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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
23/111

第23話「リアラの卓越たる魔術の才能」

「ちょっと、なんなのよこいつら!」

「ゴ、ゴースですっ!!」


 強風に煽られながらも、悪路を進み行く一行の前に突如と姿を現したのは、風の谷に生息するモンスターであった。リアラがそのものの名を口にする。

 ゴースと呼ばれたモンスターは、漆黒の殻を身に纏う一見ダンゴムシのような形態をした生物だが、当然ながら大きさは陸徒たちの知るそれとは比べ物にならない。体長1メートルはゆうに超えている。空也やリアラとほぼ同等のサイズだ。殻の内側、腹部と思われる場所からは幾つもの足が生えており、規則的かつ滑らかに動かす様は、身の毛もよだつほどのおぞましさを与えてくる。


「数は5匹か。大して多くはないが——」

「ゴースの体表を覆っている殻は、鉄のように非常に硬く、その体を丸めて転がりながら攻撃してくるモンスターです」


 アクシオが相手の特徴を説明する言葉を選んでいるところへ、シェリルが淡々と簡潔に述べてきた。


「まるで昆虫世界に飛び込んだ気分」

「俺たち、小人になっちまったのかもな」


 順応性が高いのかどうかは定かではないが、冷静な気持ちでジョークを交える波美と陸徒。しかし、そう悠長にしていられない事態であるのも確か。セリフを吐くと直ちに武器を構え、戦闘態勢に入った。


―其は万物を遮断する絶衝の壁―

魔防壁(エスタシルド)!」


 全員の戦闘準備が完了したのを確認すると、先制してシェリルが防御の法術を唱えて安全を確保する。白兵戦の不向きな術者を、半透明に輝くバリアが包み込んだ。魔術での遠距離攻撃ができる者をゴースの攻撃から守る作戦だ。これならば実戦経験の浅い空也も落ち着いて呪文の詠唱が可能なはずだ。


「リアラ、明らかに硬そうなこいつら……物理攻撃は効くのか?」

「いえ。先ほどシェリルさんが言ったように、覆われている殻は鉄のように硬く、ほとんどの武器による攻撃を受けつけません。狙うなら殻のないお腹の部分です」

「やはりそうか。しかし、こう丸まってばかりいられちゃ腹に攻撃なんてできねぇぞ!」


 大方、リアラの回答が予想できていたにしろ、その事実から改めて落胆する陸徒。とはいえ、ゴース側も自身を守るための本能的な行動だ。ここをどう攻略するかが今回の戦いのカギとなるだろう。


「でも魔術だったら……」


 そんな中、リアラが独り呟いて、突然シェリルの作ったバリアから身を出していた。


「リアラ! バリアから出たら危険だよ!」


 慌てて空也が呼び止めるが、リアラはそれを無視する。これを機と見たのか、巨大ダンゴムシは攻撃を仕掛けようと行動に移った。その動きを制止させるべく波美が颯爽と立ち向かい攻撃を試みる。

 ゴンという硬い金属同士がぶつかるような音がしたが、ダメージを与えられたのだろうか。


「いったーい! ホントに硬いよこのモンスター」


 強硬なグローブを装着した波美の破壊力抜群なパンチでもビクともしない。彼女は手首を押さえながら少々涙目になって顔を歪ませている。

 実演を持ってゴースの防御力の高さを証明させられ、初見であるメンバーもそれを噛み締めると苦い表情をした。


「やっぱりここは魔術士さんに任せるしかないんじゃないのか?」


 アクシオが選手交代宣言をするかのように、魔術士であるクレスタ、空也、リアラの方を見る。

 リアラは先ほどバリアの外に出てきてすでに戦闘態勢の状態だ。そして隣には空也が……。


「っておい空也! なんでお前までバリアから出ているんだよ!?」


 不可解な状況に気づき、陸徒が真っ先に声を上げる。いつの間にか空也までもがバリアの外に出ていて、リアラの隣で魔術書を手に持ち、同様に戦闘態勢に入っていた。


「リアラが心配だよ。僕も一緒に戦う!」


 なんとも勇敢な少年……というのはなにも知らない人間から見た印象。この状況と空也の実力不足を踏まえれば、そう判断するに至らない。


「あまりでしゃばってないで、ここはクレスタの爺さんに任せるんだ!」


 兄としても、弟を危険な目に合わせたくない。熟練者であるクレスタへ匙を投げようとしたが、相手からの返答はその意に反するものであった。


「いえ、ここは一先ず空也殿に任せてみましょう。これも魔術の修行です」


 眉雪は意外にも手を差し出さず、寧ろ戦うことを推奨する発言をする。目に力を込めて弟子へ合図をすると、ここぞとばかりに格好つけた表情で頷いた。


「ねぇ空也、ちょっといい?」


 戦闘開始直前、早速リアラが空也へ耳打ちをする。おそらく本戦闘の作戦と思われるが、一体どう戦うつもりなのだろうか。

 数十秒後、ふたりはゴースの群れへと体を向き直し、手に持っている魔術書を開いた。深紫色と若草色の本から淡い光が浮かび上がったのと同時に戦闘が開始された。

 ふたりからの殺気に気がついたゴースは、体を丸めて突進してきたが、先制で仕掛けたリアラの呪文の完成が早く、すぐさま発動される。


―満たせ清流の塊よ、深淵へと押し潰せ―

剛水圧(ウォータプレス)!」


 呪文から呼び寄せられた力が、突如と地中から大量の水を湧き上がらせる。それが無数の水柱へと姿を変えて一斉にゴースに襲い掛かかった。水柱は蛇の如くくねくねと動き、地表に這い回るゴースの群れへ流れ落ちるように降り注ぐと、その水圧によって押し潰さることとなる。

 やったか、という期待感も束の間。強固ながらの鎧が水圧からの抵抗力を高め、大きなダメージを与えられずに終わってしまったのだ。

 しかし当のふたりは、この状況に動じることはなく、冷静さを維持したまま淡々と呪文の詠唱を続ける。今度は空也の持つ深紫の本が動き出した。


―凍結せし極寒の衣よ、大地を這いで氷波となれ―

凍晶波(アイスウェイブ)!」


 すでに何度かお目に掛かっている術。氷のフィールドを作り出すと同時に、相手の足元から凍りつかせて動きを封じる術だ。空也にとってはこれまでに最も多く使用している術であるため、慣れが生じて全く無駄のない流暢な呪文の詠唱を仕上げていた。

 放たれた術によってゴースたちが見る見るうちに凍りついていく。通常ならば全身までは凍結させない術であるが、先に出された水の術によって水浸しになっていたため、それらが全て氷結するに至った。


「よっしゃ! ゴースが氷漬けになったぞ!」

「意外と呆気なかったわね」


 陸徒たち外野勢が、拳を握ってポーズを取りながら勝利を予感させる発言をする。だがその状況とは裏腹に、空也とリアラは戦闘態勢を解かず呪文の詠唱を止めようとはしなかった。

 その証とも取れるかのように、すぐさまゴースたちの様子に変化が見え始める。氷に覆われたゴースは、内部で身体を小刻みに振動させると、自身を包んでいた障害物を一気に粉砕させてしまった。

 瞬く間に氷の呪縛から解かれたゴースたち。この状況に陸徒たちはたじろぎを見せる。ところが空也とリアラはこれがまるで予測されていたかのように、表情に焦りの色を一切見せず攻撃を継続する。


―凍結せし極寒の衣よ、大地を這いで氷波となれ―

凍晶波(アイスウェイブ)!」


 またもや同じ術を今度はリアラが発動させた。端から見れば、先ほどの術の効果が薄かった為、再度同じ術を掛けた。と思われるが、実際のところはそうではなかった。


「え、どうしてまた同じ術を? どうせまたすぐに氷を砕かれちゃうんじゃ……?」


 当然、波美の言ったような解釈に辿り着くわけだが……。


「わざと同じ術を使ったのでしょうな」

「おそらくな」


 クレスタ、そして陸徒はこの術があえて2度放たれたことに気づいていた。その理由は、ゴースたちが先ほどの氷を粉砕した直後に術の発動が開始されていたからだ。つまり、1発目に空也が術を完成させていたと同時に、続けてリアラが呪文の詠唱を開始していたということだ。

 先に放たれた氷の術の属性効果がまだ活きていたため、ゴースの氷結進行度が早い。張られた氷のフィールドから伝う冷気は、ゴースの体表だけではなく、肉体と殻そのものを凍結させていく。その瞬間を狙っていたかのように、空也が次の術を放つ。それは誰もが予想だにしていなかった意外な属性の術であった。


―悠久の時を眠りし赤き竜よ、今ここに放つは紅蓮の咆哮―

竜撃炎(ドラゴニックフレア)!」


 この術を見たのは2度目であろう。以前ラフェスタの町で、女剣士シルビアと海賊セドリックが対決した際、炎術士であったセドリックが使用した中級の火属性の術だ。


「「!!」」


 この展開を目の当たりにした途端、クレスタと陸徒が大きく反応を見せた。どうやらこの意味に気づいた様子。

 凍結したゴースに、休む間を与えず今度は灼熱の業火が襲い掛かる。相手は一瞬にして解凍されると、本能的に身を丸めて防御の体勢を取っているが、その硬い鱗が低音から一気に高温状態となる。そして、ピキピキとなにかに亀裂が走るような音が聞こえ始める。


「さぁリアラ、とどめだよ!」


 すかさず空也が合図をする。それとほぼ同じタイミングで、リアラは呪文の詠唱を終えて術を完成させていた。


―久遠の時を調べる強き風よ、全てを切り裂く刃となれ―

風流旋(ウインドスラッシュ)!」


 呪文に反応し、若草の魔術書から翠色の光が溢れ出す。そしてリアラが片手を広げ薙ぎ払うようにゴースの群れへ向けると、その周囲の風の音が急激に変化していく。次第に旋風が巻き起こり、甲高い音を発しながらカマイタチの如く鋭い刃となって、ゴースたちへ容赦なく襲い掛かった。

 すると、あの頑丈だった殻の鎧ごと肉体をバラバラに切り刻んでいった。


「す、凄いわ。さすが魔術の力ね」

「あの硬い殻をも切っちまうとはな」

「でも、その前に氷とか火の術を使っていたのはなんでだろう?」

「さぁな。俺は魔術に関してはさっぱりだ」


 黒い煙を噴き出して絶命しゆくゴースを眺めながら、波美とアクシオは魔術の威力に感嘆の息を漏らす。だが、空也とリアラの連携術の意味は全く理解していないようだ。シェリルも同様に驚きを見せているが、その表情からこのことに気づいているのかどうかは判断しにくい。


「やったねリアラ! 僕たちの力でモンスターを倒したよ!」

「うん。空也がタイミング良く術を合せてくれたから上手くいったわ」

「空也、こいつはリアラの作戦だよな?」


 陸徒の問いに、空也はそうだと即答した。


「でも……言われるままやったものの、どうしてあの硬いゴースの殻が風の術で簡単に切ることができたのか、良くわからないんだよね」


 陸徒は空也の発言に半分呆れつつも、この作戦が化学的根拠に基づいたものであるため、仕方のないことだと感じていた。逆に驚くべきは、これがリアラの案によるものであったことだ。

 この作戦は簡単に言えば、急激な温度変化による物質の抵抗力の低下を利用したものだ。特に鉄などの金属物質に対し、高温、低音を繰り返すと過度に疲労が蓄積され、脆く破損に至る。


「なるほど。つまりあのゴースって奴の殻は鉄に酷似した物質の集合体ってわけか」

「はい。ですから、低音から一気に高温を与えればゴースの殻を脆くさせられ、この谷の地形属性によって強化された風の術で、それを破壊することが可能だと思ったのです」


 すでに戦闘が開始され、自らの身が危険な状態であったにも拘らず、そこへ発想転換させられる機転の良さ、そして彼女の学の豊かさに一同が関心を示し、驚きを隠せずにいた。


「リアラの知識は凄いな。とても空也の年下とは思えない」


 魔術の実力だけではなく、薬や化学的な知識等、この短時間でリアラは陸徒たちに充分なほどの能力の高さを見せつけている。まだか弱い少女とはいえ、この先での戦いにおける戦力として申し分ないだろう。


「これも全て、母から教わったものですから」

「ほぉ……」


 謙遜の表情を見せながら、身に合わない大きな魔術書を抱いて応えるリアラに対し、珍しくもクレスタがなにか思うものがあったように言葉を漏らす。

 するとそこへ、突然アクシオが声を発して割り入ってきた。


「ん、何だ? 何か聞こえるぞ!」


 突拍子もなく出た彼の大きな声に、全員が驚くように反応する。


「聞こえるって、なにが?」

「いや、だから……ほら、ちゃんと耳を澄ましてみろよ」


 言われるまま、耳へ意識を集中させて辺りの音を探る。だが聞こえてくるのは吹き荒ぶ風の音だけで、他の音など一切聞こえるものではなかった。

 なにを言っているのだと、陸徒たちは怪訝にも似た表情をアクシオへ向ける。ところが彼の表情は真剣そのもの。悪ふざけでものを言っているようではなかった。


「……こっちだ!!」


 そう言って、アクシオは突然谷の奥へと走りだす。

皆も慌てて後を追いかけるが、しばらく進んだ先にある崖を曲がったところで、彼は呆然と立ち尽くしていた。


「おいアクシオ、なんなんだよ——」

「あ、あれは何だ?」


 陸徒の言葉を止め、アクシオは驚愕の表情で上空を指差した。それに導かれるように、陸徒を始め、全員が上を見上げる。


「ちょっと、冗談でしょ?」

「で、でけぇ……」

「な、なにあれ!?」

「まさか! ガ、ガルティオルフ!!」


 陸徒たちの前にあるのは、巨大な崖によって深い谷底が作り上げられた広大な空間。その上空に、見たこともない鳥が翼を羽ばたかせて舞っていた。

遠望目視ではあるが、おそらく体長は象をも遥かに凌ぐ大きさだろう。あまりにも異常な光景に、皆が半ば混乱しながら驚愕する。そして最後にリアラの口から出た言葉があの鳥の名称と思われる。

 ガルティオルフ。このミドラディアスに住む者であれば知らない者は少ないと言えるほどに有名。かの流水の洞窟にて遭遇したログノスキュラと同様、伝説とされている怪鳥だ。

やまぶき色と、翡翠色の混ざった羽を身に纏い、見る者を魅了させるほどに鮮やかで美しい姿をしている。鷹のように鋭い目と鋭利な鉤爪を有しているが、性格は非常に穏やかで、人間を襲ったりなどはしないという。だが……。

 ガルティオルフは、陸徒たちの姿に気づくなり、翼を真っ直ぐに伸ばし滑空しながら突撃してきた。


「う、うそ……あの鳥、あたしたちを襲おうとしてない?」

「危ない! みんな避けろっ!!」

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