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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
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第60話「サイキックナイト」

 場面は変わり、モコも同じくして深淵のような暗闇の通路を歩み進む。

 シルビアは自身の武器である炎の剣を発火させ、松明の代わりとして周囲を明るく照らしていたが、モコはそのような手段を持ち合わせていないため、時折壁に顔面を激突させたりとドジを見せる。具合からして案外痛そうなのだが、本人は特になにもリアクションをせずデフォルトの無表情のまま。傍から見れば不気味であることこの上ない。

 進行と共に時間も経過し、モコも徐々に闇に慣れ始めてきた頃合い、前方に扉があるのを確認する。シルビアの時と同じパターンだ。状況からして警戒しながらの行動を取るべきだろうが、モコはまるで普段から通り慣れたような場所であるかの如く、躊躇いや考察を一切せず早々と扉を開ける。


「…………」


 中へ入るなり目だけをくるりと動かして内部の確認をする。

 随所に蝋燭が燈された明るい空間の広々としたホール。シルビアが訪れたものと全く同じ場所が展開されていた。


「!!」


 モコは咄嗟になにかに反応すると、すぐさま床を蹴って後方へ移動する。その瞬間、上部からあるものが降ってきた。

 爆発音にも似た音を立てては、始めにモコの立っていた位置の石床を砕いて砂塵が巻き起こった。やや眉をひそめながらモコは塵に隠れたモノを凝視。次第に視界が晴れてくると同時に、降ってきたものの正体が判明する。

 鈍色に薄い煌めきを放つ斧がふたつ。床を砕いて数十センチほどめり込んだ状態でそれは存在していた。良く見ると通常の斧よりも柄が非常に短く、片手ひとつ分の寸法程度であった。先端からは頑丈そうな長い鎖で繋がれており、それを辿った先にひとつの大きな影が見えた。


「ほぉ、中々いい反射神経してるじゃねーか」


 その大きな人影のものである、低く野太い声が聞こえてきた。

 シルビアの時と同じく教団の人間と思われるであろうが、長身に加え、教団のローブが非常に似つかわしくないほどに筋骨隆々の体つきをしている。褐色の肌を皮脂と汗で照りつかせ、短髪と髭面というガチムチマッチョ男のフルセットといった容姿だ。


「…………」


 斯様な相手が現れようともモコは特にリアクションを見せず、ひたすら前方を見据えているだけ。その先には男がいるのだが、男と言うより通り越してホールの奥を見ているような視線だ。奥にはここの出口と思われる扉がひとつ。

 ここをさっさと抜けたい。無表情な少女にはその意が見て取れ、男は眼中にないようだ。そのモコの心情に気づかないまま、男は勘違いの傲慢発言を繰り広げる。


「さっきの攻撃に驚いて言葉も出ないようだな。へっへっへ、よし特別に教えてやろう。俺様は魔信教団幹部のひとり、巨山のラグレイト様だ!」

「……別に、聞いていないわ」


 対するモコは、ようやく口を開いたかと思えばお得意の冷めたリアクション。


「てめぇ、生意気なガキだな!」


 額の血管をピクピクと躍動させ、怒りを露わにするラグレイト。斯様な血の気盛んであるサウナ系の暑苦しい男には、モコのような淡白を極めたキャラクターはとても癇に障るのだろう。

 早速と筋肉ダルマは行動を起こす。両腕に力を入れ、手前へ引き込むと、数メートル先の床に刺さったふたつの斧が動き出す。そして鎖が軋む音と共に本人の元へ戻ってきた。


「あの時は運良く避けられたようだが、次はそうはいかんぜ!」


 ラグレイトは戻った斧を掴んで攻撃の体勢を取る。この男、腕に巻かれた鎖を斧に繋いで投擲の遠距離攻撃を主体とするタイプだ。モコのように超能力で武器を操ることはできないにしろ、鍛え上げられた巨体と腕力で、重量のある斧でも自在に操ることが可能のようだ。

 戦闘は必至。モコも状況を読んでそれは承知の上だ。ラグレイトに続いて、腰に装着していた飛翔刃チャクラムベリーサを手に取って構えた。


「やはりてめぇも投擲か。だが、この俺様の剛天斧ネビュレイドヴォルツの前では、そんなちっこい武器なんぞ相手にならんわっ!」


 言い終えると同時に、右手に持った斧をモコ目掛けて投げつける。これより2人の戦闘が開始された。

 ラグレイトの強靭な腕力と斧の重量が相まって、物凄いスピードで迫りくる。だがモコは初手の攻撃と同様に、寸でのところで後方へ広く飛んで回避した。鎧に身を纏った身体であるにも関わらず、敏捷性の高く軽々しい身のこなしだ。

 回避後すかさず、跳んだままの滞空中にチャクラムベリーサをひとつ投げつける。綺麗な弧を描きながらラグレイトの右側へ急接近。右手の斧は先ほど投じた場所の床に刺さったままのため、鎖に繋がれている故にガードが空いた状態だ。モコの攻撃はそこに狙いを定めたものだ。


「目のつけどころはいいがな、甘いっ!」


 しかしラグレイトはモコの策を読んでいたのか、背中を軸に体を反転させて左手で持つ斧を使い、飛んできたチャクラムベリーサを弾き飛ばした。と、思いきや——。


飛天フライト!」


 筋肉ダルマの斧と接触する直前で、円盤が突然動きを変える。モコが右手を虚空に掲げて掛け声を発すると、円盤は方向転換をして上昇したのだ。


「な、なにっ!? クソッ!」


 不意を突かれた現象にラグレイトは一瞬驚きふためく。だが即座に力を入れてなにかを引きぬくような動作をすると、先ほどモコの攻撃に放っていた斧を手元へ引き寄せ、鎖を操ってそのまま斧を上空へ振り上げた。鎖で繋がれているとはいえ、よくも重量級の武器を軽々と扱えるものだと感心する。

 感想はさておき、ラグレイトの機転によって、真上で飛ぶチャクレムベリーサを弾いた。乾いた金属音を鳴らし、円盤は糸の切れた操り人形のように床に落ちた。


「……!」


 一手の返しは想定内。であるからモコは相手の手前でチャクラムベリーサを上昇させるフェイント技を繰り出し、死角となる上空から攻撃する戦法を取ったのだろう。だがそれを力技で塞がれてしまった。野蛮な行動ではあるが、思った以上にできる相手だと判断したのか、いつもの無表情なモコは隠れ、手加減は不要と真剣さが増す。

 しかし相手に意外性を感じていたのは彼女だけではなかった。


「てめぇ、どうやって武器を操った?」

「……超能力」

「超能力だぁ?」


 超能力が市民権を得たのはアルファード王国内での話。この男は超能力そのものにまだ馴染みがないのだろう。モコの発言を子バカにするような反応を見せた。

 それに対し僅かではあるが、モコは苛立ちにより眉間にシワを寄せる。そしてそのまま超能力が本当であることを証明させるかのように、ラグレイトの斧に弾かれ床に落ちていたチャクラムベリーサを操作して自分の元へ戻す。

 ゆっくりとひとりでに動いては宙を浮きながら、主の方へ向かう円盤を怪訝と驚きの混ざったような表情で眺めるラグレイト。


「あなたは鎖で繋がれた武器。私はなにも繋がれていない武器」


 帰って来たチャクラムベリーサを手に取りながら話す。最後まで説明しないところが彼女らしいが、つまりなにが言いたいのかというと……。


「……だから、自由自在に武器を操れる自分の方が優れている、とでも言いてぇのか?」


 ラグレイトがそれを代弁する。然りネビュレイドヴォルツは鎖で繋がれている以上、操作に限界はある。ラグレイトの腕力であの重い斧を軽々と扱うとはいえ、攻撃範囲のパターンはある程度決まってくる。

 対するモコのチャクラムベリーサは、空中を自由に飛び回る鳥のように、縦横無尽に動かすことができる。その点を比較するだけで、考えずともどちらが優位であるか大よそわかるところだが——。


「ガキがっ!! この巨山のラグレイト様と剛天斧ネビュレイドヴォルツの力を甘く見るんじゃねーぞっ!!」


 突然怒鳴りつけるように声を張り上げるラグレイト。自分よりも遥かに年下である上に、女から見下されたことが余程に頭にきたのだろう。ついに怒りを爆発させた。

 血管が浮き出るほどに腕の筋肉を盛り上げて大きく振りかぶる。そして勢いよく両手に持つ斧を同時に投げつけた。


「跡形も残らねぇくらいに木っ端微塵にしてやるぜぇっ!!」


 真っ直ぐにモコ目掛けて飛んでいく斧は、そのまま当てるつもりかと思いきや、鎖がピンと張る状態になる瞬間にラグレイトが斜めに振り下ろすと、その動作に斧も連動する。そして床を掻くようにして大きく回転しだした。

 2本の鎖が絡むことのない絶妙な間隔を維持したまま、双斧が四方八方で激しく暴れ出す。その回転に巻き込まれたものは、全て粉々に破壊し尽くすほどのパワーだ。威力を証明するかの如く、ホール中の壁や天井を次々と粉砕していく。


「力任せの下品な技。でも、これじゃ迂闊に攻撃できない」

「はーっはっはっは! なにも手出しできまい! だがボーっとしてるとそのままミンチになっちまうぞぉ!」


 脂ぎった顔をテカテカと輝かせながら、ラグレイトは意気揚々と斧を回転させたまま、徐々にモコのいる方へ前進していく。非常に広範囲な攻撃であるため、左右の壁との隙間はほとんどなく、次々と壁を破壊している。つまり、このままではモコの逃げ場は一切ないということだ。

 しかし追い詰められた状態であるにも拘らず、当のモコは焦りの色ひとつ見せてはいない。元よりも表情の変化があまり見られない彼女であるから、今現在なにを考えているのか、外見からは読み取りにくいというのが実状だ。


「どうしたぁ~? このまま大人しくやられちまうかぁ?」


 勝利を確信したようなむさ苦しいドヤ顔全開でモコへと接近するラグレイト。その顔と厳つい体格も相まって、傍から見る限りでは幼い少女に迫り来るただの変態オッサンだ。


「……バカ」


 目を座らせたままモコは一声漏らすと、チャクラムベリーサを自分の足元に置いて手放した。そして両腕を前に突き出した動作を見せると、手を開いてなにかを念じ始める。


「うおっ、な、なんだ?」


 変態オッサンがすぐさま異変に気づく。先ほどまで聞こえていた破壊音がピタリと止まり、良く見ると天井や壁を粉砕して暴れていた斧の動きが見られず、完全に回転を止め、空中でブルブルと微動した状態だった。


「ど、どうなってやがる! う、動かねぇ……!」


 斧の動きが停止されたのは、当然ながらモコの手によるもの。彼女は突き出した両腕をそのまま左右に大きく広げると、その動きに合わせて双方の斧が天井にめり込んだ。

 腕を鎖に繋がれたラグレイトは、自ずと斧に引っ張られるように体が大の字になって身動きが取れない状態となる。


「く、くっそーっ! なんなんだこれはっ!」


 腕に思い切り力を入れて、天井にめり込んだ斧を引き抜こうとするが、ビクともしない様子。

 明らかにモコより腕力のあるラグレイトを押さえつけているということは、モコの超能力で操作する力は、彼女自身の腕力に比例するものではない。人を動かしたり、大勢が押し寄せる扉を押さえたりと、これまでの経緯を見ればそうであるという結論に至る。

 とはいえ、今の状況的にはモコも斧を固定するために両手が塞がっている状態だ。ここからどう攻撃へ転じるのかと考察しているところへ、彼女が次なる行動へと移る。


「動くのよ、チャクラムベリーサ」


 すると、モコの言葉に反応するかのように、足元に置いていたチャクラムベリーサが突如動き出す。


「念動操作はまだ慣れていないけど……」


 モコの前でフワフワと宙を浮きながら、円盤はその場で高速回転を始める。そして次の瞬間——。


念動裂斬ブラインドスラッシュ!」


 強い発声で技の名を叫ぶと、チャクラムベリーサが大の字になっている男目掛けて飛んで行く。回転して周囲を縦横無尽に飛び回りながら、体中の随所を次々と斬り付けられるラグレイトは、成すがまま。その光景はまるで、かまいたちを起こす風の術に酷似していた。

 全身に大ダメージを負い、戦闘不能となったラグレイトは、鎖に繋がれたまま膝をついて力を失う。

 相手に致命傷を与えるまでに至らなかったが、超能力を使う騎士サイキックナイトは、攻撃を終えた飛翔刃チャクラムベリーサを腰に装着すると、ラグレイトの方には全く視線を移さず、得意の無表情のまま黙って先のフロアへと歩いて行った。

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