第103話「四の竜 君臨す」
モコとプリメーラ、元教団幹部の3人に続き、シルフィとティアナまでもが、完全体となったバサラの手によってねじ伏せられてしまった。
「ウソだろ……? シルフィ、ティアナさん! ふたりまでも。向こうまで吹っ飛んでいっちまったモコとプリメーラさんたちも、まだ倒れたままだし。大丈夫なのかっ!?」
「だが迂闊に助けにも行けない。バサラのやつ、一切の隙を見せず、俺たちの動きを監視しているかのように、ずっと睨みやを利かせている」
戦闘不能に陥ってしまった者たちを案じる陸徒。それを冷静にさせるように、喬介が状況を瞬時に把握して、自分たちが今どう動くべきであるか促そうとしている。
「くそっ、さっきのシルフィとティアナの攻撃は凄まじいもんだった。なのにあいつにはほとんど効いてなかったみてえだ」
「自分のことを完全体とかなんとかって言っていたね。あの時の空也から出て行った白いのって——」
「空也くんの魔族の部分を、バサラが取り込んだから、とんでもない力を手に入れちゃったってことよね」
「そう解釈して間違いなさそうですね。途轍もない力です。現に多くの方が倒れてしまいました。すぐにでも助けに行きたいのですが……」
続いてアクシオやシルビア、波美がバサラの圧倒的な力を目の当たりにし、額から冷や汗を垂らしている。そしてシェリルは自分のすべき責を思いながらも、喬介が危惧していることを理解しているからか、それができない悔しさを胸に顔を歪ませている。
「とにかく、悠長に喋っている時間もなさそうだ。あいつを倒して、みんなをすぐに助けに行く。今はそれしか方法はねえ」
「陸徒の言う通りだぜ。ここは俺たち4人の竜の力で、一気にあいつを叩き潰す!」
「そうよね。あの時のリベンジ、絶対に果たしてみせるわっ!」
「波美と同意見だ。借りはきっちりと返させてもらう」
「アタイたちの竜の力なら、あんな奴には負けないさね!」
皆の想いはひとつ。強敵バサラへ引導を渡すべく、竜の力を受け継ぎし者4人が、一斉に戦闘の陣形を展開させて攻撃を開始する。
「我が闘気よ、具現化し彼を捉えよ! スネークバインド!」
開幕仕掛けたのは喬介。エルグランドが誇る魔法武器アストラルウエポンである、闇の蛇剣ヴァイパーブレイドを横薙ぎに振ると、蛇を模ったオーラが複数放たれる。それは地を蛇行しながらバサラの方向へ突き進み、手前で地中へ潜って姿を消したかと思った刹那、突然バサラの足元から現れて即座に手足に絡みついて捕縛した。
その時、バサラは眉間を少し寄せるだけであったが、構わず次の行動に移される。
今度はアクシオと波美が同時に動き出す。アクシオは脚に力を込めて解放し、空高く飛び上がる。続いて波美が右拳を地面に叩きつけると、無数の岩の剣山が地走りとなってバサラに向かっていく。その後地を蹴って波美自身が地走りを追うようにして突進。先手の動作は牽制のようだ。
残るシルビアはまだ行動に出ず、アクシオと波美の動きを注視している。天空へと達したアクシオは、槍を直下へ構え、バサラのいる位置に照準を定めて急降下する。波美も突進しながら拳に光を収束させて構えた。
ふたりの攻撃は同時に行われ、バサラへ命中させる。蛇に動きを封じられているバサラは、上空と正面からの同時攻撃による直撃を受けた。ここで終わりではなく、次なるシルビアが既に攻撃へと転じていた。
力を解放して眩い閃光を放つ紅と蒼の剣を構えながら、バサラ目掛けて疾走する。タイミングを見計らい、攻撃を終えたアクシオと波美がその場から大きく離れると、間髪入れぬ速さで炎と氷の連撃が止めどなく繰り出された。
「くっ、さすがは竜の力だ。忌々しくも鬱陶しい……。だが、これしきのものっ!」
竜の力は凄まじくも強力だった。バサラも相応のダメージを受けているのか、それを表すかのように歯を食いしばっている。だが——。
「小癪なっ!」
その一言から全身に力を入れたバサラは、自身を取り巻いている全てのものを気合いで弾き飛ばした。同時に付近にいたアクシオ、波美、シルビアが吹き飛ばされてダメージを負う。
「みんなっ!」
―其は傷を癒すそよ風の調べ―
「治癒!」
陸徒が3人の身を案じる言葉を発したと同時に、シェリルがすぐさま癒しの法術を展開。彼らの受けた傷を瞬時に回復へと導く。
「ありがとうシェリル!」
「いえ。ですが今の術は、皆さんを一度に回復するのに広域化したため、効力が分散されてしまい十分には回復できていません。気をつけてください!」
法術には、一度の術を複数人に施すことが可能であるのは既知の通り。しかしシェリルの発言のように、広域化した分効果は薄れる。よってアクシオと波美、シルビアは少量の回復しか得られていない。
ステラがいてくれたらと、シェリルは遺憾の想いを抱きながらも、次の法術をいつでも使えるよう体勢を再び立て直す。
「あの4人の連携攻撃を持ってしても、まともにダメージを与えられていない。ここは俺も——」
「いや、お前は最後の切り札だ。まだその時じゃない」
陸徒を制止させるようにアクシオがそう言うと、すかさず再度攻撃に転じる。先ほどと同様にアクシオは上空へと飛び上がった。
「バカのひとつ覚えだな。その程度の攻撃で我を倒そうなど、浅はかにも程がある」
バサラは天空を舞うアクシオの方を見上げては、右手をその方向へ翳して黒い複数の光線を放った。それはアクシオが滞空状態となったタイミングを狙ったかのように襲いかかり、体のあちこちを突き刺さしてきた。
「ぐはっ! ク、クソ……まだだっ!」
体中に走る激痛を堪えながら、アクシオは手に持った槍をその場から投げつけた。直後、槍が旋風を纏いてバサラ目掛けて降下し、直撃する。
「次はアタイだよっ! 炎と氷の狭間にやられちまいなっ!」
続いてシルビアが咆哮と共に再び双竜剣を再び解放。剣は先ほどよりも更に眩い閃光と轟音を放ちながら、主人の技の発動を待っているかのようだ。
「双竜剣九の撃、天地牙龍剣!!」
技の名を叫ぶと同時に、上下に平突きの構えで2本の剣を前方に突き出す。これは、先のアルファード攻防戦でもお目に掛かった、双竜剣の力を最大限に発揮したシルビアの最強技である。
だが前回のように剣を横薙ぎに振り払った広範囲のものではなく、突き出したままの状態から技を繰り出した。それは炎と氷のブレスとなって同時にバサラへ襲いかかる。超高温と超低温の狭間に立たされた者は、忽ちに肉体を崩壊させていく。これがこの技の真骨頂、のはずであった。
「その双竜剣とやらは恐ろしい武器だな。空也の魔族の力を取り込む前の我であったならば、かなりのダメージを受けていたかもしれん」
「ウソ……。シルビアの最強技もほとんど通じないなんて。いや、これくらいで怯んじゃダメ。お兄ちゃん!」
「わかっている!」
アクシオの捨て身の攻撃から繋いだシルビアの最強技も防がれてしまった。槍は重傷を負い、双竜剣は力を使い切ってしまい、地に膝をついて疲弊している。
その状況に一抹の落胆を思わせるも、波美はそれを振り払って喬介へ合図を送る。どうやら兄妹による同時攻撃を始めるようだ。
「はあぁぁぁぁぁっ!!」
先陣切ったのは波美。気合いのこもった咆哮と共に、琥珀色に輝く拳を構えてバサラ目掛けて突進。瞬時に至近距離まで達すると、初手に強烈な掌底をあびせる。更に間髪入れずに打撃のラッシュを繰り出した。
大地の力を使う地慚孔と、地脈のエネルギーを拳に集束させる業を可能とする、剛拳ラウムブリットとのコンビネーションにより、絶大なパワーとスピードによる攻撃が波美の最も得意とする技だ。更には先ほどのシルビアによる攻撃の余韻がまだ残っていたため、それによる相乗効果もあって、バサラを完膚なきまでにボコボコにしていく。
この機を逃さんとするばかりに、喬介も時間差で動いていた。己が剣を大地に突き立てると、バサラの周囲に紫色に染まった喬介の分身が数体出現する。
「ファントムミラージュ!」
喬介が技の名を叫ぶと、分身が次々とバサラへ斬撃を繰り出す。ところが、その剣はバサラを実際に斬りつけることなく、体をすり抜けるようにして空を斬るばかりだ。
「ペインオブベノム!」
それを意味するものが、次の技にて発動された。分身によって斬りつける振りが行われていた状態から転じて、バサラの体内より漆黒の煙が湧き上がる。
「ぐっ、なんだ、これはっ」
状態異常に反応したバサラは、突如足の力が抜けたように体勢を崩す。この攻撃は、闘気の力を具現化させる覇装属と、蛇剣ヴァイパーブレイドの闇の力を複合させたもの。分身がバサラを斬っていた振りをしていたのは、刀身から奴の体内へ毒を植え付けていたからだ。それが内部にて増殖し、発症させる。
「これで、やられちゃいなさい!」
それだけに終わらず、波美がとどめの一撃をお見舞いする。
腰を低く落として一呼吸すると、右拳のみに地脈のエネルギーを集束させて、最大出力にまで持っていく。刹那、目にも止まらぬ正拳突きが、バサラの胸部へ直撃。その衝撃で後方へ吹き飛んでいった。
「ぐおぁぁぁぁっ」
大ダメージを受けて吹き飛んだバサラは、叫びと共に後方にて倒れ込む。




