技を繰り出すティアナの実力は相当なものだ。彼女ならば、魔族を相手にしても陸徒やシルビアと肩を並べて戦ってくれるはずだ。


 手ごたえを充分に感じ、留まることのない猛攻撃を繰り出すアルファード勢に押され、始めは圧倒的な数を見せつけていた魔族軍も、互いに拮抗するレベルにまで持ち込むことができた。

 ところが魔族側もただやられっぱなしではなかった。幻術と飛行能力が封じられているものの、もう一つの特殊能力を使い、反撃の勢いを見せ始めてくる。

 その能力とは、無詠唱による魔術攻撃であった。幻術が使用できぬのであれば、魔術も同様にと踏んでいたが、それとは無関係なのだろうか。

 反撃の状況は次第に明確化され、序盤は好戦を繰り広げていたアルファード勢も、徐々に勢いを落としていた。


「くっ、ちょっとまずいわね。こっちが押されてきている。やはり無詠唱の魔術も厄介だわ。それに——」

「皆さんが疲れを見せ始めている……」


 全体の支援役に回っているステラは、自身の観察力や分析力の高さもあってか、現場の状況を良く把握していた。同様に司令塔であるシェリルも、戦況の著しい変化を目の当たりにしている。

 それもあり、ふたりは同じタイミングで同じことを危惧していた。

 そこへ、劣勢になりつつあるアルファード軍に対し、更に追い打ちを掛けるかの如く、魔族軍は一斉にとある術を放ってくる。


「!! 魔族軍から巨大な魔力反応!? 法術士隊っ!!」


 その反応をいち早く察知したプリメーラが、即座に声を張り上げて現場の法術士たちへ指示を送る。

 直後、上空より降り注ぐ鉄の隕石群を発見。これはかつて、空也がステラに対して使ってきたあの古代魔術だ。当時のものより個体のサイズはやや小ぶりであるが、対比してその数が尋常ではなかった。

 先駆けたプリメーラの指示によって、法術士隊は隕石群が落下するよりも早くバリアを完成させていた。

 アルファードが誇る法術士隊のバリアであったが、隕石群がバリアと接触した瞬間、耳を突くほどの凄まじい衝撃音を上げると、そこから10秒と経たぬうちに次々と粉砕されてしまったのだ。


「う、うそ……そんなっ!!」


 天才法術士ステラは、その類稀な法力のおかげか、自身が作り出したバリアは破壊されずに済んだようだが、周囲の凄惨な状況に戦慄する。

 被害を受けたのは門前に配置されていた部隊である騎士や兵士とその補助、支援に回っていた法術士隊。陸徒とシルビア、ティアナは持ち前の素早さで降り注ぐ隕石を回避。辛うじて被害を免れた。


「リーフ隊長っ!! ルークスッ!!」


 外壁からモコが叫ぶ。その声に反応し、付近にいたステラがふたりの様子を確認する。急いで駆け寄った先には、負傷して倒れるリーフとルークスの姿があった。


「法術士、ステラ……か」

「くそっ……やられた」


 ふたりは隕石が落下した衝撃に吹き飛ばされ、全身に大ダメージを負っていた。早速とステラは法術で治療に取り掛かる。

 幸いにも致命傷には至らなかったため、なんとか助けられそうであるが、ふたりが倒れてしまったことで、魔族側が飛行と幻術の封印から解き放たれてしまった。

 解放された魔族は、周囲の状況から察知し、力を抑え付けていた原因を特定してしまう。


「くっ……奴ら、我々の能力に気づいた!」

「隊長、このままじゃ俺たちは……」


 ふたりは、魔族数体が自分たちへ襲い掛かろうとしているのを確認していた。予感していた通り、魔族は2度と力を封じられまいと、リーフとルークスの息の根を止めようとする。


「法術士ステラよ、我々のことは構わずにこの場を離れるのだ」

「はぁ? アンタなにバカなこと言ってんのよ。傷ついた人を見殺しになんてできるわけがないでしょ!」

「しかし、このままではお主も——」

「いいから黙ってて!」


 この場にいるステラだけでも助かるようにと、迫り来る魔族から逃げるようリーフが彼女へ示唆するが、それに対しステラは即座に拒否の意向を見せ、構わず治療を完了させようと急ぐ。


「早く……早くっ!」


 額から大粒の汗を垂らし、顔を強張らせながらも必死で回復術を唱え続ける。しかしそれよりも早く、魔族側が到達する速度が上回っていた。


「くっ、間に合わないっ!!」


 万事休すと諦めかけたその時、3人と魔族の間に何かが割り込んできた。

 鋭い爪を突き出して、ステラたちを切り裂こうと襲い掛かる魔族の手を、碧色に輝く1本の剣が阻むように押さえていた。

 咄嗟に目を瞑っていたステラは、ゆっくりと瞼を起こして状況を確認すると、そこには漆黒の長髪を靡かせて悠然と立つ魔法騎士ティアナの姿があった。


「ア、アンタ!」

「魔族は私が食い止めるわ。だから今の内に2人をっ!」


 予想だにしていなかった出来事に戸惑いを見せながらも、ステラは我に返ったようにして回復術を続行する。

 先ほどの隕石の術による攻撃で、アルファード勢は大打撃を負った。その拍子で隊列を乱され、陸徒とシルビア、ティアナの3人は散り散りに離れてしまっていた。ところが流石の疾風の隼騎士と言うべきか、目にも止まらぬ速さでステラの元へ駆けつけたのだ。

 しかし彼女の前に立ちはだかる魔族は計8体。戦闘時はアストラルウェポンの力を発揮し、凄まじい攻撃で魔族たちを一掃していたが、それは幻術と飛行能力を封印していたからこそ、加えてこちら側の先制による効果も相乗していたからだ。だが今回は真っ向の攻防戦となるのは必至。魔法騎士としての実力あるティアナでも、この数を相手にやりあえるのだろうか。

 危惧する時間も束の間。魔族たちは早速と得意の無詠唱による火の術を使い、各々の掌から火炎球が放ってくる。ティアナの背後にはステラたちが。彼女らに当てまいと、ティアナは尋常なき反応速度で次々と火炎球を剣で弾く。

 他を圧倒する物凄いスピードだ。おそらくシルビアやモコをも凌ぐ速さだろう。迫る火炎球を一つ残らず弾き飛ばしている。とはいえ、その動作だけで精一杯なのか、ティアナは防御一辺倒で、全く攻撃に転じられずにいた。表情からも焦りの色が伺える。

 対する魔族側も、火炎球では無意味と判断したのか、今度は一箇所に炎を集め、巨大な火球を作り出す。これは中級の火の術であろうが、目の前にあるそれは通常のものと比べ物にならないほどの大きさであった。これでは剣で弾くことはおろか、回避すら不可能。ましてやステラたちが犠牲に……。


「くっ……」


 ティアナは腹をくくったのか、冷や汗を垂らして歯を食い縛りながらも、剣を前に構えて防御の体勢を取った。


「ちょっと、いくらなんでもそれは無謀よっ!」

「しかし、貴女たちを死なせるわけには。この剣と鎧ならば、幸い貴女たちまで炎が及ぶことはないかもしれない……」


 言葉のとおり、ティアナは自分自身が盾となり、ステラたちだけでも守ろうと死を覚悟する。

 だが突如その時、何かが起こった——。

 不意を突くかのように、上空から謎の一閃が降り注ぐ。それは、炎を放とうとしていた魔族たちを直撃した。

 巨大な土煙を上げ、その場にいる面々が一瞬目を背ける。そして煙が落ち着いてきた頃合い、そこには1本の槍が突き刺さっている光景を視認。直後、時間差で天より舞い降りる人影がひとつ。


「おいおい魔族さんたちよ、レディ相手になにしちゃってんだ?」


 その影は大地へ降り立つと、突き刺さった槍を引き抜いて肩に乗せる。そして退治した魔族への怒りを剥き出しに言葉を吐き捨てた。


「あれ、あいつって……?」

「ま、まさかっ!?」


 遠くからティアナたちの状況を逐次気にかけていた陸徒とシルビアが、現れた人影の正体に気づいたのか、声を漏らした。

 蒼紺色の短髪に褐色の肌。若草色の軽装鎧を身に纏い、大物の槍を自在に操る戦士。

 そう、その男は、かつて陸徒たちと行動を共にしていた―。


「ア、アクシオッ!!」

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