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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
32/111

第32話「暴走する大地の精霊ゲオスノーム」

「正直、向こうから姿を現すとは思いもしなかったな」

「おまけに手荒い歓迎と来たもんだ」


 大地の神殿にて精霊を守る巫女姉妹と共に、礫岩の洞窟へとやって来た陸徒たち。奥地へと進んだ矢先に突然現れた大地の精霊ゲオスノーム。出だしから陸徒たちの前面にあった壁を粉砕するという、攻撃的な登場シーンを見せつけてくる。

   

「何度やってもゲオスノームに私たちの意志が通じない! 本当に暴走してしまっているのっ!?」


 巫女は精霊と意思の疎通を取ることができるため、先ほどからコンタクトを試みているようであるが、当の精霊には一切彼女たちの想いが通じていないようだ。双子の姉であるセリカは状況を目の当たりにしてやや冷静さを失っている様子。

 

「セリカお姉様! あのゲオスノームの姿を見てわからないの? 完全に我を失っているわ」


 妹のカレンは焦り気味のセリカを落ち着かせようとする。普段の生意気な性格とは裏腹に、ここぞという場面では冷静である。

 このような状況になってしまった理由は大地の精霊の暴走。地脈の流れを乱し、我を失って暴れている。原因として考えられるのは、プリウスの魔石だ。精霊の体内からはその反応が確認されている。


「やっぱりプリウスの魔石が原因と見て間違いなさそうだな」

「そんなことよりあの大地の精霊、今にもあたしたちに襲いかかってきそうよ」


 これまでの経緯と、クレスタの発言から得られた、プリウスの魔石による魔力反応から分析し、陸徒もそれが原因であると断言する。

 しかし、そう頭だけを働かせていられるような状況でもない。波美の発言のように、相手方は待ったなしと言わんばかりに臨戦態勢を披露している。


「まぁ、壁を破壊して俺たちに危険を及ぼそうとした時点で、もう襲いかかってるようなもんだけどな」

「でもどうすればいいの? 大地の精霊だよ。僕たちで敵う相手なのかな……」


 百戦錬磨のアクシオは、このような非常事態とも取れる戦闘にも慣れているのか、メンバーの中では最も冷静な様子。波美の言葉に対して半ば皮肉を込めたようなコメントをさらりと零す。

 しかしその後の空也の発言の通り、相手は大地の精霊。これまで戦ってきたモンスターとは違い、元は人々から崇められる存在。戦ったことのない相手に対する正攻法など瞬時に思いつくわけでもなく……。


「大地の精霊だろうと、そんなもん戦って目を覚まさせてやればいいだろ。何事も戦いで解決する。それがファンタジーの世界ってもんじゃないのか?」


 そこへ陸徒が突拍子もない言葉を漏らす。


「……いまいちなにを言っているのかわからねぇが、確かにそうだな」

「りっくんにしてはちょっと単純な考え方かもしれないけど、ここはそれが一番良さそうね」


 陸徒の単純かつ大胆な作戦にアクシオと波美は快く賛成する。マンガやゲームの世界でも、大抵はこのようなパターンが展開されるが、それを現実に持ち込もうとしている陸徒も、随分とファンタジー要素に慣れてきたものである。


「みなさん、気をつけて下さい! 見てのとおり、ゲオスノームの体は硬い岩で覆われていて、武器による攻撃を受けつけません。また、地脈の力で魔術も効かないのです」

「おいおい、物理攻撃も魔法攻撃も効かないんじゃどうしようもないじゃないか」


 意気揚々と武器を構える3人に、早速と釘を刺すかのような発言をしてくるセリカ。本人としてはそのつもりはなく、事実を述べただけであろうが、それは余りにも戦意を削ぐものとしては充分な情報であった。


「ちょっと待って……」


 そこへ唐突にカレンが口を挟んでくる。なにやら彼女はあるものをじっと見つめているようだが……。


「……?」


 波美が視線を感じ、カレンの方を見て不思議そうな顔をしている。


「あなたのそのグローブ、重鉱金プラドが使われているのね。だとしたら、あれができるかも……」


 彼女が見つめていた物は波美が装備しているグローブ、その名は剛拳ラウムブリット。これはシェリルが格闘技を使いこなす波美のためにと用意してくれたものだ。

 重鉱金プラドとは、ミドラディアスの南の地域で採掘される天然金属だ。採取量が非常に少なく貴重で、その価値を知る者にとっては、波美の装備するグローブには異常とも言えるほどにふんだんに使用して作られていた。だが当の波美は当然ながらそのことを全く知らず、ただの丈夫な金属程度と認識していた。

 宝の持ち腐れとはこのことだとやや深い溜息をつくカレンであったが、今にでも襲い掛かってきそうなゲオスノームの様子に気づいては、にわかに波美の手を取り自身の近くへ引き寄せると、早い口調で説明をし始めた。


「いい? あたしが今から地脈の力を使ってあなたのグローブを強化するわ」

「グローブを強化? どういうこと?」

「簡単に言うと、その重鉱金プラドでできたグローブに地脈の力を送り込むことで、どんなものよりも硬い強靭な武器に変化させるの」

「そんなことができるの!?」

「うん。そうすればあの強硬なゲオスノームにも対応できるはず。ただ、ちょっとね……」


 知られざる自分の武器に秘められた力に、一抹の感動に似た思いを抱く波美であるが、自信たっぷりに作戦を説明していたカレンの表情が、途端に不安げなものへ変わった様子に気づき、カレンの顔を覗き込むように問う。


「……どうしたの?」

「ゲオスノームには再生能力が備わっていて、ダメージを与えても、すぐに回復してしまうの」


 それを聞いた波美は唖然とした。物理攻撃や魔法攻撃がほとんど効かず、おまけに再生能力も備わっているゲオスノーム。最早無敵ね……と肩を落とさずにはいられなかった。

 それに対しカレンは、波美ならなんとかしてくれるといった、根拠のない無茶苦茶な確信を見せつけてきた。


「カレン……」


 しかし波美は、そんな言葉とは裏腹に見えたカレンの懇願する姿と、ぷくりと膨らんだ彼女の涙袋から滑るように落ちる雫を見て、神妙な顔つきへと変えた。

 そしてカレンの肩に優しくて手を置くと、明るい笑顔で元気よく応える。


「ま、ちょっとくらい苦戦した方が、戦い甲斐があるってものよね。いいわよ! あたしに任せて!」


 そう言って、波美は人差し指を立ててウィンクをする得意のポーズで決めた。


「波美……ありがとうっ!」

「さぁ、地脈の力であたしのラウムブリットを強化して」


 波美は両手をカレンの前に差し出し、手の甲を見せるように開いて、グローブが良く見渡せるようにした。

 カレンは目を閉じて精神を集中させると、そっと波美のグローブに手を当てる。すると淡く黄色い光が、まるで蝋燭に火を灯した時のように柔らかなゆらぎを見せ、それを包みこんだ。


「こ、これは……」

「完了よ。これであなたのグローブは地脈の力で強化されたわ」


 戦闘準備が終わり、波美はグローブの裾を引っ張って手にしっかりと馴染ませると、凛々しい表情で標的を凝視した。

 そして大きく息を吸い込み気合いを入れてから、地を蹴ってゲオスノーム目がけて突っ込みだした。相手の出方を伺わず、猪突猛進な姿はまさに彼女の性格を表しているといえる。


「ほらほら、りっくんとアクシオ。黙って突っ立ってないで援護お願い!」

 

 走りながら、傍らでゲオスノームの動きに注意して様子を伺っていた、陸徒とアクシオに指示をする波美。

 波美とカレンがなにをしていたのか状況は把握しつつも、突然波美が戦闘開始の合図とも言える掛け声を発してきたことに、一瞬の戸惑いを見せるふたり。だがすぐさま態勢を整えて波美に追従する。

 魔術も効かないと言われている以上、空也はほぼ戦力外。クレスタとシェリルも攻撃には転じることができないが、法術による支援をするため、アタッカー3人の動きをしっかりと見据える。


 こうして戦闘が開始された。真っ先に攻撃を仕掛けたのは先陣切って突撃する波美。標的に近づく手前で助走を強め、構えた拳を懐目がけて勢いよく突き出す。

 攻撃は見事直撃。相手は人間ではないにしろ、人体の急所である鳩尾であれば、少なからずダメージを与えられるはずと踏んでの攻撃。だがゲオスノームは受けた攻撃をものともせず、巨大な腕を振り回し反撃をしてきた。咄嗟に後方へ跳び、波美は攻撃を回避する。

 見たところ、相手の攻撃は巨体を生かしたパワー重視のもの。それ故にスピードは劣るため、波美の身のこなしで容易に回避可能であった。

 それは良いが、問題はそこではない。攻撃を受けたゲオスノームの反応と、反撃へ転じてきた動きから察するに、波美の攻撃がまるで効いていない様子。


「おい、波美! 全然効いていないみたいじゃないか。カレンに武器を強化してもらったんだろ?」


 疑問点を陸徒が口頭で指摘する。だが当人の波美は特に焦りの色を見せず、半ば納得したような表情をしていた。


「ちゃんと強化してもらったよ! 大丈夫、今のである程度感覚は掴んだから。それにしても……あのゲオスノームって精霊、思ってた以上に相当硬いわね」

「風の谷で戦った、ゴースってダンゴムシみたいなやつとどっちが硬いか?」

「そりゃもう、断然こっちでしょう」

「そんなに硬いのかよ! だったら俺と陸徒の武器じゃ全然歯が立たないだろうな」


 想像以上に強固な鎧を身にまとうゲオスノーム。その鉄壁ぶりを、わかりやすく記憶に新しいものを引き合いに出す。

 風の谷で遭遇したゴースというモンスター。ダンゴムシのような姿で、体の表面が硬い金属の鱗で覆われていた。あれも武器による物理攻撃が効かない厄介な相手であった。

 それよりも圧倒的に硬い敵が今回の相手。最早波美の強化されたグローブでしか太刀打ちできないと、陸徒とアクシオは苦渋に満ちた表情を作る。


「さて……波美、さっき感覚は掴んだとか言ってたけど、勝算はあるのか?」


 陸徒は気を取り直し、今回の主将である波美に作戦を伺い、自分たちにできる仕事を確認する。

 作戦タイムに話をしている間にも、ゲースノームは攻撃を仕掛けてきている。だが、動きが遅いおかげで陸徒たちはいとも簡単に回避する。これならばある程度会話しながらの戦闘も可能だ。


「勝算はあるわ。でもちょっと荒っぽいかもしれないんだよねぇ……まぁいっか。とりあえず、りっくんとアクシオ、ふたりは囮になってちょうだい!」

「おい、なんだよそれ……」


 思わず突っ込んでしまった陸徒に対して、波美は特に返しもせず、ちらちらと笑顔を振り撒く。それはまるで、子分たちを弄ぶガキ大将のような、微塵の躊躇いもない本気の命令だった。

 その様子を見ていた陸徒とアクシオは、一時唖然としていたが、単純明快な作戦に失笑し、彼女の言葉に従うように武器を構える。


「要は、あいつの気を逸らして波美が攻撃に専念できるようにすればいいんだな?」

「そういうこと!」


 作戦内容を確認するように陸徒が口答すると、即座に大将の答えが返ってきた。これで3人の思いが一致団結し、戦闘が再開された。その気配と動きにゲオスノーム側も反応し、迎撃態勢へと入る。

 構わず陸徒とアクシオが先陣を切り、その僅か数メートル後方を波美が走ってくる。その微妙な距離感からか、敵からは波美の姿が見えにくい状態となっていた。

 攻撃の間合いに入る一歩手前で、陸徒とアクシオが進行方向を急転換させ、それぞれがゲオスノームの左右に回り込むように配置される。それによって攻撃を繰り出そうとしていたゲオスノームは。ふたりの動きに気を取られ、一瞬のたじろぎを見せた。

 すかさず波美は正面から高く跳び上がり、目も口もない体の形状が人間に近いだけの岩の塊に、狙いを定めて渾身の一撃を放つ。ターゲットは頭部。人間で言うと眉間の位置にあたる。

 だが攻撃が当たる寸でのところでドーンと、爆薬で発破したような凄まじい爆音が洞窟内に響き渡る。地鳴りと舞い上がる土埃で、観戦状態だったシェリルたちも身を怯ませる。束の間に状況が視認できなくなってしまった。


「みなさん!」

「兄ちゃんたち、大丈夫!?」


 暫時が通り過ぎ、観戦者が陸徒たちの身を案じて声を上げる。

 土埃が消えた先には、ゲオスノームが唸りながら佇み、その数メートル離れた位置には負傷した3人が倒れていた。


「くっ、あの野郎、一体なにしやがったんだ?」


 なにが起きたのかわからず、吹き飛ばされた衝撃による体の痛みだけを如実に感じ、苛立ちを露わにする陸徒。


「波美、大丈夫か?」

「う、うん。なんとか。あたしが攻撃をしようとした瞬間、衝撃波を放ったみたいね」


 陸徒と同時に身を起こしたアクシオも無事のようで、隣にいた波美を気遣う。

 幸いにも彼女も大ダメージを受けずに済んでいた。最も間近で攻撃を受けただけに案じられたが、だからこそ攻撃の正体を見抜いていたようだ。とはいえ、すぐに対抗策が立てられるわけでもなく、ゲオスノームは容赦なく次の攻撃に転じてきた。

 今度は右腕を大きく振り上げ、何かを捥ぎ取るかのような動作で勢いよく地面へ叩きつけると、刹那、巨大な無数の岩の針が突き上げられる。


「ちょっ、なんだよこれは!」


 陸徒たちは慌てて身を起こし、その岩の針を必死に回避する。

 鋭く強固な岩は、回避こそ不可能ではないが、まともに直撃を食らっては命の保障はない。ゲオスノームは攻撃の勢いを止めず、間髪入れずにひたすらと岩の針を剣山の如く出し続けた。

 さすがに休む間もなく動き回っていては、陸徒たちも完全には避けきれず、体の数ヵ所が岩の破片に擦り当たって傷を負ってしまった。


「いってぇ! くそ、このまま避けるだけじゃやべえぞ!」

「わかってるが、避けるだけでも精一杯だ。少しでも気を緩めたら大ダメージを負うぞ!」

「もう、しつこいなぁ。こうなったら、あたしもやってみようかな」


 焦りながら手を拱いている陸徒とアクシオを余所目に、波美は独り言を呟く。


「あ? 波美、今なんつった?」


 かろうじて聞こえた陸徒は、波美に問い掛けるも、彼女は特に返答せず、ゲオスノームの猛攻を避けながらなにかに集中し始めた。

 すると、地脈の効果によって淡い光を放っていた波美のグローブが輝度を高め、更に力強く光り出す。


「はあぁぁぁっ!」


 大きな咆哮と共に、一気に気合を放出させるかの如く、光る拳をハンマーのように勢いよく地面に叩きつけた。その瞬間、ゲオスノームの攻撃と同じように、次々と岩の針が突き出されて、それぞれが衝突して相殺されていく。


「す、すげぇ……」

「波美にこんな力が……」

「なるほど、これならいけるかも! ほらふたり共、今がチャンスよ。これからあたしが物凄いことするから手伝って!」


 ふたりの感動も束の間で、波美はなにかに気づいたようにいそいそと次の行動に移る。

 具体的な指示ではないにしろ、彼女の言葉の意味を概ねして理解した陸徒とアクシオは、互いの表情を見て確認した後、武器を構えなおした。


「ふふっ。今に見てなさいゲオスノーム! あたしの力、思い知らせてあげるわ!」


 先ほどの攻撃でなにかの感覚を掴んだ波美。いよいよ地脈の力が込められた剛拳ラウムブリットの潜在能力を発揮する時がきた。これより、誰もが目を見張るほどの強力な彼女の反撃が繰り出されることとなる。

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