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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
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第44話「最強の守護獣 爆炎のフレイバルディア」

 プリウスの魔石を守る守護獣。ミドラディアスの世の中では伝説とされる生物がそれに該当していた。水と風の守護獣についてはまさにそのものであり、地に関しては、南の地にて祭られ、地脈という大地の生命を支配する精霊という存在だった。

 だが今回は、伝承やおとぎ話にすら登場しない謎の生物。フレイバルディアと呼ばれるそれは、見た者を恐怖で支配をし、逃げ出す前に炎で跡形もなく消してしまうという。

 

 火山の洞窟の中から、這い出るようにしてフレイバルディアは姿を現す。全身に灼熱の炎を纏い、形状は狼と酷似していた。しかし大きさは従来のそれとは比較にならないほどかけ離れていて、頭までの高さは軽く4メートルは超える。二足で立ち上がれば10メートルはくだらないであろう。あの怪鳥ガルティオルフとも引けを取らないほどだ。

 周辺に響き渡るような雄叫びを一声あげると、唸りながら口から涎のような体液を垂らし、陸徒たちを物凄い形相で睨みつけている。


「フレィバルディア……。今までの守護獣と雰囲気が全然違う。なんなのこの威圧感は」

「クレスタの爺さん、こいつがフレイバルディアで間違いないよな?」

「はい。あれの体内からプリウスの魔石の波動が感じられます。まさしくフレイバルディアです。しかし、この異常なまでの禍々しい気……。一体どれだけの邪悪な気を取り込んでしまっておるのでしょう」


 波美とクレスタが感じ取っていた言葉の通り、火の守護獣フレイバルディアは、前回のゲオスノームをも遥かに上回るほどの大量の邪悪な気に飲み込まれ、支配されていた。

 死闘となるのは必至。しかし体の奥底から感じる恐怖に見舞われながらも、誰ひとり逃げ出そうとする者はいなかった。


「この様子じゃ作戦会議をしている暇はなさそうだから、手短に言うぞ。シェリルは俺と波美、アクシオに火の属性防御術をかけて、その後はクレスタの爺さんと空也を通常のバリアで守ってくれ。ふたりはバリアの中から魔術で応戦。これでいいか?」


 陸徒がちゃっかりとメンバーの指揮を取って作戦の説明をするも、最終確認の為か、アクシオやクレスタへ視線を移して合図を見せる。

 ふたりからも異論はないようで、全員が武器を構えて態勢を整えると、瞬時に戦闘が展開される。すかさずシェリルが杖を翳し、呪文の詠唱を始めた。


―其は炎熱を介さぬ朱橙の衣―

炎絶膜ファイアシルド!」


 炎の属性防御術が発動されると、アタッカーの3名の体が暖色の光に包まれ、火の属性による一切の攻撃が効かない状態となった。それを確認しては、阿吽の呼吸の如くフレイバルディアへ突っ込みを仕掛ける。同時にシェリルはバリアの法術を後衛にかけて、術者の安全を確保した。

 フレイバルディアが前の片足を高く振り上げ、陸徒たちを踏み潰そうと叩きつけてきた。この攻撃は想定内。タイミングを見計らって、それぞれ三方向へ散る。

 相手の一番近くに移動した波美が最初に攻撃を仕掛けた。リーチの短い波美は、攻撃の際に相手へ最も接近しなければならないため、反撃を受けてしまう可能性は高いが、持ち前の素早さを生かして相手を翻弄させながら的確に攻撃をする。

 フレイバルディアの足元を狙い、動きを鈍らせる戦法のようだ。目にも止まらぬ速さで次々と攻撃を繰り出すと、蓄積させるダメージによって相手が怯みを見せた。


「ふふん、どんなもんよ!」


 波美はその成果から、調子に乗って勝気な表情で周囲にガッツポーズを見せる。

 だがその隙を突かれてフレイバルディアの前足が襲い掛かってきた。波美は高い反応速度で紙一重に防御をし、直撃は免れたものの、右側へ勢い良く吹き飛ばされて、その先にあった岩へ激突してしまった。


「波美っ!」


 アクシオが彼女を助けようと向かうが、フレイバルディアが口から炎を吐いて邪魔をする。属性防御の効果でダメージはないが、燃え盛る火炎により行く手を阻まれてしまった。


「くそ、邪魔すんな!」


 場を切り抜けようと、アクシオは得意のハイジャンプでフレイバルディアの頭上へと飛ぶ。頭上から槍で突き刺すつもりだ。

 そこへ今度はフレイバルディアが体を小刻みに震わせてくる。瞬間、身体に纏わせている炎を巻き上げ、巨大な火柱を作り出した。それは上空にいるアクシオに直撃。先ほどと同様に属性防御によってダメージは受けないものの、噴き上げられる炎で視界を奪われ、アクシオの攻撃が出遅れてしまった。


「ぐあっ!」


 アクシオを襲ったのはそれだけではなかった。フレイバルディアの尻尾が迫り、それが振り下ろされると、アクシオを上から叩きつけて地面へ勢いよくめり込ませた。


「波美! アクシオまで……」


 陸徒はふたりがやられてしまったことに舌を打ち、歯を食い縛って剣を構える。不用意な位置からではなく、思い切って正面から向かおうと、フレイバルディアの顔面目掛けて飛び込む。

 体を捻って斬り払いを仕掛けるが、タイミング良く剣を咥えられ、身動きが取れなくなってしまった。

 高さ4メートルはある巨体のフレイバルディアは、剣を咥えたまま陸徒を宙に吊り上げる。だがその瞬間を狙い、陸徒は柄を鉄棒代わりに利用して、振り子のように体を撓らせると、反動でフレイバルディアの首へ蹴りをかます。

 急所である喉笛に強力な打撃を受けたフレイバルディアは、さすがに効いたのか、口を開けて呻き声をあげ怯んだ。それにより剣が解放され、おかげで陸徒は地へ降りることができた。

 一方、後衛にいる空也もただ見物しているだけではなかった。クレスタは負傷した波美とアクシオの救助に向かった為、それに気づかれないよう魔術で応戦する。


―清らかなる精霊の涙よ、凍てつく刃となれ―

氷冷雨フリーズレイン!」


 素早い詠唱で即座に術を発動させる。ここは完全な火の地形属性であるが、水や氷の属性が弱点であると考えられるフレイバルディアには効果覿面だ。それを示すかのように、上空から降り注ぐ氷の矢がフレイバルディアに直撃すると、怯みながら体をやや地に伏せた。やはり効いているようだ。

 しかし途端に顔を引きつらせて威嚇をし、空也に対して敵意を剥き出しにする。自分の弱点属性を突いてくる相手を脅威と判断したようだ。


「うわ、ぼ、僕を標的に変えてきた……!」

「大丈夫です。わたくしが守ります」


 そう言いながらシェリルが空也の前へ出て、杖を前方に構えてバリアを最大出力で展開させる。

 すると、フレイバルディアの口から煮えたぎるマグマのような轟音が聞こえてきた。そして次の瞬間、とてつもない爆音と共に口から直線状に真っ赤な炎が吐き出された。

 放出された衝撃は風圧となって周囲にも影響を与え、フレイバルディアの付近にいた陸徒は吹き飛ばされ、後方の岩壁に体を叩きつけられてしまった。

 まるでビームのような灼熱の炎が空也とシェリル目掛けて襲い掛かる。それがシェリルの法術によるドーム型のバリアに直撃すると、なぞるようにして放射状に拡散していった。


「くっ……」


 十数秒ほど経過しただろうか、なおも絶え間なく放出され続ける炎のビーム。シェリルは歯を食い縛りながら必死で法力を最大限に発してバリアを張り続ける。だがその後、ピキピキと何かに亀裂が走るような不快な音が聞こえた。


「そ、そんな……杖がっ!?」


 シェリルがその異変に気づいた刹那、彼女の杖全体に亀裂が走り、粉々に砕けてしまう。同時に目の前で爆発が起こり、空也と共に後方へ吹き飛んでしまった。


「きゃああああっ!」

「うわああああっ!」


 爆発によって炎のビームも治まったが、吹き飛ばされた衝撃でふたりは気を失った。


「シェリル! 空也!」

「御二人とも大丈夫ですか! まさか、王家代々伝わる宝杖アリオンロッドが砕けてしまうとは……」


 火の守護獣フレイバルディアは、彼らの予想を上回るほどに強かった。まさに最強の守護獣とも言うべき強さだ。

 現状クレスタが無傷であるが、先ほど負傷してしまった波美とアクシオの手当てに回っている。陸徒も風圧によるダメージを負った状態だ。

 戦況は芳しくない。しかしここでなんとかしなければ全滅は必至だ。負傷者の手当てをしているクレスタを庇うべく、陸徒が体の痛みに耐え、身を起こして剣を構えようとしたその時、どこからか声が聞こえてくる。


「こんな大所帯にも拘らず、なんとも無様ね」

「誰だっ!?」


 その声は、シェリルと空也が倒れている場所の数メートルほど上にある岩陰から聞こえた。そこから2つの影が姿を現す。


「陸徒、お前の力はその程度か?」


 それは聞き覚えのある声。風の谷にて似たような展開を経験した陸徒は、声の主であるふたりが誰であるのかすぐさま気がついた。


「あのフレイバルディアという生物が、プリウスの魔石を持っているようね」

「魔石は俺たちがいただくぞ」


 突如と現れたこのふたり。2度に渡り陸徒たちを邪魔してきた、同じくしてプリウスの魔石を狙う者。エルグランド王国の女王アーシェラと、波美の兄である喬介であった。

 アヴァンシアの町にて、シルビアの手を借りて撒くことができたが、このような所まで追ってくるとはなんという執念。と、今はそのようなことに感心している場合ではない。


「喬介さん、どうしてここが……?」

「俺たちも独自でプリウスの魔石の在り処を探している。だからこの場所を突き止めるのもそう難しくはない」

「おしゃべりをしている暇はないわ。フレイバルディアが既にこちらの存在に気づいている」


 敵が増えようとフレイバルディアにとっては関係ない。目の前にいる者を排除するのみだ。

 だが見方を変えればこれはチャンス。アーシェラと喬介も、フレイバルディアを倒さずしてプリウスの魔石を手に入れることは不可能であると、当然認識している。つまり今この状況においては目的は同じ。共闘すべき協力関係とも考えられる。

 善は急げか、すぐさまアーシェラが魔術書を開くと、それが戦闘の合図となり、同時に喬介も剣を構える。

 そこへフレイバルディアがアーシェラの魔術を阻止しようと、口から火球を飛ばしてきた。それに怯むことなく詠唱を続けるアーシェラ。すかさず喬介が紫の大剣を軽々と振り回し、飛んできた火球を弾いて掻き消した。


―清らかなる精霊の涙よ、凍てつく刃となれ―

「氷冷雨フリーズレイン!」


 喬介が攻撃を防いでいる隙に呪文の詠唱を完成させ、アーシェラは早速と魔術を放つ。先ほど空也が唱えたものと同じ、氷系の初級術だ。

 上空に作り上げられた霧から無数の氷の矢が降り注ぐ。大ダメージではないものの、それが1本1本当たる度にフレイバルディアは顔を歪ませ怯みを見せる。

 更にここから、アーシェラの驚異的な魔術の力を思い知らされることとなる。


―凍結せし極寒の衣よ、大地を這いで氷波となれ―

「凍晶波アイスウェイブ!」


 他人では聴き取れぬほどの素早い詠唱で、間髪入れず次の術を放つ。今度は同系の中級術。陸徒たちはこの術を最も多く目にしていることだろう。

 フレイバルディアを中心に氷のフィールドを作り出し、足元を凍りつかせて強力な冷気を与える。最初に放たれた術の効果が生きたまま、地形属性が氷の状態であった為、通常よりも大きなダメージを与えることができた。

 だがアーシェラの攻撃はこれだけに留まらず、次に真骨頂を迎える。


―目覚めし冷徹な極氷の女王

 我は汝との契約の結びにて命ずる

 其に放て白き世界の絶零なる凍刃―

絶対零度アブソリュートゼロ!」


 初めて聞く呪文だ。陸徒たちはこれまでに味わったことのないような、とてつもない力を肌からひしひしと感じ取れた。そして途端に変化が訪れる。

 ここが灼熱の火山地帯であるにも係わらず、辺りが急に寒々としてきたのだ。その後フレイバルディアの周囲に吹雪が纏わりつき、徐々に体を凍りつかせていく。


「この術は……。さすがはアーシェラ様、氷属性の連続詠唱から最大系統で繋げてくるとは……」


 クレスタは戦況に目を配りながらも、負傷した波美とアクシオを介抱し、術に巻き込まれないように安全な場所へ避難する。


「あいたたた。クレスタさんありがと」

「ちっくしょー、あの犬さんすげぇ強い。ってか今どんな状況なんだ?」


 フレイバルディアの攻撃で地面へ叩き付けられ、2メートルほど深くめり込んでいたため、アクシオは今の状況が理解できず困惑を見せる。

 クレスタの迅速な対応もあって、ふたりは致命傷に至らずに済んだようだ。


「あたしたちがピンチのところへ、突然アーシェラ女王とお兄ちゃんが現れたの。そこでアーシェラ女王がフレイバルディアに魔術を使ったってわけ」

「そうだったのか。にしても一体どういうことになってんだ? 犬さんがどんどん氷漬けにされていくぞ」

「ホント。ここさっきまで暑いところだったのに、今物凄く寒いんだけど……」


 アクシオは凍結されていくフレイバルディアを見て驚嘆し、波美は両手で二の腕をスリスリと擦りながら身震いさせている。そこへクレスタが術の詳細を踏まえて説明してきた。


「これは氷系最大の魔術。私たちとは異なる次元の存在、氷の女王ベルティスの力を借りて、相手に絶対的なまでの極限の冷気を与えるものです。術の力も去ることながら、アーシェラ女王の類稀な魔力によって威力を増しておられる。これではあの火の守護獣フレイバルディアと言えどひとたまりもないでしょうな」


 次第に術の発動状態も治まりを見せ、周囲の極寒の冷気も少々穏やかになってきた。風の音ひとつすら聞こえぬほどの静寂が支配する中、陸徒たちの目の前に佇むのは、目と口を開いたまま見事なまでに凍結したフレイバルディアの姿があった。


「大したことなかったわね」


 魔術書を閉じて懐に収めると、アーシェラは余裕の表情で氷漬けのフレイバルディアを顎で指すように見下ろした。


「肝心のプリウスの魔石は奴の体内にある。俺が剣で砕いて取り出してこよう」


 そう言って、喬介が岩の高台から飛び降りて、凍りついたフレイバルディアの元へ向かう。だがその時、突然周辺の地面が揺れ始めた。


「くっ、なにが起きた?」


 喬介は揺れる大地にバランスを崩し、一時その場に身を下ろす。他の面々も何事かと辺りを見回すも、特に変化は見られなかった。

 火山活動によるものかと思われたが、その後の出来事により、別の原因だというのがわかることとなる。


「なぁ、犬さんが……」


 アクシオの言葉に全員がフレイバルディアに視線を向けた。

 すると地面の揺れと共に、少しずつフレイバルディアを包み込んでいる氷に亀裂が入っていくのが確認された。


「まさか……ウソだろ」


 陸徒たちが嫌な予感から引き出される恐怖に慄くのも束の間。フレイバルディアの氷が瞬く間に崩れだし、最後に雄叫びをあげた瞬間、全ての氷が粉砕されてしまった。

 火の守護獣フレイバルディア、ここに完全復活である。

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