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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
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第51話「訪れる別れの連鎖」

 陸徒と空也、シェリル、波美、アクシオ、アーシェラとアルファード王の計7名を乗せて、石台のエレベーターはスカイラインをひたすらと降下する。

 意識のある陸徒と空也、アーシェラは特になにを話すこともなく、呆然と虚空の一点を見つめ、ただその場に座ったままだ。シェリルは最上階に残していった兄のザルディスの身を案じながらも、負傷者の治療に徹している。

 先ほどまでいた最上階である上方を見上げてみると、ザルディスの持つ雷鳴剣レビントレイターから電撃が放たれているのか、稲光が激しく点滅しているのがわかった。その様子を眺めながら、陸徒は彼の身を案じる。しかしその傍ら、ザルディスはアルファードの次期継承者であり、世界最強の剣を持った世界最強の騎士。そのような彼がやられるはずがない、必ず生きて帰って来る。そう信じなければと、自分に言い聞かせていた。


 最下層へ到着し、石台のエレベーターを降りた一行は、塔の扉を開けて外へ出る。すると目の前には至る所に魔族の群れが……などということはなかった。先ほどよりも空の色は元の明るさを取り戻しつつあるが、相変わらず曇天が立ち込めている。

 魔族復活とは言うが、この世界に一体どれだけの魔族が解き放たれたのだろう。まさかあのディアブロのみではなかろうが……。とにかく、今は一刻も早く負傷者の手当てを急ぐべきだ。

 そこへしばらくすると、アルファードの野営地のある南の方角から、なにかが迫って来るような地響き音が聞こえてきた。陸徒は敵かと思い、剣を抜いて身構えるが、その音の正体はアルファードの兵士たちが馬に乗ってこちらへやって来たものであった。


「シェリル様、ご無事でしたか!?」

「皆さん、どうしてこちらへ?」

「スカイラインの方角から強烈な光を確認した途端、その上空を中心に暗雲が立ち込めたため、なにか異変が起きたものと思い、我々で様子を見に来たのです。それより王が酷い怪我をされておられる。ザルディス様や騎士たちの姿も見られない。一体なにがあったのです?」

「ご説明は後です。今は父と負傷された方を急いで野営地まで運んで下さい」

「わ、わかりました!」


 馬に乗って陸徒たちの元へやって来た兵士は全部で5名。まずはそれぞれにアルファード王、アーシェラ女王、波美、アクシオを同乗させる。残るは1人。

 シェリルがなにかを言いたそうな表情をしていることに、すぐさま気がついた陸徒は、早速と口火を切る。


「シェリル、お前も兵士と一緒に野営地へ戻ってみんなの手当てをしてくれ」

「陸徒さんも怪我をされています。ですから陸徒さんが——」

「いやいやバカを言うなよ。既に4人乗っているんだ。残りの馬に同乗できるのはあと1人。だから法術士であるお前が乗って戻るべきだ。俺は大丈夫。空也と歩いて帰るから心配するな」


 陸徒もシェリルの気持ちを理解した上での反応。だから頭ごなしに断るわけでもなく、笑顔を交えながらしっかりと理由を説明した。


「……わかりました。陸徒さんと空也さんも、気をつけて下さいね」


 一抹の不安の表情を見せるも、即座に納得したように精悍な顔つきへと変えたシェリルは、ふたりを案じながらも、兵士の乗る馬へと跨り、他の兵士と共に野営地の方角へ駆り出した。


 残された陸徒と空也は、野営地へ向かって歩みを進める。このような状況であっても、こうして兄弟ふたりきりで歩くのも随分と久しぶりだと、陸徒は感じていた。そのまましばしお互いに沈黙を維持したままであったが、空也から何気なく口を開いてきた。


「波美さん、大丈夫かな……?」


 空也は波美の身を案じて、不安げな思いで表情を満たす。あの時、バサラの攻撃を受けた衝撃によって、体中の骨が砕けてしまうほどの重傷を負った。シェリルの法術で身体はある程度治療出できたが、意識は失ったままだ。


「大丈夫だ、シェリルが付いている。それに、あの男勝りなおてんば娘がそう簡単にくたばると思うか?」

「そんなこと思わないけど……兄ちゃん、それ本人に聞かれたら大変だよ?」

「ははっ、そりゃ違えねぇな!」


 陸徒はジョークを交えながら、空也を安心させるために力強く答えると、空也も顔を緩めながらツッコミを返す。それにより一瞬ふたりの間に笑いが生じたが、空也は咄嗟に表情を元に戻し、話を続けてきた。


「喬介さん、塔の外に飛ばされちゃったよね。普通に考えたら、無事なわけないよね……?」


 続いて今度は喬介の話を振ってくる空也。波美の場合とは違って、喬介は安否の確認ができない上に、状況を考えると絶望的であることは空也自身もわかっていた。それは陸徒も同じ思いであり、話の流れからこうなることは半ば予想できていたため、喬介の名を聞いただけで苦い表情を作っていた。


「……あぁ、いや」


 無事であるはずがないと思いながらも、無事であってほしいと頼りない奇跡を願う。矛盾しているが、陸徒はそう考えて自分の気持ちを誤魔化すだけで精一杯であった。そのためか、彼は小さく気のない返事をするだけだった。


 再び静かに時は流れ、徐々に黄昏時を迎えようとしていた。向かう先に野営地はまだ見えてこないが、スカイラインへ移動した際の距離を考慮すればあと一刻ほどで到着するであろう。


「うっ……痛い!」

「空也、どうした?」


 そこへ突然、空也が頭を押さえながら顔を歪め、立ち止まる。


「頭が、ちょっとズキズキする」

「おい平気か?」

「う、うん……。まだ我慢できるくらいだから大丈夫」

「この間のフレイバルディアとの戦いの件もあるし、本調子じゃないだろうからあまり無理はするなよ。野営地に着いたら少し休もう」


 病気であったわけではないが、空也はある意味病み上がりのようなもので、つい先日の昼まで数日もの間意識を失っていた。その理由は、陸徒の口からも出たように、先のフレイバルディア戦にて暴走したことが原因だ。なぜそのような事態になったのかは未だ不明であるが、いずれにしろ空也もまたしっかりと休ませる必要があるだろう。

 そうこうしている内に、眼前に野営地の姿が確認できた。もう間もなく陽の光が隠れる頃で、周囲に光照石による灯が点灯されている。

 入口に近付いた頃合、先ほどスカイラインまで様子を見に来てくれた兵士がふたりを出迎えてきた。


「陸徒殿に空也殿、良くぞお戻りになられました」

「ただいま。真っ暗になるギリギリで着いて良かったよ」

「途中までお迎えに上がろうとしたのですが、なにぶんこちらも人手が足りず、立て込んでおりましたもので、わざわざご足労いただき申し訳ない」

「いや大丈夫だ、ありがとう。それで、王様や波美たちの様子は?」

「ええ。シェリル様とご一緒に救急用のテント内におられますので、ご案内します」


 兵士に促され、陸徒と空也は先行で運搬された負傷者4人の状態を確認すべく、救急用のテントへと移動する。

 陸徒はテント入口のカーテンを頭から入り、中を覗き込むようにして捲る。そこでは白い簡易的なベッドが数台配置され、医師や医療担当の法術士が作業に当たっていた。

 しかし陸徒はすぐに違和感に気づいた。見たところベッドに横たわっているのは2名。明らかに人数が足りない。そこへシェリルが彼らの姿を見つけるなり、そそくさとやって来た。


「陸徒さん、空也さん。無事戻られたのですね!」

「あぁ。ところでみんなの様子は?」

「はい。まずアーシェラ女王とアクシオさんは比較的早く回復しまして、アーシェラ女王は今回の件の報告と、一刻も早く魔族対策を練るため、エルグランドへお戻りになられました。アクシオさんも、アーシェラ女王と時を同じくして、ここを出て行かれました」

「え、アクシオが? どうしてだ?」

「……アクシオさんから、陸徒さん宛にお手紙をお預かりしております」


 驚きと怪訝の混じった顔をする陸徒に対し、シェリルが腰のポケットから1通の手紙を彼に差し出してきた。

 手紙の内容は、魔族に対抗できる強い槍を探すため、そして自分自身の修行のためにしばらくひとりで旅に出るとのことであった。圧倒的な力を持つバサラを前に、愛用の槍を破壊され、一切相手にダメージを負わせられず一方的にやられてしまったことが、本人にとって相当な屈辱であり、ショックであったのだろう。

 そんな彼の気持ちをいまいち理解できない空也は、わざわざ手紙でなく直接言えば良いものをと漏らすが、陸徒はアクシオの行動の真意を汲んでいた。

 アクシオほどに熟練された戦士であれば、本人なりにプライドがある。自分の未熟さを目の当たりにされてしまっていたとしても、それを改めて人前で見せられるほど、彼も器用ではない。


「そっか。まぁとりあえず、アクシオとアーシェラ女王の動向についてはわかった。それで王様と波美は?」


 人数が足りない理由と、テント内のベッドで治療を受けている2人はアルファード王と波美であることが確認され、シェリルへ振られた陸徒の問いに、彼女は少し表情を曇らせ、俯き加減で話し出す。


「波美さんは、もうお体の方はほぼ治療が完了しました。あとは意識が戻られるのを待つだけです。ですが父の方は……」

「えっ、まさか王様が!?」

「いえ、かなりの重傷でしたが、一命は取り留めました。ですがお体の状態があまり良くなく、しばらくの間は絶対安静です」


 シェリルの表情と話の流れから、陸徒は一瞬良からぬ想像へと運んでしまったが、そうではないことを確認するなり胸を撫でおろす。

 だが絶対安静ともなれば、当面は公務をこなせる状態ではないだろう。であれば、城へ戻ってからの魔族対策等、様々な対応をどうするべきかという問題へと繋がる。王子ザルディスもいないこの状況で、どのようにして城の内政が取仕切られるのだろうか。最悪な事態ではないにせよ、今後の動きに不安が過ぎる。

 夜も更けた今、怪我人を連れての移動は危険である為、野営地で一泊をし、明朝に全部隊と共に城へ戻る事となった。



 アルファード王と波美は依然意識が戻らないまま、馬車に乗せて運ぶ。

 数時間ほどで城へ到着。2日前ここを出発した時とは違い、野営地にいた兵士たちが一斉に加わっているが、ザルディス王子や騎士たちの姿が確認できないこと、王が眠ったまま馬車で運ばれている状態を見るなり、町の人々が不安げな表情をしながらその様子を眺めていた。

 未だディアブロ以外の魔族の出現を確認していないものの、幸いしてアルファード城と城下町は魔族の襲撃を受けておらず、世界的危機であることすら誰も知らない。

しかしそれも時間の問題。さすがにこの状況は国中だけでなく、世界中に知らせる必要がある。


 城へ入るなり、大急ぎで王が医務室へ運ばれる。帰りを待ちわびていた王妃も、彼の容態を知るなり慌てて同行して行った。波美の方は体に関しては問題ないそうで、5階の部屋で寝かせることとなった。

 一通りの対処が済まされると、陸徒と空也のふたりは、一先ず謁見の間へ集まる。なぜなら、そこにはシェリルが居たからだ。

 王が公務不可能な状態であるのと、ザルディス不在の理由から、自ずと王女であるシェリルが現在のアルファード王国内の情勢を監理する最高責任者となる。突然大きな責任を背負う立場となったシェリルだが、それに困惑、気負いすることもなく、現状と今後の対策について冷静に城の者へ指示を出していた。


「シェリルさん、大変そうだね」


 玉座の前に立ち、神妙な面持ちで大臣や兵士と話し合いをしているシェリルを見ながら、空也が言葉を発した。


「そうだな。いきなり王様がやっていた仕事を全て任されちまったんだ。大変ってレベルじゃ済まされないくらいだと思うぞ」


 シェリルは本当にいつにも増して真剣だった。それは当然のことではあるが、陸徒にとってはその様子が、いつも見せてくる彼女の優しい笑顔を忘れてしまいそうになるほどであった。


「ねぇ、王妃様は王様の仕事を引き継いだりしないの?」

「王様になにかあった場合、その権限が移行されるのは、配偶者である王妃様よりも直接的な血族である子供になるらしい」

「へぇそうなんだ」

「王位継承法って言うんだっけか……? この世界ではどういった法の基に動いているのか詳しくはわからねぇけどな」


 しばらくすると、シェリルも一段落したのか、まるで暇を持て余しているかのように談話するふたりの姿に気づき、歩み寄って話し掛けてきた。


「陸徒さん、空也さん、そちらにいらしたのですね。お待たせして申し訳ございません。今し方最優先事項の指示を済ませたところです」


 先ほどよりは少し表情が柔らかくなり、いつものような笑顔を見せてくるシェリル。だが陸徒には、その裏にある様々な問題を抱え込んだ辛さが幾ばかりか伝わってきた。


「そっか、お疲れ様。で、今どんな状況なんだ?」


 とはいえ、彼には特に気の利いた言葉を掛けられるわけでもなかった。それは、今早急に話さなければならない事案があったからだ。

 シェリルもそれは承知の上であるからか、陸徒の淡白な反応を気に留めず、すぐさま本題を振ってきた。


「はい。まずはこの危機的状況を世界中に伝えなければなりませんので、各地へ使者を送りました。エリシオンへは既に連絡済みです。エルグランドはアーシェラ女王がおりますので、その点は問題ないかと思います。それと、魔族への対抗策についてですが、未だ糸口が見付からない状況です」

「まぁ昨日の今日だしな。だからと言ってのんびりしている暇もない」

「ええ、それはわたくしも重々承知しております。そこで、陸徒さんたちにお願いしたいことがございます」

「俺たちに? なんだ?」

「それは——」


 と、シェリルが詳細を話そうとしたその時、予期せぬ事態が割り込んでくる。


「シェリル様っ! 城の周辺を嗅ぎ回っていた怪しい者を捕えました!」


 突然兵士がいそいそと謁見の間へ駆け寄って来て、敬礼をしてから報告をする。怪しい者という言葉だけではあるが、その言葉に周囲が静寂し、不穏な空気が生まれる。


「怪しい者?」


 シェリルが口を開く前に、空也がオウム返しに聞いてきた。

 視線を送っていた方向とは違うところから返事が来たため、一瞬戸惑いを見せるが、兵士はそのまま報告を続けた。


「は、はい。見たところ旅の女剣士かと思われますが、町や城の周辺で情報を嗅ぎ回っていたのです。なんでも、ラディアセイバーを持った男の剣士を捜していると言っていますが……」

「おいそれって俺のことじゃねぇか?」


 真っ先にその話が自分を指しているものと気づいた陸徒は、その怪しい者が誰であるのか、とある人物が頭に浮かんできた。

 それは、ラフェスタの町にて、海賊たちをたったひとりで全滅させ、その後陸徒に対し、問答無用で剣を振り回して襲い掛かってきた。陸徒にとって敵対する存在なのかと思いきや、そうではなく、今度はアヴァンシアの町では、プリウスの魔石を奪おうと迫るアーシェラ女王と喬介から逃げるのを手助けしてくれた。

 陸徒だけではない、シェリルと空也も、陸徒のことを知っている旅の女剣士といえばひとりしか考えられなかった。


「もしかするとその方は……! こちらへ通して差し上げて下さい」


 案の定シェリルもその人物が誰であるのか気づいたのか、兵士にその者を謁見の間へと通すよう命じる。

 すると、2人の兵士に左右の腕を捕まれ、身動きの取れなくなった女が、大声を出して喚きながら連れてこられる。その姿を見て、陸徒たちは自分の予想が当たっていたと確信する。

 赤い髪のショートヘアに、ほどよく焼けた小麦色の肌。吊り上がった鋭い目をした勝気で男勝りな顔つき。不必要に胸の大きさを強調させた格好が目のやり場に困らせるが、それよりも腰の鞘に装着した紅と蒼の2本の剣が彼女であると認識させる最もな象徴であった。

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