第11話「旅立ち 魔石を求めていざ出発」
メンバーがそれぞれの用事を済ませ、自室へ戻る時間が訪れる。
陸徒は、ザルディスとの模擬戦によって疲弊した体を運ばせ、ゆっくりと階段を上がりながら自室のある5階へ辿り着く。やや俯き加減だった顔を前へ起こし、手前の廊下に目を移すと、そこには波美と空也の姿があった。
ふたりは陸徒を探していたようで、彼の姿を発見するなり声を掛けてくる。
「あ、りっくんちょうど良かった。ねぇ、これからあたしの武器を探すの手伝ってよ」
「波美の武器だって?」
「うん、りっくんはその剣があるし、空也くんも魔術書があるでしょ。で、あたしは格闘技だけど、さすがに素手で戦うのもなぁと思ってね」
格闘向けの武器、恐らく波美の手にはめるグローブの類のことを指しているのだろう。
日中彼女がひとりで城下町を散策している時に、一通り武器屋を巡ってみたそうだが、目ぼしい物は見つからなかったようだ。
「城下町で探しても見つからなかったんじゃ、無理じゃないか?」
「そうなんだけどさ、りっくんたちと探せば見つかるかもしれないと思って。っていうかりっくん、なんでそんなに髪がボサボサになってんの?」
話の途中で波美が陸徒の頭髪に気づいて指摘した。彼もそれを確認するように自ら触ってみる。
「うわっ、なんだこれ!」
どうやら先の戦いにて、ザルディスから受けた電撃による感電が原因で、髪の毛が逆立ってしまったらしい。あまりの無様な姿に、波美と空也は息を吹き出して大笑いする。
「皆さん、随分と楽しそうですね。あら、陸徒さん……!」
笑い声が辺りに響く中、シェリルが階段を上ってやってきた。そして陸徒の頭を見るなり、笑いを必死で堪えて体をヒクヒクと痙攣させる。
陸徒以外の面々が存分に笑い終えた後、シェリルが両手で抱えていた木箱に陸徒が気づく。
「シェリル王女、その箱はなんだ?」
「あ、これは波美さんにお渡ししようとお持ちしたのです」
そう言って、箱の蓋を開けて中に入っている物を波美に差し出してきた。
「え、これって……?」
「はい。波美さんの為の戦闘用グローブです」
それは黒い皮製のグローブの上に、琥珀色に輝く金属が当てられた物だった。名を剛拳ラウムブリットと言い、かつてアルファードを訪れた旅の格闘士が献上していったものらしい。大層価値のある代物のようだが、宝物庫に眠ったままでは宝の持ち腐れであると、王自ら波美に使わせるよう命じたそうだ。
波美は早速とそれを手に嵌めて装備すると、両手を広げては眺めながらに満面の笑みを見せる。
「わぁこれいい感じよ!! シェリル王女、ありがとう!」
「良かったな波美。シェリル王女、わざわざすまないな」
「いえ、とんでもないです。それと、皆さんにお願いがあるのですが、これからはわたくしに対してはシェリルと呼んで下さい。旅先で王女という肩書きは控えたいですし、なにより……」
シェリルは一旦言葉を止め、思いのある表情から柔らかな笑顔を見せてこう言った。
「皆さんとお友達のように接したいのです」
明日からの旅において、様々な地へ赴くだろう。王女という立場を利用された悪事が働く可能性も大いに考えられる。シェリルはそれを懸念しての発言のようだが、この場においてはそれはあくまで建前。胸中の真意は後者の言葉にあったようだ。
「そうだな、これからよろしくな、シェリル」
「うんうん。シェリルはあたしたちの友達よ。改めてよろしくね」
「よろしく、シェリルさん」
3人もシェリルの気持ちを快く受け入れ、好意を示した返答をする。こうして、お互いの思いを再認識し、旅立ちへの決意を固めた一行は、明日の出発の日を迎えた。
明朝、謁見の間へと集合したプリウスの魔石捜索隊のメンバーは、王からの事前説明を受ける。
「皆の者、昨夜は良く眠れたか? プリウスの魔石について、あれから新たな情報がわかった。火、水、風、地の4つの属性に分けられるプリウスの魔石は、それぞれがその属性に因んだ場所にあるということだ」
「つまり、火の魔石だったら、火の力が強い場所にある可能性が高いということですか?」
王の言葉から導き出される仮説を立てる陸徒。手掛かりとしてはわかりやすいが、的を絞るためにはまだ情報が不足している。
「左様。まずは、南東にある港町ラフェスタへ向かうと良い。そこで情報を集めるのだ」
その不足した情報を集めるため、王が始めに向かう場所を示してきた。
港町ラフェスタは、アルファード王国でも有数の巨大な町だ。陸路、海路から様々な人が訪れ、各地方の情報が集まりやすい。
最終確認をした一行は、これよりプリウスの魔石捜索の旅へと出発する。隊のリーダーは、戦闘、人生経験共に熟練者であるクレスタが任命された。十分な旅の資金や道具類も用意され、準備万端で城を後にする。
本日は晴天。旅の初日としては申し分ない天候だ。
多くの人達から見送られ、城下町を抜けた先には、爽やかな風で元気良く踊る草が一面に広がる雄大な大地が展開される。レンガで舗装された街道が先まで続き、出入りする旅人や商人が沢山見受けられた。その中に混ざり、一行は街道の上を歩み進める。
半ば遠足気分が拭えぬ異世界組3人は、歩き始めて早々に雑談を開始する。
「さぁプリウスの魔石捜索の旅がいよいよ始まりました! 今の率直なお気持ちを、りっくんどうぞ!」
「そうだな、ザ・未知の世界って感じかな」
「えーそれだけ? っていうかいまいち答えになってないし……」
陸徒の気は乗りつつも適当な返事に、波美は眉間にシワを寄せて文句を言う。そこへ今度は、空也が意気高揚に身を乗り出してきて、波美のエアマイクに向かってコメントをする。
「はーい、僕は魔術士空也です! 見知らぬこの世界での旅立ち、モンスターとの戦いもいっぱいあるかもしれないけど、この僕が魔術でやっつけちゃいます!」
以前王との話の前では、モンスターに対する恐怖心を露にしていたが、それとは裏腹に自信に満ちた発言をする。そんな調子の良い弟に兄が注意をと思いきや、意外な部分に指摘をしてきた。
「空也、お前ホントに魔術が使えるようになったのか?」
空也が魔術を会得したことは、これまで何度か耳にしてきたが、陸徒がその時に言及しなかったのは、承認によるものではなかったようだ。
「え、兄ちゃんまだ疑ってるの?」
「当たり前だろ。魔術とか、あんなわけのわからん力を使えるだなんて、常軌を逸している」
「そんなの、兄ちゃんだっていきなり剣を使えるようになったのと一緒だよ!」
「それはそうだが、魔術は別だ! 大体、沢山勉強しなきゃならない魔術を、お前がたった数日程度で使えるようになったなんて簡単に信じられるかよ」
「なんだよその言い方! だったら今すぐこの場で使ってあげようか!?」
徐々にエスカレートしていく兄弟喧嘩を見限ったのか、波美や暖かい目で見ていたシェリルも止めに入ってきた。しかしふたりの睨み合いは収まらず、空也は魔術書を手に取り出そうとする始末。ところがクレスタの次の言葉を始め、一同が静けさを取り戻す。
「ふたり共止めなされ。そろそろ街道を抜けますぞ」
「え、どういう意味?」
「モンスターが出現する可能性が高くなるということです」
聞き返す波美にシェリルが答えた。その言葉に、陸徒と空也も喧嘩を止め、メンバーの間に緊張感が走る。
街道がある間は、遠くまで見渡せる緑広がる平原であったが、少しずつ岩や木々が現われ始め、場所によっては少々視界不良となるところもある。舗装された道もいつの間にか途切れ、人の気配も全くと言って良いほどになくなっていた。
周囲に気を配りながらしばらく歩いていると、前方の茂みから影が現われる。モンスターの出現かと各人が身構えるが、どこか様子が違っていた。
「へへっ、こんなところへ女や子供連れがくるとはラッキーだな。死にたくなかったら金品全てここに置いていきな」
現われた影が言葉を発する。なんと相手はモンスターではなく人間だったのだ。その数男が7人。髭面で薄汚いバンダナをした者が多く、全員短剣を所持していた。
装いから察するに、この者たちは盗賊だ。街道を外れた人気のないエリアで旅人を襲い、金品を奪い取る悪事を働いているようだ。人間には善良な者もいれば、このように悪に身を染めた者もいる。これはどの世界でも一緒だ。
クレスタやシェリルはあまり動じている様子はないが、他の3人はモンスターとの戦闘ばかりを想定していたためか、拍子を抜けさせられたような顔をしていた。だが意外にも、物怖じする者はこの場に誰ひとりとて居はしなかった。寧ろ空也に至っては、なにか企みのある表情をしている。
「兄ちゃん、僕が魔術を使えるって証拠、ここで見せてあげるよ」
彼は唐突にそう口にすると、左手に持つ魔術書のページを開いて身構えるのであった。




