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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
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第80話「アルファード城へテレポーテーション」

 現在アルファード城へ魔族の軍隊が進行中。

 伝心石より受けたシェリルからの連絡は、その場にいる者を絶句させる。


「魔族の軍隊がアルファード城に向かっているだって!? 一体どういうことだよ。シェリル、落ち着いて詳しく説明してくれ」

「は、はい。昨日、城の展望塔から報告があり、南の方角から夥しい数の魔族の軍隊がこちらへ向かって来ているとのことでした。わたくしは急いで緊急警戒態勢を張り、町の方々にも避難するよう指示しました」

「そんなことが……。シェリル、今俺たちはエルグランド城のアーシェラ女王のところにいるんだ」

「そうだったのですね! 丁度良かったです。できればエルグランドからも救援をお願いしたいのですが……」


 シェリルの救援要請に対し、アーシェラ女王は返答をするが、それは彼女の意向にそぐわないものであった。


「残念ながらシェリル王女、エルグランドからは救援を出せない」


 女王からの非情とも思える返答に全員が困惑の表情を示す。しかしその理由は一国の責を負う女王としての冷静な判断によるものであった。

 アルファード城への魔族軍隊の進行は、同時に他国エルグランドとエリシオンへも及ぶ可能性は十分に考えられるということ。

 なぜこのタイミングでアルファード城へ攻め込むのであろうか、理由は不明だが、魔族側の全戦力が明確でない以上、下手に救援を出して自国の戦力を欠く行為は危険を伴う。


「確かに……そうですね」


 曇ったシェリルの言葉からは、遺憾の思いが伝わって来るが、シェリル自身も現在は王の権利と責任を持った立場。アーシェラ女王の言い分も理解できるため、これは諦めざるを得ない。

 とはいえ、アーシェラ女王も無情ではない。2名という僅かばかりの人数だが、エルグランドから応援を寄越してくれるそうだ。


「無論、陸徒たちはそちらに向かわせる。それと、シルフィとティアナも同行させよう」

「え、ティアナさんて戦えるのか?」

「彼女は只の科学者ではない。エルグランド魔法騎士ストームナイト小隊長”疾風の隼騎士”と呼ばれ、数々の戦績を残している優秀な騎士でもある」

「ティアナちゃんは凄い強いわよぉ。細剣を使わせたら右に出る者はいないんじゃないかしら。それに魔法騎士の各隊長が持つ武器は、”アストラルウェポン”と言って、特殊な魔法処理を施してあるの。物理攻撃が効き難い魔族にも十分ダメージを与えられるはずよぉ」


 アーシェラ女王の説明の他、更に付け加えるようにしてシルフィが発言した。

 アストラルウェポンは、あの喬介が持つ大剣ヴァイパーブレイドもそれに該当する。元は、彼がミドラディアスへやって来た際、魔族ヴェロッサに殺された魔法騎士隊長が使用していたものだ。

 喬介の使う技、蛇を模ったオーラを放ち、相手を行動不能にする攻撃はそのアストラルウェポンの力なのかどうかは不明だが、神剣ラディアセイバーにも引けを取らないほどの代物だ。

 シルフィの話の通り、ティアナが所有する武器も同等である理由から、非常に強力なものであることは自ずと判断できる。いずれにせよ、ティアナが騎士でもあった事実に誰もが驚きを隠せなかったであろう。

 女王からの信頼を得る優秀な科学者でありながら、魔法騎士の小隊長も務めている。その上ミステリアスな雰囲気を漂わせるあの美貌。文武両道、才色兼備とは彼女のためにある言葉と言っても過言ではない。


「アーシェラ女王、御高配、心から感謝致します」

「ところでシェリル、アルファード城へ魔族が到達するまであとどれくらいの時間なんだ?」

「恐らく、あと半日ほどかと思われます」

「なんだって!? 陸徒たちをそちらに向かわせるのに、馬車を使っても最短で1日は掛かる」


 シェリルの返答から出たアーシェラ女王の言葉は、絶望と思われるものだった。ところが皆が大きく騒ぎ立てる中、伝心石から聞こえるシェリルの声は、至って冷静なものであった。


「それについてはご心配に及びません。今からそちらへある方が伺いますので、指示に従っていただきたいと思います。それでは宜しくお願い致します」


 そう言い終えると、シェリルは陸徒たちの反応を待たずに即座に通話を終了させた。後半の話口調は比較的落ち着いてはいたが、一刻を争う事態には変わりない。純粋に時間が惜しかったのだろう。

 さて置き、シェリルの言っていたある人物とは誰なのであろうか。一同が腕組をしているところへ、しばらくして謁見の間の中央に突如と光が現れる。

 白熱球のような目に優しい淡い光は、緩々と直径2メートルほどの大きさに膨らむと、その内部から人の形をした影が出現する。そして光が消えゆくと同時に、女性らしき人物が姿を現した。


「え、まさか……」


 ステラがいち早く、その人物が誰であるのか気づいたようだ。


「皆さんご機嫌いかがかしら。ちょっとお邪魔しますわね」


 大人びた艶のある声質と、淑やかで丁寧な口調を利かせながら、その女性は挨拶をしてきた。


「やっぱり、プリメーラ先生っ!」


 ステラにそう呼ばれた女性は、彼女の声に反応して笑顔を返してきた。

 藤色の長い髪を後ろに束ね、金色の2本の簪で纏めている。衣服は陸徒にとっては少し馴染みのあるような、いわゆる和服をイメージさせる、紫と臙脂色を基調とした落ち着きのある大人の雰囲気漂うドレスを着用していた。

 右手には一見槍と見間違えるほど、長尺である杖を持っており、その先端にある碧色の玉が神秘的な輝きを放っていた。


「ステラ、お元気だったかしら? なんだか以前よりも女性らしくなった気がするわ。恋でもしているのかしらね、うふふ♪」

「なっ、いきなりなに言うのよっ! べ、別にそんなんじゃないわ!」


 ステラは顔を真っ赤にして必死に否定するも、心情バレバレといった様子。プリメーラもそれに勘付いてのことか、そんな彼女を見ながら口元を押さえて微笑している。


「あぁ、プリメーラ先生って確かアルファードの法術学校の校長だったよな。あんたがそうだったのか」


 唐突に陸徒が言葉を漏らす。

 思い返せばプリメーラという名前、以前ステラが法術の派生系の話をしていた時に上がっていた。陸徒もそのことが頭を過って口にしたのだろう。


「あらご存知だったのですね。そうよ、私がアルファード法術学校の校長を務めているプリメーラ・ヨームシュルクですわ。以後お見知りおきを。そう、貴方が陸徒ね。ふむふむ……なるほど、うふふっ♪」


 自分を名乗った後、陸徒の容姿をマジマジと物色するように眺めてから、ひとりで納得して微笑んだ。

 彼女の意図が読めず、陸徒は怪訝な表情をしたままだが、プリメーラはそれに気を留めず、今度はアーシェラ女王のいる方を振り向き、軽く挨拶を送る。


「久しぶりだな、プリム」

「お久しぶりですこと、アーシェラ」

「貴女、我が女王の名を呼び捨てなどっ——」

「ティアナ、構わない」


 傍から見れば、女王に対して無礼な態度と思えるプリメーラの言動。すぐさまティアナが注意を示すも、女王自身がそれを制止させる。何やら2人の関係に特別な事情があると伺えるが……。


「貴女しか呼ばないその愛称を言われるのも何年ぶりかしら。私の居ない間にこの城も随分と変わりましたのね」

「貴女の開発した法術も、アルファードで基盤を築いてより大きな物に確立させたようだな。流石だ。今思えばその才能をエルグランドでも活かしてほしかったものだ」


 お互いの会話から察するに、プリメーラはかつてエルグランド城に仕えていた身で、クレスタと同様に法術を発展させるためにアルファードへ出向したようだ。

 しかしながら、プリメーラが法術そのものの開発者だったとは。陸徒としても思いもよらぬ事実であっただろう。

 世界的に大きな功績を残したこともさながら、アルファードでの法術の歴史は20数年余り。当時のプリメーラの年齢はわからぬが、ある程度を考慮しても現在はそれなりの歳を召しているはず。とはいえ、これ以上女性の年齢を詮索するのは無粋というものだ。


「ちょっと、一刻を争う事態なのにのんびりと話をしている場合じゃないでしょ!」


 久しぶりの再会に会話を弾ませるふたりと、脳内で悶々と妄想や詮索を繰り広げている陸徒へ、ステラが注意を喚起する。


「そんなに焦らなくても、お城までは一瞬で移動できるから心配はいらなくてよ」

「やっぱり。空間転移術を使うつもりね……」


 プリメーラが余裕の表情で言葉を返してくるが、陸徒は彼女の言っている意味が理解できずにいた。ところがステラのみがその意図を把握していた。

 空間転移術。初めて聞く単語ではないにしても、言葉から察するに空間を移動する、いわゆるテレポーテーションのことを指しているのだろうが、果たしてそのような常識的に有り得ないものが可能なのであろうか。


「でもあの術は、術者のみにしか発動させられないんじゃ……」

「そのために貴女の力があるのではなくって?」

「え、アタシ? まさか……このパステリアウィッシュの力で空間転移術を広域化させるってこと? いやいや、この杖の力を引き出せるのはアタシだけで、空間転移術はプリメーラ先生しか使えない。だから——」

「もうっ、貴女は天才法術士なのでしょ? 私の術と貴女の力を掛け合わせる方法……わかっているはずですわよ」


 難問を与えられたかのようにうろたえるステラへ、それを諭すようにプリメーラは口を割り込ませ、答えへと導こうとする。その様子はまさに、先生と生徒のやり取りさながらであった。


「……シンクロッ!!」

「そうよ。すぐに気がつくなんて、流石ね」

「でもそれは、今まで誰も成功させたことのない超高難易度の技法」

「あら。いつもの自信はどこに行ったのかしら? 大丈夫、今の貴女にならできますわ。それに……」


 ステラの性格を完全に掌握しているようで、言い訳が飛んできてもすぐさま的確な返事がやって来る。そしてプリメーラは一旦言葉を止め、ステラの近くまで歩み寄ってから、小声で止めの耳打ちをする。


(貴女の素敵な王子様が期待しているのだから、ここは良いところを見せなさい)


「ちょっ! な、なにを言っているのよ先生っ!!」


 プリメーラは陸徒の方を細々と視線を移しながら、ステラへなにかを告げたようであるが、傍からは突然彼女が顔を赤くして騒ぎ立てているようにしか見えなかった。


「プリム、あの子になにを言ったの?」

「うふふ。愛の力は不可能を可能にしますのよ♪」

「……は?」


 アーシェラ女王からの問いに、プリメーラは意味不明な言葉で誤魔化したまま、早速と術を唱える準備に取り掛かる。


「さぁこれからアルファード城へ移動しますわよ。乗客の皆さんは私の半径2メートル以内に集まって下さるかしら」


 プリメーラは謁見の間の中央に立ち、ステラはその後ろに配備。そして陸徒たちのへ指示を促すと、いそいそと言われた通りに全員が固まる。

 気がつくといつの間にかティアナは騎士の鎧姿でその場にいた。どうやらアーシェラ女王とプリメーラが昔話に花を咲かせている最中に、戦闘の準備を整えて来たようだ。

 白衣姿とは一変して、翡翠色の軽装鎧を纏い、雰囲気が全く異なっているが、凛とした美しさと知性溢れる風貌は一切損なわれておらず、騎士の小隊長としての雄々しささえも漂わせていた。


 全員が配置に付き、これより多人数を対象とした空間転移術が開始される。

 先ほどのプリメーラとステラの会話から伺うに、方法としてはプリメーラが唱えた空間転移術を、ステラ側から聖杖パステリアウィッシュを介して発動させ、全員纏めてアルファード城へ移動するというものだ。

 これを”シンクロ”と呼んでいたが、その名のとおりふたりの力を同調させるという非常に難易度の高い技のようだ。果たして上手く成功するのであろうか。

 とはいいながらも、アルファードが誇る法術学校の校長と、そこを最年少且つ首席で卒業した天才が組むのだ。陸徒を始め、他の面々も必ずやり遂げるだろうと信じているはずだ。


「ステラ、お前ならやれる。頼んだぞ」


 前述の想いを言葉に変え、ステラを見つめながら陸徒は軽く笑みを投じる。


「い、言われなくたって……」


 プリメーラに揶揄われた流れもあってか、不意に声を掛けられた驚きを露骨に見せながら戸惑っているようだが、ステラの表情は真剣そのものであった。


「うふふ。ステラ、準備は良くって?」

「どーんと来いっ!」

「それでは、ワタクシが念じると同時に、呼吸や心拍を一緒に合わせますのよ」


 指示を出すと、プリメーラは目を閉じて杖を天に翳し、自身の法力を念じ始めた。同じくしてステラも、自分の杖を胸元へ引き寄せて集中する。

 ふたりが行動を開始してから間もなくして、プリメーラの杖の先端が光り出し、忽ちにそれが帯状に空気中を舞い、ステラの杖へと吸い込まれるように移動していく。

 光の帯が全てステラの杖の中へ取り込み終えると、刹那杖全体が強烈な閃光を放つ。これが合図となり、ふたりが声を合わせて同時に呪文を唱える。


―其は時空に留まりし光の記憶

 いざ我と共に経つ時の旅行者―

「「翔転移エターナルドライブ!」」


 その直後、ステラの聖杖パステリアウィッシュの中に収束した光が大きく広がり、術の対象範囲にいた者の体を包み込んだ。


「やりましたわね、ステラ! 成功ですわよ」

「ふんっ、と、当然よ!」


 自信過剰で傲慢な性格のステラも言葉では威勢を張っているが、まさかシンクロを本当に成功させられるとは思わなんだようで、驚きを隠せずにいる。

 いよいよと、プリメーラとステラによって生み出された広範囲の空間転移術が発動される。


「さぁ、アルファード城まで一気に飛びますわよ」

「プリム。それと陸徒たち、宜しく頼むぞ」

「俺ちゃんの彩術がないからって、気を落としちゃ駄目だヨ」

「アタシの華術がなくても大丈夫だよね。陸徒くん、ガンバ!」


 エルグランド城に残る3人が、それぞれ見送りの言葉を告げる。


「あぁ! ちょっくら行って来る!」


 それに対し陸徒は、右手拳を握り締めて応えた。そして体が光の中へ取り込まれ、一重の強い瞬きを見せる。

 光は収縮しながら消えると、そこには陸徒たちの姿はなかった。一行は向かう。魔族侵攻の危機を救うため、いざアルファード城へ。

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