第13話「港町ラフェスタへ 戦士アクシオとの出会い」
空也を始め、陸徒たちへ襲い掛かってきた盗賊たちを見事に打ちのめした。
周りからの援護はあったが、最後は空也自身が盗賊のリーダーとされる者を魔術を使って退治。本人を含め陸徒や波美も魔術の凄さに吃驚仰天していた。
「それにしても、地形属性だっけ? 魔術って色々な仕組みがあって複雑なのね」
波美が、空也から聞いた地形属性を利用した戦い方について、率直な感想を述べる。そこへ、陸徒がなにかを思い出したかのように口を開いた。
「そうだ。クレスタの爺さん、ちょっと試したいことがあるんだ。さっきの戦いで見せた氷の術をもう一度使ってくれないか?」
「はい、それは構いませぬが……?」
クレスタは、陸徒の言葉の意図を理解していない様子だが、言われるまま杖の先端に手を翳して魔術の姿勢に入る。
早口言葉さながらと言えるほどに流暢な呪文の詠唱から即座に魔術を発動。すると再び辺りに氷のフィールドが作られた。陸徒以外の面々が頭上に疑問符を浮かべながら、彼の動向をじっと見つめている。
陸徒は氷上へ足を踏み入れ、数歩進んでからある程度の位置で立ち止まる。そして一呼吸して集中力を高めると、剣を氷に突き立てて言い放った。
「宿れっ!!」
その言葉に反応するかの如く、突然ラディアセイバーが光を発した。しばらくして光が刀身へ凝縮されるようにして止むと、そこには冷気を纏って水蒸気を発している神剣ラディアセイバーの姿があった。
昨日のザルディスとの模擬戦にて発動させたものと同じ、地形属性の力をラディアセイバーに宿して見せたのだ。
「陸徒さん、それは?」
「こいつはラディアセイバーの力。地形属性を刀身に宿す事ができるんだ」
シェリルの問いに対し、陸徒は率直に答える。するとクレスタと一緒に一際大きく驚きの反応を見せた。これはザルディスと同様、文献に記されたラディアセイバーに秘められた魔術のような力のことを知っていたためによるものだろう。
今後において、魔術による地形属性を利用した戦いは頻繁に発生するであろうことが十分に予想される。このラディアセイバーの力もまた、戦局を打開するための大いなる力となるはずだ。
しばらく歩き続け、太陽が西の方角へ姿を消し始める時間に差し掛かってきたころ、前方に白い建物が目立つ場所が見えてきた。
「皆さん、ラフェスタが見えてきましたよ」
さすがに何時間も歩き続けたことで疲労が溜まり、表情と気分共に俯き加減であったメンバーだが、目的地発見の知らせを受けてようやく表情に生気が戻ってくる。
港町ラフェスタへ到着した頃にはすでに夕暮れ時となっていた。初めはテンションを上げていた陸徒たちも、体は正直であるからかすぐに燃料切れとなり、一行はそそくさと今夜寝泊まるための宿を確保する。
この日は旅の初日という事こともあり、メインの移動手段が徒歩である環境にも慣れていなかった異世界組3人は、疲労がピークに達していた。その為、宿の部屋へ入るなり食事も取らずに寝てしまった。
翌日の朝を迎えた一行は、改めてラフェスタでの活動を開始する。朝食を済ませ宿の外へ出ると、目を刺激する眩しい風景が広がった。
疲労と時間帯の理由から昨日は気が付かなかったようだが、この町の建物は殆どが真っ白な外壁となっていた。町を発見した際に白い建物ばかり目立っていたのはその為だ。陽の光が白さを更に引き立たせ、コバルトブルーに輝く海との絶妙なコントラストが気分を高揚させ感動を与えてくる。
町全体の構造としては、斜面となった丘の上には様々な建物が至る所に建てられており、その眼下には美しい大海原が広がる。港付近は様々な店が立ち並ぶ商店エリア。丘の中腹に宿泊施設があり、その上に住宅が密集している。
「さて、情報収集といえば酒場とかそういったところか?」
町中を散策しながら陸徒が口にする。プリウスの魔石の情報を集めるには、人の集まりやすい場所が適している。酒場であれば、冒険者も少なからずいるだろう。また、多くの客と会話をしているマスターは、比較的情報通であると予想できる。
「あたしたち、未成年だからお酒飲めないよ?」
「誰が酒を飲みに行くって言ったんだよ!? 情報収集って言ったろ、情・報・収・集!」
そんなやり取りをしながら一通り探し回っていると、ある店が目に留まった。
白い外壁の建物が並ぶ中、塗装されていない木造の外観が異様に目立つ。ギャランという名の酒場で、入り口にあるややくたびれたウェスタンドアが雰囲気を出していた。
早速中へ入ると、店内も外観相応にレトロなインテリアだった。少し埃っぽさがある中、木の匂いがしっかりと残っている。中央にはカウンターがあり、白いシャツを着たマスターであろう男がグラスを磨いていた。陸徒たちにとってはまさに、西部劇に出てくる酒場そのものに感じたに違いない。
周囲に置かれたテーブルには、冒険者や地元の人間が食事をしていた。朝だというのに客入りが良く感じるのは、この店が朝食を提供しているからだそうだ。
クレスタが先導して中央のカウンターへ進み、マスターへ話し掛けてみる。
「どうも。少しばかり伺いたいことがあるのですが、よろしいですかな?」
「あぁ、何か用かな?」
クレスタの問いに対し、マスターの男は淡々とした態度で答える。
「私どもは旅の探検家でして、主に価値のある財宝等を探しておるのですが、この近辺で宝が隠されているような不思議な場所はありませんかな?」
念の為、プリウスの魔石という言葉は伏せて問う。それぞれの属性に因んだ場所にある魔石を宝とし、不思議な場所に隠されているという言い回しは、怪しまれにくく上手なやり方だ。
「宝ねぇ……。その辺はどうかはわからないが、不思議な場所はあるにはあるぞ」
マスターはこう語る。この町から海へ出て、海岸沿いに北東へ向かった先に、流水の洞窟という場所がある。町の観光名所としても知られ、見るものを魅了する水のアートによって作られた天然の洞窟だ。内部は小型の船ならば容易く入れるほど広く、未発見のエリアもあるとのことで、宝の所在も多少は期待できる。
「だが、ひとつ問題があってだな……」
流水の洞窟についての説明を終えた後、マスターは神妙な顔つきへと変わり、声のトーンを下げてきた。
「問題?」
陸徒がオウム返しに聞くと、マスターは答えた。
「……巨大モンスターの出没だ」
その言葉に動揺する一行。しばし沈黙が流れ、周囲の客の談笑だけが店内に鳴り渡る。
話によるとここ数日の間、洞窟の近海に突如としてあるモンスターが現われたそうだ。海に住むモンスターは日常的に存在はしているが、前者の方は旅客船や漁船を襲うことはない。ところがなぜか流水の洞窟へ近づく観光の船だけを襲う。日常生活をする上での危険性は低いが、そのせいで観光客が減り、町の活気が落ちていると言う。
「そのモンスターの正体はわかっているのですかな?」
クレスタがそう聞くと、マスターは眼力を込めながら、無精ヒゲの生えた男くさい顔を近づけてこう言った。
「そいつは、ログノスキュラだ」
その言葉にクレスタとシェリルが大きく反応し、驚愕しながら唖然とする。
ログノスキュラとは、ミドラディアスの歴史を記す書物にしばしば登場する伝説の海獣だ。主にアルファード近海でまれに発見されるという噂があるが、その生態系は殆どが不明。目測では十数メートルはあるという巨体で、イカのような軟体の触手を複数生やしている。
当然、陸徒たちの世界ではそのような生物など存在せず、伝記にも書かれていない。その名を耳にしても特に反応を見せなかったのも無理はない。
「魔石の情報の代わりに、モンスターの情報を仕入れてしまいましたな」
クレスタが皮肉を込めた台詞を呟く。
現状、プリウスの魔石の情報へと繋がる手掛かりは得られず、どうするべきか一行が悩んでいると、左手の方向から人影が近づいてきた。
「よう、お前ら流水の洞窟へ行きたいのかい?」
馴れ馴れしく陸徒たちに話し掛けてきた人影は男だった。少々くすんだ青銅色のハーフプレートメイルを着装し、藍色の髪を逆立てた短髪に、ほど良く焼けた小麦色の肌。布に包まれた自分の身丈よりも長いなにかを担いで現われたその姿は、いかにも旅の戦士だと思わせるものであった。見た目の年齢は若く、陸徒よりも若干年上といったところだろう。
「俺は世界を旅しているアクシオってんだ、よろしく! 良かったら話を聞こうじゃないか」
アクシオと名乗った旅の戦士は、図々しくも陸徒たちの間に入り、有無を言わさず彼らを他のテーブルへ移動させる。
「で、そのアクシオさんはあたしたちに何の用なわけ?」
元々、軽い男が嫌いな波美は、アクシオがそれと同類であると認識し、警戒心を剥き出しにしながら眉をひそめて問い詰める。
「まぁそういう顔しなさんな。実はな、俺もちょうど流水の洞窟に行きたいと思ってたんだ」
「御一人で、観光なさるのですか?」
真面目なのかふざけているのかわかりにくい、ゆっくりとした口調で問うシェリル。陸徒にはその様子が少し面白かったのか、思わず息を吹いて笑う。
「違う違う。そこ、笑うな! いや、俺が用あるのはそこに出没するモンスター、海獣ログノスキュラだ」
シェリルの天然染みた問いに答え、陸徒の反応にもしっかりとツッコミしつつ、自分の目的を明かすアクシオ。
彼の話では、ログノスキュラは流水の洞窟、もしくは洞窟の中にあるなにかを守っているのではないかと推測している。そこで、陸徒たちが宝を探しているという話を盗み聞き、誘いに出したという事だ。
「なるほどな。まぁ盗み聞きはどうかと思うが、その推測は間違っていないかもしれない。それなら俺たちとも利害関係が一致する」
「少なくとも、人々を襲う危険なモンスターを放っておくわけにはいきませんわ」
その話に陸徒が同調し、シェリルも国を守る王女という立場からか、彼女らしい人命を救う目的としての台詞を吐く。
「よし、満場一致と見て問題ないな? 早速だがこれから出発しよう。善は急げだ」
こうして、ひょんなことから旅の戦士アクシオと組んで流水の洞窟へと向かう動きとなった。
なぜ、ここ最近にして突如と伝説の海獣ログノスキュラが現われたのか、そして洞窟へ近づく者だけを襲う理由とは一体……。それを突き止めに、一行は港町ラフェスタの北東を目指す。




