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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
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第36話「船旅も楽じゃない 波美に襲い掛かる危機」

 天候、風向き共に良好。船はエリシオン王国へ向かって順調に進んでいる。

 出航したアヴァンシアの町からは約5時間程度の船旅となるそうだ。船が到着する場所はフリードという港町。といっても聞いた話では、港町と言うには少々無理のある規模だそうだ。

 船出から一刻ほど経過し、今は各人余暇を過ごしているようだが、基本的には船の上というだけで、時間を潰すにしてもできることは限られてくる。そんな陸徒は暇を持て余し、甲板に出て船首の近くまで辿り着く。そして頃合いの手摺を見つけては、寄りかかって視界に広がる大海原を眺めていた。

 船の進行方向に対して後方を望むと、出発したエルグランド王国の陸地が、そろそろ水平線に沈み消えゆく位置にいるのがわかる。他の方角には特に陸地は見当たらない。

 

「陸徒さん、こちらにいらっしゃったのですね」


 しばらくしてシェリルがやってきた。ブロンドのロングヘア―を柔らかになびかせながら、屈託のない笑顔を見せて話しかけてくる。陸徒はしばしシェリルと会話を楽しむことに。


「よう。船旅ってのも、こう、することがないと退屈だな」

「そうかもしれませんね。わたくしは、なにも見えない一面の海を眺めているだけでも楽しいと思います。世界の広さを改めて実感できますし」

「まぁそれはそれでいいかもしれないけどな。ところで、シェリルはエリシオン王国へは行ったことはあるのか?」

「はい。お城へは何度か訪問したことがございます。王様は、産業や工業の発展へ大変力を入れておられまして、国の利益のためならあらゆることにも挑戦される御方なのです」

「なるほどな。だから工業が発展した国になったのか。どんなところなのか俺も興味が湧いてきたよ」

「アルファードやエルグランドとはまた違った雰囲気ですが、とても良い国ですよ」


 そこへ、会話を楽しむふたりの間に怪しい影が忍び寄る。

 ふらふらと千鳥足のようなおぼつかない足取りでゆっくりと近づいてくる。ふと陸徒がその気配に気づき、視線を送ると、そこには知った人物がいた。いつも元気なはずのポニーテールの女の子。そう、波美だった。

 彼女は口元を押さえながら、小刻みに素早く足を前へ出して甲板の端へ向かう。そして手摺から身を乗りだしたかと思うと——。


「うげぇぇぇぇぇっ」


 嘔吐した。

 船酔いであった。


「おい波美、大丈夫か?」

「あはははは。ごめんね、汚いとこ見せちゃって。平気、平気…………っぷ」


 冷や汗を垂らしながら作り笑いで答えるが、途中でまた口を押さえて手摺へ身を乗り出し、同じ行動をする。


「いや、全然平気じゃないだろそれ……」

「波美さん、わたくしに任せて下さい!」


 これは見過ごしていられないと、神妙な顔つきでシェリルが素早く杖を構え、呪文の詠唱を始める。


―其は、清浄なる青き聖の吐息―

状態回復キュアコンディション!」


 すると、杖の先から白く優しい光が放たれ、波美の体をそっと包み込む。数秒ほどで光が消えると、シェリルは状態を確認するように波美の顔を覗き込んだ。


「……あれ、気持ち悪いのが治まった!」

「毒などの体を蝕む状態異常ではないので、完全とまでにはいきませんが、これでだいぶ楽になったはずです」

「すげぇ、法術って船酔いにも効くのか」

「ありがとうシェリル! ってか、あなたたちは平気なの? 物凄く揺れるじゃないこの船」


 気分が回復した波美は、自分のいる場所、陸徒とシェリルの状況を確認した上で質問を投げかけてきた。

 彼女の言うように、この船はかつての大航海時代を思わせるような完全木造のものだ。当然陸徒たちの今の時代にある船とは違う。超重量の鉄製の船よりは安定性は高くない為、風の向きや速度によってかなり船体が煽られる。

 だが、元々乗り物酔いとは縁遠い陸徒や、この世界で生きるシェリルにとっては、この程度の揺れではなんとも思わず平然としていた。


「まぁいいわ。到着まであと4時間くらいだよね? 気分が楽な今のうちに寝て時間を潰すね」


 乗る前は気分上々だった波美も、船酔いひとつでこの有様。ふたりにことを告げると、肩を落としたままゆっくりとした足取りで、船室へと戻って行った。


「またご気分が優れない時はお呼び下さいね。お大事に……」


 去って行く波美を心配そうに見つめるシェリル。あいつの意外な弱点を見つけてしまったなと、心の中で呟く陸徒であった。

 一先ず陸徒とシェリルは、気分転換に甲板を歩いて回ることにした。ふたりがいる場所は船首付近で、そこから船尾までは約50メートル近くはある。他の乗客も各所に散見され、それなりの賑わいを見せていた。

 

 船尾方向へ歩いている途中、アクシオの姿を発見した。

 彼は甲板に置かれている樽に寄りかかるよう座って、自分の武器である槍の手入れをしていた。ふたりが歩いてくるのにすぐさま気づいたアクシオの方から声を掛けてくる。


「よ〜おふたりさん、デートかい?」

「バ、バカ! んなわけねぇだろ。暇だから散歩してんだよ」

「そ、そうですよ。アクシオさん、変なこと言って揶揄わないで下さい!」


 開口一番突拍子もない発言を受け、陸徒とシェリルは一緒になって必死に否定をする。特にシェリルに至っては、途端に顔を赤く染めて慌てながら、明後日の方向へ目を逸らしていた。


「で、お前は槍の手入れか。まめだな」


 場の雰囲気を元に戻すことも兼ねてか、陸徒は早々に話題を変えてアクシオへ振る。対するアクシオも、それをさほど気にする様子もなく、淡々と返答をしてきた。


「大切な相棒だからな。しかしガルティオルフとゲオスノームとの戦いでかなり損傷させちまった。陸徒の剣はなんともないのか?」

「ラディアセイバーか? 特に傷んではいないな。ってか、全くもって微塵の欠片すら削れていないぞ」

「おいおいマジかよ。一体どんな金属でできてんだそいつは……」


 背中に納刀している剣を片手で持って取り出し、それを空に掲げて眺めながら、あっけらかんとして答える陸徒。アクシオは正体不明且つ常識外れな強度を誇る剣の存在に、ただ阿鼻叫喚するだけだった。


「そういや空也の奴知らないか?」

「あぁ。確か爺さんと一緒にいるところを見たな。船尾の方だった気がするぞ」


 陸徒は思い出したように空也の動向を聞くと、アクシオが答える。クレスタと一緒ということは、また魔術の修行かなにかであろうか。

 アクシオの元を離れたふたりは、船尾の方向へ向かう。すると案の定、甲板の上に座り、目の前に魔術書を開いている空也と、それを傍らで眺めるクレスタの姿を発見した。


「よう空也。また魔術の訓練か?」


 陸徒が声を掛けると、空也はハッとして俄かに辺りを見回し、兄の登場に気づくなり手を振ってきた。


「あ、兄ちゃんとシェリルさんだ!」

「おお、これはこれは御二方、仲良くデートですかな?」


 おいジジイ。自分か仕えている城の王女を差し置いてなにを言ってやがんだ……。意外にもクレスタの口から出た茶化し発言に対し、陸徒は脳内でツッコミをした後、冷ややかな目で彼を睨みつけた。 


「今ね、魔術書に内在されている魔力の特性を読み取る練習をしているんだ」


 陸徒とクレスタの状況を特に気に留めもせず、空也は勝手に、自分のしていることや魔術書のなんたるかをベラベラと話し出した。


「えっと、魔術書にはそれぞれ違った癖みたいなのがあって、それをしっかりと把握し、読み取ることで、魔術書の力を最大限に引き出すことができるんだよ」

「ふーん。で、そいつをどうやって読み取るんだ?」

「魔術書の特性は魔術士でなければ読み取ることができません。その方法も感覚的な部分が多いため、口で説明をするのはちょっと難しいですな。仕組みとしては、大地の巫女が地脈の力を引き出すものと似ております」


 元々、学校の成績がそれなりに優秀であった陸徒は、知見や分析能力には長けている。シェリルも王室の高等教育を受けている上に、魔術に関する基礎知識も備わっているため、空也やクレスタの説明は十分に理解しているようだ。無論、魔術士にのみ実行できる技術であるから、あくまでも理解するまでのことではある。

 それにしても、自分が声を掛けなければ気づかないほどに空也は集中していた。その熱意を普段の勉強にも活かしてくれれば文句ないのだがな……。と、兄陸徒は切実な想いを心の中で呟くのであった。

 一先ずこれで全員の動向が把握できた陸徒は、再び記憶を戻し、船酔いでくたびれている波美のことを思い出した。本人の言っていたように、船室で休めているのだろうか……。



 コツコツと木製の階段をゆっくりと降りる足音。壁に手をかけて、半ば項垂れながら溜息をつく波美の姿があった。

 先ほどシェリルに法術をかけてもらい、一時は楽になったものの、その効果時間は思いのほか長くはなかった。それだけに波美の船酔いの重症度は高かったようで、彼女の顔色は病気にでもかかったかのように青白く染まっていた。


「うぅ……。法術の効果切れるの早すぎでしょ。急いで休憩室に行かないと……確かこの辺りにあるはずなんだけどな。どこだっけ?」


 船酔いのせいで思考能力が低下気味の波美は、方向感覚さえも鈍らせ、明らかに休憩室などないであろう場所にきていた。


「ん~。ここは一体どこなのよ……」


 完全に迷子である。

 ここは船室の最下層。主に積荷などが置かれている、いわば船倉庫である。小さな部屋がある扉などなく、視界にあるのは樽や木箱といったものばかり。


「……ん?」


 そこへ、ふとなにかに気づく。

 基本的には航海中に人が立ち入る場所ではない。当然ながらここにいるのは波美ひとりのみ、であると思っていた。

 波美は直感的に、自分以外の人間が近くにいると感じ取っていった。しかもそれが只ならぬ雰囲気であることも。自分の気配と足音を消し、ゆっくりと前へ進む。頃合いのところで物陰に身を潜め、他の気配に対し意識と耳を集中させる。


「この辺でいいだろう」

「あぁ。さっさと済ませようぜ」


 声がした。ふたりの男の声だ。

 波美は、そのまま男達の会話を聞こうと、その場に停滞するつもりだったが、次の予想外な言葉に思わず声を出してしまう。


「よし、さっさとこの爆薬を設置するぞ」

「な、なんですって!?」

「誰だっ! そこにいるのは!」


 自分以外の声が聞こえては気づかれるのは必至。

 果たして、波美はこの後どうするつもりなのであろうか。

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