第53話「異色編成 遠足もとい旅立ち」
予定を外した流れとなってしまったが、兄の消息を確認するために、波美は単身アルファードを去り旅へと出る。よって、魔信教団殲滅のメンバーは陸徒と空也、シルビアに城内からの2人が追加された5名となる。
翌日シェリルからの通達により、全員が謁見の間へと呼び出された。
「シェリル、俺たちの他に2人メンバーが追加されると聞いているが……?」
早速と陸徒が話を振る。そう言いながらも、彼女から幾分左側に視線を移した先に佇んでいる人物が気になって仕方がなかった。そしてなぜか陸徒はその2人を見て怪訝な表情を作る。
「ええ、これからご紹介致します。御二人共前へ」
シェリルに促され、陸徒の予想通り例の2人がいそいそと前へ出てくるや否や、その内のひとりが間髪入れず大きく口を開き出した。
「はいは~い! アタシの名前はステラ・レイアフォード。このアルファードにある宮廷法術学校を12歳で首席卒業した天才法術士よ。良く覚えておきなさいよね!」
陸徒たちは絶句する他なかった。のっけから強烈なインパクトを与えてきた者、ステラと名乗った女の子は、自己紹介が決まったかのように胸を張ってしたり顔を見せつける。
容姿はブロンドのセミロングヘアーで、右側を一ヶ所だけ三つ編みにし、空色のリボンで結んでいる。つむじの辺りから釣竿のようにピョンと立たせている一本のアホ毛と、口を開けた時に見せる八重歯が印象的だ。フード付きの赤い縁取りをした純白のローブを身に纏い、身長は空也よりも低く小学生のように見える。本人の口から12歳で学校を首席卒業したと言っているが、満12歳なのであろうか……?
「ステラ、王女様の御前よ。軽率な態度は慎みなさい」
今度はステラの隣に立つもうひとりの人物が口を開く。こちらは比べて随分と落ち着いた口調ではあるが……。
「私はアルファード王宮騎士団特殊部隊所属、モコ・フィナルフィと言います。宜しくお願いします」
モコと名乗ったこの少女も、ステラと年齢が近いのであろうか、身長は空也と同じ程度。栗色の髪を結んで左右から垂らしたツインテールの髪型で、エメラルドのような翠色の瞳が不思議な印象を持たせる。桃色を基調とした軽鎧を身に付け、腰の両脇に円輪のようななにかを装備していた。
この少女は先ほどの強烈インパクトを与えてきたステラとは対照的に、物静かな雰囲気ではあるが、やや目が座っていて終始無表情。そして話し口調も抑揚がなく、まるで大根役者の棒読みセリフのように感情の含みが感じられない。
「ふんっ、なによ! 良い印象を持たれようと真面目ぶるつもり?」
「別にそんなことはないわ」
明朗快活なステラは波美のように感情表現が豊かで、逆に冷静沈着なモコは喬介のように淡白な態度。さながらあの塩崎兄妹を見ているようである。
「あのさシェリル、この2人が俺たちと行動を共にする新しいメンバーなのか?」
聞かずとも明らかにそうであるのにも拘らず、陸徒はシェリルに敢えて確認の意を示す。当然ながら返答はイエスの一言。
陸徒が2人の紹介を受ける前から怪訝な顔で不安視していたのは、誰もが思うであろう見た目から想像できる年齢的な問題。とはいえ、実際陸徒自身も17歳であり、弟の空也は14歳とさして変わりはないのだが、魔信教団という強大な闇組織を殲滅しに行く重要な任務を課せられていながらも、子供の遠足とも言わんばかりのメンバー構成だ。陸徒はそのような状況にも拘らず、彼女らを寄越したシェリルの意図が全く読めずにいた。
「陸徒さん、確かにステラは現在12歳で、モコは13歳と御二人共まだ幼い年齢ではございますが、大人顔負けの実力を持った非常に優秀な子たちですよ」
「そ、そうなのか?」
不安要素を全面に丸出ししていた陸徒の気持ちを察したのか、その点に補足させるようにシェリルの口から彼女ら2人についての経歴を説明される。
「ステラは先ほど本人からの自己紹介でも言われましたように、宮廷法術学校を最年少かつ首席で卒業しました。わたくしは4年掛かりましたが、彼女はその半分の2年という驚異的な早さだったのです」
ステラは自分のことを話されている状況に満足気で、まるで頭を撫でられている猫のような表情で何度も頷いている。シェリルよりも最短で卒業したということは、純粋にシェリルよりも法術の能力が高いのではという想像に結びつく。
続いてシェリルがモコについて紹介をする。
「モコは、我がアルファード王宮騎士団の特殊部隊に所属しております。誰もが驚く類稀な能力を持つ非常に優秀な騎士です」
「そう、さっきも気になったんだが、その特殊部隊ってのは他となにが違うんだ?」
「生まれ持っての超能力が備わった方たちで構成された部隊です。エルグランドの魔騎士隊のように、アルファードではこの特殊部隊が特有の存在となっております」
「へぇ~、超能力ってこの世界にもあるんだね」
「能力の種類は人によって異なりますが、モコの場合は手を一切触れずに物を自在に操り、動かすことができるのですよ」
空也の発言のように、既知の通り彼らの世界でも超能力は存在する。その超能力を持っているであろう人物も、時折テレビ等で見掛けたりもするが、真偽のほどは定かではなく、いまいち信憑性に欠けることもしばしばある。
本当に超能力を持っているであろうと思わざるを得ない人物も何人か見受けられるが、基本的にはオカルトの域を脱しない。
但し、このミドラディアスに至っては話は別だ。既に魔術や法術などの現象を認識している。超能力に関しても真実に違いない。
「その能力を使ってどう戦うんだ? 見たところ剣は持っていないようだが……」
超能力については理解したが、素朴な疑問を抱いた陸徒は、モコに対し言葉を投げると、彼女は静かに黙ったまま腰の両脇に装着している物を外して取り出した。
先ほども視認した、取っ手の付いた円輪で、鈍色を放つ金属の刃のようであるが。
「これは飛翔刃チャクラムベリーサと言います。通常であれば一度だけ使用するための投擲用の武器なのですが、私の場合はこれを空中で自在に操り、敵を何度も斬りつけます」
モコは変わらずの無表情で、まるでロボットのように淡々と武器の説明をする。その傍ら、ブロンドアホ毛のうるさい法術士娘が不満気に地団駄を踏みながら、喚きたてて怒りを露わにする。
「なによなによっ!! アタシには一切質問もしないでモコのことばかり。アタシにだって誰にも真似できない特別な力があるんだから!」
「ったくピーピーうるさい娘だねぇ。で、あんたにしか使えない力ってのはなんなのさ?」
体中に力を入れて威勢を張るステラに、シルビアは耳に指を入れながら嫌気を差した顔でステラに問うと、彼女はこれ見よがしにある物を前に突き出して皆に見せつけてきた。
どうやら、自身の背中に装着していた杖のようであるが、それがステラの使う法術用の杖であり、特別な力を表す物なのであろう。
しかし些か杖と言うよりも、さしずめ大きな十字架とも言える形状をしている。全体を装飾品のような銀色の輝きに包み、十字が交差している中心部には真っ赤な丸い石が填め込まれていた。
「なにそれ十字架みたい」
率直な印象を口にする空也。それを半ば蔑むような顔で、ステラは自身の杖について語り出す。
「これは聖杖パステリアウィッシュと言って、法術の効果を広域化させる力があるのよ。今まで誰ひとりとてこの杖の能力を引き出すことができなかったのに、アタシはいとも簡単に使いこなせたんだからね!」
「それは凄いと思うけど、法術の広域化って普通にできるんじゃなかったっけ?」
力説するステラに、またもや空也が素朴な疑問を投げてくる。確かに彼の言うように、通常でも法術の広域化は可能だ。
しかし以前シェリルの口からも説明があったように、術の範囲を広げるとその効果が大幅に低下してしまう。それを改めて解くように、ステラが先ほどよりも空也を見下すようにして声のトーンを強めて言ってきた。
「はぁ……。これだからなにも知らないおバカさんは困るわよね。いい? この天才法術士ステラ様が教えてあげるんだから、しっかり覚えなさいよ。法術は、効果の範囲を広げると本来の効力が大きく減少するのよ。回復系や防御系なんか特にね。でもこの聖杖パステリアウィッシュの力を使えば、本来の術の効果を維持したまま範囲を広げることができるのよ。で、それを使えるのはこのアタシだけ! わかったかしら?」
長々と言葉を並べる自称天才法術士娘は、必死で自身の力の凄さを説明する。陸徒は思った、こいつはプライドの塊のような性格なのだろうと。
しかし、ステラとモコ両者共に見た目の幼さの印象とは裏腹に、他に類を見ない異彩を放つ能力の持ち主だ。
「で、これから出発するんだろ? 全員旅の支度は済んでいるのかい?」
ステラの自慢話じみたつまらない説明も早速と聞き飽きたのか、シルビアは怪訝な表情をしながら本題へと路線を戻す。
あしらわれた感じを受けたのか、ステラがシルビアを睨みつけているように見えるが、彼女が再び余計な騒ぎ立てを起こす前に、シェリルが言葉を入れてきた。
「では、皆さんご準備がお済みのようですね。今回の任務におけるリーダーは陸徒さん、宜しくお願い致します」
「お、おう。わかった」
「頑張ってね、兄ちゃん」
「改めて宜しくな、陸徒」
「宜しくお願いします」
自分がリーダーに任命されるであろうことを半ば予想していたようだが、陸徒は改まった顔で返事をすると、他のメンバーも順々と挨拶をよこす。そして最後にステラが陸徒の隣にやって来て、ジロジロと物色するように視線を送る。
「アンタが陸徒……ふーん。ま、アタシの足を引っ張らないよう、せいぜい頑張りなさい」
「言われなくたってわかってら!」
上から目線の発言をするステラに対し、少々苛立ちを見せながら陸徒は言い返し、ステラの額を人差し指で力を込めて押した。
「いった! なにすんのよっ!」
その額を両手で押さえながら、生意気な法術士は陸徒を睨みつける。
「陸徒さん、ご出発の前にお渡ししておきたい物がございます」
シェリルは適当にその場をすり抜けて話を戻すのが得意のようで、毎度のことながら場の空気に流されない様は、ある種の才能とも言える。
彼女が陸徒に手渡した物は、透き通った琥珀色に輝く手の平サイズの石であった。綺麗なだけで特段気になる点は見当たらないが、これは一体なんなのであろうか。
「これは伝心石と言いまして、遠く離れた場所でもその石を持っている者同士であれば、会話をすることが可能になります」
「へぇー。ミドラディアス版の携帯電話か。こんな便利なもんがあったんだな」
この石をどのように使って会話をするのかはさて置き、ミドラディアスでも遠方の人間と会話をする手段は持ち合わせているようだ。
今回の魔族復活の一件をエリシオン王国へ連絡した際も、この伝心石が使われた。ただし、先ほど陸徒が名付けたミドラディアス版携帯電話と言えど、普及率は至極低い。それは、つい2年ほど前にエルグランドで開発されたばかりで未だ量産化は進んでおらず、一般人が所有するには非常に高価だからだ。現状としては上流階級の人間しか所有していない。
「なにかありましたらご連絡下さい。わたくしも、新しい情報が入り次第すぐにお伝えします」
「あいよっ。了解した」
「あぁっ、遠く離れていてもシェリル様とお話できるのね! ス・テ・キ♪」
陸徒は先ほどからステラのシェリルに対する視線が気になっていた。
シェリルが話をしている時は常に羨望の眼差しを向けていた。そして仕舞いには先の台詞。王女としてか、法術士としてか、はたまた別の理由か定かではないが、彼女になんらかの憧れや好意を抱いているに違いない。
以上のように、随分と個性的なメンバーが揃ってしまった。その上平均年齢も以前と比べて低くなっている。
陸徒はこの面々を上手く纏めることができるのだろうかと、彼にとってはやや不安は残るが、魔信教団殲滅への決意を固めた。




