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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
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第74話「女王の弟子 ギャル風メイド服娘ココア」

 今時のギャル。そう一括りにしてしまえばありふれたキャラクターなのであろう。

 しかし舞台は異世界ミドラディアス。おまけにアーシェラ女王の弟子にして華術の研究者。そして極めつけにメイド服。これだけの特異な素性を加味した上では、強烈な印象を受けない者は僅かであろう。


「な、なんなのよこの女……」


 ステラがこの女と称した者は前述した特異なキャラクター。ティーダの妹ココアである。ステラ自身も同様にキャラクターの濃い人間であるが、それですらもココアには衝撃を受けたようで、怪訝な顔を振り撒いている。


「はぁ? 初対面にこの女呼ばわりされる筋合いないんだけど。ってゆーかマジなんなのアナタたち。用件はなに?」


 ステラの言葉に苛立ちを覚えたココアは、彼女を含め陸徒たち全員に向けて挑発的な態度を見せる。当然ながら煽られた法術士娘はギャル風メイド服娘に食って掛かる。


「アンタ、初対面だからこそ人を見るなり大声で笑いだしたり、そんな態度を取るのも十分筋違いだと思うけどね!」


 意外にもステラにしては控えめで大人な対応である。本来であれば顔を真っ赤にして罵詈雑言を浴びせてくるものと思ったであろう。

 とは言っても、一癖も二癖もある人間にはさほど通用せず、大抵は火に油を注ぐわけで……。


「うっざ! ムカつくんだけど……」

「アンタに言われたくないわ!」

「はぁめんどくさっ! もういいわ。アタシ今忙しいからさ、帰ってくんない?」

「あーっなんなの! この女気に入らないわっ!」


 このようにヒートアップし、最終的にはステラも我慢できずに頭が噴火してしまった。

 これも些か仕方あるまいと、陸徒は感慨からとあることを思い出す。冒頭に述べられたように、今時のギャルとしてはさほど珍しいものでもない。当然彼の通う学校にもかような類の女は多数存在するが、陸徒自身もまともにコミュニケーションを取れた試しがないというのが実態である。

 とはいえ、ふたりの罵り合いを聞いているのもただ疲れるだけ。陸徒は若干うな垂れながらも、仲裁を図ろうとした矢先、突然ココアの表情に緊張が走り、口を閉じて周囲を見渡し始める。


「こら! いきなり黙ってなんなのよアンタ!」

「シーッ! ちょっとうるさいから静かにしてよ」


 これまでとは打って変わって神妙な顔をするココアの様子に、ステラは不審に思いながらも、間もなくして何かを感じ取り始める。


「なにかが……来るわね」


 終始冷静でふたりの喧嘩を黙って傍観していたモコは、いち早くそれを察知していたのか、上空を見上げながら呟く。


「げっ……やっぱりあいつらね。マジ超しつこいって」


 ココアが嘆息を漏らした時には、既に全員がその異変に気づいていた。上空を見上げたその先には黒い影が散見される。ココアはそれがなんであるのか知っているようだが、陸徒たちもこのパターンは記憶に新しかった。

 察しの通り、それは魔族だった。緊迫が押し寄せる中、一斉に武器を構えて戦闘の態勢を取ると、それを見たココアが慌てながら声を発してきた。


「ちょっアナタたち、あれと戦うつもり? それマジ言ってんの?」


 ココアは恐怖心丸出しで手を大きく振る。ティーダとは違い、余裕や戦う意志を一切感じない。その様子に違和感を抱いた陸徒は怪訝な表情でココアに問い詰める。


「お前さっきからなにビビってんだ。華術とやらの使い手なんだろ? それを使ってあいつらと戦えないのか?」

「え、アナタなんでそれを知ってんの?」

「俺たちはティーダから頼まれてここに来たんだよ」

「はぁ? 兄貴が!?」


 ココアはひどく驚いた様子で、詳しい事情を聞き出そうとするも、そう長々と会話をしている時間は与えられず、魔族は既に彼らの元へ到着するところまで来ていた。その数5体。


「ちっ、おいでなすったね」

「あの時の魔族と同じ姿ね。奴らってみんなこんな感じなのかしら。個性のない生物ね」


 登場した魔族に対し、ステラはわざと聞こえるように、大きな声で辛辣な皮肉を放って煽るが、相手は関せず全く反応を見せなかった。寧ろそれを無視するかのように、別の人間へと言葉を投げてきた。


「奇妙な術を使うココアとやら。いつまでも逃げ隠れできると思うなよ。今度こそ息の根を止めてやる」


 またもやありきたりな脅しをしてくる魔族。別の人物というのは名指しの通りココアであった。


「うっさいわね。何度来たって同じよ! アタシを殺すことなんてできないってば」


 お互いの会話から察するに、魔族は今まで何度もココアに対し襲撃しているようだが、現状は拮抗しているのだろうか。

 だが気になるのは、ココアの態度が先ほどまで慌てていた割に随分と威勢が良い点だ。おそらく彼女はなんらかの防衛法を持っているに違いない。彼女自身と研究所であろう建物だけが無傷でいることがそれを物語っていた。


「今回は部外者も混ざっているようだが、我らと戦うつもりらしい」


 あの時ティーダが軽々と魔族を駆逐したとはいえ、恐怖で支配されそうなほどに放たれる強い気迫と威圧感は、スカイライン頂上で陸徒が感じたそれと変わりない。だが本人の想いは決まっていた。


「あったりめーだ! お前らが魔族だろうが関係ねえ。ココアは俺たちが守る!」

「え、はい? マジ?」


 唐突に思える陸徒の言葉に、ココアは素っ頓狂な顔をして動揺している。それとは対照的に、魔族は脆弱な人間の強気な態度に苛立ちを覚えたのか、少々顔を歪ませているようだ。


「人間風情が、我ら魔族に敵うと思っているのか」

「その人間風情にあっさりと倒された魔族を、アタシ達はついこの間見て来たけどね」


 迅速な切り返し。ステラはすぐさま目の前にいる魔族たちを嘲笑うかのように言葉を零す。彼女は先日のティーダが彩術を使って魔族を一掃したあの出来事を指しているのだろう。


「なんだと……?」

「フォレスターレイクへ向かった同胞たちの反応が消えているが、まさかそれを言っているわけではなかろうな?」

「戯言も程々にしろ。人間如き下等種族が、口だけは達者だな」


 魔族が交互に会話を投じる。フォレスターレイクに向かった魔族のことについては気づいているようだが、それが人間の手によって葬られた事実は全く信じていない。


(フォレスターレイクって、兄貴がアトリエを置いているところじゃん。そこへ向かった魔族が倒されたってこと? まさか兄貴が?)


「ア、アナタたち、兄貴がどうした——」

「我らを目前にしても臆さぬ生意気な人間共め、どうやら魔族の恐ろしさを身を以て味わいたいようだな」


 周囲に聞こえないレベルの小声で呟いた後、ココアは陸徒たちになにか問い出そうとしたが、魔族の言葉に妨害されてしまう。加えて魔族側も、始めは恐れおののいていた陸徒たちの態度が徐々に平生となっていく様子を見て怒りが込み上げてきたのか、露骨な殺気を表に出してくる。

 ティーダがあっさりと魔族たちを退いたのは事実であるにしても、その本人はこの場にはいない。ココアが使う華術というのも正体不明だが、彼女の口振りから、彩術のような強大な力があるようにも伺い難い。現状魔族側にアドバンテージがあるようにも思えるが、果たして陸徒たちはこの状況をどう攻略するつもりなのだろうか。

 ここは一先ずステラに作戦を乞うが吉と思いきや、その時間は与えられず、突然魔族が戦闘態勢に入り、掌から炎の球を発射してきた。それは無数となって一斉に陸徒たちの身に襲い掛かる。


「な、前振りもなくいきなりかよっ!」


 これはおそらく火の属性の魔術。呪文の詠唱を必要とせず即座に発動させることができる。魔族の特徴の一つだ。

 タイミング的に回避の間に合わない直撃コースであったが、対策はしっかりと立てられていた。


―其は万物を遮る絶衝の壁―

魔防壁(エスタシルド)!」


 法術を唱えたのは無論ステラ。魔族が攻撃を仕掛けてくることを予測していたのか、炎の球が放たれた直後に発動し、バリアがそれを完全に防ぐ。

 魔族に勘付かれるわけでもなく、且つ間一髪でもない絶妙なタイミングによって展開されたバリアによって、陸徒たちはダメージを受けずに済んだ。


(今の法術は偶然なタイミングで唱えられたものじゃない。魔族が不意打ちを仕掛けてくることをわかっていた。でなきゃあそこで術を完成させるなんて無理。マジなんなのあの子)


 ステラがドヤ顔を見せている中、ココアがまたも周囲に聞こえぬ小声で呟く。冷静に物事を見据える鋭い眼光とその独白から、今のステラの行動を見ただけで、彼女の法術士としての能力の高さを見抜いたようだ。


「なにっ、攻撃を防いだだと!?」

「なるほど、あれが法術とやらか。人間の分際で妙な術を考えおったな」


 エルグランドにて法術が開発されてからまだ歴史は浅く、当然2000年前には存在していない。魔族側が法術の現象に驚きを見せているのも当然だろう。


「攻撃されたからには、こっちも反撃しねーとな!」


 陸徒はここである決断をしていた。現状魔族へダメージを与えられるのに有効なのは魔術。従ってシルフィを攻撃役に選出するのが得策だろうと考えるが、ドヘルズペインの森で起きたことのように無茶な術を使われる恐れも懸念される。

 シルビアは以前魔族を倒すことができたようであるが、証言のみであるため不確定要素が多い。モコの超能力とチャクラムベリーサも強力であるが、対魔族用としては少々心許ない。となると……。


「ここは下手に全員で攻撃するよりも、一個体による強襲攻撃の方が、万一の全滅を避けやすい。ステラ、守りは任せた。シルビアとモコ、シルフィは援護を頼む」


「ちょっと、なに勝手に決めてんのよ」

「陸徒、本気で言っているのかい?」

「相手は魔族ですよ」

「張り切っちゃって、陸徒ちゃんも若いわねぇ」


 1名を除き、皆が戸惑いの意を見せている。しかし陸徒の固い決意の表情を見るなり黙ってそれに従う。

 戦略的な面もあるが、今の陸徒の気持ちとしては、謝意が含まれているだろう。空也を失ったあの時、彼は意気消沈した上に戦う意志も失ってしまい、単なる足手まといで皆に迷惑を掛けた。それを思っての行動が強いのだろう。


「な~にひとりで格好つけようとしてんだか」

「……ココア?」


 そこへ、徐にココアが陸徒の傍らへ歩み寄り、まるで戦闘に参加するような意志を見せている。先ほどまで魔族の登場に恐れをなしていたというのに……。


「アナタ、見たところ大型の剣を使うパワータイプの剣士みたいじゃん」

「あぁ一応な。スピードもまあまあ自信はある」

「そう。なら尚更都合が良いかもね」


 陸徒は率直に返答するも、この銀髪のメイド服女がなにを考えているのか全く見当もついていない。


(不足はあるけれど、このイレギュラーはある意味チャンス。特にこの剣士なら、アタシの華術を上手く活かしてくれるかもしれない)


 声に出さないココアの独白であるが、なにか策があるようだ。ここで謎の華術とやらを使ってくるに違いない。始めの不足という言葉が少し気になるが……。


「ちょっとそこの法術士の子。魔族と戦っている間、アタシの大事な研究室を守ってね!」

「はぁ? なにどういう意味よそれ!」

「ステラ、ここは言う通りにしてくれ」

「……ふん、わかったわよ」


 唐突にココアから指示をされたステラは、さすがに意味を理解出来ずに異論するが、陸徒からの頼みから、渋々と引き受ける。


(法術も魔術も必要とせずに、陸徒とあの変な格好の女で魔族とどう戦うつもりよ……。でも一つ気になるのはあの女が使うとされる華術。一体どんな術なのかしら)


 予想せぬ事態が連発しながらも、ステラは平常通り冷静に状況を見ている。文句を言いつつ周りの指示に従う理由はそう、本人の呟きからも出た通り、華術の存在だ。

 果たして、ココアの使う華術とはどのような術なのだろうか。彩術のような強力な術なのか、それとも……。

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