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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
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第81話「作戦前 緊迫と緊張の時」

 瞬間移動というものは、まさにその名の通りなのだと、陸徒は身を以て実感した。

 SF映画で観るような、いわゆるワープのように、数秒ほど光の空間を飛んでいくかのようなイメージを持たれるだろうが、想像していたそれとは全く異なっていた。

 わかり易く言えば、その場の風景が一瞬にして切り替わったというもの。直後、陸徒たちはアルファード城の謁見の間に立っていた。


「り、陸徒さんっ!」


 玉座に腰を下ろしていたシェリルが、彼らの登場と同時に声を掛けてくる。


「よっシェリル! 久しぶりだな。いやしかし空間転移術ってのは凄ぇな。ホントに一瞬でアルファード城へ来ちまった」

「光の速さの瞬間移動。如いかがだったかしら?」


 微笑しながら軽く片手で仰ぎ、目的地到着の意を示すプリメーラ。他の面々は初めて体験した瞬間移動にただ驚き、目を大きくしながら辺りを見回している。

 頃合いを見計らい、早速とシェリルが本題へと話を振ってきた。


「皆さん、お待ちしておりました。先ほど伝心石でお話をしましたように、今アルファードは危機的状況にあります」


 全員が自然と神妙な表情へと移す。ステラも、帰還に伴うシェリルとの再会に喜びを体現したい思いであろうが、ここは大人しく場の空気を読んでいる。

 シェリルは現状を簡単に伝えた後、陸徒たちが応援に加わってきたことへの感謝と、アルファードを魔族の手から必ず救うという前向きな想いを述べた。陸徒たちもそれに応える所存だ。

 続いて今度は、ティアナがメンバーの前へと歩み出てくる。


「お初にお目に掛かります、シェリル王女。私はエルグランド魔法騎士隊、ストームナイト小隊長のティアナ・クロスランサーです。それと——」


 ティアナは跪いて頭を降ろし、王女への経緯を払いながら自己紹介をする。そしてもうひとりへ話を振ろうとするが、その人物は自ら口を開けてきた。


「私はシルフィ・ティンバーレイク。エルグランドの宮廷魔術士よぉ。よろしくね、可愛いシェリルちゃん♪」


 無論、その人物とはシルフィのこと。相手が誰であろうと、一切態度を変えず平常運転。彼女は間延びした口調で挨拶をしてきた。


「こ、こらシルフィ! 貴女、アルファード王女の前でなんて態度をっ!! シェリル王女、仲間の無礼を心よりお詫び致します」

「いえ、構いませんわ。ティアナさんにシルフィさん、この度はエルグランドからの救援、非常に感謝致します」


 アーシェラ女王の前では目をつむっていても、流石に他国の最高責任者の前でも一切変わらないシルフィの態度に、ティアナは慌ててシェリルへ謝罪をする。

 だが、分け隔てなく平等に接するシェリルの温和な応対に、ティアナも安堵の表情を作り、気持ちを楽にさせる。


「シェリル、早速だがこちら側の作戦はどうなっているのか、詳しく説明してくれないか」


 陸徒は頃合いを見計らい、本題へと話を元に戻す。

 シェリルから聞いた、アルファード城防衛作戦の内容はこうだ。

 ここ、アルファード城及び城下町は、城の前方域を町が広がり、その周囲を大きな外壁に囲まれた構図となっている。町への入り口は3箇所。南門と西門、東門だ。

 メインとなる玄関口は南門。陸徒たちが初めて城を訪れた時もそこを潜った。西門ではその夜、モンスターが襲来し、ブラッディオーガとの激しい戦闘が繰り広げられた。

 今回は戦力を分散させない目的で西門と東門を完全に封鎖。更に地の魔術を使い、岩を積み上げて外部からの侵入をできなくする。そのためバトルフィールドとなるのはメインゲートの南門前ということになる。

 作戦としては適正な判断と言える。魔族側の戦力が把握できぬ以上、下手に味方の戦力を分散させる行為は禁物。

 しかしここで問題視せねばならぬのは……幻術。いくら陣営を固めたところで、幻術への対策を講じなければこの戦いは厳しいものになる。おまけに今回はココアの華術に頼ることができない。


「幻術についてですが、既に対策を考えてあります」


 作戦を聞きながら、幻術のことを陸徒が危惧していると、その心情を読み取っているかの如く、シェリルが自信を含んだ表情で応えてきた。


「そろそろこちらへ来られる頃かと思いますが……」


 シェリルが階段へ続く通路の方を眺めていると、しばらくしてその場から人影が現れる。ガシャガシャと金属同士がぶつかり合う音を鳴らしながら、階段を降りて歩いてきた人影はふたつ。鎧を身に纏った男ふたりであった。


「リーフ隊長! それにルークス!」


 彼らを見るなりモコが真っ先に声を発する。対する彼らもそれに反応するが、王女の面前ということもあってか、とりわけおぼろげに表情が硬く畏まった態度だ。

 ひとりは30代後半から40代であろう年齢で、藍色の鎧で身を固め、片手には槍斧ハルバードを持ち抱えている。少なからず放たれるその風貌と威厳さから、この男がリーフ隊長であると伺える。

 もうひとりは隊長と比べると随分若く見える。陸徒と差して変わりない10代であろう。ブリキに見間違えるほどの鉛色をした鎧を装い、腰にはボウガンを据えている。あどけなさと少々頼りない雰囲気は拭えないが、どことなく落ち着きがあるようにも見える。それは若いなりに兵としての自覚があるからであろう。


「モコ、元気だったか。シェリル様の勅命による任務、ご苦労であった」


 リーフ隊長と思われる人物がモコと顔を合わせるなり声を掛けてくる。


「彼らは?」


 これまでの流れとモコの態度、そしてふたりの外見から大方予想はできているが、陸徒は彼らが何者であるか敢えてモコへ問う。


「ふたりは私と同じ特殊部隊の騎士です。藍色の鎧を着た方はリーフ隊長。そしてもうひとりがルークスです」

「なるほど。俺は陸徒、よろしく」

「お主が神剣ラディアセイバーの使い手陸徒か。噂はかねがね聞いている」

「ふんっ、よろしくな」


 隊長さながらの紳士的な態度のリーフと比べ、希薄ですかした態度のルークス。未だ思春期を脱していないのか、それゆえの人見知りの典型的なものである。


「先ほど言いました、魔族の幻術対策というのはこの御二人です。加えては飛行能力をも解決していただけるでしょう」

「つまり、特殊部隊の騎士である彼らの超能力がその働きをすると……?」


 陸徒の問いにシェリルは肯定の返事をする。

 話によれば、ふたりの能力は最早超能力という枠では収まらないほどに突出したものであった。

 隊長のリーフは重力を操る。重力を高め、空を飛ぶ者を強制的に大地へ引きずり下ろしたり、地を歩く者は動きを封じることができる。ただし、逆に重力を弱めて物や人を浮かせたりするというパターンは不可能ということだ。

 いずれにせよこの力を使えば、飛行能力のある魔族を引きずり下ろし、地上での白兵戦へ持ち込むことが可能だ。

 続いては若手ルークス。彼は相手の精神域に侵入し、思考を妨害させる超能力を持つ。つまり、術の類の使用を禁ずる効果を担うということ。よって幻術を封じる役を担えるという考え方だ。ココアの華術はこちらが幻術に掛からなくするものであったが、ルークスの能力は魔族側から幻術を使えなくさせる。


「アルファードの特殊騎士……。エルグランドの魔法騎士とは違い、異質な能力者で構成された騎士なのね」


 ティアナが特殊騎士の特異な力に興味を強く示し、感嘆の息を漏らしている。モコの超能力には多少慣れてきたものの、陸徒自身も改めて特殊騎士たちの能力に驚きを隠せずにいる。

 リーフとルークス、確かにこのふたりの力があれば、魔族の幻術と飛行能力の脅威も解消できるかもしれない。


 以上で一通りの作戦内容は把握出来たであろう。

 魔族軍到達まで残り約8時間ほど。時間が経つにつれ、城内での緊迫した空気が増していくようだ。

 各メンバーは装備の調整や体調の管理を怠らずにいる。仮眠をとったり、食堂にて腹ごしらえをするのも重要だ。しかし陸徒は、大きな戦闘前による緊張感が邪魔をし、思いの他まともに睡眠や食事をとれずにいた。

 そうこうしている内に刻一刻と時は進み、気がつけば戦闘開始前1時間を切る頃となっていた。それぞれが城の外へ出て、持ち場へ配置される。

 アタッカーである陸徒とシルビア、ティアナは南門の正面外へ。周囲にも多くの騎士や兵士が全く乱れのない隊列を組んでいる。まるで戦争映画を見ているかのようだ。

 陸徒たちの後方には特殊騎士のリーフとルークスが立ち、迫り来る魔族の厄介な能力を封じる役を担う。

 遠距離攻撃型のモコは町の外壁上に配置。リーフの重力波を逃れることも十分に予測されるため、主にその対処に当たる。

 シルフィを始める宮廷魔術士隊も、安全に魔術を唱えられるよう同様に外壁へと配置される。

 ステラは、効力を低下させることなく法術を広域化させて唱えるという、唯一無二の能力を持つため、味方側陣形のほぼ中心位置となる門の手前に立つ。

 その他の宮廷法術士隊は、負傷した者の回復や防御役として、前衛と後衛に満遍なく配置されている。さすが法術大国のアルファードだけあって、法術士の質と数がとてつもない。

 同じく法術士であるシェリルとプリメーラは、空中浮遊の術で上空から戦況の把握と司令役を担当する。必要に応じ、シェリルは弓での援護。プリメーラは空間転移術を駆使して緊急時のサポート役に回ってもらう。

 これにて全員が戦闘配置へと着き、防衛の布陣が完成される。


 地上は緑広がる平原。空は雲一つない晴天だ。

 依然として前方に変化が見られないが、もう間もなくして魔族の軍隊が到達するであろう時間に差し掛かる。これだけ人数がいるにも拘らず、周囲の誰ひとりとして無駄口を叩かなかった。

 辺りには微かに吹く風の音だけが耳をかすり、なんとも言えぬ緊迫した空気が漂う。その雰囲気に少々耐えかねたか、陸徒は額から一滴の汗を垂らした。


「陸徒、怖いのか?」


 そんな彼の様子を見ていたのか、右隣に立つシルビアが声を掛けてきた。


「いや大丈夫だ。でも相手はあの魔族である上に、どれだけの数で攻めて来るのかわからないからな」

「確かにね。だけどお前は神剣ラディアセイバーの使い手だ。余計なことは考えず、自分の力を信じな」

「あぁ。お前こそ、竜の力を受け継ぎし者なんだ。その力、頼りにしてるぜ」

「わかってる。双竜剣の力、ここで存分に発揮させてやるさね!」

「…………ティアナさんは、騎士だからこんな状況にも慣れているんだろ?」


 ついでという訳ではないのだろうが、陸徒は左隣にいるティアナへも話を振る。ここまでずっと黙ってはいたものの、こうしてなにかを話していないと、緊張感に押し潰されてしまうのが怖かったのかもしれない。


「これまでに死線を何度か潜り抜けてきた経験んはあるけれど、流石に魔族を相手に戦うのは今回が初めてよ。あの時、ダークナイト小隊長が魔族に殺されてしまった件もあるし、平気だと言ったら嘘になるわ。でも私にはこの聖隼剣セイラウィンダムがある。そう簡単にやられたりなどしないわ」


 彼女の持つアストラルウェポンは、翠色に輝く細剣だった。速さを生かした細剣の使い手。疾風の隼騎士の異名を持つ魔法騎士ストームナイト小隊長の実力、一体どれほどのものなのだろうか。

 するとそこへ、上空にて敵の動向を監視していたシェリルが、大声を発して周囲に喚起をする。


「皆さんっ! 前方に魔族の軍隊を視認しました! 間もなくこちらへ到達します!!」


 その言葉を聞き、周りの兵たちが束の間のざわめきを見せるも、即座に迎撃態勢を整え、前方から迫り来る者を黙して見据える。

 そしてとうとう魔族の軍隊が戦地へと到達した。これより、人類の存亡を賭けた熾烈な戦い、アルファード城防衛戦の幕が開かれる。

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