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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
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第59話「双竜剣使いの力」

 赤髪の女剣士。双竜剣使いのシルビアは、最も左手側にある通路を選んだ。幻術が実体化する以前はどうだったのかわからないが、現在は壁も床も形あるものとなっている。


「それにしてもなんだいここは……。暗くて前が見えにくい」


 先ほどまで進んできた通路とは違い、シルビアのいる場所は蝋燭や光照石などの灯がなく、ただの暗闇が広がっていた。たとえ目が慣れてきたとしても、まともに歩行できる状態ではない。


「松明なんて持ってないし……仕方ない、ここはクリムゾンゼストの力を借りるか」


 シルビアは徐に腰の右側にある紅の剣を鞘から引き抜く。そして一瞬息を止めるように念を込めると、途端に刀身が光を放ち、柄の部分から先端へ炎が走り、赤い輝きを持つ剣へと姿を変えた。


「よっしゃ、これでバッチリ! 周りが良く見えるようになったぞ」


 シルビアの持つ剣は、双竜剣と呼ばれる竜の鱗を素材として作られた、世界でふたつとない非常に希少価値の高い剣である。炎と氷の対極する属性を持った双剣で、先ほど松明代わりに取り出した炎の剣が紅剣クリムゾンゼスト。鞘に閉まっているもう一方が氷の剣、蒼剣ブルーアイシスだ。

 しばらく歩みを進めていると、前方に扉の姿が炎の灯に照らされ、徐々に明瞭化されていくのがわかった。シルビアはその扉の前に立つなり、特になにも躊躇わずに力を込めて前へ押し込む。

 開いた先はホールのような空間が広がっていた。例えて言うならば、学校の体育館の半分程度の間取りだろう。宵闇の如く暗かった通路とは打って変わって、内部の壁には随所に蝋燭が燈されていて、充分に照度が確保されていた。そのため、この空間にはなにがあるのかハッキリと見て取れた。


「……お前、誰だ?」


 早速とシルビアはその存在に気がつく。


「ようこそ魔信教団本部へ。君が双竜剣使いのシルビアだね」


 ホールのほぼ中央の位置に人が立っていた。黒いローブに身を包んだそれは、シルビアの問いに反応するなり、頭に被っていたフードを脱いで素顔を晒してくる。コバルトブルーの長髪を靡かせ、意外にも美形で整った顔立ちをした男であった。


「どうしてアタイの名を知っている……? と思ったけど、お前たちに狙われている身だったね。当然か」

「良くわかっているじゃないか。僕の名はレグナム。魔信教団幹部のひとりさ」


 レグナムと名乗った男は、耳に纏わりつくような甘ったらしい声を響かせ、右手で前髪を掻き上げた後、斜め45度に顔を傾けてから、流し目でシルビアへ視線を送る。そして最後に軽く微笑みを決めてきた。

 この慣れたような一連の動作と、自分が格好良く見える仕草を平気でやってのけるところから、この男は俗に言うナルシストであることが容易に伺えた。


「うわっ……なんだこいつ、気持ち悪いな」


 しかしながら、シルビアに対しては好色の効果は皆無のようで、ナルシスト男の振る舞いに悪寒が走ったのか、両腕を擦りながら青ざめた表情を見せる。


「気持ち悪いだと……? 君はこの僕の美しさが理解できないのかい?」

「理解したくないわ! っていうかお前なんかに用はない。さっさとそこをどきな。アタイは先に進みたいんだ」

「君に用はなかったとしても、僕の方にはあるんでね。その腰から下げている双竜剣、僕のコレクションに入れてあげるよ」


 レグナムはそう言いながら、漆黒のローブの中に両手を突っ込むと、素早く2本の剣を取り出した。


「お前、双剣使いか」

「ご名答。さぁその剣を僕によこしなっ!」


 言葉を言い終えると同時に、双剣使いのレグナムは床を蹴ってシルビアへ突っ込んでくる。


「速いっ!?」


 咄嗟にシルビアは2本の剣を抜刀し、前方に構えて防御の体勢を作る。瞬間、耳を突く甲高い金属音を鳴り響かせ、レグナムの攻撃を受け止めた。


「ほぉ、先手で動いた僕の瞬天剣を受け止めるとは、さすがは双竜剣の持ち主、なかなかやるねぇ」


 互いの剣で鍔迫り合いをしながら、双方一歩も引かずに睨みをぶつけた状態を続ける。

 レグナムが所持している2本の剣は、どちらも薄翠色の刀身で、シルビアの双竜剣と同程度の寸法だ。凄まじい斬れ味を誇る双竜剣と対等にぶつかり合っている所から、こちらも相当な代物であると見える。

 本人が瞬天剣と呼んだその正体はまだ掴めていないが、彼の先手の攻撃を皮切りに、双剣使い同士の戦いが始まった。


「くそっ!」


 拮抗した状態の鍔迫り合いに嫌気をさし、両腕に力を込めて剣を弾き飛ばして、レグナムとの間合いを取り直す。


「同じ双剣使いなら話は早い。この戦い、さっさと終わらせるよ!」

「そう、さっさと終わらせてその剣を僕の物に」


 レグナムは不敵な笑みを浮かべては、シルビアの双竜剣に羨望にも似た眼差しを送り、それを手に入れた時の歓喜の想像に浸る。


「誰がやるかよっ!」


 いつどこで双竜剣を手に入れたかは不明だが、シルビアは剣を自分自身のように大事にしている。それを他人に取られる気など毛頭ない。その意を込めた反撃の言葉と同時に、床を蹴ってシルビア自身から攻撃を仕掛ける。

 先ほどレグナムの突進も速かったが、シルビアの攻撃速度も相当なものだ。並大抵の者では視界に留めることさえ困難であろう。従ってか、レグナム側も彼女が動くのと同時にニヤニヤと気色の悪い笑みも瞬時に止め、迎撃態勢へと移る。


「いいスピードとパワーを兼ね備えているね。でもそれじゃ、この僕には通用しないよ」


 接近した刹那、シルビアが両手に持つ剣を交互に繰り出して斬り掛かるが、レグナムも2本の剣を自身の手のように巧みに操り、彼女の連続攻撃を受け流してしまう。この男も口先だけではなく、かなりの実力の持ち主だ。


「まだまだっ!」


 ここで怯まず、更にシルビアは瞬時に剣を逆手に持ち替え、回転しながら攻撃するなど、剣舞ともいうべきトリッキーな動きを見せる。しなやかな体の動きに加え、器用でスピード感溢れる剣の躍動には芸術性さえも感じさせる。しかしそんな彼女の攻撃も、レグナムは全て回避をしてのけてしまった。

 激しい攻撃を続けたことで、呼吸とスタミナが切れてしまったシルビアは、攻撃を停止して後方へ跳ねるように間合いを取り直す。


「はぁ……はぁ……。すべて、避けられた……だと?」

「スピードを生かした剣舞。それが君の得意攻撃のようだけど、その程度で双竜剣を持つ資格はないと思うなぁ」


 相手より優位であることを確信し、既に勝ち誇った顔で嘲笑うレグナム。シルビアは歯を食いしばりながら睨み返しているが、少し様子がおかしい。

 両手の剣をぶら下げて息も激しく切らせているが、汗ひとつ流しておらず顔色も悪くない。疲弊した状態にしてはやや不自然である。


「さぁ次は僕の番だ。一瞬で終わらせてあげるよ!」


 その違和感に気づくことなく、構わずレグナムは攻撃を始める。


「はぁぁぁぁぁっ!」


 今回は先ほどまでの気色の悪い雰囲気とは異なり、矢を引き絞られた弓の弦のようにピンと張りつめた空気が漂い始めた。

 気合を入れた後に目を閉じて集中すると、忽ちに彼の持つ双剣の刀身から翡翠色のオーラが立ち込めてきた。


「くらえっ! 瞬天剣奥義、清流陣翔波!!」


 そして技の名を叫ぶと同時に、その場で体を高速回転させ、遠心力を加えて剣先から巨大な衝撃波を放つ。それは家一軒を粉々に吹き飛ばしてしまいそうなほどの強力さが見て伺えた。

 さすがのシルビアもこれを直撃してしまってはひとたまりもない。だが彼女は迫りくる衝撃波に一切驚きたじろぐこともなく、あまつさえ目を閉じてなにかに集中し始めた。


「解っ!!」


 主の掛け声に反応して、2本の双竜剣がまるで電飾のネオン管のように眩い光を発した。以前ラフェスタの町でもこのような行動を見せていた。おそらくこれは剣に秘められたなんらかの力を解放させるためのものだと思われる。


「双竜剣一の撃、竜陣流し!!」


 衝撃波がシルビアへ直撃する一歩手前、彼女は眼前で両手をクロスさせ、防御と思える体勢を取ると、直後衝撃波は瞬時に力を失い、そよ風のようにシルビアの髪を靡かせた。

 攻撃を受け流し終えると、そこから今度は両方の剣を逆手に持ち替えて、上半身を低くして構える。


「双竜剣二の撃、絶刀・竜衝閃!!」


 技の名を叫んだ刹那、シルビアの姿が視界から消える。そして目にも留まらぬ速さでレグナムへ接近し、そのまま彼の横を通り過ぎたように見えた。彼女が今しがたなにをしたのか始めはわからなかったが、すぐさま形となって表れる。


「ぐはっ……バ、バカな。僕の瞬天剣奥義を掻き消した……だと?」


 突然体に十字の斬撃を残し、鮮血を吹き出してその場に倒れ込むレグナム。


「致命傷は与えていないよ。無駄に人を殺すようなことはしないさ」


 派手に斬りつけておきながらも、手加減をして命までも奪わず、会話をする力さえも、シルビアは相手に残させていた。


「なぜ……だ。あの時、攻撃を全て回避されて焦っていたじゃないか!」

「あんなの、本気なわけないだろ。ちょっとした演技を含めた小手調べだ」

「なんだと……」


 まんまと策にはまったのを嘲笑うかのように、双竜剣使いは口角だけを動かす。

 それに対し緑の双剣使いは、ナルシストが見せてはいけないような醜く歪んだ顔をして、悔いの念を露わにする。


「ひとつ言わせてもらうけど、戦闘開始から早々に奥の手を出してくるなんて、実力を見極めた上で勝つ自信がある者がするか、自惚れた只のバカがすることだよ。お前の場合は……残念ながら後者だね」

「く、くそ……その剣は、ぼ、僕の……ものに、な……る」


 出血から来る意識の薄れを顕著に見せ始めると、最後の言葉までも言い切れぬまま、レグナムは気を失った。


「まったく、双竜剣使いを舐めるなよ、バカ!」


 双竜剣の強大な力と己の実力を証明させたシルビアは、倒れたナルシストに背を向けたまま、紅剣クリムゾンゼストと蒼剣ブルーアイシスを腰の鞘にしまい込む。

 そして顔だけを後方へ振り向かせて憐れんだ目を作ると、ゆっくりと前へ進み、その場を去って行った。

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