表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
37/111

第37話「新たな事件 謎の教団と男」

 エリシオン王国へ向かう船内の倉庫。普段は人の出入りなどないはずの場所へと、波美は迷い込む。その理由は彼女の身に襲い掛かった重度の船酔い。

 そんな中、倉庫内が予期せぬ状況へと変貌しようとしていた。見知らぬ男ふたりの声が聞こえ、耳を澄ましていると、この船に爆薬を仕掛けようという会話が聞こえた。穏やかならぬその言葉に、波美は思わず声を発してしまう。

 当然男たちはその声の正体を突き止める為、倉庫内を探し始める。一先ず波美は、その様子を伺おうと、積み上げられた樽の隙間に身を隠した。

 この倉庫は、なにもない状態ではただの広めなフロアになるのだが、現在は積荷の樽や木箱、袋などが大量に置かれ、それが入り組んだ迷路のような形を作り上げていた。これが幸いして隠れやすい状況にしている。

 というのも束の間。今の波美には、長々と身を潜めていられる余裕はなかった。


(うっ、ヤバいのがきた……)


 タイミング悪く、体内から込み上げてくるものを感じ、それを必死で堪えようとするが——。


(これは、あれね……無理だわ)


 このままジッと耐え続けるのは不可能と判断し、波美は意を決して身をさらけ出す。


「!! お前か、コソコソ隠れていたのは」


 案の定、すぐさま男たちに発見されることとなる。


「女か……。嬢ちゃん、まさか俺たちがここでなにをしているのか聞いていたか?」


 ふたりの男は、黒装束のような衣服を身を纏い、顔も目の部分だけを残して布で覆い隠している。誰が見ても怪しい人物と判断するには十分な装いをしていた。


「当り前よ。この船に爆薬を仕掛けようとしていたんでしょ?」


 自分の置かれている状況と、目の前にいる人物の只ならぬ怪しさから、通常ならば物怖じして虚言を吐くところであろうが、波美は堂々と素直に返答する。なぜなら、今の彼女には頭の中で詮索する余裕も、時間もなかったからだ。

それを聞いた男はお約束の如く、波美の口封じをするために、腰の辺りからナイフを取り出して戦闘態勢をはかる。


「こんな調子が悪い時は気が乗らないけど、仕方ないわよね」

「なにをぶつぶつと喋っている! 死ねっ!」


 独り言で溜息をつく波美に対し、男が問答無用さながらに斬りかかってきた。持っているナイフで素早く連続攻撃をする。

 この男、かなり戦闘慣れしているようで、非常に俊敏な動きを見せている。それに、一手一手がほぼ急所を狙っている様子から、殺人のプロであることが容易に伺えた。

 とはいえ、波美もこれまでの戦闘経験による成長の他、天才的な格闘能力によって、並大抵の相手では太刀打ちできぬほどに強くなっていた。よって、男の攻撃を全て難なく回避する。

 波美を只者ではないと判断したのか、もう片方の男も参戦し、本気で殺しに掛かってきた。


「ちょっと、レディ相手に男ふたり掛かりとか、恥ずかしくないの?」


 男たちは左右から波美を挟み込むようにして、突き、斬りを織り交ぜたナイフでの連続攻撃を繰り出す。だが波美は焦りを見せず、寧ろ相手を罵って挑発さえもしている。

 無論、両方からの同時攻撃すらも、身を翻したり、手で弾いたりして全て回避している。人並外れた動体視力と身のこなしだ。


「ったくもう、あたしは今船酔いで気持ち悪いのっ! いい加減にして!」


 避けてばかりの状態に痺れを切らした波美は、そのひと声と同時に右側の男の攻撃を受け流しながら、懐に入り込んで鳩尾に肘内を食らわす。そのまま柔拳のように一糸乱れぬ動きで身を伏せ、左側のもうひとりの男を回し蹴りで足払いをする。そして男が倒れ込んだところを腹部に一発掌底を当てた。


「ふぅ。これで落ち着いたわね。……うっぷ、でも気持ち悪いのは治まらないわ」


 ものの一瞬でふたりを退治してしまったにも拘らず、調子が悪いのは相変わらずで、血の気の引いたような表情をしているが、波美は倒れ込んだ男の方に目を移す。

 最初に攻撃を決められた男は、白目の状態で口から泡を吹き出したまま完全に気絶している。もう片割れは、体を動かせなくなってはいるものの、辛うじて意識は残っていた。その男の傍に寄り、波美はこの件の詳細を聞き出そうとする。そのためにあえて手加減したのだろう。


「ねぇ、あなたたちはなんでこの船に爆薬を仕掛けようとしたわけ?」


 ストレートに質問を投げる波美だが、当然男は素直に答えるはずもなく、一貫して無視を決め込む。

 そんな態度に波美があっさりと引くことはなかった。じわじわと威圧と殺気を送り込み、男が動揺を見せてきた頃合いに、サラリと恐ろしいセリフを吐く。


「ふ~ん。まぁずっと無視しても別に構わないわよ。けどこれから気絶しない程度に、地獄のような痛みを味わってもらうけど、いい?」


 本気の度合い見て取れる波美の座った目線と、とてつもなく強く押し寄せる殺気によって、いよいよ観念した男は、口を開き語り始めた。


「……俺たちは、ある教団の一員で、命令されてこの船に乗り込んだんだ。なんでもこの船には竜の鱗が積まれているらしい」

「竜の鱗?」

「あぁ。その竜の鱗は魔族にとって忌々しい記憶の物だ。知っているだろ? 2000年前の戦争の話」

「まぁ、あまり詳しくはないけれど、英雄レクサスが率いる竜族と魔族の戦争が起きたのよね?」

「そうだ。俺たちはその竜族の遺品である鱗を、闇に葬るよう命令されたのさ」


 予想以上にベラベラと喋る男に、波美は少々驚きを見せてはいるようだが、思いもよらぬ情報を仕入れたことに、船酔いの気持ち悪さも忘れるほど神妙な顔つきになる。そして、次の質問を投げた後に恐ろしい出来事が起こる。


「一体そんなことしてどうするの? それにあなたたちの教団ってなんなの?」

「俺達はプレサージュの街にある——」


 男は話の途中で急に黙り込んだかと思うと、突然目を大きく見開き、首を掻きむしるようにもがいた刹那、息を詰まらせて絶命した。


「えっ、ちょっとなに、どうしたの? ……うそ、し、死んでる」


 思いがけず不意に起こったことに、波美は動揺を隠せず慌てふためく。


「まったく、お喋りが過ぎるぞ。ゴミが……」


 すると今度は、波美のいる位置より数メートルほど先の背後から、別の声が聞こえてきた。

 まさかと思い、波美は声のした方向とは異なる場所へ振り向く。そこには彼女の最初の攻撃を受けて気絶していた男の変わり果てた姿があった。

 先ほどの男と同様に、目を開いたまま顔から血の気がなくなり、身を硬直させて死んでいたのだ。


「もうひとりの男じゃない。ど、どうなっているの……。あ、あなたは一体誰なの?」


 波美は冷や汗を垂らしながら、声のした方向へ視線を移す。そこには、ふたりの男とは異なる容姿の人物が立っていた。

 顔は隠してはおらず、生気を感じられぬほど蒼白に染まった肌と、背中まで伸びた銀色の長髪を前髪から全て後ろへ掻き上げた髪形をしている。体は両手ごと漆黒のマントで覆っている。容姿や声からして性別は男と思われるが、外観からはそれ以上のことは知りえない。それほどまでに怪しさを全面に出していた。


「ふん、生憎貴様のような下等のゴミに名乗るほどのものは持ち合わせていないのでな」


 波美の問いに対し、蔑んだ目で吐き捨てるように答えると、周囲に気を配っているのか、視線を多方向に移すような仕草を見せている。まるで波美の存在を無視しているような様だ。


(くっ、なんなのこの人……)


 波美はこの男を睨むように心の中で舌を打つが、問いに答えてもらえなかったことや、無視されたことよりも、他とは違う感情を抱く。

 それは、これまでに感じたことのないような、体を全て覆い隠されてしまいそうなほどに押し寄せる恐怖だった。波美が眼中にないようでも、自身から常に放たれている気迫と殺気によって、波美は今すぐこの場から立ち去りたいと思うほどに押し潰されそうになっていた。


「ねぇ、どうして、この人たちを殺したのよ?」


 波美はその恐怖に負けまいと、必死に全身に力を込めて喝を入れ、この不可解な状況の情報整理のために男に問い掛ける。


「人間がひとりやふたり死んだところでどうということはなかろう。さて、そんなことよりも……」


 対し男は残忍な言葉をなんの躊躇いもなく即座に答えると、自分の右手方向にある木箱の元へゆっくりと移動し、なにやらそこに手を翳し始める。


「…………」


 そして他人には聞き取れないほどの呪文のようなものを囁くと、突如風船が弾けるように木箱が勝手に砕け散った。するとそこから、本1冊分程度の大きさの板状のものが、赤い光を放ちながら宙を浮いて現れた。

 それを手に取り、自分の胸元へ寄せた男は、途端に顔を歪ませて憤怒の感情を露わにする。


「竜族……考えるだけで虫唾が走る」


 男の言葉を聞いて、波美はハッとして気づく。男の持つ赤い物が、先ほど話に聞いた竜の鱗なのだろうと。

 男はその竜の鱗を手の平から宙へ放り出すと、刹那ピキピキとガラスに亀裂が走るような音を立て、忽ちに粉々に砕いてしまった。それは力技ではなく、魔術のような類の力によるものに見えた。

 その現象に驚きながらも、波美はここまでの経緯や状況の展開から、自分なりに考察し、男へ聞き出す。


「事のつまりこういう話ね。あなたもこの人が言っていた謎の教団の一味で、命令されていた竜の鱗の破壊を実行しにきた。そうでしょ?」

「正解ではないが、間違いでもない。とだけ答えておこう」

「そもそも、その教団ってなんなの? どうして竜の鱗を破壊するためだけに船ごと沈めようとしたり、人を殺したりするのよ」

「それ以上余計な詮索は控えたほうが身のためだ。どうしても聞きたいのならば構わんが、自分の人生を今この瞬間で終わりを遂げることになるぞ」


 波美は息が詰まり、言葉を止めた。精一杯の威勢を張り、男から情報を聞き出そうとしたが、知れば殺されるという意味を持った発言に、波美は思い留まった。

 勝気で正義感が強くとも、波美はバカではない。ここでひとり足掻いたところで結果は見えていると判断したからだ。そもそも、この世界に来て力を手に入れたと言えど、元々は普通の女子高生。命が惜しくなるのは至極当然である。

 だが、状況が変わった場合はどうであろうか……。


「それが賢明な判断だな。しかし、この場を見られてしまった以上見過ごすわけにもいかない。一先ずは一緒に来てもらおうか」

「ちょっと、どこへ連れてくのよ!」

「知る権利はない。黙って来るのだ」


 状況の変化とはこのことだ。すぐに殺されることはないにしろ、自身が誘拐されるとわかっては、波美も抵抗に出る。


「ふざけないでっ!」


 波美は手を取られようとした瞬間それを弾き、一歩身を引いて間合いを取ると、拳を構えて戦闘の意思表示をする。

 このままでは成すがまま。力ずくでもこの場を切り抜けなければ自分の身が危ういと判断した波美は、すかさず男へ攻撃を仕掛けた。

 前に加重をかけて右拳を突き出す。素早く繰り出された波美のパンチは、男の顔面に直撃……のはずだった。

 寸でのところで波美の動きが止まる。一瞬なにが起こったのかわからなかった。しかし波美は全身に力が入らず、まるで石のように硬直しているのを如実に感じていた。気づけば声も出ない。計り知れぬほどの恐怖が体の底から湧き上がるのを感じ取っていた。


「ふん、無駄なことを……」


 男は表情ひとつ変えず小声で吐き捨てると、片手で波美の首を掴み、そのまま宙に吊り上げる。


(!! あっ、く、くるしい……)


 苦しいのに声を出すことはおろか、息もできない。絶対的な死の恐怖。波美は次々と大粒の涙を溢し始める。


(もう、だめ……りっ、く……ん)


 抵抗ひとつできず、波美の意識が遠のき、命の灯が消えかけそうになったところへ、突如とあらぬ方向から何なにかが飛んでくる。


「くっ!」


 それは波美を掴んでいた男の腕に刺さり、男はその拍子で波美から手を放した。彼女は床に身を沈めてそのまま気を失う。


「おらあぁぁぁぁぁっ!!」


 倉庫内に響き渡るほどの咆哮を発しながら、男に向かって突進する人物がひとり。蒼色の大刃を大きく振りかぶってから、男の頭上へ勢い良く下ろした。

 それは陸徒だった。怒りに満ちた形相で、力任せに男に不意打ちの攻撃を仕掛けたようだが、男は咄嗟に後方へ下がってそれを回避した。続いて陸徒がやって来た後方からシェリルが現れる。

 いの一番に男へ攻撃をしたのは彼女であった。百発百中の精度を誇る得意の光の矢で、見事波美の命の危機を救ったのだ。


「貴様、一体何者……!! その剣はっ!?」

「うるせえ黙れ! よくも波美をこんな目に合わせやがって! ぜってぇ許さねぇぞ!!」


 男の言葉を無視するかのように怒号を撒き散らす陸徒。男の方は陸徒の登場よりも、彼の持つ剣に大きな驚きを見せているようではあるが……。

 そこへ今度は、アクシオ、クレスタ、空也も現場へ登場し、メンバーが揃った。


「……さすがに今騒ぎを起こされるのは少々面倒だ。ここは一旦引かせてもらおう」


 状況を確認するや否や、男は漆黒のマントを派手に翻してから身を転回させると、突如と目の前に黒く渦巻く空間を作り出し、その中へ身を投じて姿を消してしまった。


「てめぇ逃げる気かよっ! 待てよ!」


 構わず陸徒は男の後を追おうと、黒い空間へ突っ込もうとするが——。


「陸徒殿! 深追いは禁物ですぞ!」


 それは止めたのはクレスタであった。

 男が身を投じた後、黒い空間は周囲の空気を歪ませながら徐々に収縮し、この場から忽然と消えてしまった。


「あの野郎……。クレスタの爺さん、なんで止めるんだよ! あいつを逃しちまったじゃないか!」

「陸徒殿、波美殿がひどい目に合わせられ、怒る気持ちもわかりますが、相手が何者であるか判断できぬ以上、無闇に深追いするのは危険です」

「だ、だからって——」

「まったく、頭に血が上ると、後先考えずに見境なくなるのは、相変わらずよね」


 怒り任せにクレスタに突っかかる陸徒に、言葉を差し込んできたのはなんと波美であった。シェリルの迅速な介抱と治療によって、どうやら意識を取り戻したようだ。

 首を絞めつけられたことによる呼吸困難が尾を引いているためか、まだ体が思うように動かないようで、上半身をゆっくりと起こしてから、事の経緯を皆に話しだす。


「あの男、これまでに会った相手とは一線を画すほどよ。会った瞬間から、あたしは男から放たれるとてつもない気迫に終始押されていたもの。戦っても勝てるような相手じゃなかった。でも、あたしを連れて行こうとしたから抵抗したんだけど、実際何なにもできなかったわ……」


 波美の強さはメンバーの誰もが理解していた。そんな彼女がまるで赤子のように扱われ、手も足も出せなかったことに、全員ただ驚くほかなかった。

 しかしその中、クレスタは男が一体何者であるのか分析を試みる。


「あの男が去る時に作り出されたもの、魔術によるものではないですな。あれは異次元空間へ通じる扉、魔術で作り出せるものではございませぬ」

「魔術じゃないとしたら一体なんなんだ? 波美、あの男についてはなにも聞き出せなかったのか?」

「うん、ごめんね。でもあの男に殺されたふたりも、とある教団の人間だと言っていたわ。確か、プレサージュの街にあるとか」

「プレサージュか」


 波美の言葉にアクシオが反応を見せる。エリシオン出身のアクシオはプレサージュの街について知っていた。そこは、この船が到着するフリードの港町から南東の方角にあり、徒歩で3日はかかる位置にあるとのことだ。

 突如現れた謎の教団と、波美を殺そうとした男。新たに浮上したこの問題をどう扱うべきか陸徒は悩んでいた。自分たちの本来の目的は、エリシオン王国にて最後の魔石のある場所、嶺王火山を探すこと。今ここで教団の謎を追うべきか否か……。

 この後訪れるエリシオン王国。この時彼らは、かの地で待ち受ける大事件を未だ予想すらしていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ