第34話「最後の魔石を求めて」
世界の血流とされる地脈と、その集合地となる礫岩の洞窟にて。プリウスの魔石に集まる邪悪な気によって支配された、大地の精霊ゲオスノームとの激しい戦いの末、波美を筆頭とする陸徒たちは見事勝利し、暴走を止めることができた。
一行は礫岩の洞窟を出る。数刻ぶりの陽の光を浴びて、巣穴から出てきた動物のように空を眺めたり、体を伸ばしてリラックスする。
大地の神殿へ戻ると、先ほどカレンの口から語られていた聖なる櫃を、セリカが祭壇の奥にある部屋から持ち出して陸徒へ渡した。早速と、これまで集めてきたプリウスの魔石3個を中に納める。
「これで一先ずは安心ですね」
琥珀色の箱に、銀の装飾が施されたもので、大きさは大人の両手一杯分ほどだ。もうひとつの魔石が手に入れば、4つが中にピッタリと納まるであろう。
「聖なる櫃に納めた途端、魔石から放たれる魔力も感じ取れなくなりましたな」
クレスタが興味深そうに聖なる櫃を眺め、魔石からの魔力を感じないことにやや驚きの表情を見せる。
巫女の話によると、この聖なる櫃は邪悪な気を寄せつけない効果の他に、全ての波動を遮断させる力も備わっている。そのため、蓋を閉じていれば中から魔石の魔力が外部へ漏れ出すことはないそうだ。いずれにせよ、これで魔石に引き寄せられる邪悪な気の恐怖から逃れることができる。
「さて、問題は次の目的地である嶺王火山の場所についてだな」
魔石についての危険性を解決出来たところで、今度は本題である最後の魔石の在りかについて、陸徒が話を振り出す。
ゲオスノームは、邪悪な気に支配されていた体を癒すため、しばし眠りについた。よって、最も簡単な情報の会得法は採用できない。
だが、少し考え方を変えればそう難しい問題でもない。キーワードは火山。陸徒たちの済む地球には1000を優に超える火山が存在し、小さな日本ですらも100以上もある。
それに比べミドラディアスは、全世界でも30に達しないほどの数だ。その中でも約8割近くがエリシオン王国に分布されている。すなわち——。
「俺の母国エリシオンなら、多くの火山が点在しているぞ。そもそもあの国は、火山の地熱を利用した工業が盛んだからな。調べてみる価値はあると思うが?」
アクシオの言葉が結論へと導く。
他にも、流水の洞窟はアルファード。風の谷、礫岩の洞窟はエルグランドに存在していた。エリシオンだけが唯一残されており、最後の魔石はそこにあるでのはないかという予想も強まる。
「確かに、それらの情報やこれまでの経緯を考えると、エリシオン王国が最も有力だろうな」
「だったら決まりなんじゃないの? ゲオスノームから詳細を聞き出せなかったんだし、他に宛てもなさそうじゃない」
この世界の地理に明るくない陸徒や波美も、エリシオンにあるという信憑性が高いと踏んでの発言だ。
他に異存のある者もいなく、満場一致により、陸徒たちは次の目的地とされる嶺王火山の場所を突き止めるため、エリシオン王国へ出発することとなる。
「皆さん、ゲオスノームを救っていただき、本当にありがとうございました」
「今後の旅先でも、道中くれぐれも気をつけてね」
セリカは感謝の意を込めて、深々と頭を下げる。カレンは笑顔で大きく手を振り、陸徒たちを見送る。
大地の精霊ゲオスノームは、数日ほどで目覚めるとのこと。これで予定通り、大地の精霊祭も無事に執り行うことができそうだ。
折角の機会だから、精霊祭を見てから発とうかとメンバー内でも話が上がったが、余計な日数を経過させてしまうことに、ある懸念が生じた為、真っすぐエリシオンへと向かうことにした。
陸徒たちは途中、件の報告も兼ねてラパン村のカルディナ宅へと立ち寄る。ふたりの娘が無事でいたことと、地脈を乱し、ゲオスノームが暴走していたが、それを解決してきたことを告げると、カルディナは少し涙を浮かべながら胸を撫でおろし、喜びに心を満たしていた。
明日にでも、娘に会いに神殿へ向かうそうだ。ゲオスノームが正気に戻ったおかげで、精霊の加護も機能を取り戻し、村や神殿付近のモンスターを寄せつけなくなったため、特に問題ないであろう。
カルディナと一通り談話した一行は、ラパン村を去る。道中で安全な場所を見つけると、休憩がてら、シェリルが徐に地図を地面へ広げては、皆へ声を掛けて自分の周りに集める。
これから向かうエリシオン王国への道順について、情報を共有するためにとシェリルが思いついたことで、それは良い考えだと、いそいそと地図へ群がり一斉に覗き込む。
「ここがアルファード王国領となります。そしてこちらが——」
シェリルの説明を聞きながら、陸徒は地図を改めて確認する。
ミドラディアスは、彼らの住む地球とは当然異なる地形となっており、比べると至ってシンプルな形をしていた。
オーストラリア大陸を拡大させたような、楕円形に近い大きな大陸が中央にドンと置かれ、東側約半分が、半島やフィヨルドのような入り組んだ海岸が多数見られる。そして海を挟んだ大陸の西には、その3分の1程度の大きさである島が存在している。
大陸の西側と北の一部が緑多き国、アルファード王国領となっており、東側が山岳や渓流が点在する国、エルグランド王国領。そして、西の島が火山多き島国、エリシオン王国領だ。
既知の通り、陸徒たちが見ている世界地図には、ある印が3つ付けられてある。ひとつはアルファード王国領の北東の外れの海岸、ログノスキュラと戦った最初のプリウスの魔石の入手場所、流水の洞窟の位置を示す。もうひとつは、エルグランド王国領のやや中心から、南寄りの緯度に存在する、風の魔石を手にいれた風の谷だ。そして最後に追加した印が、礫岩の洞窟。地の魔石を手に入れた場所だ。
そこから更に南へ進み、海岸線に近づいてきた辺りが、現在陸徒たちのいるラパン村付近である。
「なるほどな。んで、ここからエリシオン王国へはどうやって行くんだ? 地図を見たところ、大陸の反対側であるアルファード王国領から海を渡った先にエリシオン王国があるが……?」
「アルファード王国領まで陸路で戻るルートでは、かなり日数を要します。ですから、東から海路を使った方が早いですね。北東へ少し進めば、アヴァンシアという港町があります。ちょうどそこからエリシオン行きの定期船が出ていたと思いますので、その方法が最良かと」
地球の裏側に存在するミドラディアスも、地球と同様に球体の惑星という認識なのか、はた又それとは異なる説なのかは定かではないが、シェリルの話から察するに、大陸の東側から海路を辿れば世界を周るかたちとなり、地図上の反対側に位置するエリシオンに上陸できるということだ。
「ここからアヴァンシアってところへはどれくらいで着くの?」
「そうですね。4日は掛からない程度で着くかと思いますよ」
「うげぇ。結構歩くんだね……」
所要時間を確認するなり、肩を落として項垂れる空也。身内にとっては予想通りの反応といったところではあるが、その後陸徒が諭そうとすると、思いのほか前向きな態度を見せる。
「ったく根性ねえよなぁ。この世界では徒歩での移動が基本だ。郷に入れば郷に従えってことだ」
「もう! 僕は天才魔術士なんだから、この程度ではギブアップなんてしないよーだ!」
傍から見れば、兄弟喧嘩に近いやり取りに思えたかもしれないが、当人の兄、陸徒にとっては、弟の発言から、彼が大きく成長していることを如実に感じ取っていた。以前の空也であれば、1日あるくことすらも拒んでいただろう。
一行はキャンプを交えながら、幾多の戦闘を潜り抜け、およそ4日間歩き続けた先にようやくアヴァンシアの町付近へと辿り着く。
「皆さん、あちらに見えますのがアヴァンシアの町です」
シェリルの指差す方向に町が見えてきた。まだかまだかと歩き続け、疲弊した状態でも目的地が見えるとテンションが上がる。どこにそんな体力が残っていたのかと、毎度不思議に思うほどだ。
思えばゲオスノームとの戦い以来、まともな寝床で休みを取っていない為か、皆の意識の中からエリシオンへ行くという目的がやや遠のき、今はただひたすらに、ふかふかのベッドで就寝したいと切に願っているところであろう。
到着時刻は正午過ぎ。町の入り口へと差し入り、一先ず宿の手配をと模索しようとしていたところへ、一行の間に聞き覚えのあるような声が割り込んでくる。
「あれ、あんたたち。こんなとこでなにしてんのさ?」
突如、陸徒たちの前に現れたのは、赤髪の旅の女剣士シルビアだった。




