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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
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第65話「ほんわか魔術士お姉さん現る」

 万事休すと、ピンチに陥った陸徒達の所へ突如現れた謎の女。はっきりとした姿を視認できないままも、その状況に似合わぬおっとりとした口調で話す不思議な人物だと思っていた矢先、目を見張るほどの強力な魔術を放ち、アークデーモンたちを瞬く間に全滅させた。


「な、なんだったんだ今の。あいつらを一気に全滅させちまったよ……」

「あれも光属性の術。確か中級レベルのものよ。相手の弱点属性とはいえ、あれほどの威力を発揮させていた。あの女、相当な魔力の持ち主ね」


 シルビアが驚愕しながら声を漏らす中、ステラは冷静に対象を見据えながら状況の説明をする。他の面々も吊られるようにその先へと視線を戻すと、女は既に彼女たちの方へ歩み寄って来ていた。

 顔や姿が明瞭する位置から確認。見た目は年相応の若い大人の女性で、推定年齢は20代後半だろうか。マスカットのような明るい浅緑色の髪を腰の位置まで煌びやかに伸ばし、服装は白と深緑を基調としたワンピース。胸元がくっきりと開いており、雪のように透き通った白肌の柔らかな双丘が強調され、惜しげもなく色気が放たれていた。

 右手には黄暖色の表紙に包まれた分厚い本を持っていた。既出の行動から、それが魔術書であることが容易に判別できる。


「ごめんねぇ。ちょっと手間取っちゃって。みんな無事だったかしらぁ?」


 充分なほどに色っぽさを感じさせる容姿からは想像に難い脱力感のある口調だ。これがいわゆる喋ると残念な人の見本であろう。


「まぁ一応アタイらは無事だ。戦いでのダメージはあったが、ステラの法術があるから問題ない」


 シルビアが淡々と応対すると、すかさずステラが怪訝さを含んだ神妙な面持ちで、女に近づき口を開ける。


「さっきは助けてくれてありがとう。とだけは言っておくわ」

「いいえ、どういたしまして」


 尖った態度を露わにしながら最低限の礼儀を始めに済ますステラに対し、斯様な不愛想さを全く気にも留めず、女は屈託のない笑顔で応える。

 その反応に少し調子を狂わせそうになるも、ステラは構わず話しを続けた。


「大体アンタは何者なの? どうしてアタシたちを助けたの? ちゃんと説明しなさいよ!」


 陸徒とほぼ同じ背丈である長身のスレンダーに対し、つま先立ちまでせんとばかりに精一杯身体を上に伸ばし、胸を張りながらステラは人差し指をビシっと相手の顔に向けて態度を大きく見せる。


「あらぁ。私のことなにも聞いていなかったのかしらぁ? でもごめんねぇ、自己紹介が遅れてしまったわね。私はシルフィ・ティンバーレイク。エルグランドからアーシェラ女王の言いつけで、貴方たちの助っ人に来たのよぉ」


 シルフィと名乗った女の言葉に一同が強く反応を示す。それもそのはず。ここ魔信教団本部へ潜入する前に、伝心石でシェリルとの会話のやり取りをした内容を思い出したからだ。


「確かに、あの時王女さんがそんなことを言ってたな。でも誰かさんが合流を待たずに作戦を強行したんだっけか」


 ニヤニヤと厭らしい顔をしながら、シルビアが揶揄うようにしてステラの方へ視線を流す。


「うるさいわね! そもそもアンタたちだって同意してたじゃないの! それに助っ人なんかいなくたって、ちゃんとここへ入って来られたじゃない」

「でも、現にさっきまで私たちはピンチだった。この人が助けてくれなかったら危ないところだったわ」


 顔を真っ赤にしながら体に力を入れて、言い訳とも取れる反論を返すステラだが、咄嗟にモコが口を差し込んでくる。必要以上に会話をしない彼女も、いざという時に鋭いツッコミを繰り出す。


「結果オーライだったけど、無茶はしちゃダメよぉ」


 何度聞いてもこの話し口調はリズムを狂わせる不協和音のようだ。3人が軽い揉め事を起こしていたのをすぐさま中断させた。

 そこへ突然、鈴の音が鳴り出す。これは聞き覚えのある音。伝心石からの呼びベルだ。


「!! 伝心石が鳴ってる。きっとシェリル様からだわ! ちょっと陸徒貸しなさい!」


 早速とステラが反応して、強引に陸徒のジャケットにしまっている伝心石を取り出す。とはいえ、当の陸徒は未だ空也を失ったショックにより意気消沈したままであるが。


「もしもしシェリル様っ!?」


 ステラは手に取った伝心石を上下に振り、通話状態へと切り替える。そしてすぐさま輝かしい笑顔と大きな声で応答する。

 ところが彼女の期待通りの展開は起こらず、今回の通話相手はシェリルではない他の人物であった。


「っく、いきなりなんなの耳障りな声で!」


 なんとその声はアーシェラ女王であった。開口一番ステラの大声に対し文句を言う。当然の反応である。


「あらぁ。アーシェラ女王ですかぁ?」

「え、うそ……エルグランドの、女王様!?」


 言葉を発しながらシルフィが伝心石を持つステラへ歩み寄る。それを聞いて気づいたステラは慌ててシルフィに石を渡し、相手を間違えてしまった恥ずかしさと、アーシェラ女王に対して失礼な態度をとってしまったことへの後悔で、顔中汗だらけとなって皆から背を向けた。

 穴があったら入りたい。ステラの思いは今それ一色であろう。彼女も城に仕えている身。他国の女王への敬意は少なからず持っているようだ。

 そんなうっかり法術士娘の様子を特に気にもせず、シルフィは淡々とした態度で伝心石を口元に添えて、アーシェラ女王との対話を始める。


「もしもしアーシェラ女王ぅ、ご機嫌いかがぁ?」

「シルフィか。その様子では無事陸徒たちと合流できたようだな」

「はぁい。アルファードのシェリルちゃんから聞いていた通りの可愛い子たちねぇ」

「ちゃん……だと? 貴女、王女とはいえ今は国の全責任を負った国王代理だぞ。斯様な呼び方はやめなさい」

「え~あんな可愛い子なんだもの、シェリルちゃんでいいじゃない」

「はいはいわかったわかった。貴女と話していると調子が狂う」


 あの沈着冷静で毅然とした態度であったアーシェラ女王が押されている。このシルフィという女、侮れない。

 アーシェラ女王は気を取り直し、現在の状況説明を乞う。本来であればリーダーである陸徒が、と言うところではあるのだが、今はとてもではないがそのような状態ではない。適任であるステラも先ほどのしくじりですっかり身をすぼめてしまい、戦闘不能も同然だ。シルビアは人に説明をする役割は不向きであるため、ピンチヒッターの如く選出されたのはモコだ。

 彼女たちがここへ来る前に、バサラから陸徒が聞かされた話、空也が魔族化した経緯の詳細及び異世界組がミドラディアスへやって来た本当の理由については、まだ知り得ていない為、それ以外の状況をモコは淡々とアーシェラ女王へ報告する。


「…………私が知る限りでは以上です。空也のことについては陸徒さんが詳細を知っていると思いますが、残念ながら今はとても話せる状態ではありません」


 普段は無口であるモコも、このような場面では違和感を抱くほどに流暢に話す。これだけで半年分の口語数は消費したのではないだろうか。


「そう。とりあえず事情は理解した。詳しい話は陸徒の調子が戻ってからね。そこで、全員の今後の動向についてだが、一先ず我がエルグランド城まで来てもらいたい。シェリル王女には私から伝えておく」

「えーっ、せっかくエリシオンまで来たばかりなのに、もうトンボ帰りなのぉ?」

「貴女は黙っていなさい! 兎に角、陸徒の様子を見ながらで構わないが、なるべく早く来てほしい。宜しく頼むわ」

「はい。承知しました」


 アーシェラ女王より次なる行動指令を受け、ここで通話を終える。

 未だに陸徒は抜け殻のように心を閉ざしたままだが、一行は魔信教団を後にし、エリシオンを出国してエルグランド城を次の目的地とする。


「……空也」


 陸徒は自分自身でも聞き取り難いほどの弱々しい声で弟の名を呟いた。これから先、俺はどうすればいいのだろうか。魔族となり、自分の元を去ってしまった空也を救うことができるのだろうか。

 一寸先は闇。陸徒の心の中は絶望の文字で埋め尽くされていた。



 耐え難い悲劇の翌々日。アーシェラ女王の命令通りエルグランドへ出発する。

 1日余分にプレサージュの街を滞在したのは、最低限の状態まででも陸徒を回復させるためだ。その対処に最も献身的に動いていたのは柄にもなくステラであった。その成果もあってか、本調子とまでは行かずとも、陸徒は幾分か心も落ち着き、会話はさほど問題なくできる程度まで立ち直りを見せた。とはいえ、感情のテンションを上げるまでには難しく、表情の変化も乏しい。言うなればモコが2人いる状態だ。

 宿屋のロビーにて出発の準備を整えている最中、ソファに座りながら身支度をしている陸徒にシルビアが近寄ってくる。


「陸徒、調子はどうだ?」


 彼を案じ、軽やかな口調で声を掛ける。初めて出会った時は彼にとって色々と気に入らない人物だっただろうが、それもすっかり払拭され、今となっては信頼し合える仲だ。

 戦いでも優れた実力の持ち主で、メンバーの中でも一目置く存在でいる。しかし、誰が見ても思うことだろうが、相変わらず不必要なほどに豊満な胸はどうにかならんものか。


「あぁ。あの時よりは随分と良くなった。これもステラが診てくれたおかげだ」


 シルビアに応答しつつ、彼の向かいのソファに座っていたステラに対し礼を言う。


「バ、バカうるさいな! 別に、感謝されるほどのことなんてしてないわよっ!」


 あからさまにも必死に照れ隠しをして顔を背けるステラ。この極端なツンデレも面白いほどにわかりやすい。言葉の要所にトゲがあったり、自分の思ったように行動する天真爛漫な子だが、自称天才と言うのもあながち過剰ではないと思えるほど法術の能力に長けている。それだけでなく、様々な分野における知識の豊富さは、パーティーのブレーン役であり、今やメンバーに欠かせない存在となっている。


「陸徒さん、チェックアウトの手続きが完了しました」


 モコがフロントで宿泊費の支払いを済ませ、ロビーへやってくる。ステラとは対となりえるほどに無口で感情の表現が希薄である彼女だが、与えられた仕事はそつなくこなし、戦いでも常時冷静で様々な判断力に優れている。扱いの難しい性格ではあるが、超能力という特異性と、周囲の状況を瞬時に見極め的確に行動する対処能力は抜きん出ている。


「ふわぁ~。昨夜は十分に寝たはずなのに、なんだか眠いわねぇ」


 さて、今回新たにひとり、シルフィという女魔術士が加わった。本人は何食わぬ顔で彼らに溶け込んでいるようだが、エルグランドからの助っ人であることと、これよりそこへ帰還するため、自ずとパーティーに参入している。

 教団本部内で出会った時の会話のやり取りで、彼女がどのような人物なのかある程度は見えたが、第一印象は正直なところ、変な人と思わざるを得ない。大人の色香を漂わせる艶っぽい外見からは想像し難いほどの、おっとりとした脳天気な性格。一度会話を始めれば忽ちに相手の歩調を狂わす特異能力を持つ。あのアーシェラ女王でも扱いに苦しんでいたほどだ。

 しかし、アークデーモンとの戦いで2度見せてきた魔術の力は相当なものであると伺える。肉体を再生したことで、シルビアたちの戦闘力を上回った魔族のしもべを、一瞬の内に消して殲滅させたあの光属性の術は、今思い出しても鳥肌が立つものであろう。


 全員の準備が整ったことで、一行は早速と宿を後にする。エルグランド領地へ向かう方法としては、以前プリウスの魔石捜索時に使ったルートをそのまま戻るかたちとなる。

 果たして、アーシェラ女王がエルグランドへ陸徒たちを招集させる意図はなんなのであろうか。

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