第16話「手に入れたプリウスの魔石 現る謎の女」
港町ラフェスタの東に位置する観光地。流水の洞窟と呼ばれる、その名の如く清流に包まれた神秘的な洞窟内にて、伝説の海獣ログノスキュラと遭遇した陸徒たち。その巨大な怪物を前に苦戦を強いられるも、陸徒の持つ神剣ラディアセイバーの力を使い、強力な雷の属性攻撃を与えて見事ログノスキュラを倒した。
初めての特殊能力を使用した攻撃もあって、上手くパワーをコントロールすることができず、自身の力を使い果たしてしまった陸徒は、立ち上がることさえままならず流氷の上で膝を着いて疲弊していた。
そこへ、他のメンバーの乗る船がやってきて彼を回収する。
「りっくんお疲れ様! クレスタさんの作戦通り上手くいって良かったね」
「いやはや。これも陸徒殿のラディアセイバーのおかげですな」
「それにしても本当に凄かったね、さっきの兄ちゃんの攻撃。まるで魔術を使った時みたいだったよ」
「まさに文献に記されていたものと同じ、神剣ラディアセイバーに秘められた魔術のような力、ですね」
それぞれが勝利の喜びに酔いしれながら思い思いの発言をする中、アクシオだけが黙って陸徒の剣を見つめていた。そしてしばし間を置いてから口を開く。
「なぁ、さっきからお前らが言っているラディアセイバーって、まさかあの歴史上の……?」
彼の生い立ちは不明であるが、一般的な家系ではラディアセイバーの外観を知る者は少ない。基本的にはアルファード城の王宮歴史館にある、レクサスの肖像画でしか拝見することができないため、それをぶら下げて町中を歩いていても、アクシオや町の人たちにも特に気づかれることはなかった。
「まぁな。話すと長くなるが……」
アクシオに件の説明をしようとした時、空也がその場の空気を読まずに声を出す。
「ねぇ! あそこになにかあるよ!」
大きな声で彼が指差した先へ皆が視線を移す。それは、ログノスキュラのいた位置にひとつ浮かぶ流氷。目を凝らしてみると、その中央に光るものがあるのが見えた。
ゆっくりと船を近づけて確認する。泳ぎが苦手であるにも拘らず、好奇心だけが先行して空也は流氷に飛び移ると、その光るものを手に取った。
「うわぁきれいな石。これなんだろうね?」
「石? 空也殿、それを見せてはくれませぬか」
クレスタがいの一番に反応し、空也からその石を受け取ると、鑑定士が骨董品を見定めるかの如く、まじまじと眺めながらなにかに気づいたように目を大きく見開く。
「この石から強い水属性の魔力を感じます。もしかすると——」
「それが、プリウスの魔石なんじゃねぇか!?」
クレスタの言葉の途中で、陸徒が割り込んで発言する。クレスタ自身も同じことを考えていたようで、それに対し黙って深く頷いた。
思わぬ所でプリウスの魔石が手に入り、歓喜で満たすメンバー達。
「プリウスの魔石? お前らが探していたお宝ってのは、そんな石ころだったのか?」
「傍から見ればただのきれいな石かもしれねぇが、俺達にとっては大事なものなんだ」
ここまで来ると、アクシオには事情を話すべきだ。彼が信用に値する人物であるかどうかは、先のログノスキュラ戦で十分に見定めることができた。自分にとってはさほど有益なものではないにも拘らず、危険を顧みずに皆と協力して戦いに臨んでくれた。陸徒を始め、全員がそう思っていたに違いない。
目的を果たし、落ち着いた場所へと移動する為、一先ず洞窟を出る一行。来た航路をそのまま戻り、港町ラフェスタへ帰着する。
船を降りるや否や、空也が腹の虫を大きく鳴らす。気が付くとすでに昼時を過ぎようとしている時間だった。先ほどまではログノスキュラとの戦闘の緊張感や、プリウスの魔石入手による興奮で空腹を忘れていたが、町へ着いて安心するなり体が正直な反応をしたようだ。
ちょうどアクシオが推奨する店があるとのことで、その店で食事がてら彼に旅の理由の説明をしよう。
連れてこられた店は、港町だけあって魚介類のメニューが豊富なところであった。沢山の魚やエビ、貝類をふんだんに使ったシーフード料理を多く取り揃え、利用客も常に満席になるほどの人気店だ。
昼食のピークの時間帯が過ぎていたためか、運よく席を確保した一行は、様々な海の料理に舌鼓を打つ。
一通り食事を終え、腹を満たした頃合に話をし始めようとした時、なにやら店の外から騒ぎ声が聞こえてきた。
「ねぇ、なんか外が騒がしく聞こえない?」
波美が確認するようにそれを口にすると、突然店の中に男が入ってきた。見たところ町の住人のようであるが、彼は物凄い形相で汗を滴らせながらこう叫ぶ。
「た、大変だ! 海賊だ、海賊が来たぞっ!」
唐突な台詞に店内の空気が一瞬凍りつく。
そしてスイッチの入った目覚まし時計のように、一斉に人々が騒ぎ立て、瞬く間に混乱状態となった。
「おい、海賊ってどういうことだよ!?」
「海賊船がこちらに向かってきているんだ。もう間もなく港に着く。お前たちも早く逃げろ!」
陸徒が事の報告をしてきた男に問うと、男はそう答えて一目散に去っていった。
「まったく、この世界はあたしたちに満足にご飯も食べさせてくれないわけ?」
波美が機嫌を損ねたように溜息をつく。以前アルファード城下町にあるレストランでの昼食中、大男が暴れだして邪魔をされたことがある。それを思い出しての彼女の発言だろう。
律儀に料理の代金をテーブルの上に置いてから、店の外に出る一行。町中では逃げまどい、パニック状態になった人々で溢れかえっていた。
「とにかく、港の方へ行ってみようぜ」
「え? 港は危険だよ……逃げないの?」
「バカ野郎、逃げてどうすんだよ。海賊が攻めてきたんなら、俺たちが止めてやるんだ」
アクシオの言葉に空也がたじろいでいるが、逆に陸徒はそれに賛同する。
彼自身少し不思議に感じているようだが、この世界にきてからか好戦的になり正義感が強くなったと言うべきか、戦うことに躊躇しなくなってきている。恐らくそれは、彼の性格的な問題よりも、戦う力を手に入れたからとい理由の方が強いだろう。
「そうですね。本当に海賊が攻めてきたのでしたら、わたくしたちが止めなくては。この国の平和を守らなければなりません」
「確かにそうね。ほら、空也くん行くわよ」
元々、王女としての責任感の強いシェリルは当然だが、波美も陸徒と同じ気持ちに違いない。それを証明するかのように、非常に落ち着きを見せたまま、物怖じしている空也の手を取って無理矢理引っ張って行く。
このまま、彼らは住民たちの逃げる方向とは逆の、港のある方へ走り出した。
現場へ着くと、そこにはいかにも海賊船らしき物々しい船が丁度停泊しようとしていた。どうやら襲撃される前に陸徒たちの到着が間に合ったようだ。
周囲を見渡すと、武装した人間が数十名ほど、海賊船を睨みつけながら身構えていた。察するに、警察のような立場の自警団といったところであろう。
「あの船は、セドリック海賊団!」
船を見るなり、クレスタが海賊の名前を叫ぶ。それがどのような集団であるか、後に理解することとなる。
船が到着し、梯子が下されると同時に血の気盛んな男たちが一斉に降りてきたと同時、猛るむさ苦しい掛け声が辺りに響き渡った。自警団の者たちも、現れた海賊達に向かい迎撃に当たる。これにより、対海賊の戦闘が開始された。
「おい、俺たちも一緒に戦うぞ!」
陸徒は皆に合図をし、攻めてくる海賊たちを迎え撃とうとしたその時、ある男が堂々とした態度でゆっくりと船から降りてきた。
「はっはっは! このセドリック様率いる我が海賊団は、たった今からこの町の金品を全ていただく! 抵抗するものは容赦なく殺すぞ!」
どうやら幕開けからの親玉出現のようだ。
セドリックと名乗った男は、突如と陸徒たちいる位置に現れた。両サイドの鍔が折れ曲がった帽子に皮製のロングコートといった、海賊の見本とも言えるような装いである。その姿を見た異世界組3人は、映画や漫画等からの記憶により、一抹の感動を覚えた。
しかしその感動も束の間。すでに海賊と交戦中である自警団は徐々に押されつつあった。海賊側の数が圧倒的に勝っていたのだ。だが陸徒たちにとっては好機だ。状況は劣勢であろうと、目の前にいる船長のセドリックを倒せば、子分たちも戦闘を止め降参するはず。その思いを体現するかのように、一斉に武器を構え戦闘態勢に入った。
「ほう。お前ら、この俺様に盾突くのか? ならば容赦はせんぞ。野郎共、こいつらをやっちまいな!」
陸徒たちの敵意を読み取り、好戦的な反応を示したセドリックは、戦力の余った子分たちを呼び出して攻撃の命令を下す。
それを迎え撃とうと、クレスタやシェリル、空也が呪文の詠唱を開始。陸徒と波美、アクシオが武器を前に突き出し、攻撃を開始しようとしたその時——。
「待ちなっ!!」
港中に響き渡るほどの大きな声がどこからか聞こえてきた。一斉に動きが止まり、その声の主を探そうと辺りを見回す。
ほどなくして、とある建物の屋根からひとりの人物が姿を現した。
「なにモンだ貴様はっ!?」
このセドリックという男、完全に悪者の典型とも言えるリアクションだ。だが、それに親切に答えることもなく、現われた人物は屋根から飛び降りて着地するなり、彼を挑発するような態度を示してきた。
「別に名乗るほどのモンでもないさ。まぁそんなことより、お前たちみたいなザコ海賊はアタイが相手になってやるよ!」
それは、ややハスキーな声をした女であった。心なしかあどけなさの残る若い顔立ちをした、推定20歳前後といったところだろう。
真紅とも言える鮮やかな色合いのショートヘアーに、同色の吊り上がった鋭い目をした気の強そうな風貌。ほど良く焼けた肌を惜しげもなく露出させた服装だが、肩や腰、脛の位置には金属製の防具を装着している。
そして何よりも目立たせていたのが豊満なサイズの胸だ。上半身に着たチューブトップがはち切れそうなほどに強調した格好で、男たち数名は目のやり場に困っている様子。
「ほう、このセドリック海賊団に向かってザコ呼ばわりとは、威勢がいいな小娘。どうやら一番に死にたいようだな」
当然、状況が状況なだけに、セドリックはそのような好色的なことには目もくれず、生意気な態度の女に殺意を見せる。
「ザコにザコと言って当然じゃないか」
それに対し女は、平然とした様子で更に挑発をしてきた。大きいのは胸だけでなく、態度も相当なものだ。
「貴様……言わせておけばいい気になりやがって! 野郎共、まずはそこの女からぶっ殺してしまえ!」
見事なまでに簡単に挑発に乗った沸点の低い男は、怒りで顔に熱を篭らせながら叫んで命令をすると、陸徒たちから女にターゲットを切り替え、海賊達が一斉に襲い掛かる。
「いけません、助けなくては!」
シェリルが杖を構え、先ほど中断していた呪文の詠唱を再開して法術を掛けようとするが——。
次の瞬間、大きな爆発音がしたかと思うと、女に攻撃を仕掛けようとした海賊たちが一斉に悲鳴を上げて、ところ構わずに吹き飛んでしまった。
「おいおい、一体どうなっちゃってんの?」
声を出したアクシオを始め、他のメンバーも今起きた現象が理解できずに戸惑いを見せていた。
一瞬の内にセドリックを残す海賊を全滅させた女は、ただその場に佇んでいるだけだった。しかしよく見ると、彼女の両手にはそれぞれ赤い剣と青い剣が持たれていた。
「な、なんだと。子分たちが一瞬にして……」
「やっぱり大したことなかったじゃない。こんな弱い子分たちを率いて、よく今まで海賊やってこられたものねぇ」
「くそっ、貴様一体何者だ?」
「仕方ない、せっかくだから名乗ってあげるよ。アタイの名はシルビア、旅の剣士さ。別に正義の味方を気取るつもりはないけど、ちょっと憂さ晴らしだ。お前たちザコ海賊を潰してやるよ!」
シルビアと名乗った女はザコ海賊の船長に威嚇をする。だが対するそれも、歯を強く食い縛って怒りを露にするが、勝機を見出しているのか、直後に不敵な笑みを浮かべて剣を手に取って構える。
あの女剣士の言うとおり、弱い子分たちであったが、この男は油断できる相手ではないと、少なからず陸徒たちも感じ取っているだろう。子分同様、ただの弱い海賊団であれば、始めにクレスタがこの海賊に対して驚きの反応を見せるはずがない。
「さぁ、かかってきなよ」
「そう粋がっていられるのも今の内だ。このセドリック様を怒らせたこと、後悔させてやる」
こうして、突如現れた女剣士シルビアと、海賊セドリックの戦いが始まった。両者共に実力の見えぬこの戦いの行く末は如何に……。
「……あれ、今回俺たち、観戦状態?」
と、独り言を零しながらふたりの様子を目する陸徒であった。




