第71話「解明される謎 深まる謎」
エルグランド城にて、アーシェラ女王と再会した陸徒。これより、魔族復活による対策としての刷り合わせが行われる。
まずは、アーシェラ女王がまだ知り得ていない、陸徒だけが知っている情報についてだ。魔信教団本部での時、彼は空也を失ってしまったことによるショックで、会話をする気力すら持っていなかった。情報、つまりそれはバサラから聞いた内容を指している。
陸徒はありのままに包み隠さず、アーシェラ女王と皆の前で口述する。
「……そういうことだったのね」
話を聞き終えたアーシェラ女王は、驚きと納得を半分半分に見せるような反応をしている。まるでそれぞれの情報の一部が一致したような印象であった。
「これでいくつか整理できた点がある」
その情報整理の成果が公開される運びとなる。始めにアーシェラ女王の口から出た言葉は、早速とこの場にいる全員を驚愕と困惑に見舞わせるものであった。
「これまでの出来事は、ほぼ全てが偶然と必然の絶妙な重なりによって作り出されたシナリオだということよ」
この不可思議な言い出しから話は始まる。具体的にはこうだ。
必然に起こり得たこと、それは魔族の復活と空也の魔族化。そう結論づけた理由はバサラという圧倒的強者の存在。あの男がいる限り、これは遅かれ早かれ避けられない事象だったと考えられる。
仮に嶺王火山に訪れる時点でプリウスの魔石の秘密を知っていたとしても、すぐにバサラの手によって奪われてしまっていただろう。魔術の熟練者であるアーシェラ女王や、最強の騎士ザルディスですらも太刀打ちできなかった、あの圧倒的な力の前では抗うことも敵わない。そう認識せざるを得ない。
そして更に驚くべき内容は、嶺王火山にてクレスタが死亡したことも、必然であったと言うのだ。
「クレスタの爺さんの死が必然だって? 一体どういうことだよ」
「これは少し推測が混ざるが、その理由はクレスタが空也にと渡した魔術書アリストの存在」
話によると、クレスタが空也の為にと用意した魔術書アリストは、かつてレクサス本人が所持していたものであったそうだ。
クレスタがそれを取りに行ったとされるザフィーラの町は、2000年前の戦争時代にレクサスが現れた地とされ、現在は彼の記念博物館が建てられている。魔術書はそこに保管されていたのだ。
「つまり、クレスタの爺さんはなにか意味があって、その魔術書アリストを空也に渡したということなのか?」
「おそらくクレスタは、その頃から空也がレクサスの生まれ変わり……少なくともなにか関連性があると知っていたのだろう」
「どうやってそれを知ったんだ?」
「さぁ……それはわからない。ただ、クレスタは空也の内に秘めるなにかを知って、彼との信頼関係を築き、そして死んだ。それがきっかけとなり、空也が魔族化するための覚醒が始まった」
「おい、それって……まるでクレスタの爺さんが、空也を魔族化させる手助けをしていたみたいじゃないか!」
「結果的にはそうなってしまったが、もっとなにか違う目的があったのかもしれない。でなければ、わざわざ魔術書アリストを彼に持たせたりなどしないだろう。そもそもあの魔術書は……」
アーシェラ女王は最後の言葉を出す前に、暫時置いてから一呼吸すると、驚愕の話を口にする。
「魔術書アリストは、ザフィーラの博物館から盗まれたものだ」
その場にいる全員が言葉を失う。始めから城にいたティアナも含めてだ。
この事実はアーシェラ女王のみが知り得ていた情報なのだろう。本来なら、博物館から物が盗まれた場合事件として情報が各地に回るはずであるが、状況から察するにこれは内密にされていたものであろう。
「おいおいなんだよそれ。じゃあクレスタの爺さんは泥棒ってことか!? どうしてそんな真似を……」
「そこまではわからない。クレスタ本人に聞かない限り……と言ってもそれは不可能な話。この件については現状推測の域を出ないから、もっと詳しく調べる必要がある」
一部が仮説とはいえ、荒唐無稽にも思える話である。しかし魔術書アリストのルーツと、それがクレスタの手によって盗み出されたという事実を踏まえれば、この考察が導き出されることも頷ける内容だ。いずれにせよ、クレスタ亡き今となっては、別の方法から情報収集しなければ解明される手段はない。
「話を進めるとしよう。ゆえに陸徒、貴方は自身が神剣ラディアセイバーをなぜ使いこなすことができるのか知っているか?」
本題の続きを始める前に、唐突にアーシェラ女王が陸徒へ質問を投げてきた。
「なぜって……そりゃ、これまでの話を踏まえた上でのものになるが、レクサスの生まれ変わりの空也と同じ血を引いているから、じゃないのか?」
「定石通りに考えればそう解釈するだろう。だが私は、その他にもっと重要な理由があるのではと思う」
「重要な理由?」
「根拠はない。なんとなくそう思っただけだ。これも色々と調べる必要がある。そして、私の言う偶然に起こり得たこととは、それだ」
女王の言う偶然に起こり得たこと。それは陸徒たち異世界の人間の能力開花。その大きな要因とされる、空也を除く陸徒、波美と喬介の3人が同時にミドラディアスに転送されてきたことだ。これについてはバサラ自身も語っていた。彼らはイレギュラーだと。
彼らがミドラディアスに転送された動きが原因となり、バサラの計略である魔族復活と空也の魔族化のシナリオは大きく狂うことになった。結果として双方の計画は阻止できず、現実のものとなってしまったが、この偶然は今後、世界を救うための大きな役割を担うだろうとアーシェラ女王は推察している。
また、陸徒がラディアセイバーを蘇らせた件、波美の格闘技と喬介の剣技。これは単なる能力開花だけでは留まらない、なにか特別な秘密が隠されているとも踏んでいる。
「ちょっといい?」
珍しくもここまで黙って話を聞いていたステラが、ようやくと口を開く。これより、情報を自分なりに分析した自称天才法術士の論述が展開される。
「話を聞いて色々と理解できたわ。アーシェラ女王の分析も的を得ていて、アタシでも同じ仮説を立てると思う。ただ、この話とは別にあることが気になったのよ」
「あること? それはなんだ」
「……竜族について」
女王を前に上から目線の発言は看過できないかもしれないが、ステラの口から出た意外な言葉に、全員が驚きの表情を見せる。
だがアーシェラ女王やティアナは、これまで様々な情報収集や分析をしてきた身であるが、別の視点から見た意見が出たことに関心を示しているようだ。
「なるほど、竜族か。確かにそれについては盲点であった。魔族が復活したことで、魔族に関する情報を中心に調査していたから、竜族の件には気が向かなかった」
竜族は、魔族と同じくして2000年前の戦争に現れたもうひとつの強大な力の存在だ。
実際このミドラディアスでも竜族に関する情報は少ない。太古から存在していたとされており、2000年前にレクサスと共闘し魔族と対抗した勢力だが、その存在理由や素性は未だ解明されていない。また、以前話にも出たように、彼らの肉体は死後朽ちることなく世界各地に亡骸が存在している。その調査をする学者もいるが、ほとんどが謎に包まれたままだ。
「竜族はこの地を守る太古の種族と言われているけれど、2000年前の戦争時にレクサスと共に突如姿を現したのみ。そして魔族との戦いで滅んでしまった」
「それが、この世界の歴史だな」
「そしてレクサスの生まれ変わりの登場と、魔族の復活。2000年前の出来事が再び繰り返されようとしているこの状況で、未だ竜族側になんの動きや兆候が見られないのは少し不自然と考えてもおかしくない」
「確かに。盲点だったとはいえ、あれだけこの件について調査してきたにも拘らず、竜族に関する情報は一切入ってきていないというのも妙だ。ティアナ、ただちに竜族について調査を始めるのだ。これはなにか重要なカギが隠されているかもしれない……」
「承知しました」
若年ながらも、ステラが頭脳明晰な人物であると見抜いたのか、アーシェラ女王は彼女の言葉に真摯に耳を傾け、要所でしっかりと返答している。
そしてステラの疑問を聞き入れるや否や、ティアナへ早速と命令を下し、竜族の情報収集に注力する意向を見せる。
「アルファードには優秀な術士がいるのだな。ステラと言ったか、非常に有力な意見を提示してくれたこと、礼を言うわ」
「い、いえ……別に、そんな……」
仲間の間では喧しいツンデレキャラ。先ほどまではそれに近い態度で、アーシェラ女王の前でも堂々と話していたにも拘らず、改めて女王から感謝の言葉をもらうと途端に慌てて身を縮めてしまった。感情の動きが面白い娘である。
「最後にだが、陸徒たちに頼みたいことがある」
ここで話が終わりかと思いきや、アーシェラ女王は神妙な顔つきへと戻り、陸徒たちに話を振る。その様子や表情から、なにかを案じているような緊張感が伝わってきた。
「復活した魔族の現在の動向についてだが、世界のとある3箇所の地域に集中して襲撃を繰り返しているそうだ」
「3箇所に、集中?」
「それらは私の良く知る場所だ」
女王の話はこうだ。
彼女は女王に即位してから3人の弟子を取った。その者たちは現在既に一人前として世界へ旅立ち、独自の研究に勤しんでいる。研究の内容とは……魔術を超える術の開発だ。
歴史の記録やこれまでの調査によると、魔族は武器による物理攻撃ではダメージを与えにくく、魔術が最も有力であるとされている。つまり、魔術を超える術の存在を恐れて、魔族はアーシェラ女王の弟子が居住している地を襲撃しているのではということだ。
「その魔術を超える術は3種。ティーダが研究している、色の持つ力を具現化させる彩術。もうひとつはココアが研究している、花の持つ神秘の力を操る華術。そして最後がソアラの研究する、宝石に秘められた力を使う珠術だ」
「彩術に、華術と珠術。それが魔術を超える術ですって? そんなもの本当に存在するの?」
一時は身をすぼめていたステラだが、息を吹き返したかのように早速と未知の術に興味を抱く。
「城を出て行く前はまだ研究段階であったが、現在はほぼ実用化の域まで達していると、3日前に報告を受けている。だがそれ以来彼らとの連絡が途絶えてしまい音信不通の状態だ」
「なるほどな。事のつまり俺たちに頼みたいのはその、あんたの弟子3人が無事であるか確認。そして助けてほしいと」
話の流れと状況から察して、陸徒からアーシェラ女王の依頼内容が口頭される。
「そうだ。皆私の見込んだ者。そう簡単に死ぬような輩ではないが、連絡が取れない以上直接確認する以外方法はない……」
弟子たちのことを信じているが、案じている想いがアーシェラ女王の言葉の節々から十分に察することができた。無論、陸徒側としてもそれを断る理由などなかった。
「いいぜ。その任務引き受けた。みんなも構わないよな?」
「別に。新しい術とやらがなんなのか気になるしね」
「術に関しては良くわからないけど、魔族が邪魔をしているってんなら行くしかないな!」
「異存ありません」
「魔族なんて、みんなで行けば怖くない。頑張りましょ~」
(…………?)
陸徒は思わず、最後の発言をした人物へ振り向きざま、怪訝な表情をしながら言葉を発する。
「……シルフィさん、あんた付いて来る気か?」
「あぁ、陸徒。シルフィは引き続き、お前たちと同行させることにする」
それに対するアーシェラ女王の返答を耳にした途端、陸徒は半ば落胆するような反応を見せる。その理由は彼の心情から伺えた。
(マジかよ……。俺この人苦手なんだよなぁ。アーシェラ女王も厄介者を押しつけるかのような言い方だし。まぁ会話をしているだけで気力が奪われていく感じだしな)
更には女王の意図が厄介払いであると裏づけられる情報を聞かされる。
「ちなみにだが、エルグランドの人間とはいえ、シルフィが城に仕えたのは1年前からだ。ゆえにそれ以前から旅に出ている私の弟子たちとは全く面識がない」
こればかりにはアーシェラ女王を確信犯と思わざるを得なかった。
斯様にして、ここエルグランドへ来る前までは一時的にパーティーに加わっていたシルフィが、残念なことに正式に仲間となった。
残念というのはとりわけ陸徒たちにとっては、と言う意味であるが、なぜかと言うと非常に絡み難い奇特な性格と、宙に浮いた口調で周囲のテンポを狂わせる大きな要因であるからだ。
加えてステラが誘拐されたあの夜、ドヘルズペインの大群を退くために使用した木属性最上級の魔術も、敵味方問わず無差別に攻撃する恐ろしいものであった。あの時はやむを得ない状況だったとはいえ、それを躊躇なく平気で使用するような人間は、今後も仲間を危険な目に晒す可能性が十分に考えられる。従って注意が必要だ。
と、散々彼女の悪いところばかりを挙げてしまった折ではあるが、魔術士としての能力だけはアーシェラ女王も認めるほどの実力者だ。言い換えれば、それがなければわざわざ魔信教団本部に単身で派遣させることなどしなかっただろう。空也が抜けてしまった今、魔術士が仲間に加わるのは戦力の補填として純粋にありがたい。
一行は旅の疲れを癒すために城で一晩を過ごす。
翌朝を迎え、準備を整えた者から順次1階の大ホールに集合する。その際、皆がお互いの姿を確認するなり驚きの反応を見せていた。
理由は、アーシェラ女王が魔族対策にと、魔法防御に優れた装備を各自の部屋に用意していたからだ。よって、シルフィを除いた各メンバーの防具が幾つか変更されている。
陸徒はジャケットアーマーがより丈夫で軽量化されたものに変更され、腰にガードベルトと剣を納めるホルダーが追加された。
シルビアは肩や腰に装着されている既存のガードプレートを、属性ダメージを軽減させるエスティマ合金に変えられ、インナーもより強い素材の物になった。相変わらず胸の部分を隠さず、大きな二つの山が露出したような外見だ。それを横から不機嫌そうな表情でステラが見ていた。
彼女は齢12とはいえ、幼児体型はまだ脱していない。スタイルの良いシルビアやシルフィを時折羨ましそうに眺めていたりもする。年齢的にまだ気にすることでもなかろうと思うが、これも女心と言うものか、それに特化して鈍感な陸徒にとっては理解し難い事柄であろう。
話が少々逸れてしまったが、そんなステラの着ているローブも新しい物へと変更されている。カラーリングは従来と同様白を基調としているが、随所に抗魔力の強い珠や糸が施されており、腕には法力の消費を軽減させる護符が装着された。
モコには、エルグランドが誇る魔騎士隊が使用する最高の鎧が与えられた。彼女の戦闘スタイルに合わせ、身軽さを追求した素材の物だが、物理、魔法防御共に優れた防具となっている。
シルフィの装備が変更されていない理由は、元々彼女の着ているドレスが、ルーンシルクの中でも最上級で貴重な糸によって作られた、非常に強力な代物であるからだ。その上敏捷性や回避性能を高める風の力が込められている。
魔信教団本部にて、アークデーモンの攻撃を自身の体を移動させるように回避したことや、ドヘルズペインの森から脱出した際、全速力で走ったにも拘らず、疲れた様子を見せていなかったのも、そのドレスのおかげであったと言うわけだ。
心機一転で準備が整った一行は、これよりアーシェラ女王の弟子たちのいる場所へと進行する。




