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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
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第26話「魔石を求める者たち」

「お、ふたりが戻ってきたぞ」


 蒼色の大刃を背に納めて両手についた埃をはたきながら、陸徒は空から戻ってきたふたりを確認する。


「なんだお前ら、さっきまで戦闘をしていた様子じゃないか」


 着陸するなり、周囲の違和感に気づくアクシオ。


「まぁね。あなたたちがガルティオルフと戦っている間、こっちもお客さんが現れてね、ちょっと相手してたの」


 波美が戦闘後の柔軟体操で腕を伸ばしながらアクシオへ答える。

 シェリルが空へ飛び去った直後に、現れたキラービートルの群れに陸徒たちは応戦。数では圧倒的に敵側が優勢であったが、戦闘力の差は言うまでもなく、陸徒のパワー、波美のスピード、クレスタ、空也、リアラの魔術士勢による猛攻撃で、さほど苦戦することなく勝利を治められた。


「そっちも首尾よくいったようだな」


 陸徒はふたりがガルティオルフを倒したところを確認していたためか、結果は聞かずともわかっていた。


「あぁ。鳥さんの尻尾の先にある珠が弱点だった。シェリルの見事な弓技で一撃だ」

「そうか、さすがだな」

「これもリアラさんのおかげです。ありがとうございます」

「いえ、お礼を言われるほどでは……」


 シェリルに礼を言われ、謙遜しながら少し照れくさそうに、頬を赤くして顔を引っ込めるリアラ。

 実際にガルティオルフ戦においては、リアラの助言があったからこそ勝利したようなものだ。この風の谷での出来事は、彼女なくしては攻略は不可能だったと言っても過言ではないだろう。


「ところでシェリル、お前の手に持っている石みたいなものはなんだ?」


 陸徒に指摘され、我に返って掌に乗せた翠色の石を皆の前に差し出すように見せてきた。

 先ほどのガルティオルフ戦にて、相手を仕留めた際に口から吐き出されてきたものだ。そのままガルティオルフは絶命し、谷の底へ落ちていった。

 シェリルはその石の正体がなんなのかは薄々気づいているようだが、それをクレスタが口答した。


「その石から強い風の力を感じます。恐らくプリウスの魔石と見て良いでしょうな」

「マジか! 偶然とはいえやったな!」

「すごいや! 本当に魔石を手に入れちゃったよ」


 思わぬ成果を目の当たりにし、歓喜の声をあげる一行。


「みなさんが探していた宝というのは、それのことだったんですか?」


 事の詳細をいまだ知らないリアラは、意外じみた面持ちで翠色の石をまじまじと覗き込む。

 その様子を見て頃合を感じた陸徒は、リアラへ自分たちの旅の目的と、プリウスの魔石に関する詳細を話す。誰が聞いても荒唐無稽であり、奇想天外な話にリアラは始めこそ驚きの表情を見せていたが、その様子はすぐに消え、自然と納得したような晴れた顔をしていた。これまでの行動でお互いに信頼関係が築かれていたからであろう。


「でもどうしてそのプリウスの魔石が、ガルティオルフの口から出てきたのかな……?」


 事象はわかりつつも原因が不明なままで、波美がそれを口にする。現時点ではそれを解明させられる者はいないが、周囲である変化が起きていることにきづいた者がいた。


「まぁその辺は良くわからねぇけど、あの鳥さんがプリウスの魔石を飲み込んでいたことが、この風の谷自体にもなんらかの影響を与えていたんじゃないかと思うぞ」


 発言をしたのはアクシオだった。博識なイメージのない彼が意外にもまともな解釈をしたと皆が感じたのは、彼らの周辺での出来事が理由だった。


「おい、あそこにいるのはゴースじゃねぇか!?」


 陸徒がモンスターの出現に気づき、それに反応して他の者も武器を構えるが、アクシオが皆の前で手を差し出してそれを制止してきた。


「まぁ落ち着け。あいつら俺たちの存在に気づいているのに、襲ってくる気配を全く感じないぜ?」


 アクシオの言葉に全員がゆっくりと戦闘態勢を解いていく。ゴースの群れはこちら側の様子に一切目もくれず、ぞろぞろとそのまま脇道を逸れていった。


「なぁ……これってどういうことだろう?」

「さっき俺たちが戦ったゴースは、明らかに好戦的で、こっちを完全に敵視していただろ」

「でも今の奴らはそれを微塵も感じさせなかった」

「そうだ。つまりそれは——」

「谷のモンスターの凶暴化が収まった……って意味か」


 陸徒の問いに、アクシオが助言を加えながら答えを導き出させる。

 なぜガルティオルフの体内にプリウスの魔石が入っていたのか、谷のモンスターが凶暴化した理由は、単純にガルティオルフが魔石を飲み込んでいたからなのか。現状では真実は明らかにできぬままだが、結果的には陸徒たちの目的が達成されたこととなる。


「まぁとにかく、俺たちの用事もリアラの目的も済んだことだし、早いところラクティスの町に帰ろうぜ」

「それもそうね。早く戻って休みたーい」


 一行はラクティスの町へ戻ろうと風の谷を降りて行く。歩みを進め、以前ゴースの群れと交戦したやや広めの空間へと戻ってきた。

 一時的に強風が治まり、僅かながらの静寂を迎えた先、前方の高台にある岩陰から小石が落ちる物音がする。


「待ちなさい!」


 陸徒たちがその音に気づくや否や、聞き慣れない声に呼び止められ、一斉に足を止めた。女の声だ。当然ながら波美やシェリル、リアラのものではない。


「誰だ!?」


 陸徒の問いに応えるかのように、その声の主であろう人影が、高台にある大きな岩の後ろからゆっくりと姿を現す。

 陸徒たちのいる位置から数十メートルという微妙な距離感、ちょうど陽が蔭り、巻き起こる砂塵で人物を特定可能なほどの視認性は確保できないが、目を凝らすとそこにはふたつの人影があった。


「ふっ、ようやく見つけたぞ」


 すると今度は男の低い声がした。どうやら現れたのは男女ふたり組のようだが、先ほどの聞き慣れない女の声とは違い、男の方はある者たちにとっては聞き覚えのある声。


「ねぇ、今の男の声……?」

「うん。僕も知ってる」


 その声に波美と空也が口声を漏らす。そう、それは彼らにとって良く知っている人物の声。そして陸徒にとっても……。


「あ、あんたは……!?」


 陸徒が反応すると同時に、陽を隠していた雲がカーテンのように滑らかに動いて地上に再び光を与える。それに照らされてふたりの影がはっきりとした姿を見せてきた。


「こんな場面でお前たちに会うとはな……」


 このミドラディアスを訪れる時、陸徒たち3人はもうひとりの人物と行動を共にしていた。


「喬介さん!」

「お兄ちゃん!」


 そこにいたのは、芦羅鉱山にてゲートクリスタルを発見した直後までは彼らと一緒にいた、波美の兄である喬介であった。


 突如と陸徒たちの前に姿を現したふたり組。その内のひとりは行方不明であった同行者の喬介。再会の場面としては明らかに不可解な状況ではあるが、それに構わず陸徒、波美、空也の3人は、彼に会えたことに純粋な安堵の喜びを見せる。


「陸徒殿が探していたお仲間でしたか、見つかって良かったですな。そしてもうひとり、そこにいる女性は……もしや!?」


 そんな中、クレスタが喬介の傍らにいる女の姿を確認するなり驚愕の表情を作る。


「お久しぶりね、クレスタ」


 対照的にその女は表情ひとつ変えず、感情の薄い挨拶をクレスタへ返す。

 ワインレッドの色をしたセミロングヘアーに、深緑の薄手のコートを身に纏って、その中に両手を隠した状態で佇み、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。推定年齢はこの外見からでは判断し難いが、陸徒たちより年上なのは間違いない。


「やはりアーシェラ様であったか。いや、今はアーシェラ女王と呼ぶべきか」


 クレスタの目は僅かながらに昔を懐かしむような色を見せているが、声のトーンには不信感を匂わせるものが込められていた。


「アーシェラ女王? 確か、エルグランド王国の。なんで一国の女王がこんなところにいるんだ?」


 陸徒の言葉がそれを示していた。それだけではない。様々な点において、このふたりがここ風の谷に現れたことが解釈不能と言うべき状況へと持ち出している。


「お兄ちゃん! 今あたしたちね、元の世界に帰るために旅をしているところなの。だからお兄ちゃんも一緒に行こうよ」


 不可解な疑問点はさて置きといったような振る舞いで、兄との再会を喜びながらも早速と自分たちの状況を説明して、喬介を仲間へと誘う妹の波美。彼女の気持ちはそれが全面に出ているが、陸徒側はその思いが半分ありつつも、やはり腑に落ちない部分があるようだ。喬介やアーシェラから一切視線をずらさないまま、なにかを考察しているような表情だ。


「元の世界に帰るための旅……か。さて、なにから説明したら良いだろうか。喜色満面な我が妹と反して、疑いの目をぶつけて滑稽な顔をしている者もいるが……?」


 そう言いながら喬介は、陸徒の方へ視線を流し、口角だけを微動させ本人なりの笑みを作る。揶揄された気分の陸徒は、口には出さないものの、反抗的な表情で喬介を軽く睨みつけた。


「喬介、余計なことは話す必要なんてないわよ」

「ああ。わかっている」


 アーシェラの忠告に対し、喬介は上っ面のような生返事をすると、一呼吸してから話しだした。


「お前たちが元の世界へ帰るために旅をしている目的は、プリウスの魔石のことであろう?」


 開口一番から全員を驚愕させるような言葉が飛んでくる。


「そ、そうだけど……。お兄ちゃん、どうしてそれを知っているの?」


 波美の質問に満足した回答ではないが、それを含めた形で喬介は淡々と話を続けた。


「この世界にはプリウスの魔石は4つ存在する。そしてそれを集めれば元の世界へ帰るのに必要なものを修復できるそうだな」

「そこまで知っていたなんて、さすがねお兄ちゃん!」


 意外性による驚きの反応は見せつつも、兄を発言を受けて賞賛する波美。しかし陸徒は未だ黙ったまま、喬介の顔をずっと凝視していた。

 空也やリアラは兎も角、知見が広いシェリルやクレスタ、洞察力に優れるアクシオは、状況や喬介の言葉から生まれる違和感から、怪訝な表情でその様子を見ていた。

 そんな周りの雰囲気には全く気づかず、波美は喬介の力を借りようと仲間に誘い込むが、彼の口から出たものはそれに反する答えだった。


「とにかくさ、お兄ちゃんの助けがあれば旅もずっと楽になるはずだよ。だからあたしたちと一緒にきてよ」

「……断る」


 喬介はなんの躊躇いもなく、波美からの誘いの言葉を投げ捨てた。これにはさすがの全員も驚きと困惑を隠せずにいた。

 波美は兄の冷徹な返答を受け、ショックを露に呆然としながらも、言葉に徐々に力を込めて言い返した。


「こ、断るって……。お兄ちゃんどういうこと? プリウスの魔石を集めれば元の世界に帰れるんだよ!?」


 兄に突き放された悲しみの思いを振り払うかのように、体をいっぱいに動かしながら必死で説得をする波美。だが当の喬介には届かず、更なる衝撃を突きつけられることとなる。


「話はそこまでだ。一先ず、お前たちの持っているプリウスの魔石をこの俺に寄越すんだ」

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