第13話「港町ラフェスタへ 戦士アクシオとの出会い」
盗賊退治後、魔術に関する話は続いていた。
「それにしても、地形属性だっけ? 魔術って色々な仕組みがあって複雑なのね」
そこへ、波美が地形属性について触れると、陸徒が何かを思い出したかのように口を開いた。
「そうだ。クレスタの爺さん、ちょっと試したいことがあるんだ。さっきの戦いで見せた氷の術をもう一度使ってくれないか?」
「はい、それは構いませぬが……?」
クレスタは言われるまま、杖の先端に手を翳して魔術の姿勢に入る。
早口言葉さながらに、流暢な呪文の詠唱から即座に魔術を発動。
すると再び、辺りに氷のフィールドが作られた。
陸徒以外の面々が頭上に疑問符を浮かべながら、彼の動向をじっと見つめている。
彼は氷上へ足を踏み入れ、ある程度の位置で立ち止まる。そして一呼吸して集中力を高めると、剣を氷に突き立てて言い放った。
「宿れっ!!」
突如剣が強く光る。
それが刀身へ収縮して止むと、そこには冷気を纏って水蒸気を発している、神剣ラディアセイバーの姿があった。
「陸徒さん、それは?」
「こいつはラディアセイバーの力。地形属性を刀身に宿すことができるんだ」
皆が驚く中、シェリルとクレスタが一際大きく反応する。ザルディスと同様、文献に記された内容を知ってのことだ。
この地形属性の有効活用が、戦局を左右すると言っても過言ではない。
陸徒はこれを皆に見せておくことで、戦略の幅を広げられる。そう考えてのデモンストレーションだった。
しばらく歩き続け、太陽が西へ姿を消す時間帯に差し掛かった頃、前方から白い建物が目立ち始める。
「皆さん、ラフェスタが見えてきましたよ」
何時間も歩き続けたことで疲労が溜まり、表情と気分ともに俯き加減であった一行。
目的地発見の知らせを受け、表情に生気が戻ってくる。
港町ラフェスタへ到着。時はすでに夕暮れ時となっていた。
初めはテンションを上げていた陸徒たちも、すぐに燃料切れとなり、そそくさと今夜寝泊まるための宿を確保する。
旅の初日ということもあり、とりわけ異世界組3人は疲労がピークに達していた。
そのため、宿の部屋へ入るなり、食事も取らずに寝てしまった。
翌朝。改めてラフェスタでの活動を開始する。
朝食を済ませて宿の外へ出ると、目を刺激する眩しい風景が広がった。
白い町並みが陽光を跳ね返し、その向こうでコバルトブルーに輝く海が、絶妙なコントラストとなっている。
斜面となった丘の上から見下ろすように建物が並ぶ。港付近は様々な店が立ち並ぶ商店エリア。丘の中腹は宿泊エリアとなっている。
「さて、情報収集といえば酒場とかそういったところか?」
プリウスの魔石の情報を集めるには、人の集まりやすい場所が最適。酒場であれば、冒険者も少なからずいる。
また、多くの客と会話をしているマスターは、比較的情報通であると予想できる。
「あたしたち、未成年だからお酒飲めないよ?」
「誰が酒を飲みに行くって言ったんだよ。情報収集だっつーの!」
そんなやり取りをしながら一通り探し回っていると、ある店が目に留まった。
白い建物が並ぶ中、塗装されていない木造の外観が異様に目立つ。
ギャランという名の酒場で、出入口のくたびれたウェスタンドアが、静かな軋み音を出していた。
店内も外観相応というべきか、少し埃っぽさがある中、木の匂いがほんのりと残っている。
中央にはカウンターがあり、白いシャツを着た男がグラスを磨いていた。陸徒たちにとってはまさに、西部劇に出てくる酒場そのものだ。
周囲に置かれたテーブルには、冒険者や地元の人間が食事をしていた。朝だというのに客入りが良く感じるのは、この店が朝食を提供しているからだ。
クレスタが先導して中央のカウンターへ進み、白シャツの男へ声を掛ける。
「どうも。少しばかりお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですかな?」
「あぁ、なにか用か?」
男は表情を作らず淡々とした態度で答える。
「私どもは旅の探検家でして、主に価値のある財宝等を探しておるのですが、この近辺で宝が隠されているような不思議な場所はありませんかな?」
プリウスの魔石という言葉はあえて伏せる。
宝へ変換し、不思議な場所に隠されているという言い回しは、怪しまれにくく上手なやり方だ。
「宝ねぇ……その辺はどうかはわからないが、不思議な場所はあるにはあるぞ」
男はこう語る。
この町から海へ出て、海岸沿いに北東へ向かった先に、流水の洞窟という場所がある。
町の観光名所としても知られ、見るものを魅了する水のアートによって作られた天然の洞窟だ。
内部は小型の船ならば容易く入れるほど広く、未発見のエリアもあるとのことで、宝の所在も多少は期待できる。
「だが、ひとつ問題があってだな……」
男は神妙な顔つきへと変わり、声のトーンを下げてきた。
「問題?」
陸徒がオウム返しに聞くと、男は答えた。
「……巨大モンスターの出没だ」
その言葉に動揺する一行。
しばし沈黙が流れ、周囲の客の談笑だけが店内に鳴り渡る。
話によると、ここ数日の間、洞窟の近海に突如としてあるモンスターが現われたそうだ。
海に棲むモンスターは日常的に存在しているが、前者の方は旅客船や漁船を襲うことはない。ところがなぜか、流水の洞窟へ近づく観光の船だけを襲う。
日常生活をする上での危険性は低いが、そのせいで観光客が減り、町の活気が落ちていると言う。
「そのモンスターの正体は、わかっているのですかな?」
クレスタの問いに、男は眼力を込めながら、無精髭の生えた顔を近づけてこう言った。
「そいつは、ログノスキュラだ」
その言葉にクレスタとシェリルが大きく反応する。
ログノスキュラとは、ミドラディアスの歴史を記す書物に、しばしば登場する伝説の海獣だ。
アルファード近海でまれに発見されるという噂があるが、その生態は殆どが不明。目測では十数メートルはあるという巨体で、イカのような軟体の触手を複数生やしている。
「魔石の情報の代わりに、モンスターの情報を仕入れてしまいましたな」
クレスタが皮肉を込めた台詞を呟く。
現状、魔石の情報へと繋がる手掛かりは得られず、どうするべきか一行が悩んでいると、左手の方向から人影が近づいてきた。
「よう、お前ら流水の洞窟へ行きたいのかい?」
馴れ馴れしく声を掛けてきたのは旅の戦士だった。
傷だらけの浅葱色のハーフプレートメイルを着装し、藍色の短髪に、ほど良く焼けた小麦色の肌。布に包まれた自分の身丈よりも長いなにかを担いでた。
見た目の年齢は若く、陸徒よりも若干年上といったところだろう。
「俺は世界を旅しているアクシオってんだ、よろしく! よかったら話を聞こうじゃないか」
アクシオと名乗った旅の戦士は、図々しくも陸徒たちの間に入り、有無を言わさず彼らを他のテーブルへ移動させる。
「で、そのアクシオさんはあたしたちになんの用なわけ?」
元来軽い男が嫌いな波美は、アクシオがそれと同類であると認識し、警戒心を剥き出しにしながら眉をひそめる。
「まぁそういう顔しなさんな。実はな、俺もちょうど流水の洞窟に行きたいと思ってたんだ」
「御一人で、観光なさるのですか?」
真面目なのかふざけているのかわかりにくい、ゆっくりとした口調で問うシェリル。
陸徒にはその様子が少し面白かったのか、思わず息を吹いて笑う。
「違う違う。そこ、笑うな! いや俺が用あるのは、海獣ログノスキュラだ」
アクシオの目的は、ログノスキュラの討伐だった。
さらに彼の話では、それは流水の洞窟もしくは洞窟の中にある、"なにか"を守っているのではないかと推測している。
そこで、陸徒たちが宝を探しているという話を盗み聞き、誘いに出したということだ。
「なるほどな。まぁ盗み聞きはどうかと思うが、その推測は間違っていないかもしれない。それなら俺たちとも利害関係が一致する」
「少なくとも、人々を襲う危険なモンスターを放っておくわけにはいきませんわ」
「よし、満場一致と見て問題ないな? 早速だがこれから出発しよう。善は急げだ」
こうして、旅の戦士アクシオと協力し、流水の洞窟へと向かう動きとなった。
なぜ、突如と伝説の海獣ログノスキュラが姿を現すようになったのか。そして洞窟へ近づく者だけを襲う理由とはいったい。
それを突き止めに、一行は港町ラフェスタの北東を目指す。




