第18話「唸る双竜剣 シルビア参る」
町を襲う海賊の前に突如と現われた謎の女剣士シルビア。彼女の持つ剣による不可解な攻撃によって、海賊船長であるセドリックを倒した。
脅威の去った町に再び安寧が訪れるかと思った矢先、シルビアは傍観していた陸徒へ突然攻撃を仕掛けてくる。なぜ標的が陸徒に限定されているのか、理由は現時点ではわからないが、この戦い……避けられる雰囲気ではなさそうだ。
「おい、俺たちは海賊の仲間じゃねぇぞ!」
「わかってるさ、そんなの!」
「だったら何で——」
「んなこと、どうだっていいじゃないか!」
ふたりの会話を聞きながらも、他の仲間たちは状況が掴めず唖然としている。だがシェリルとクレスタは、有事の際に陸徒の身をいつでも守れるよう杖を構えてその様子を見守っていた。
第一撃はシルビアのものだった。
右手に持つ紅い剣を縦に振り下ろす。しかし、陸徒はそれを剣を真上に翳して受け止めた。
「へぇ、中々いい反射神経してるじゃない」
この行動で、陸徒の剣の実力をある程度読み取れたのか、真紅の女剣士は口角を上げてニヤつかせながら、左手に持つ蒼い方を追加して更に押し込んできた。
(くっ……この女、なんて馬鹿力だ! このままじゃ剣がもっても俺の腕がもたねぇ)
陸徒は歯を食い縛りながら、押さえ込んでいる目の前の2本の剣へ視線を配る。
すると今度は、顔の肌に焼けるような熱気と、凍るような寒さを同時に感じ、慌てて女剣士の腹部に蹴りをかまして引き剥がそうとするが、シルビアは寸でのところで蹴りを回避し、そのまま後方へステップした。
おかげで両者に間合いが生まれ、陸徒も額から垂れる汗を手で拭いながら体勢を立て直す。そして確認するようにラディアセイバーに視線を移すと、2本の剣を受け止めていた箇所が僅かながら点火しているのと、氷結している状態を発見する。
「な、なんだこれ……剣に火がついて、更に凍っている……?」
「思い出しましたぞ! あの2本の剣の正体は、双竜剣です!」
その様子を見ていたクレスタが、突然大声を発した。
「双竜剣?」
「はい。伝説の獣、ドラゴンの鱗で造られたとされている剣です」
オウム返しに聞く空也に対し、クレスタが答える。すると、それを聞いていたシルビアが付け加えるように説明しだした。
「そうさね、この剣は双竜剣。紅い方が、炎を自在に操る火竜の鱗で造られた紅剣クリムゾンゼスト。蒼い方が、氷を自在に操る氷竜の鱗で造られた蒼剣ブルーアイシス。どちらもその竜の力を受け継いでいて、同じような攻撃をすることができるのさ!」
「……まるで、ザルディス王子の持つ雷を操る剣、レビントレイターみたいな感じだな」
陸徒がかつての出来事を思い出しながら小声で呟く。
先ほどセドリックを仕留めたのは、紅剣クリムゾンゼストを使った火属性による遠当ての攻撃。ラディアセイバーとは違い、魔術のように遠距離から攻撃できる武器は厄介だ。ザルディスの電撃攻撃を直に体験した陸徒にとっては、それに対する警戒心はより一層強まるものだろう。
(んでも、遠距離攻撃ったって出すにはそれなりに隙が生まれるはずだ。それにあの双竜剣ってやつは、見たところ普通の剣よりも短い。このラディアセイバーの方が倍はある長さだ。リーチを活かしつつ、遠距離攻撃の隙を与えない間合いで戦えば問題ない)
自分なりに分析した戦法を意識下で確認し、剣を構え直して有利な間合いへと詰め寄る。
「なるほどね。アタイが遠距離攻撃できない位置で、しかも剣のリーチを活かした間合いで戦おうって考えか。中々いい読みしてるじゃない」
上から目線のシルビア。しかも早速戦法を見破ってきた。
だがそれを否とせず、陸徒に有利な間合いから立ち位置を変えようとはしなかった。それどころか彼女は、したり顔で表情を吊り上げながら、剣を前へ突き付けて言い放つ。
「けどね、遠距離攻撃だけがこの剣の特性じゃないよ。斬れ味だって甘く見てもらっちゃ困る。強靭な竜の鱗で造り、鍛え上げられたこの双竜剣に、斬れないものなんて……多分ないよっ!!」
「はぁっ!?」
最後の言葉が理解できず、思わずツッコミをしようとする陸徒だが、台詞を言い放つと同時に、素早い突進で攻撃を仕掛けてくるシルビア。
しかし陸徒もギリギリのタイミングで、左サイドからの横薙ぎだと見切ることができ、咄嗟にラディアセイバーを盾代わりにして攻撃を受け止める。
鼓膜を刺激するほどの金属音を出し、両者の剣がぶつかり合う。なんとか防御に成功するも、体重を乗せたシルビアの攻撃の重さは非常に強力だったため、その衝撃で陸徒は右側にある街灯の鉄柱に身を叩きつけられてしまった。
「ほらほら、休んでる暇は無いよっ!」
体をよろめつかせてしまい、その鉄柱に掴まって体勢を整えるが、容赦なくシルビアは陸徒への攻撃を続ける。
「くっ——」
思わずその場にしゃがみ込んで、水平斬りを繰り出してきた彼女の攻撃を間一髪回避する。それによって、背にしていた鉄柱が綺麗に寸断されてしまった。
「げっ、マジかよ……。鉄製の柱が豆腐みたいに斬れちまった」
鉄柱の断面を見ながら目を丸くして驚愕する陸徒。最後の言葉はともあれ、彼女の言っていた通り、竜の鱗で造られた双竜剣の斬れ味は相当なものだ。あれの前では鉄製の防具など無意味に等しい。
「けど、こいつなら大丈夫かもしれねぇ」
一方で陸徒は気付いていた。
鉄をも簡単に斬り裂くほどの双竜剣の攻撃を受けても尚、刃毀れすらせず、無傷でいるラディアセイバーの強靭さに。
「あんま気がのらねぇが、やられっぱなしってのも面白くねぇからな。そろそろ反撃させてもらうぜっ!」
「よっしゃ、そうこなくっちゃな!」
大剣使いの攻撃の意思を確認すると、シルビアは表情を輝かせ、口角とテンションを上げてきた。
陸徒は剣を地に突き立てて、それに掴まりながら立ち上がる。そしてズボンについた埃を手で軽く叩くと、次の瞬間に勢いよく地を蹴ってシルビアに突進した。
「はやっ!!」
重量級の大剣を持つ見た目と比べ、不相応な動きの速さに不意を突かれたのか、真紅の女剣士は反応が遅れてやむを得ず防御の構えをする。陸徒はスピードを乗せた横薙ぎをかますと、ラディアセイバーと2本の双竜剣がぶつかり合った。
度々の金属音を辺りに響かせながら、陸徒は更に力を入れて剣を押し込み、シルビアを強引に後退りさせる。
「ははっ、さっきのアタイと同じ力押しか。でもまだ踏み込みが足りないよ! もっと本気で掛かってきな!」
「本気でやれっかよこんな戦い。俺にはお前と戦う理由がないからな」
一方的に攻撃を仕掛けられた陸徒にとっては、この真紅の女剣士との戦いが全くもってつまらなかった。そのため、当然ながら本気で戦えるなどなかった。
「ふっ、やっぱりそうか。じゃ止めるよ。終わり終わり!」
「は? いいのかよ!」
「だって理由がないなら仕方ないじゃんか。ま、こっちとしては別な面白いものを見せてもらったから満足さ」
「面白いもの?」
意外にもあっさりと戦いを止めたシルビアの対応に少し戸惑いを見せる陸徒だが、彼女の言う面白いものについて問うと、その答えは神剣ラディアセイバーのことであった。
「その剣、アタイの双竜剣の攻撃を受けても全然ビクともしていない。そんなものを見たのは初めてだよ。どこでそれを手に入れたのかは知らないけど、相当な得物を持ってるね」
やはりアクシオ同様、シルビアも神剣の正体を知ってはいなかった。
「ま、とりあえずアタイはここらでサイナラするよ。ボチボチ自警団の奴らが海賊共の後始末に動き出すだろうからね。んじゃまた!」
そう言って、短髪の真紅をかき上げ、口角だけを上げた緩い笑みを見せると、女剣士はその場から去っていった。
「なんだったんだあの女……。またって、次会えるかどうかわかんねぇのに」
視界から徐々に消えていく女剣士の後姿を眺めながら、陸徒は軽く呟く。
間もなくして、他のメンバーが陸徒の元へやってきた。
「兄ちゃん大丈夫?」
「あぁ、いきなり戦いを挑まれて正直焦ったけどな。とりあえず問題ない」
「特に怪我をされているようではなさそうですね」
杖を構えたまま、シェリルが視診で陸徒の状態を確認する。
突如と現れた真紅の女剣士シルビア。後半、陸徒に戦いを挑んでくるという予想外な行動を起こしてきたが、結果的には彼女の手で海賊たちを一掃することができた。
戦いが収まるまで傍観していた町の自警団も動き出し、海賊を次々と連行している。避難していた住民達も、少しずつ町へ戻り始めているようだ。
「さて、騒ぎもとっくに収まっていることだし、俺たちもそろそろ戻ろうか……って、あれ?」
陸徒は、視界に映る仲間がひとり足りないことに気づく。
「波美の奴どこ行ったんだ?」
それは幼馴染の波美だった。
周囲を見渡す限りでは、彼女の姿はどこにもいない。他のメンバーもつい先ほどまで一緒にこの場にいたと言っているが……。
全員で辺りを見回していると、どこからともなく聞き慣れた声がしてきた。
「りっくーん、みんなー。こっちこっちー!!」
その声は、案の定波美のものだった。
聞こえてきた方向はセドリック海賊団の船の辺り。やや上の方から声が聞こえたが……と、ふと目を向けて見ると、なんと甲板の上で、亜麻色のポニーテールが大きく手を振っていた。




