第10話「迸る稲妻 最強の騎士ザルディス」
プリウスの魔石捜索への出発を明日に控え、各メンバーは一時解散。余った時間を潰すため、陸徒はザルディスからの誘いを受けることにした。とはいえ、なにをするのか皆目見当がつかず、差し当たって彼の行先に付いていくしかなかった。
ふたりは城の地下へと歩みを進める。階段を下りた先には人が横数列に並べるほどの広い通路が伸びており、更に奥には3つ又の方向に分かれていた。
ひとつは罪人を収容する牢屋。ふたつ目は地下倉庫。ここはモンスター襲来時に避難場所として利用されていた。そして最後が、ザルディスに連れてこられた場所だ。
暗い地下通路を照らす灯が壁に設置されているが、火が灯された蝋燭ではなく、石のような丸い物体が煌々と発光していた。これは光照石といって、魔法効果を受けやすいエスクード鉱石を精製した特殊な石に、光属性の魔術を注ぎ込んだものだ。1年毎に術を掛け直せば半永久的に使用出来るため、非常にエコな代物である。
目的地に辿り着き、鉄製の大きな扉を開けると、そこは陸徒たちの世界でいう学校の体育館の2倍はある、とても広い空間だった。壁には地下通路と同様光照石が数多く設置されており、室内を満遍なく明るく照らしている。中には数十名と多くの人がいて、全て甲冑を身に纏った騎士であった。
「ここは、我がアルファード騎士団の訓練所だ」
ザルディスの姿を確認するや否や、この場にいる騎士全員が姿勢を正して敬礼をする。さすがは本国の王子であることに加え、全ての騎士の上に立つ騎士団長だけあって、統率の取れた騎士たちの見事なまでの敬礼に陸徒は目を大きく開いて感嘆する。それだけでなく、騎士たちの表情とザルディスを見る眼差しは、羨望と敬意に満ち溢れていた。
ふたりはそのまま訓練所の奥へいく。するとそこには、多くの人の名前と思われる文字が刻まれた石碑が立てられており、その足元には献花と思しき花束で埋め尽くされていた。
「ザルディス王子、これは?」
「……先日のモンスター襲来によって、命を落とした騎士たちの慰霊碑だ」
ザルディスの言葉に、陸徒はブラッディオーガとの戦いの時、周囲に倒れていた騎士たちの姿を思い出し、顔を歪ませて目を細める。
あの時出撃していたのは、ほとんどが下級や見習いの騎士だった。まだ未来ある部下たちを死なせてしまったことへの謝意と後悔の気持ちで、ザルディスは瞳に涙を溜めて深く頭を下げると、それに倣うように周りの騎士たちが彼の後ろに整列して同じ行動を取った。
「皆の者、この国の為に命を賭して戦ってくれた彼らの死を真摯に受け止め、2度と同じ事を繰り返さぬようより一層の武芸に励もうぞ!」
「「「はっ!!」」」
襟を正し振り返ったザルディスが声明を出すと、一斉に士気の上がった発声が室内に響き渡る。
「陸徒よ、君がブラッディオーガを倒してくれたおかげで、被害は最小限に抑えることができた。私からも礼を言う、ありがとう」
「いや。でも騎士たちを始め、戦った多くの人を死なせてしまったのは事実だ。俺がもっとしっかりやっていれば、こんなことにはならなかったかもしれない……」
「謙遜するな。君は十分に良くやった」
ザルディスは陸徒の方を向くと、再び頭を下げた。それに対し陸徒は、自分の否や力不足だったことを反省するが、王子はそれを是とした。
心身ともに清く正しいザルディスの前に、臆面がない陸徒も自然と敬意を抱く。それほどまでに彼の人間性が高いことが見て取れるようにわかった。
「では陸徒よ、ここはひとつ、私と1戦交えてはみぬか?」
唐突なザルディスの提案に、陸徒は豆鉄砲を食らった鳩のような顔をする。
「はっ!? 俺と……王子が? いやいや無理だって。実力が違いすぎる」
騎士団長であることは無論、同じ剣士として出会った時点から実力の差を見せつけられている。戦わずしても自分より圧倒的に段違いであるのは明らか。陸徒はそう思い、気が進まなかったが、周囲からの期待の眼差しを浴び、すでに引くに引けない雰囲気となっていた。
(ったく、どうしてこうなっちまったんだ……)
陸徒は心の中で愚痴を零しながらも、背中に装着していた蒼色の大剣ラディアセイバーを手に持って構える。そしてお互いに間合いを取って戦闘の体勢となった。
「それが神剣ラディアセイバーか。君が蘇らせたと聞いたが……さて、どれほどのものかっ——」
まだなに武器を装備していないにも拘らず、台詞を言い終えたと同時にザルディスは床を蹴って陸徒に突っ込んできた。
慌てながらも咄嗟に剣を前に出して防御すると、高い金属音が辺りに響く。あまりの速さに攻撃を受け止めるしかできなかった陸徒は、目の前にあるものを見て驚きを隠しきれていない様子だ。
ラディアセイバーとぶつかった時の金属音の正体。それはザルディスの持つ剣だった。更に突然剣同士の間に電気が迸り、陸徒は慌てて剣を押し出して相手との距離を取り直した。
「おぉ、ザルディス様がレビントレイターを!」
周囲の騎士たちが歓声を上げる。その根源はザルディスの持つ黒銀色の刀身を輝かせる剣。長さはラディアセイバーの約半分ほどの片手剣であるが、注目すべきはその剣本体から迸る電気にあった。
「な、なぁザルディス王子。その剣、電気を帯びてないか?」
「そうだ。これは雷鳴剣レビントレイターといって、雷獣イクシオンの角で造られた、雷を操ることができる世界にふたつとない剣だ」
「雷を操るだって? なんかすげぇ強そうなんだけど……」
「案ずるな、本気でやりはしない」
王子の見るからに強そうな剣に焦りを見せる陸徒。それに対し、言葉とは裏腹の楽しそうな表情を作るザルディスは、再び俊足の動きで陸徒に攻め入る。
「くっ!」
今回も同様に剣で防御する以外の判断ができず、またもや鍔迫り合いが始まる。目の前でパチパチと弾ける電撃を見ては、伸ばした輪ゴムを突きつけられた時のように顔を歪ませる陸徒。
「どうした、守りに入ってばかりではこの戦局は変えられんぞ!」
「んなこと言われたってよ!」
蛇に睨まれた蛙状態。陸徒はどう攻撃に転じるべきかも見出せず、完全にザルディスに圧倒されていた。 だがザルディスは更に力を入れて踏み込むと、刀身から電気を放電させて陸徒の体に微弱な電流を浴びせた。
「ぐあぁぁぁっ!」
ダメージはさほど受けていないものの、その衝撃で後ろへ仰け反って体勢を崩してしまう。
陸徒は膝を着いて剣を突き立てながら、やや手に残る痺れを振り払う。そして今度は、相手より少し離れた状態での間合いを取る。ザルディスの持つ剣は、陸徒のラディアセイバーよりもリーチが短い。一定の距離を保って出方に注意していれば、リーチを活かした自分の方が有利になる。陸徒はそう考えたようだ。
「ほぉ、間合いを活かした戦法か。確かにこのレビントレイターは片手剣。ラディアセイバーよりは長さに劣る……だが!」
言いながらザルディスは、剣を頭上高くに翳してから振り下ろす。それと同時に光り輝く稲妻が陸徒目掛けて突っ込んできた。
「何っ!?」
不意を突かれた咄嗟の出来事に、陸徒はその稲妻を回避することができずに直撃してしまう。
ビリビリと感電音と共に体を電撃が走る。ザルディスは力の加減をしたのか、大ダメージを受けるほどまでに強く感電はしなかったが、かなり体が痺れて動かない。
「どうした。君の実力はこんなものではなかろう!?」
「くっそぉ、遠距離攻撃とか反則だろう」
陸徒は感電で倒れそうな体を気合で立ち上がらせ、心臓に走った衝撃を落ち着かせるために深く呼吸を繰り返す。
ザルディスは再度剣を頭上に翳そうとする。またあの稲妻を放つ気か……と、思いきや2度目の動きが少し変だ。王子はなにかを試そうとしている。陸徒はそう感じた。その違和感を覚えながら視線を動かして周囲を確認すると、ふとある状況に気づく。
このフロアは日常的に戦闘訓練が行われる場所であるからか、床の補強の為に随所に鉄板が貼られていた。それが時折電気を帯びているように見えたのだ。おそらくこれは、レビントレイターの電撃によって、導電体である鉄が帯電しているということだろう。
「こ、これは!!」
その時、陸徒は忘れていた何かを思い出したかのように声を発した。そして陸徒は知った、神剣ラディアセイバーの特殊な力を。
「だったらこっちも、雷の剣でいかせてもらうぜ!」
ザルディスは陸徒の言っていることが理解できていないのか、眉をひそめて様子を伺っている。構わず陸徒は、剣を床に突き立てて叫ぶ。
「宿れっ!!」
同時に剣が光り出した。数秒ほどでその光は刀身に吸い込まれるかのように消えていく。
そして突き立てた剣を取って構え直すと、光が消えた刀身からは電気が迸っていた。
「何だとっ!」
「そう、これがラディアセイバーの力だ!」
神剣ラディアセイバーには、地形に付与された属性を刀身に宿す能力がある。まるで思い出したような感覚で陸徒はその能力を使った。
知らずの内に剣技が使えていたのと同じように、自然と頭の中にその方法が浮かび上がったのだ。
「なるほど、そういうことか」
ザルディスは一瞬驚きの表情を見せていたが、何かを達成した時のような満たされた顔でそう言うと、最後にあの電撃攻撃を放ってきた。
ところが陸徒もそれに臆する様子を見せず、余裕の表情で剣を前に突き出した。そして電撃がラディアセイバーに触れると同時に、刀身から電気が掻き消されたのだ。
「この剣には属性を宿すことができて、それと同じ属性の攻撃を無力化、あるいは威力を軽減させることができる。また、その属性が弱点である敵に攻撃すれば大ダメージを与えられる。これがラディアセイバーの力だ」
「その力、知っていたのか?」
「いや、思い出したって言った方が正しいのかな。理由は良くわからないけど……」
「なるほど。まぁ良い、そこまでにしよう」
そう言って、突然ザルディスは戦闘態勢を解き、剣を鞘に納めた。
「お、おい。もう終わりなのか? やっとこの剣の使い方もわかったってのに——」
「いや、これで目的が達成されたのでな。これ以上無理に戦う必要はない」
ザルディスは、ラディアセイバーに何か特殊な力があるということは知っていたようだ。それは、過去の歴史を記す文献にあったからだと言う。
剣の所有者であったレクサスに関する記録はほとんど残っていないものの、ラディアセイバーについてはいくつか残されており、その中に魔術のような特殊な力が備わっていると記されていた。
彼は始めからそれを確認することが目的で、陸徒に戦いを申し込んだようだ。攻撃の際に陸徒が感じていた違和感もそれが理由であった。
「ふっ、なんだか面白くない様子だな」
陸徒の心を読んだかのように、ザルディスはやや苦笑を漏らす。
それもそのはず。ラディアセイバーの力を知ることができたとはいえ、陸徒は全く攻撃に転ずることができぬまま戦いが終わってしまったからだ。さすがの彼も、やられっぱなしでいるのが腑に落ちなかったようだ。
「だが、実戦ではこのようにはいかんぞ。相手も殺す気で挑んでくるからな」
「わかっているさ。ブラッディオーガとの戦いで身に浸みているよ」
実際ザルディスが本気で掛かっていれば、陸徒は手も足も出せずに完敗していただろう。それだけに彼は強い。陸徒自身も戦って改めてそう感じたに違いない。
これからの旅で、多くの戦いを経験するだろう。自分はこの力で皆を守ることができるのだろうか。一抹の不安を覚えながらも、陸徒は明日に向けての気持ちを精一杯に引き締めた。
(しかし……こちらも手加減していたとはいえ、私の太刀筋を初手で見切って受け止めてくるとは……。陸徒か、大した剣技の持ち主だ)
用が済み、訓練所を去っていく陸徒の後ろ姿を見ながら、ザルディスは心の中で密かに彼の実力を認めていた。




