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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
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第62話「失われし人の心 前編」

 シルビア、モコ、ステラの3人がそれぞれの刺客と対峙し奮闘する中、陸徒と空也は彼女たちとの合流と、教団本部の中枢を目的に先へ進む。

 陸徒と空也のみが、どういうわけであるか幻術が実体化する前に壁を通過することができた。これが偶然なのか必然なのかは時点ではわからないが、この先に待ち受けているであろう者と相対すれば判明するはずだ。その者は魔信教団リーダーのデオルか、はたまた別の者か……。

 しばし廊下を歩み進めばそこには扉があり、開けた先にはおそらくこの教団本部のメインルームであろう広いフロアに出る。というのは過去にここを訪れた情報によるものだが、今回も再び来訪者を惑わす障害が待ち受けていた。


「あれ、行き止まり?」


 足早に前方を歩く空也がある異変に気付き、指を差し示す。廊下の奥にある扉の位置には、先に進む方法はなく、目の前には壁が立ちはだかり行き止まりとなっていた。


「まさかこれも幻術なのか?」


 そう言いながら陸徒は壁に手を触れる。しかし先のようにフワっとした感覚で壁の中に体が入る、などという現象は起こらず、少々湿り気のある冷めたい感覚が掌に伝わる。そこにあるのは紛れもない本物の壁であった。

 ここで手詰まりかと思いきや、突然空也が大胆な行動に出る。


「ちょっと兄ちゃん離れてて」


 突拍子な空也の言葉に、陸徒は状況が読めず困惑の表情を見せている。ひとまず言われるまま壁から十分な距離を取って離れ、空也の動きを観察してみることに。

 直後、空也は徐に魔術書を取り出して、魔術を唱え始める。


―荘厳なる地より生まれし精よ、万物を押し潰す巨岩となれ―

壷燐岩ストーンフォイル!」


 発動させたのは地の術。これは確か、風の谷にて陸徒達の邪魔をしてきた際、クレスタと対峙したアーシェラが使用していたもの。巨大な岩を出現させて敵を圧し潰す術だ。

 今回出現したものは、スイカを一回り大きいサイズにしたような形の岩が数個。既知のものと異なる光景に一瞬困惑する陸徒だが、それは空也の意図が反映されたものだとわかる。

 岩が現れた直後に、次々と行き止まりの壁に当たっていく。鉄球に破壊されるようにして、轟音を立てて瞬く間に壁を粉々に砕いた。

 従来の仕様としては、前述の通り巨大な岩を生み出すのだが、魔力のコントロール次第では岩のサイズ等、術の強弱を調整できるのだ。これも相応の技術を要するようではあるが、解錠術を会得した空也にとっては最早この程度は朝飯前である。

 随分と成長したもんだ。もう安心して戦いを任せられるのかもしれない。と、その様子を見ながら心の中で頷く陸徒であった。


「ほら! やっぱり壁の先が繋がっていたよ!」


 陸徒が弟の成長ぶりに感心していると、破壊した壁の向こう側を指差しながら空也が声を掛ける。

 風穴を開けた壁の先からは、隣のフロアからの光が差し込む。そこから垣間見える異様な光景に、並みならぬ予感を抱きながら、ふたりはゆっくりとそこへ足を踏み入れた。


「げ、なんだよこれは……?」


 フロアそのものは以前見たものと同じ、教団のリーダーデオルと対面した場所だ。


「うっひゃ~、教団の人たちがいっぱいいる!」


 今回は状況が狂気じみたものとなっていた。空也の言葉通り、そこには大勢の教団信者達がフロアの壁沿いいっぱいに列を正しくして並んでいたのだ。


「ようやく到着したか」


 陸徒と空也が目を丸くし、唖然としながら周囲を見渡していると、フロアの中央部から突然声がする。

 すぐさまそこに視線を移すと、立ち並ぶ信者の影からふたりの人物が姿を現す。


「て、てめぇはっ!!」


 どちらも見覚えのある人物だった。片方はリーダーのデオル。先ほどの声の主だ。そして驚くべきはもうひとり……。


「久しぶりだな。とでも言っておこうか」

「バ、バサラ……!」


 スカイラインにて、強大な力で陸徒たちを全滅寸前まで追い込み、魔族の復活を実行した張本人。冷酷なる蒼白の男、バサラであった。


「信じ難いような顔をしているな。せっかくだから話してやろうか……」


 バサラがここにいるということ。それはザルディス王子の生死について、結果を知らせる意味を示していた。その予感に戦慄する陸徒の顔を見ながら、バサラは不敵な笑みを浮かべて、スカイラインでの最後について話し始めた。


「あの電撃を操る騎士……中々の相手だった。おかげでディアブロを失った。だが奴も魔族の端くれ、人間如きにやられまいと、最期にあの騎士を道連れにと刺し違えた」

「な、なんだって!? じゃあ、ザルディス王子は……」


 蒼白の言っている話が真実であるか確証はないが、虚言を吐いているとも考えにくい。現に本人がこの場にいることがその裏付けとして十分に考え得る状況であった。


「その後、ラディアセイバーを持つ貴様を始末しに行こうかとも思ったが、もうひとつの目的も兼ねて、楽しみは取っておこうと思ってな」

「てめぇなにを言ってやがる……。それにもうひとつの目的って何だよ」


 怪訝な表情の陸徒に対し、バサラは鼻で笑い返すと、始めに陸徒の方を向いていた視線が徐々にある方向へと移っていく。


「貴様ら以外の部外者を幻術の通路に閉じ込めたのは我だ。なぜなら用があったのはラディアセイバーを持つ貴様と——」

「えっ、な、なに……?」


 その方向とは空也であった。意表を突かれたことに戸惑う空也の表情を見ながら、バサラは彼へ次々と質問を投げていくと、最後に誰もが予想だにしなかったある内容を口にする。


「貴様は、最近体に異変を感じたことはないか?」

「い、異変? 別に……時々頭が痛くなったりするくらいだよ」

「そうか。他にはないか?」

「…………」


 空也は唐突に息を詰まらせて下を向く。


「……左腕に黒い痣ができてはいないか?」

「!!」


 バサラの言葉に空也は大きく反応を見せた。もしやと思い、隣にいた陸徒が彼の服の袖を捲って左腕を確認する。


「空也……これは?」

「し、知らないよ! いつの間にかこんな痣ができてたんだよ。痛くも痒くもないのに全然消えないんだ」


 空也の左腕には、打撲の時に出来るような青痣とは言い難い、かさぶたに似て黒く、野球ボールに似たサイズの不気味な痕があった。


「いつ、この痣に気づいた?」

「……多分、アルファード城で目が覚めた時かな」


 タイミングとしては、嶺王火山でクレスタが死に、空也が暴走したあたりだろう。その後彼は気を失い、アルファードへ到着した翌日に目が覚めた。本人が痣の存在に気づいたのはその時だ。

 バサラはなぜ空也に突然その痣ができたのか、痣の示す意味はなんなのか、全てを知っている様子だ。この不可解な状況にたまらず陸徒がバサラへ問い詰めると、冷徹な男は口元で一瞬笑いを浮かべ、空也を見下すような表情で驚くべき一言を放つ。


「……そこの魔術士の少年は、真正なる魔族の後継者だ」

「な、なにを言い出すのかと思ったら、笑えねえ冗談だぜ。空也は俺の弟だ。正真正銘の人間だ! 魔族の後継者とかふざけたことぬかしてんじゃねぇよ!」


 余りにも荒唐無稽だと思える話に、陸徒は真っ先に全否定する。だが発言したバサラ本人はそんな態度の陸徒には一切目もくれず、視線はただ空也の方だけを向いていた。


「ま、そう勝手に否定していれば良い。当人はそれどころじゃないようだがな」


 否定をしていながらも、妙な胸騒ぎを感じつつ、バサラの言葉にハッとして、陸徒は弟の表情を伺うと——。


「に、兄ちゃん……あ、頭がっ! 頭が、凄く痛いよ……!!」

「空也! 大丈夫か!? 一体どうしたってんだ?」

「……始まったか」


 バサラは狙っていた宝物を手に入れた時のように、待ち侘びた顔で空也を見つめている。


「バサラっ!! てめぇ空也になにをしやがった!?」

「我はなにもしていない。ただ、時が訪れただけだ。しかし、なにも知らないというのは実に鬱陶しいものだな。まぁいい、せっかくだから話してやろう」


 質問攻めの陸徒に逐一回答することに飽きたバサラは、少し間を開けて語り出す。そして開口一番、更に驚愕の内容を口にした。


「その少年にはもうひとつの秘密がある。それは、かつて2000年前にこのミドラディアスを救った少年レクサスの生まれ変わりだということだ」

「!! ど、どういう意味だよ……それ」


 これより、バサラの口から様々な真実が語られる。

 

 陸徒たちがこのミドラディアスに飛ばされてきた理由は、他でもない空也が原因だった。

 2000年前に起きた戦争に終止符を打った少年レクサスは、その後忽然と姿を消した。というのは以前にも聞かされた周知の史実。一体どのようにしてレクサスは戦争を終わらせたのか、それは彼が自らの命と引き換えに、神剣ラディアセイバーの力を解放して魔族を封印させたからだ。

 その後レクサスの魂は、なんらかの理由でミドラディアスではない世界……つまり、陸徒たちの住む世界に飛ばされることとなる。そして戦後から2000年の時の経過が近づいて来た頃、レクサスの魂はその世界に誕生する少年に宿り、生まれ変わった。再び訪れようとされるミドラディアスの危機を救う為……。


「その、少年が……空也だってのか……?」

「そうだ」

「仮に、それが真実だったとしても、どうして空也が魔族の後継者なんだよ!?」


 戦争を終わらせたあの時、確かに全ての魔族がレクサスの手によって葬られた。だが、彼の魂に紛れ、ひとつの魔族の魂も陸徒たちの世界にやって来たのだ。

 その魂は生まれ変わることはなかったが、こちらの世界にあるゲートクリスタルが埋もれている山を彷徨い、復活の時を虎視眈々と待ち潜んでいた。

 それから時は経ち、人々はその山を採掘して芦羅鉱山を造る。そして、陸徒たちがミドラディアスへ飛ばされるひと月ほど前、空也は学校の社会科見学で鉱山を訪れる。

 当時はまだゲートクリスタルは発掘されていなかったが、その近くを通った空也に、魔族の魂が反応する。少年レクサスの力を持つ者と知っていた魔族の魂は、ミドラディアスで救世主として覚醒することを阻止すべく、空也の体に乗り移ったのだ。


「俺たちの世界で、そんなことが知らずに起きていたのか……」

「さて、ここからはもっと面白い話をしてやろう」


 本来は、少年レクサスの生まれ変わりである空也だけが、ミドラディアスに転送され、世界を救うというシナリオだった。しかし、魔族の魂が乗り移ってしまったことにより、レクサスの力が妨害され、魔族化のシナリオへと改変されてしまう。だがその歯車を狂わせるイレギュラーも同時に発生していた。

 それは、陸徒と波美、喬介の召喚だ。

 ゲートクリスタルは、空也をミドラディアスへ送るために時を待っていた。そしてあの夜、芦羅鉱山で空也がクリスタルに触れたことで反応し、転送シークエンスが発動される。その時に、陸徒と波美、喬介の3人も同時に転送してしまったため、クリスタルがオーバーフローを起こして砕けてしまった。それが原因によって転送先も異なる場所となってしまう。

 陸徒と空也、波美はアルファード領地のエッセの森。喬介はエルグランド領地へと飛ばされた。

 喬介が召喚された場所には魔族の生き残り、ヴェロッサがいた。魔族化のシナリオとは、空也がその場所へと現れ、衰弱していたヴェロッサと接触することで空也を覚醒させるのが目的だった。それが、喬介の手でヴェロッサが倒され、計画が妨害される結果となる。

 空也の覚醒に失敗、更にその空也本人の居場所も不明。バサラは、空也がレクサスの力を目覚めさせぬよう、ラディアセイバーを破壊すべく、ブラッディオーガをアルファード城へと送り込んだ。しかしそれは、陸徒がラディアセイバーを復活させ、倒したことによりまたもや失敗となる。


「あの時、アーシェラ女王の言っていた話と辻褄が合う。やっぱりその話は本当なのか?」

「……作り話をする意味などなかろう」

「それと、俺がラディアセイバーを復活させることができたのは、レクサスの生まれ変わりである空也と同じ血を引いているため、同じ力を持っていたってことか」 

「これは流石に我も誤算だった。だが、オリジナルの空也の力とは程遠い。所詮貴様は代わりの人間……偽物だ」

「くっ……」


 陸徒へ薄情な言葉を吐き捨て、バサラは更に話を続けた。


 これ以上計画に狂いが生じるのを懸念したバサラは、まずは魔族の完全復活を先行すべく、プリウスの魔石を集める手段を実行することにした。

 バサラは魔信教団を使い、アルファード王をそそのかして陸徒たちにプリウスの魔石を集めさせる作戦に成功する。その最中、彼らが順調にプリウスの魔石を集めるも、肝心の空也を探し出せずにいた。

 だがその時、最後のプリウスの魔石を手に入れるため、フレイバルディアと戦っていた陸徒たちの姿を目撃する。そこで、クレスタの死によって怒りと憎しみが頂点に達し、魔族化へのスイッチが押された空也の存在に気づいたということだ。


「……以上だ。真実を知ることができて、少しは頭がスッキリしたであろう?」


 したり顔で陸徒を見下げ、両手を仰いで高らかと笑いをしてみせるバサラ。

 陸徒は当然ながら、この話をすぐに受け入れて信じることなどできずにいた。しかしそれも、あれが起きるまでのほんの束の間に過ぎなかった……。

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