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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
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第58話「空也が頼り 作戦その2」

 本人も完璧であると自負していたステラの作戦も、先ほどのように多少運任せな部分もあったため、陸徒としてはこのような事態になることはある程度想定内だった。

 とはいえ、のんびりしていられないのも事実。教団側へ自分たちの侵入がバレてしまった以上、警戒態勢が強化される前に速やかに行動すべきである。

 空也が騒ぎ立てるステラとシルビアを一喝し、即座に黙らせた事に呆気に取られていた陸徒だが、ここは自分が率先して動くべきだとすぐさま神妙な顔つきへと変え、早速と教団本部入口の前に立ち、ドアノブに手を掛ける。


「鍵が掛かっているな」

「ま、予想通りね」

「で、どうやって開けるんだい?」


 案の定鍵が掛かっていた。それは予想内であるとステラも理解していたが、なによりも最後のシルビアの問いに対し、さすがに今回は一同が冷めた視線を送った。

 この女、本当に昨日練った作戦内容を把握していない。しかし毎度ツッコミをしていては時間の無駄。頭の緩い女剣士はスルーして、ステラは淡々と空也へ指示をする。


「さぁ空也、この鍵を開けなさい」

「開けなさいって言われても、鍵開けなんてやったことないからできるかどうかわからないよ……」


 次なるステラの作戦は、空也が魔術による解錠術を使ってドアの鍵を開けることであった。

 魔術で鍵を開ける方法については、以前クレスタの口から聞いていた。ラフェスタの町に攻めてきた海賊船でそれを実演していた記憶が蘇るが、これは魔力のコントロールが難しく、容易に出来る技ではないと言っていた。


「最上級クラスの魔術と同等と言えるくらい、解錠術は最も高度な術のひとつとされているわ。今のアンタにできるものなのか自信ないのかもしれないけど、やるのよ」

「押しつけ感があるかもしれねぇが、空也、やってみてくれ」


 非常に不安な面持ちではあるが、ステラと陸徒に言われるまま、空也は施錠されたドアノブに掌を翳すと、目を閉じて意識を集中し始めた。

 数分は経過しただろう。クレスタの言っていたように相当魔力のコントロールが難しいのか、空也は必死に集中を続けているが、一向に開く気配がない。次第に眉間にシワを寄せ、額から汗が滲み出て苦戦を見せる。


「……あまり時間をかけ過ぎるのもまずくないかい?」


 そんな中、言いながらシルビアが路地の奥にある扉の方を親指で指し示す。その扉は定食屋アコードへと通じるもの。前回陸徒達が通ってきた扉だ。

 そこから徐々に声が聞こえ始める。追手だ。彼女の言う通り、このまま時間を費やしている暇はなさそうだ。


「!! ダメだよ。思っていた以上に難しい。僕にはまだ解錠術なんて無理なんだ」


 追い詰められた状況に焦り、空也は集中力を切らせて作業を中断する。そして弱音を吐いているところへ、奥の扉を開けようとする音が一同の耳に入ってきた。


「やべ、追手がすぐそこまで来ているぞ!!」

「!!」


 咄嗟にモコが奥の扉を睨むようにして両手を伸ばすと、その瞬間扉を叩く打音が聞こえた。

 両手に精一杯の力を込め、超能力を使って扉を押さえているようだが、表情は苦戦の色を見せている。何人追手が来ているのかわからないが、超能力といえどひとりで押さえるにはさすがに無理があるだろう。


「モコ、俺も手伝うぞ!」

「ダメ! 空也が鍵を開けたらすぐ全員中へ入れるように、みんなはここにいるの」


 陸徒の助けを拒否すると、モコは空也の方へ視線を移し、神妙な顔で見つめる。いつもの無表情にやや筋肉の力が加えられた程度だが、その眼差しは自然と聞き入れる気持ちにさせるものだった。


「空也、あなたの魔術の才能は誰もが羨むほどよ。だからもっと自分に自信を持って。大丈夫、あなたなら出来るわ。私がそう信じているから……」

「!!」


 モコの言葉を受けて、空也の中になにかが芽生えた。それは自信という名の大きな力。

 この世界にやって来る前の空也は、勉強も運動もまともにできず、自分に全く自信が持てずにいた。それが天才的な魔術の力を手に入れ、自信を持てる要素が生まれた。そのことをモコに諭され、遂に確かなものにしたようだ。


「わかった。今度は必ず成功させるよ!」


 先ほどの不安げな表情と曇りは一切なくなり、自信に満ち溢れた空也の姿があった。それは、この世界へやって来て、クレスタから魔術を教わっている時の生き生きとした姿に似ていた。


「クレスタ先生、見てて下さい」


 小声でそう呟くと、再びドアノブに手を翳して魔力をコントロールする為の集中に入る。すると今度は、間もなくして空也の手の先から淡い光が溢れ出し、それが細かい粒子になって鍵穴へと入っていく。

 そして、カチャリと解錠される金属音が聞こえた。空也は左側の口角を吊り上げ、成功の意を表す。


「……開いたのか?」

「どれどれ」


 早速とステラがドアノブを握って捻ると、静かに扉が開き出した。


「おぉ! やったな空也! ドアが開いたぞ!」

「まぁ喜ぶのは後にして、さっさと中に入ろうか。モコがもう限界だ」


 状況に喜びはしゃぐ中、水を差すつもりではなかろうが、モコの状態に気づいていたシルビアが我に返させる。彼女の言うように、モコの顔からは尋常でないレベルの汗が垂れていた。


「みんな早く中へっ!」


 陸徒たちはそそくさと扉の中へ入り、教団本部へと進入する。この先はどのような状況であるのか想像に難い。一行は改めて気を引き締め、歩みを進めた。

 所々発生した問題をクリアし、とうとう魔信教団本部の入り口へと侵入を成功させた。先ほど空也の解錠術によって扉を開けることができたが、追手が近くまで迫って来ている状況は変わりない。陸徒は少しでも時間を稼ぐため、外側のドアノブを破壊しておいた。

 一度ここへ訪れている陸徒と空也は、中の構造は把握している。一本の長い階段を降りた先に廊下があり、その奥へ行けば教団のリーダーがいる広間に出るはず……だったが。


「おい、これは、一体どういうことだ?」


 階段を降りた先で、突然陸徒が立ち止まって声を漏らす。


「なによ陸徒、どうかしたの?」

「通路が……変になってる」

 

 困惑しながら辺りを見回す陸徒を見て、ステラは怪訝な顔をして返すと、空也が朧気ながらに状況の回答をする。

 ステラたちのように初めて来た者からすれば、なんの変哲もない光景であるはずだが、陸徒と空也にとってはこれは違和感というより異変に近い。

 階段を降りた先の目の前には壁が立ちはだかり、左右には3方向の新たな廊下が、奥を宵闇に染めて不気味な空気を吹き流して存在している。おまけに以前の白濁色の壁とは違い、茶褐色でいて汚水の浸みのようなものが目立つ禍々しい雰囲気へと変わっていた。


「以前来た時と内部の雰囲気や構造までもが変わっているんだ」

「場所が同じなのに変わっている……。ふ~ん、なるほどね」

「ステラ、なにかわかるのか?」

「歴史的な知識から引用したアタシの推測だけど、これは幻術によるものだと思うわ」


 それは、かつてアーシェラ女王の口から語られたが、魔族の特徴のひとつである、相手の精神などを侵し、幻を見せて錯乱させる力だ。


「幻術だって? 確かそれって、魔族だけが使える術」

「ってことはつまり……?」

「ここに魔族がいる可能性が高いわね」


 ステラの言葉に戦慄が走る。魔族を崇拝する者たち、それが魔信教団であるからか、魔族が潜んでいる可能性を微塵も思っていなかったわけではないだろうが、それが高まれば多少なりとも恐怖心は湧いてくるもの。

 だがこの場にいる面々のほとんどが思いの他冷静。とりわけ陸徒とステラは早速と幻術を見破ろうとさえしていた。


「ステラ、幻ってぇことは、今ここで目に見えているものとは異なるって話だよな?」

「そうよ。だから陸徒と空也がここの構造を知っているのなら、こんな光景は無視して、自分の記憶通りに辿ればいいのよ」


 案の定、ステラの回答は陸徒の考えに一致するものであった。自分とステラの見解を信じ、陸徒は水たまりの上を歩くような、少々ゆっくりとした足取りで前進し、目の前の壁にそっと手を近付ける。これが幻であるならば、壁をすり抜けてその先にあるであろう通路へと辿り着くはずだ。

 手は虚空を仰ぐようにして壁の中へ身を投じる陸徒。一瞬驚きを見せるが、してやったりとすぐさま精悍な顔つきへと戻し、そのまま歩みを進めて壁を抜ける。


「わぁすごい! ホントにこれ幻なんだね」


 陸徒の行動に半ば感動じみたリアクションを見せると、空也はなんの躊躇いもなく兄に続いて壁をすり抜ける。

 その先は彼らの記憶通り、真っすぐと続く廊下となっていた。当然ながら、この廊下は以前陸徒たちが訪れた時と同じものであった。

 思いの他、幻術をあっさりと見破ることができて、陸徒やステラも余裕の表情を作る。幻術も真実を知っていれば大したことはない。

 しかし、ひとつ引っ掛かる点がある。一度訪れたことのある陸徒たちが再び来るのも、向こう側は想定しているはずだ。にも拘らず、なぜわざわざ幻術などという騙し技を仕掛けてきたのだろう。


「思った通りだわ。まったくこんな子供騙しに引っ掛かるわけないでしょ」


 そこへ、ステラが得意のドヤ顔をしながら前へ進み、陸徒と空也のいる所へ向かおうとしたその時——。

 ドンと鈍い音を立てて、ステラは顔を押さえて前へうずくまる。


「痛っ! え、なんで……すり抜けない!!」


 先ほどまでは間違いなく幻であった壁。現に陸徒と空也はそれを実現させている。しかし続いたステラは壁の向こう側へ辿り着くこと叶わず、突如実体化した壁に顔を激突させてしまった。


「ステラどうしたっ!?」

「なんだか知らないけど、アンタたちがすり抜けた幻術の壁が、急に本物になってそっちに行けなくなったのよ!」

「本当だ、さっきと違う。すり抜けられない」


 状況を知らない陸徒に対し、ステラは苛立ちを見せながら説明する。シルビアやモコも壁に手を当てて確認。紛れもなく実体化した壁が目の前に立ちはだかる。これは一体どういうことなのだろうか。

 一行は突然の出来事に困惑を隠せずにいた。幻術をクリアし、真実の道へと身を投じることができたはずが、陸徒と空也のみが進行可能とし、他3人を取り残すかたちとなってしまった。


「とりあえずみんな無事なのか?」

「一応無事よ。でも完全にはぐれた状態になってしまったわね」


 まだ少し痛む鼻の頭を手で摩りながらステラが答える。


「一体どうなってんだ? 幻術だから幻じゃないのかよ!」

「アタシに聞かれたってわかるわけないでしょ! 現にアンタと空也は通れたんだし」


 ステラの言う通り、始めは間違いなく幻の壁であった。それがタイミングを見計らったかの如く、陸徒と空也が通り抜けた直後、その壁は実体化してパーティーを分断させた。

 とはいえ、いつまでもこの状況に時間を費やしている暇はない。陸徒は先ほどこの場へ来た時を思い返し、内部の構造をリサーチしてみる。

 壁が実体化してしまったが、それは行き止まりになったわけではない。左右の3方向に分かれた道が新たに存在している。それが幻術によるものと大方予想はつくが、事情が変わった以上、同じく実体化して別のルートが作られたと考えられる。


「とにかく、ステラたちはそこから別のルートでこっちに来られないか調べてみてくれ。確か3方向に道が分かれていただろ?」


 以上の考察を踏まえて、陸徒は壁越しに3人へ指示を与えると、意外にも機転の利いた反応が返ってきた。


「もちろんそのつもりよ! こんなところで立ち往生しているつもりなどないわ」

「あぁ。幻術とかどうでもいい。ここは強行突破だよ! その方がアタイの性に合っているさ」

「陸徒さんの命令、承知しました」


 手をこまねいている暇はない。ステラ、シルビア、モコの3人は、この不可解な状況を早速と攻略させる意欲を充分に見せつけている。


「おあつらえ向きとも言えるほどに通路が3つ分かれていることだし、ここはそれぞれ手分けして行くわよ」

「みんな、単独行動になるが決して無茶はするなよ!」

「言われなくたってっ!」


 ステラが指揮を執り、行動計画を示す。そして最後に陸徒が注意を喚起し、3人の行く末を無事に祈った。

 果たして新たな通路の先に一体なにが待ち受けているのだろうか。

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